事の顛末と奇妙な客

あの後の顛末だが表向きは王家から教会に厳重注意をしたらしい。(学園都市は王家の直轄地だから管理は王家が受け持ってるらしい。)

学園都市の教会も重く受け止めて彼を教会内部に軟禁。公国の西部にも融和で来てる人たちがいて引き取りに来いって連絡したらしい。

そもそも融和政策自体は聖国の教皇の肝いりらしく過去のわだかまりはあるが共に神々を信仰しましょうってことでレディアの父親である前公王とで始めた物らしく最初は細々とながらも上手く回っていたらしく王位がレディアに移ってもさほど問題も起きなかったらしい。

だが教皇が年老いてからは少しずつ問題を起きるようになったらしく融和の使者の派遣の手紙に教皇ではなく枢機卿の名前がサインされるようになってからはますます問題を引き起こしているらしい。

今回の受け入れは問題を起こすのも前提にしていた上で何時かやらかすのを待っていたらしい。

何せ学園都市は王家の直轄領だ。

そこでのやらかしは聖国の使者が公国の王家を舐めてるといった言動になるのでその出来事を盾に西部の一部以外の融和の使者の立ち入りを拒絶する方針だったらしい。

ところがどっこいそのやらかしがあまりにもデカすぎた。

秘密裏に北部の多種族と交易を始めようねって計画している時に策略とはいえ公国が許可した客人がその交易相手の多種族の作った物を罵倒したのだ。

ガンテツはそれを口実に交易を却下できるしもっと交易を始めるにあたって厳しい条件を付けることができる。

だからこうして俺とガンテツの前で宰相とレディアが裏話込みで経緯を話して頭を下げているのだ。


「…話しは分かった。ニンゲンの全部が全部その男と同じ考えではないのはわかっとるしレディアの嬢ちゃんがワシらの技術を正当に評価しとるのも知っとるから今回の事に関しては特に何か言うことは無い。イサナはどうじゃ義兄弟?」


「そうだなぁ…ガンテツが不問にするって言うなら公国との交易については口出しすることは無いかな。ただ、交易が始まって他国に北部の商品を流すときは正当な評価をしてくれる相手に売るように心がけて欲しいかな。まぁ、始まってすぐは公国の需要が高すぎて他国に流れることはそうそう無いとは思うけどね。」


俺とガンテツの答えに一息つく宰相とレディア。

それほど緊迫していた状況ではあったからな。


「…ああ、それとあの男に当てたせいで売り物にならなくなった岩塩の代金は欲しいかな。銀貨2枚分。」


俺の言葉にレディアが笑いながら銀貨3枚をくれた。

2枚は岩塩の代金で1枚は岩塩を見事に命中させたメイちゃんへの報奨金だそうだ。


・・・

・・


さて、政治的な裏話も終わり今日も俺は露店を広げてる。

聖国の新興派が来てからうちの露店の周りを騎士学校の生徒たちが自主的に護衛してくれるようになったり、レディアから聞いただけだが影からひっそりと王家の兵士が護衛をしてくれるようになったらしい。


今日も今日とて売り上げはそこそこだから客入りは良い。

試しに作ったドワーフの武器の試し切りコーナーは引切り無しに生徒や兵士が入っていてその切れ味と刃の美しさにみんな惚れ込んでいる。

…今度ガンテツを製造者側の解説役に連れてきたら売り上げ上がりそうだな。


そんなことを思っているとかなり奇妙な客がいることに気付いた。

白いフリルで縁取られた黒を基調としたドレスをまとった銀髪が特徴的な少女。

彼女のルビーの様な真っ赤な目がこちらを見ると迷うことなくこちらにやって来た。


「こんにちは!イサナ店長。ホントはもっと早く会いに来たかったんだけどなかなか忙しくて時間かかっちゃったよ。そうそう忙しいと言えば聞いたよ、教会の神官モドキの話し。ホントあの国の神官はろくでもないよね。偉大なる我らが母を蔑ろにして妹君ばっかり贔屓するんだもん。いやまぁ、妹君が創ったから仕方ないかもしれないけどそれにしても酷いよね。この前もかの国の神官ったら…」


少女にしては声が低い気がするけど少年にしては高い声を出す暫定少女。

てか、お上品な見た目のわりにめっちゃ喋るな。

あまりのマシンガントークにほとんど聞き流し状態なんだけど…


「…それでね言ってやったんだ。アンタがしたら天罰じゃないだろって。まぁ、その時はもう聞こえて無い状態だったけどね。」


「それは凄いですね。ところでお客様。良ければお茶はいかがですか?後ろにテーブルもご用意しておりますのでそちらでゆったりできますよ。」


「そうだね。久しぶりに喋って疲れたし貰おうかな。」


実は俺の露店スペースは結構デカい。

何せ露店としては人気にんきの無い街の北側に配置されているので思い切って3つ分のスペースを確保している。

だから俺が座ってる店長スペースの後ろはお茶や軽食を用意できるスペースがあったり、その横は商談エリアになっていて上客やちょっと周りに迷惑をかけそうな人を案内出来る。


「誰かとお茶を飲むのは久しぶりだなぁ…あ、甘いのがいいからハチミツいっぱい入れてね。それとそれと魔剣があったら見たいな!」


「ハハハ、ハチミツはいっぱいありますが魔剣なんてこんな露店にあるわけないじゃないですか。」


客に背を向けていたのは正直ラッキーだった。

なんせ魔剣を見たいなんて言われた瞬間汗が噴き出たから。

そもそも、どうして俺が魔剣を持っていると知ってるんだ。

子爵が教えたのか?


「んもぉ。隠さなくていいよ。イサナ店長が魔剣とか聖剣とか扱ってるの偉大なるお母様が教えてくれたから皆知ってるんだからね。」


「…お客様。皆と言うのはどのぐらいでしょうか?あと、お母様と言うのはどなたでしょうか?」


俺は目を合わせないようにカップを客の前に出す。

手が震えなかっただけでも偉いと褒めて欲しいぐらいだ。

俺が魔剣を持っているなんて情報が洩れたら正直どうなるか分からない。

少なくとも即座に学園都市からは離れた方がいいだろう。

それぐらい魔剣の取り扱いは難しい。


「少なくともお母様に使える夜魔達は知ってるよ。だってお母様から被害を与えないように言われてるからね。あ、お母様って言うのはグランフィリア様の事だよ。偉大なる我々魔族の母であり神々の頂点。あ、もしかして知らなかった?魔族はいっぱいいるけどこの辺りならヴァンパイアとかサキュバス、インキュバスの夜魔とウェアビーストたちが多いよ。まぁ、ニンゲンは気づいてないだろうけどね。他の地域ならそれ以外の魔族もいるよ。例えば…」


その答えを聞いて力が抜けた俺はゴンと頭を机にぶつけた。

グランフィリア様の関係者でホントに良かった。

とりあえずこのお客を気に入る魔剣とか聖剣があるか探しに行くか…

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