学園都市祭開催・3日目

今日の露店も大きな問題もなく無事終了した。

明日は露店をしない予定だったが宰相家、ロッソ商会、ギルドが人員を出してくれるとの事でぜんざいとたい焼きの店はすることになった。

ここの街の住人や都市祭りに来た観光客等から要望がありすぎて継続せざるを得なくなったらしい。

また、買い食い推奨で販売していたのが一部の貴族にウケたらしくと言い訳をしつつ本来は行儀が悪いとされている買い食いが出来て楽しそうにしていると宰相夫人が教えてくれた。

まぁ、明日に関してはアンコの屋台の実質的な店長と化している宰相夫人がいるので大丈夫だろ。

それよりも俺は今この状況を抜け出したくて仕方ない。


「どうだジェイク。この肉もスパイシーで旨いであろう。」


「ええ、姉上絶品です。コショウとは違う香辛料がこんな近場にあるとは思いもしませんでしたね。」


「ふむ、その組み合わせならこの酒が合うぞ。このホテルで作られたミードと火酒

を合わせたものじゃ。」


「その酒もよさそうだな。余にも用意してくれ。」


「次はこちらダゾ。ワームの詰め煮ダ。熱いから切った方が良いかもしれなイゾ。」


「では、一口。おお、こちらもうまい。弾力がある面白い肉の中に香辛料の効いた豆のペーストが入っているとは驚きだ。」


「どうしたイサナもっとこっちにこんか。貴様も食べ盛りなのだからもっと食べるとよい。」


「そうですぞイサナ殿。貴殿のおかげでこのような美食に巡り合えたのですからな。よければこれまでの話もぜひお聞かせいただきたい。」


呼ばれたので仕方なく俺はレディアの近くによるとレディアにつかまりそのままレディアとジェイキンス様の間に挟まれる。

さて、くすんだ短い赤髪と筋肉質で180㎝は超えているであろう本日の宴の主役であるこちらのジェイキンス様だが実は、レディアの弟さんである。

そもそものレディアも忘れがちだがこの国で女王なわけでその弟さんという事は一般的に言うと王弟殿下ってやつになるんですよねぇ…

……マジでこの場から逃げだしたい。


「いやはやしかし姉上からの手紙に子供の店長の下にいると見た時は正直話を盛っているのかと思いましたがまさか本当に子供とは思いもしませんでしたな。」


「であろうな。余も反対の立場であれば正気を疑うところだが実際に目の前で働きを見るといかに余の視野が狭かったかと驚かされたぞ。」


「北部の民との条約に、アンコと呼ばれる菓子類の周知とこのホテルの建設。どれか一つでも行えば歴史に名を遺すでしょうにすでに3つも行っている。歴史が動く時を目の当たりにしましたな。」


いやほんと、褒め殺しとかやめて欲しいっす。

てか気づけばジェイキンス様が肩に手を回してきて逃げれない。

何か、いい案は無いか、この脳筋王家から逃れるいい案は…

逃げようとするのを悟られないように周囲に目をやると腕輪がほのかに発光しているのに気が付いた。


「そうだ、ジェイキンス様!良ければ我がオオイリ商店が誇る逸品を見ていただけませんでしょうか。退屈はさせませんよ。」


「おお!稀代の商人の逸品とは気になりますな。是非とも見ましょう。」


「かしこまりました。では準備を致しますので少し離れさせていただきます。」


ありがとう神様!

お陰で逃げられたよ。


「…気をつけろよ、ジェイク。ここからがイサナの本領発揮だ。何が出てきても気をしっかり持てよ。」


「承知しました、姉上。益となるかどうかしっかりと見定めさせてもらいます。」


・・・

・・


まさか逸品がセットとは思いもよらず思いのほか準備に時間がかかってしまったがなかなかいい感じではないだろうか。


【魔具・賢者の快適セット】

・古の賢者が魔導書を作成する際に使用した物。これらをセットで使う事でどれだけ作業を行っても疲れることなく迅速に仕事を行うことが出来るようになる。

・机、椅子、整理棚、羽ペンの4つからなる

・机は天板の角度調整機能がついており自動で書類が読みやすい、または書きやすいように調整され、インク壺など机の上に置いたものが勝手に倒れないようになる。

・椅子は高さや背もたれ、腕置きの高さや角度が用途によって自動で調整され水や汚れ防止の魔術が施されている。

・整理棚は物を入れると自動で整理され棚を引き出した際などに収めている物が勝手に転がらなくなり、現在の作業に最も適している物が入っていればそれを引き出してくれる。

・羽ペンは握り続けていても手の負担になることが無くどんな紙質でも引っかかることなく書け、書き損じた場合羽でなぞるとその文字を消すことが出来る。

・だが、あらゆる事柄が快適になり過ぎたため賢者は弟子たちに助け出されるまで執務室に囚われた。


『どのような仕事でも!』

『どのような状況でも!』

『我々にお任せあれ!』

『すべてを快適なまま終わらせましょう!』


…セリフ分割とか戦隊ものかな?

それはともかくデスクワークにはピッタリな物が出てきたな。

でも、魔具か…魔具かぁ~~

俺もいろいろ見てきたからある程度傾向が分かるようになってきた。


神具はもうあらゆることが超越してる、凄すぎて並び立つものが無い。

霊具は強力な力を持っているが専門的であったり一点集中の傾向がある。

魔具も強力な力を持ってるが何かしらデメリットがあって特殊な儀式を行うとレプリカを作れるらしい、レプリカの方はまだ見たことはないけどな。


「それでお前たちのデメリットは?」


『やはり言わんとダメですか?』


「安心安全がオオイリ商店のモットーだからな。」


『その我々の難点と言いますのは…』

『目標が終わるまで中断するという考えが抜け落ちるんですな。』

『集中して一気に仕事に取り掛かるのが一番早く終わる手段ではありますし…』

『要するに自分から休憩しようとする考えが無くなるわけです。』


「それは良い事なんじゃないのか…」


『『『『そうでしょう!そうでしょう!』』』』


「騙されちゃダメだよ主。休憩を取らないという事はトイレはどうなるんだい?」


「休まず働き続けたらお腹が減りすぎて倒れちゃいますよ主様。」


ヴィオラとメイちゃんの言葉にハッとなる。

魔具たちをにらみ付けると目が無いはずなのに目を逸らされた気がする。


『おっしゃる通りです…』

『我々の最大の弱点でデメリットがそれです…』

『垂れ流し、ひどい時には空腹で倒れます…』

『でも、誰かに声をかけられたり等の外部からの衝撃で集中が切れたら休憩したくなりますでご安心ください!!』


それはあまり大丈夫ではない気がするがこいつらがジェイキンス様を選んだって事なんだからオススメはするか…


この後、オススメしたら購入を即決してくれた。

安い物でもなかったのだがさすがは王家である。


◆◆◆


【国宝・王の執務道具一式】


・セレンディア・セーレ14世の弟であるジェイキンス王弟殿下がイサナから購入した物と伝わっており仕事が快適になる反面使用中は呪われるという説明を受けたと王家の資料にある。


・実際にこの一式を使用して執務を行うと他の道具ではストレスばかりが募ってまともに仕事にならなかったとこぼす王もいたという。

だが、使用時間が長くなればなるほど呪いに屈した王も多くおり、快適な仕事環境か、呪われない仕事環境かで大きく悩んだと多くの王の手記に載っているので相当効率は良いのだと思われるし、呪いといえども些細なものであったのも悩みの一つであったと推測されている。


・ただ、この呪いのおかげで今の快適な生活につながっているところがあるのが歴史の妙とも言えよう。

例えば衛生王と呼ばれたジェイキンス王の孫は王に就任してすぐにこの呪いに屈してしまったことがある。

だがその際に、大きな恥辱と共に後処理に想定以上に時間がかかる事に驚き快適で直ぐに処理が出来るおむつの開発を命じたのを筆頭に入浴施設や浄水設備に強い関心を持ち当時は都市部でしか整備されてなかったのを農村部などの人口が少ない地域にも配備を始めた。

また、時刻王と称される王は執務室に一定時間ごとにベルが鳴る仕掛けが付いた砂時計を設置させ、これが発展し当時は日の入りと日の出をベースに鐘楼が鳴る制度だったのを決まった時刻事になるように制定し最終的には今の時計の発想のベースになったとされている。


今日において50分働いたのちに10分の休憩が入るのも時刻王の砂時計から来ている。


                      『よくわかる王家の秘密』より抜粋

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