利益はみんなで分け合おう

今日は露店をヴィオラとメイちゃんに任してホテル・マキアスの前で人を待っていた。

ガラガラガラと音がしたのでゲートから伸びる石畳の方を見ると馬車が一台やってくるのが見える。


「お待ちしておりました。宰相閣下、カービン子爵。どうぞこちらへ。」


馬車からは堂々とグランヒルズ宰相が降りてきて続いて緊張してガチガチになっているカービン子爵と奥さんが降りてくる。

何せほぼ最上位の上司が横にいるんだからそうもなるか。

少しかわいそうだなと思いつつここまでの経緯を思い出してみる。


あの話が上がったのは3日前だったか。

いつも通り露店にいると宰相家の使い俺に伝言を持って来た。

内容に関しては以前に石畳の敷設と共に提案した駅家うまやについて話したいという旨だった。

俺としてはいつでも良かったので返事をすると今日に国に提案したカービン子爵も混ぜて打ち合わせをしたいという事になったのだった。

話しを聞いてから道は工事しているのに駅家はまだ進んでいなかったのを思い出した。

距離的な話しかと思ったがもっと別の問題があったのかな…


思い出している間に食堂についたので席に着く。

カービン夫婦の前に宰相が座るがカービン夫婦があまりにも委縮しているので俺はカービン子爵と宰相の間に座る。

この件はレディアも気にしているそうなのでどこかで隠れて聞いているだろう。


「さて、本題を切り出す前に確認したいのだがこの案の発案者は商人で間違いないな?」


「ええ、間違いないです。アレは確か、ゴーレムを倒した時の素材が石と木と聞いた時にストンズ家とカービン家の特産と同じだと思い出しましてならその事を活かす為に道と駅家を提案しました。」


「ふむ。もう少し本題から逸れるのだが詳しく教えて貰えるか。」


「そうですね。彼らの土地の特産が石材と木材なのだとしたらそれを扱う職人もそれ相応にいるはずです。実際に両子爵に尋ねたら職人がいるとの事でしたしね。そこで、道と駅家を建てるのに彼らの領地の職人を使い立派な物を造れば彼らの領地の職人の腕の宣伝になります。そうなれば職人たちに仕事の話が舞い込むかもしれませんし職人が動けばおのずと扱う材料である石材と木材売れます。売り上げが多くなれば領地の発展につながり両家も大きくなる事が出来ます。それにこちらとしましても大きな馬車で整備されていない道を通るのは非常に疲れます。なので道と駅家を提案しました。」


「まさか、金にならぬゴーレムの素材でそこまで考えていたとはな…商人がこの国にいて心底良かったと思える。さて、本題なのだが駅家の建設に貴族が反発を起こしている。内容としては『宿場町もあるのに駅家そんなものが出来たら収入が減る』と言った物だ。他にも今回敷設する道に関所を建てる事を禁じた事への抗議という面もあると思われる。ただ、国としては一度褒章で渡した物を変えるとなると最初に渡した物以上に価値のあるものを差し出さねばならない。だが、今回は工事の許可証であり金銭的な価値に例えるのは難しかったので発案者の意見を聞いたのだが聞いた通りの思惑であればますます金銭的な補填が難しい。そこで反対派を封じ込める様な案は無いか?」


「そうですね…とりあえず一つ確認したいのは駅家と宿場町を同一の物と考えていませんか?まず大前提としてその二つは違う物だと考えてください。」


「ふむ、提案書では似たようなもので合ったが違うのか。」


「駅家、いえ今回の件でケチが付いたのでサービスエリアとでもしましょうか。サービスエリアは元々宿場町を利用させる手段として考えていました。このサービスエリアは休憩場所であり時間稼ぎの場なのです。」


「いまいち理解できないな。続けてくれ。」


「今の宿場町は現状の道を通ってそろそろ休もうかといった位置で発達しましたよね。ですが今の工事中の道が出来てくるとその位置がズレてしまう可能性があります。何故かというと道が進みやすくなるからです。舗装された道とそうでは無い道があればどちらの方が早く進めるかなんて誰に聞こうが答えは同じですよね。」


「舗装された道の方が早くなるのは通りだな。そうなれば確かに宿場町を使うかどうか悩むことになるかも知れんな。」


「そうです。なので時間調整の必要があるのですがそこでサービスエリアです。サービスエリアにはトイレや簡単な物を食べる場所、馬の休憩スペース等を置いてちょっと休憩できる所にするのです。そうすれば今の宿場町からのズレを減らせますし一休みするところがあれば旅慣れていない方の負担も減るでしょう。これがサービスエリアの設置理由です。」


「なるほど。そう言う事であれば反対派も納得するかも知れないがもう一手が欲しいな。」


「そうですね。関所廃止は良き案だとは思いますが貴族の規模によっては致命的になるかも知れません。そこで提案したいのはサービスエリアで得た利益はというのは出来ませんか?」


「む…それは流石に私の一存も決められんな。」


「ならば、余が話を聞こう。」


そう答えたレディアがカウンターの下から出てくる。

…お前そんなところに隠れていたのか。

そして、レディアを見たカービン夫婦が慌てて立ち上がり臣下の礼をした。

いや、その、なんか、すみません…

後でお二人にはゆっくりくつろいでいって貰おう。


「余にかまわず座るがよい。話を聞いていたが余が問題視していたのは労せずに金を手に入れてしまう事だ。税を手にするために考え、実行するというのであれば反対はせぬ。話を続けよ。」


「解りました。利益を王家に収めないで良いとするとその土地の貴族だけに利点があるように聞こえますがそうでもありません。カービン子爵にお聞きしたいのですがもしこのように利益を全て手に入れることが出来るならどの様な事をしますか。」


「それは、やはり商売だろうか。稼ぐとなるとそれぐらいしか考えられないのだが。」


「そうですね。大半の人はそう考えると思います。ですが、カービン子爵は商品の仕入れ先はご存じですか?また、原価計算や商品管理などをする余裕はありますか?」


「それは…」

「残念ながら我が家の様な小規模な家では難しいですわ。イサナさんはどうすれば良いかもう考えているのよね?」


「ええ、自ら商売が出来ないのであればだれかに任せるのです。御用商人でも構いませんしギルドでも良いと思います。誰かに委託をするのです。そこで賃料などの名目で徴収すれば良いのです。」


「なるほど。まるで小さな王家だな。」


「ええ、やってる事は同じですね。おそらく他の貴族の方々も納得しやすいでしょう。もちろん自らの商売をした方が儲けられるでしょうからそれも有りです。ただ、サービスエリアの利益が全部自らの懐に入ると考えるとなると広大なエリアを造ろうとする者もいるでしょうかそこのさじ加減が王家の仕事だと思います。」


「また、難しい事を言うのだな。だがそれが王の仕事なるのなら仕方あるまいか。」


「領地の規模により街道沿いに最低1個は保証してやり後は領地の規模に合わせて2個目や3個目を許可する形になると思います。宿場町を使えるという制限をかける必要はありまし、さらにちゃんと帳簿の提出も義務づける必要はあります。ただ、このような面倒事があるとしても利益の方が大きいようにすれば皆頑張るのではないでしょうか。」


「なるほど、その辺は城で決めるとしよう。ただ、イサナの言う通り一定金額の制限は中小規模の領地では届かないような高めにしよう。それで貴族以外の利益は何だ?」


「いろいろありますよ。まずは商人に商売を委託するのを前提と話しますね。商人は利益を出すためには仕入れの値段を抑える必要があります。なので近場から仕入れる事になりますので仕入れ先は地元の農家や漁師、職人になるでしょう。ですが商人を呼び込むにしても魅力的な場所でなければなりません。なので領主は貸す場所を整える必要があります。そこはカービン子爵家の職人に頑張ってもらうしかないですけどね。こうしてお金を回すことが領地の発展につながりゆくゆくは国の発展になります。それにこれが上手くいったら他の街道でも関所を廃止してサービスエリアをしたいと言うかもしれませんよ。」


「当家としては建物を作るだけなら問題は無いですが豪華な、となれば少し話がややこしくなりますぞ。」


「では、ある程度形や大きさを国として統一してしまえばいいのです。基本的には休憩場所なのでトイレや軽食を食べる場所に一時的な馬車置き場、あとは特産品を売る場所ぐらいですか。平屋造りで大中小ぐらいの設計をしておきまして後は各領主にどれがいいか選ばせるのです。そうすればカービン子爵家としては工事の際にどのタイプを造ればいいかわかりやすいので材料や職人の数を把握しやすいでしょうし、工賃の見積もりもしやすいので領主も助かるでしょう。その設計以上の事はは各領主負担にさせれば各々もある程度自由が出来ると反発も少なくなるなるのではないでしょうか。」


「…確かに作る物が決まっていれば楽になるのは道理です。これなら当家の職人も動きやすいでしょう。」


「では、王家としてはサービスエリアを整えることに支援金を出す様にしよう。決まった物を作るというのであればサイズごとで支援金を計算しやすいしな。」


破天荒なレディアであるがこうした政治的な判断は非常に速い。

王家の利益より国益を優先するので貴族家の大きさを考慮せずにガンガン決める所は一定以上大きい所からは嫌われてるが弱小貴族から人気があるという話しも納得である。

とは言えもう少し王家レディアの利益になる事は無いだろうか…


「あとはですねぇ…ああ、サービスエリアの横に貸し馬屋を置くのはどうでしょうか。ここは各領地ではなく王家が経営する感じで。王家が経営する形にすれば借りた馬を隣の領地で返還とかできますし借りたまま踏み倒そうとした相手を問答無用で捕縛できたりしますしね。」


「しかし、己の領地に王家の者を入れるのは嫌われるぞ。」


「なので、あくまでも希望者だけで。造園費用とかは最初に希望を出しておけば全額王家持ちにしてサービスエリアが始まってからの希望者は一部王家負担で行えばいいでしょう。」


「なるほど…イサナお得意の選択式か。よかろうそれも行うように通達をしておこう。他にも意見はあるか?」


「これ以上はもう思いつかないですね。何を採用して何を切るかはそちらの判断にお任せします。」


「そういう事だそうだ。宰相、今回の件を城に連絡させて検討させよ。基本的には全て使う予定で行く。そのうえでサービスエリアの基本的な大きさの検討や支援金の整備、借り馬屋の設計等は今すぐにでも始めさした方が良いだろう。カービン子爵もサービスエリアの建物についてサイズ違いの設計と作成にかかる費用の報告を行うように。安く見積もる必要は無い。相応のを出す様に。」


「「かしこまりました。」」


「それとイサナ。サービスエリアの構想について今度他の貴族たちに説明しようと思う。それをイサナに任せる。」


「うぇ!?」


「ハッハッハ…余にそんな態度をとれるのはイサナだけだ。頼んだぞ。」


「かしこまりましたぁ…」


俺は天を仰ぎながらしぶしぶ返事をするとレディアは楽しそうに笑い、宰相はいつも通りの表情で、カービン夫婦は驚いた顔をしていた。

貴族相手に説明会とかそんなの一介の商人の仕事じゃないよぉ~。

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