学園都市祭・開催間近
最近は聖国の神官であったりヴァンパイアであったりとややこしい客が多いから今日はまったりとホテル・マキアスで過ごしていた。
「次はこちらの書類にサインをお願いします。」
・・・嘘である。
俺は今絶賛書類の山に襲われていた。
事の始まりは宰相夫人のカタリーナ様と学園都市の商業ギルドマスターが同時に来た日の事だった。
内容としては学園都市祭の時の人員を宰相家から出すことになるのでそれの最終チェックだったのだがその時にカタリーナ様が俺の作ったアンコ物のレシピを買いたいという話になった。
別に俺としては豆を煮るぐらいだから勝手に作っていいよって答えたのだがそれに待ったをかけたのがギルドマスターだった。
「イサナ店長。レシピというのは貴重な知識財産になりますので販売物となります。宰相家としても無料で教えてもらったというのは体裁が悪いので販売の方がよろしいかと。」
なるほど…
元の世界の様にネットでなんでも調べられる世界ではないしレシピの価値観はだいぶ違うようだ。
ただ、問題が一つあるな
「レシピはどのように販売すればいいのです?」
俺がレシピの販売方法を知らなかった事だな。
俺の発言に驚いたのはギルドマスターはもちろんカタリーナ様やお茶のお代わりを持ってきたマキアスも驚いていた。
「イサナさん。もしやレシピの登録を行っておりませんの?」
「ええ。レシピの登録があるのも今初めて知りましたよ。」
「申し訳ございませんでした!それは間違いなくギルドのミスでございます。早急に準備させていただきます。」
この世界、俺が思っていた以上に特許や著作権などの知識財産所有者の権利がしっかりしていた。
神々が世界を統治していた時から行われていたようでそういった知識財産所有者の利益を守るのも商業ギルドの役割らしい。
そうしてレシピを買うというのは作り方はもちろん知識財産所有者の認可を受けたという扱いらしい。
ちなみに料理のレシピは割合としては低く薬や魔術の類がほとんだそうでそうした物を扱ってる職業の人たちが食べていけるように制度化されたんだろうな。
「でも、アンコとか
「公国の商業ギルドは隣国である王国とそのさらに先の聖国、そして王国の南部にある帝国の4か国の経済圏でのみ権限を持っております。なので
「それは問題無いんですか?」
「古代からこういう取り決めですからね。それに
なるほど…
カタリーナ様もレシピ欲しいって言ってるしちょっと登録しますか。
と、軽く思ったのが運の尽き。
出るわ、出るわ、未登録の新技術。
アンコもそうだけど各種プリンに食パン等の料理系にライブクッキングも対象になった。
さらに言えばこのホテル・マキアスだ。
何せ神界工房のパパスが設計したここは新技術の塊。
水洗トイレや配管のシステムに魅惑のベッド。
さらにはついでとばかりに馬車のサスペンションやらなんやら全部登録してしまおうという事になった。
作り方とか理論的な説明とかの大部分はパパスやマキアスが準備してくれたが最後の登録者のサインは全部俺のが書くことになるので俺はもう何の書類なのか分からないままひたすら出される書類にサインをし続けている。
初めの頃は商業ギルドの職員が受け取りに来てマキアスとギルドを往復してくれていたのだがいつのまにか登録用の魔道具が設置されてマキアスでひたすら登録し続けている。
最後の一枚を登録終えた時はもう感動で涙が出たもんだ。
名も知らないギルドの職員と喜び合ってルージュ・ビーのハチミツで作ったミードも振る舞った。
杯を持っていた一般職員の手が震えていたがそこまで酷使してしまっていたとは罪悪感しかない。
・・・
・・
・
そんな風に書類の山に襲われていたせいで学園都市祭の開催まであと数日となっていた。
今日は俺の露店やオークションの手伝いをしてくれる人たちのために壮行会することにした。
メンバーはレディアに宰相家族、ロダンさんに息子のアレクさんご一家に商業ギルドマスター、さらに実働部隊となる各々の家の使用人や商業ギルドの一般職員たちを招いた。
さすがに使用人や一般職員たちが自分の主や上司がいると楽しみ辛いかなと思って彼らは巨人達用のエリアにして俺らは一般サイズ向けのレストランエリアと分けてはある。
俺が食堂エリアにある舞台に上がると全員が俺の方を向いた。
「本日は、オオイリ商店が主催する学園都市祭の壮行会に参加いただきましてありがとうございます。祭りが開催されている間は皆様方にご迷惑をおかけすると思いますので事前に謝っておこうと思います。可能な限りお食事やお酒をご用意いたしましたので是非お楽しみください。では、カンパイ!!」
カン!と各所で乾杯をする固い音がなると嬉しそうな声があがる。
俺もレストランエリアに戻ると子供たちは鉄板の前で料理が出来ていくのを待ち望み大人たちは各々好きな酒を飲んでいた。
宴もほどほどに盛り上げってきたところで俺も料理人のいるエリアに移動する。
カウンターの下からガンテツに頼んで作ってもらった特製の型を取り出しそこに生地とアンコを入れて蓋をして焼き上げる。
鉄製の型をひっくり返し両面をムラなく焼き上げるとそれを小さな紙袋に入れて渡す。
「どうぞ、これが露店で販売するたい焼きになります。」
なかなか決まらなかった露店の販売品は善哉とたい焼きとなった。
最初は大判焼きとか今川焼とかおやきとか言われる名前戦争が勃発する丸いのにしようかと思ってガンテツに型を作ってもらったのだが彼の腕をこんな飾りっ気のない物に使うのも勿体無いなと思ったのですこし複雑な形なたい焼きとなった。
流石に元の世界であったような機械式の大きな物は作れないので挟み込むような簡単な仕組みの型を大量に作ってもらった。
最近は難しいのばかり作っていたガンテツも息抜きがてらに快く引き受けてくれてあっという間に作ってくれたのは流石としか言うしかなった。
露店の時は宰相家やロッソさんの所の料理人が作ってくれることになっているので俺よりも上手く作ってくれるだろう。
「これが噂のたい焼きか。妻は自慢ばかりで実物を見るのは初めてだな。」
「なんだ宰相。今日が初めてだったのか。熱いから気をつけろよ。」
「別にわたくしも隠していたわけではございませんわよ。冷めた物を食べてそれが基準になってしまうのが嫌でしたので家では用意しなかっただけですわ。」
「ロッソ商会としては
「人気のない商品も一度研究しなおしたほうが良いかもしれんのう。」
「商業ギルドとしては扱いづらかった低品質の紙をこのように袋として扱う方法を教えていただいただけでかなり用途が広がりましたよ。」
下層のエリアの招待客たちの反応もかなり良いとマキアスが教えてくれた。
やはり美味いものは正義だな。
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