血を回す様に

昼間はレディア、宰相、カービン夫妻にサービスエリアについて長々と話したので疲れた。

そんな日は大浴場でゆっくり休むのに限る、というわけで一人でゆっくりお湯に浸かることにする。

今日の説明が思ったよりも長くなってしまったからカービン夫妻にも泊ってもらう事にしたのだがその二人にもこの大浴場は好評だった。

大浴場だけでも有料で開放しようかな…いや、でも管理とか受付とか面倒だなぁ…公共の大浴場を商人ギルドに提案したら何とかするかなぁ…


「やはりこの風呂は良いな。王城にもあるがここまで広くないので少し羨ましくもある。」


ボケーっと考え事をしながら風呂に入ってたからか横にレディアがいるのに全く気付いてなかった。


「キャーエッチー‼」


「というか何で全裸なんだよ!俺が入ってたの分かってたんだろ!せめて何か隠せよ‼」


「何を言うか。風呂なのだから裸なのは当たり前であろう。それに余に見られて恥ずかしい物は無い。」


もうヤダこの暴君…

俺はレディアの体を見ないように背を向けてここに来た理由を聞いた。


「それで、わざわざ風呂に突入してまで来たのはどんな理由があるんだ?」


「イサナが最後に言った貸し馬屋についてもう少し聞きたくてな。ここなら宰相も子爵もいないから話しやすかろう。」


「カービン子爵はともかく宰相はいてもいいんじゃないか?」


「貴族では無いイサナには分かりづらいかも知れぬが宰相も貴族なのだ。王家に尽くしてくれているが自らの家と王家。どちらかを取らねばならない時はになったら己の家をとるだろう。それに関しては余は別に問題無いと思っておる。領地持ちの貴族家としては正しい姿だからな。」


「いろいろとややこしいのな、その辺。それで何が聞きたいんだ?」


「全てだ!と言いたいが先ずは本当に儲かるのかどうかだな。」


「そこから聞く?まぁ正直な話儲かるかどうかはやってみないと分かんないな。そもそも馬車で移動しようとする人たちが調子の悪い馬を使うのかって話があるからな。個人で馬を持つときの維持費ランニングコストより安いとなれば借りる人も出てくるかもしれないがその賃料で貸し馬の維持費ランニングコストとどれだけ釣り合うかわかんないからな。それよりも重要なのは国の兵士が各拠点毎にいる事だよ。レディアも一緒に通ったからわかると思うがちょいちょい賊に襲われただろ。今の各々の貴族たちが治めてる状態でも兵士が足りてないんだから街道が出来てからだと遅いと思わないか?」


「なるほど。街道の治安維持のために国の兵士を派遣すると言えば大々的になってしまい賊も隠れてしまうかも知れぬな。それが貸し馬の育成と言う名目で紛れ込ますように配置すれば賊も隠れようとは考えにくいか。」


「街道が出来てすぐは賊も横行するかも知れないが各サービスエリア毎に兵士が詰めてると知ればおのずと賊も近寄らなくなるだろし、サービスエリアは宿場町と宿場町の間。巡回させるとしてもさほど遠くは無いだろ。それにこの街道は主要街道では外郭東部廻りの南北線になるわけだ。そしてこの国で一番魔物の被害にあっているのは森林と隣接している東部なんだろ?」


「…なるほど。もしもの時のフロントラインかボーダーラインになり得るわけか。よくもまぁここまで思いつくものだ。」


「流石にあの一瞬でここまで思い浮かんだわけじゃないけどな。商人として街道の安全は絶対条件だからそれをどうすればいいのか考えつつ周りに利益を及ぶようにしただけだよ。それに、俺は戦場の経験なんてないから早馬程度ぐらいしか考えてなかったからな。」


「なるほどな。まぁ、防衛計画は城で考えるとするとして前々から思っていたがお前は利益を独り占めせんな。それだけの発想があれば今頃豪遊出来ているだろうに。」


「そうかもな。でもな、利益の独り占めってみんなが考えてる以上に悪手なんだよ。みんな勘違いしてるけど。金じゃ生きていけないんだよ。金を食材に変える事ことで飯が食える。金を家に変える事で安全に暮らしていける。金を服に変える事で健康に暮らしていける。金は血液みたいなものだ。正しく回すことでつつがなく生きていける。血だって回らずに溜まるばっかりだと腐っていくだろ。金も一緒だ。一か所に集めすぎたり貯めこみすぎるのは良くない。という体は動かし続けないとダメなんだ。」


「…イサナは金が正しく動けばこの国はより大きくなると思うか?」


「劇的に変わる事は無いかも知れないけど今日よりはマシになるかも知れない。それで今日よりはマシを毎日続けていったら気づけば大きくなってんじゃないかな。」


「そうか、国とはなかなかままならんものだな。とりあえずあくどい貴族や商人を処罰できるように内偵を進めるか。」


「血を回すのは良いけど。やりすぎて血の雨を降らせるのは見たくないぞ。」


「上手い事言うでは無いか。まぁ、その辺は任せておけ。余が最も得意な事だからな。さて、風呂を出るぞ。冷たい酒が余を待っておる。」


そういうなりレディアは俺を脇に抱えるとズンズンと大浴場の出口に向かって行く。

ちょ、誰か助けて、暴君のさらわれちゃうぅぅぅ。


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