学園都市祭開催・3日目裏
ホテル・マキアスのレストラン。
先ほどまで大勢の多種多様な人がいたが今は3人しかいない。
ヴィオラとレディアとジェイクことジェンキンスである。
彼女らは酒も飲まず丸テーブルに座っていた。
「ジェイクよ。即決であったが本当にあのセットを買ってよかったのか?地味ではあるが呪い付きだぞ。」
「構いませんよ、姉上。気にならないと言えば嘘になりますが嘘偽り無くあの少年、いやイサナ店長は話してくれたのでその誠意分として払ったまでです。」
「誠意分で金貨120枚を躊躇なく支払ったのは流石王族ですね。主は売れるかどうかだいぶ悩んでいたんですけどね。」
「悩んでいた割には強気な金額ではないか。」
「商品自体に絶対の自信があったからね。金額を下げるのは商品の価値を下げると一緒だからって前に主が言ってたから逸品は絶対に値下げしないよ。それに買えない値段設定はしないからね。」
「その値段分の価値はあるという事か。書類仕事が多いので過去にいろいろと椅子を作らせたがこれほど座り心地が良いのは無かった。部屋から出たくなくなるのもあながち間違ってない気がしてくる程にな。」
「喜んで頂けて光栄です。それでどうしてボクがここに呼ばれたかそろそろ話して欲しいんだけど。」
「ああ、端的に聞きたいがあのイサナという少年は何者なんだい?学園都市に来る前までは東部の開拓村を回って細々と行商をしていた事まで調べはついたがそれ以上は分からなくてね。まるで急に東部に現れたかのようなんだよ。」
「ボクが知っていたとして本当に喋ると思っているのかい?」
「これっぽっちも思っていないさ。そもそもこの件は姉上からももう止めるように言われてるからすでに終わったことだしね。ただ、うちの諜報担当が彼を調べきれなくてすこし落ち込んでいたんだよ。だから元気づけるために彼の情報が欲しくてね。部下の為に動くのも上司の役割だろ。」
「なるほど。とはいってもボクも彼の出自なんてよくは知らないからねぇ…多分調べてるのだと思うけどボクも学園都市に入る前に主と出会ったからそれ以前の事なんてあちこち回ってたってのを聞いたことがあるぐらいだよ。それこそ天から降って来たんじゃない。」
「その辺りはこちらで調べたのと合致する情報だな。本当に降って来たのかと思いたくなるね…まぁ、イサナ店長の事は置いといてメイという子はどういう子なんだい?」
「メイ?小さな子なのにこんな根無し草の生活に泣き言言わずによく働くいい子だよ。まさか、メイの素性もわからないのかい?」
「そのまさかだよ。姉上からイサナ店長の事を探るのを止めるように言われた後は彼の周りを調べさせたんだよ。」
「ジェイク。それは余も初耳だぞ。」
「ええ、今ここで初めてお伝えしましたので。それはともかく彼自身の正体が分からないのであればその周りを調べて危険性を把握する必要があると言ったのは諜報部のトップ提案でそれに乗ったのさ。そしたら君の事はすぐにわかったんだけどもう1人の少女の正体がわからないと来たものだ。ますます諜報部が落ち込んじゃってね大変だよ。」
「あのメイがそんな秘密を持っていたなんて余も見抜けなかったな。ちなみにどこまでわかっておるのだ?」
「ほぼ何も分かってないと言う感じですよ。
「だが、あの騒動は想定をはるかに超える速度で収まったでは無いか。なのになぜ迎えが来んのだ?」
「そこが争論なのですよ姉上、有力者の子だと思われるのになぜ迎えが来ない。大々的に探しに来れない家柄なのか、
「これは…困ったね。メイに関してはボクも主も、それこそメイ自身もよくわからないのさ。」
「メイ自身が分からないというのはどういうことだ?」
「どうもこうもそのままの意味さ。彼女の記憶は何かしらの術で封印されている。ボクもそれなりに魔術に関しては知っているつもりではあったけど全く分からないのさ。」
「記憶の封印している術というのは分かっているのであろう。ならそこを調べたら解析できるのではないのか?」
「ボクも最初はそう思ったんだけどね。端的に言うと記憶を封印している本体の術の上に記憶を封印してますよって知らせるように術式で覆っている感じなのさ。だからその覆いを取ってみたら独自の術が施されていて手が付けられなかったんだよ。それに術本体も凄い精度でね自分自身の事や家族の事、ほかにも出自が探れそうな記憶だけピンポイントに思い出せないようになっているんだよ。だから普通の生活は出来るし着物の着つけも難なくできる。傀儡術だってお手の物だしアンコについても知っていただろう。こんな術式見たことないよ。あれはもう一種の芸術だね。」
「それほどの術がかけられているとなると有力者の一族なのは間違いないがどういった経緯で術をかけたのか判断は出来ないな。」
「これはちょっとこちらの想像を超える答えが出てきたしまったな。ちなみにヴィオラ。君とメイがこっちに運んだ商人について何か覚えていることはあるかい?」
「ああ、あの商人ね。寡黙だったのは覚えているよほとんど喋った記憶がないしね。とはいえちゃんと食べる物は出してくれていたし。それほど気には成らなかったな。」
「ふむ、では質問を変えよう。その商人はどういった風貌や性別をしてたんだい?」
「えぇとだね。よくある顔をしてたから10人が10人見たことあるよって答えそうな顔で…いやそんな顔だったかな、そもそも毛深くて全然わからなかったような、あれ女性じゃなかったかな。ああ、待ってくれ、これはおかしい、全く思い出せない。流石にこれはおかしいぞ。」
「やはりか…いいか聞いて欲しい。君たちやストンズ子爵とカービン子爵の御令嬢たちが商人を埋葬した場所だが罰当たりだとは思うが掘り返させてもらった。証言通り確かに埋まってはいたが、それは商人ではなかったよ。」
「それはどういうことだ?こやつらが虚偽の報告をしたと?」
「姉上違います。実際に襲った賊は捕まり今は罪を償う為に働いておりますしイサナ店長や御令嬢たちは国民の義務通りに偽りなく報告をしてくれました。報告にあった通り矢と思われる物で穴が開いた服を着ておりましたよ。木の人形が…」
「なんだって!!流石にボクも木の人形とヒトを見間違わないよ!」
「落ち着けヴィオラ。先ほどお主が言ったであろう芸術的な術があったと。ならその人形に芸術的な術があれば人を騙すぐらい出来るのではないか?傀儡術は神武のお家芸であろう。」
「確かに…メイにかかった術が使える腕で認識阻害をかけられたら最初から疑っていないと見破れないかもしれない。いや、もしかしたら疑っていても無理かも…あぁぁ、もう、もやもやする!2か月以上一緒にいたのに全く気付かなかっただなんて!」
「ジェイクよ。その人形を調べてみたのだろう。どんな結果があったのだ?」
「それがさっぱりとしか。何かしらの術の痕跡はありましたがその程度です。ヴィオラの話からするに認識阻害をかけて馬車を動かし彼女たちの世話をする。おそらくそれほどの腕前を持つ魔術師はこの国にはおりません。」
「まさか、あの天真爛漫なメイのバックにはそんな得体の知れないものがおったとはなぁ…流石に余の目でも見破れないわ。」
「ボクもだよ。彼女にかけられてる封印は見事だったけどそれ以外にもいろいろあっただなんてね。まったくもって予想外だ。」
「出来る少年店長の裏にこんな秘密があるだなんて知りたくも無かったですが知ってしまったんですよねぇ…諜報部隊長の気落ちする時間が延びるなぁ。」
「まぁ、あやつならいいじゃろ。だが今は飲んで忘れたい…マキアス!いい酒を頼む!」
「ボクの分もお願い。」
「こちらにも是非。」
あまりにも衝撃的な内容に気疲れした一同がだらけるように椅子の背もたれに体重を預ける。
しばらくするとホテル・マキアス名物のガラスのグラスに入ったミードが机の上に置かれたので乾杯して味わい始めるとヴィオラが思い出したかのように口を開く。
「そういえばこの学園都市祭が終わったら多分西に行くんだよね。いろいろ加味してやめておいた方がいいかな?」
「あ~、そこの所どうなのだ?ジェイク。」
「別に行ってもいいですけどお勧めはしないとしか言いようが無いね。キミもそっちから来たのだから知っての通りギルドと独自組織の溝が深まってるからね。」
「商人連合だっけ?商人ギルドから脱退したのだか何を扱ってもいいとか言ってた馬鹿な奴ら。ギルドにいようがいまいがご禁制はご禁制でしょ。」
「それはその通りだな。そもそもギルドは横のつながりを強くするための物で国が管理しているわけでは無いからな。ただ、各ギルドは古来より国に協力するのを旨としているので国営組織とみられるだけだ。それに余としてはイサナが西部で大暴れして欲しい気持ちもある。」
「護衛兼従業員としたらごたついてるところにはあまり行きたくないんだけどね。でもアンコとかで神武皇国の品が流行り始めてる機運を見ていくんだろうなって確信はしてる。」
「その時は表立って協力はしないけれど夜安全に寝れるぐらいの護衛をこちらからも出すさ。」
「あぁ~ヤダヤダ。こうして気づけば権力者に絡め取られていくんだろうね。主が貴族に会いたがらなかった気持ちがよくわかるさ。」
「ハッハッハ…余に捕まったのが運の尽きだな。まぁ縛りは先からお前たちは好きに動け余は後ろから利益を貰っていくだけだ。」
「まぁ、ボクがどう思おうが主が全部巻き込んでいくさ。一番の幸運と運の尽きが主だからね。」
違いないとレディアとジェイクが笑うとマキアスにもう一杯頼んだ。
その後、たまたまレストランにやって来たイサナが捕まり夜が更けていくのであった。
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