学園都市祭開催・2日目裏
学園都市に出したオオイリ商店の露店が盛り上がっているその裏でレディアは宰相を連れて学園都市の教会にいた。
要件は以前にイサナの店でもめ事をおこした新興派の大神官補の引き渡しのためだ。
レディア達は30分ほど前に到着しているのにも関わらず新興派側の大神官はまだ到着していない。
この街の教会のトップである神官長が状況を確認するためにシスター達を派遣したのだが状況が分からず今の様な状況になってる。
「申し訳ございません陛下。こちらも状況の確認の為に使いをやっているのですが未だに連絡が入ってこないものでして…」
「気にするな神官長。こちらの手の者を使って確認もしているしな。しかし、相手が時間を指定してこの体たらくではなぁ…やはり舐められているようだな宰相。」
「左様です。聖国は教皇が倒れて以降、枢機卿同士の対立が表面化し混乱状態に陥っているようです。教皇自体は聖国では珍しく古典派でしたので今までは協調姿勢がとれておりましたが枢機卿の大半は新興派。他種族と手を組んで独立した我が国を下に見ております。」
「全く。300年前だぞ、300年前。当時を生きてるニンゲンなんぞおらんのに今なお目の敵にして何を考えているつもりだ。」
「まぁ、現実を見ていないのでしょう。教皇と陛下のおじい様が結んだこの派閥の交流がつつがなく行われていた時はかの国との貿易が栄えていたのですが教皇が倒れて以降は問題が増え続け貿易も下火となっております。」
「異種族憎しでよくもまぁここまで動けるものだ。政治というのは相手が憎くても国益の為に仮面を被るものであろうに。」
レディアと宰相が聖国の不満を口にしていると教会のシスターが紅茶を持って部屋に入って来た。
紅茶の横には赤みが特徴的なハチミツが入った小さな容器が置かれている。
「いつ来るか分かりませんので少し休憩を致しませんか。良き茶葉とハチミツがあるのです。」
「ほう、ルージュ・ビーのハチミツが。まさかイサナの所で買ったのか?」
「流石は陛下よく御存じで。イサナ店長とは懇意にさせていただいております。」
「そうかそうか!余もあの店の店員だからな。お得意様の機嫌は取らんといかんな。」
「陛下が店員とはいったいどういう事でしょうか?」
「ハッハッハ…奴らが来るにはまだ時間がかかるようだから時間つぶしに教えてしんぜよう。」
レディアの読みの通り新興派から到着を知らせる早馬が来るのがこれよりも1時間後であった。
その間にレディアは北部でイサナと出会ってからここに来るまでの旅程を楽しそうに、懐かしそうに神官長に語った。
・・・
・・
・
「本日はお会い出来まして非常に光栄でございます。セーレ14世陛下。」
「余としては光栄でもなんでも無いがな。まさか聖国の大神官ともあろうものが時間を指定しておきながらこれほど遅れるとは思ってもおらんかったしな。」
肥満気味な大神官は額に冷や汗を浮かべ深々と頭を下げるのに対し堂々と言い放つレディア。
実は聖国側にこの国の女王であるレディアと宰相が来ることはあえて伝えていなかった。
今回の件は聖国側が軽んじていると判断したので会談中に何かしら問題を起こしたり無茶を言う事は予測出来ていた。
その問題を起こさせないためにレディアと宰相が同席するという思惑だったのだが聖国側は来る以前から問題を起こしてしまった。
公国側としては相手の落ち度を責められるので非常に優位な状況で始まることになったのだった。
「さて、呼び出されて原因は分かっているだろう?キサマの所の若造が我が国の商人に無茶を言ったのだ。教会の権威を前面に押し出してな。それに対しどう思っている?」
「それ関しましてはこちらはあくまでも寄付について伝えただけでございます。」
「つまり寄付にかこつけて奪おうとはしていないと。あくまでもそういうのだな。」
「左様でございます。なんでも相手した店の代表は子供だとか…判断も出来ない子供故に大げさに感じたのでしょう。」
「なるほど、なるほど…では、キサマは我が国の貴族が皆、嘘をついているというのだな。」
レディアが合図をすると宰相が机の上に多くの陳情書を広げる。
そこには多くの貴族の名が乗っていた。
「これは問題が起きた時に露店に居合わせた者達がだした陳情書だ。大半は貴族家の子息や息女であるが中には大人である当主の名もある。まさか、大人の当主が勘違いするとは言わぬよな。」
「恐らくですが子供が責められてると見て皆が庇ったのでしょう。そのように見えてしまったことについてはこちらの指導不足でございます。」
「なるほど…あくまでも無理やり奪おうとした事実は無いと。そう言いたいのだな。」
「左様でございます。ニンゲンは皆、女神ノエインに作られた兄弟でございます。子供相手に無体な事はしませんとも。」
白々しい事を、と公国側の皆が思う。
そもそもこの会談の回答に関しては実はどうでも良かったりする。
実はもうすでに手は打った後だからだ。
「もうよい。キサマがもう少し誠実は対応をするのであればこちらも相応の対処をしようと思ったのだがそのつもりもないようだ。この件についてはすでに教皇宛てに余の名前で抗議文を送っておる。キサマは愚か者を連れてとっとと出ていくがよい。」
宰相がドアを開けると兵士が数名入って来て聖国の大神官を無理やり連れだした。
大神官は何やら喚いていたがレディア達は気にも留めず大きなため息を吐いた。
「全く、今の聖国はあのような者ばかりなのでしょうか。ノエライト教の総本山を名乗っておきながらあの態度では女神ノエインもお嘆きになられる。」
「いやぁ~ホント、ホント酷いよね。あの態度で神を敬ってるつもりなんだよ。お母様の許しがあったらすぐにでも首をスパーンっと斬ってやるのにお母様はダメだって言うんだよねぇ…優しいのは素晴らしいと思うけどお母様を蔑ろにする連中なんてスパーンとしていいと思わない?」
憤慨する神官長の言葉に同意するようにこの場にいる3人の声ではない少女とも少年ともとれる声が聞こえる。
レディアが懐から小さくしていた神剣を取り出し室内でも振れる程度の長さに変えると宰相と神官長はレディアの背中を守るように陣取る。
「ああ、待った待った。急に声をかけちゃってごめんね驚いたよね。とりあえずその神剣は納めてくれないかな。流石にそれで斬られると痛いんだよねぇ。」
そういうと部屋の窓やドアの隙間から霧が滑り込むように入って来て一塊になっていく。
塊が人の形になるといっぺんに色が付きフリルで縁取られた黒いドレスを着た銀髪の少女が血の様に真っ赤な目で3人を見ていた。
背中には少女同じぐらいの大きさの鎌が青白く輝いている。
「こんにちわお嬢さんたち。ヴァンパイアのレーラさんだよ。ああ、君たちには森の奇人といった方が伝わるかな。今日はちょっとお願いに来たんだけど聞いてくれるかな。」
「これは、これは、おとぎ話にも出てくる。森の奇人殿にあえて光栄だ。矮小なるニンゲンの力で役に立つならお引き受けいたしましょう。」
「ああ、別に何かして欲しい訳じゃないんだけどね。ちょっと許可が欲しいんだよね。昔からのあれやこれでヴァンパイアって勝手に人の家に入っちゃいけないんだよね。だから許可をもらいに来たんだ。この街って王家が管理してることになってるんでしょ?なら王家の許可があれば入っていい事になるよね。だからお嬢さんに許可をもらいに来たんだ。あ、そうそうここに入れたのは教会は神の家って名目があるでしょ。だから神々の誰かが入っていいよ言ったら入っちゃっていいって事になってるんだよね。そうそう、それで入りたい家なんけどさっきの神官たちがいる所なんだよ。あいつらよろしくない物を持って来たみたいでそれを使ったら処理しろって真祖様から連絡があったんだよ。だからどこで使っても対処できるように許可が欲しいんだ。」
「あ~、つまりあの聖国の連中が禁制品を持って来たから処罰したいと。その為に踏み込む許可が欲しいという事だな。それぐらいなら許可しましょう。何かしら許可証など出した方が良いか?」
「別に要らないよ。正しくは使ったら処理ね。まぁ十中八九使うだろうけどね。その時はスパーンってするから安心して。ちなみに何を持って来たかは内緒ね。広まってすぐに用意できるものでもないけどあんまり広がると面倒だしね。じゃ、許可はもらったから帰るね。じゃぁね~」
言いたいことだけ言うとレーラは霧となって文字通り霧散した。
「イサナに聞いてはいたがいざあってみると強烈すぎるな。生臭神官とあった時とは比べ物にならんぐらい疲れたな。」
3人は疲れ切ってソファに身を預けたのだった。
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