幕間・大ジジ様、帰還す

時間は少し遡りドラゴンとして本来の力を取り戻した大ジジ様は流砂の様な柄が入った艶のある鱗と甲殻を朝日で照らしながら大陸中央部にある人類未踏の大山脈に向かって飛んでいた。

地龍族が住む郷がそこにあるからだ。


地龍と呼ばれる彼らの姿は一部を除いて基本的にスタンダードなドラゴンの姿だ。

首から尾まで長く伸びた胴体に背中に生えている翼、100人に聞いて100人がこれはドラゴンだと言う姿をしている。

そんな彼らが地龍と呼ばれる所以は何かを食べるときや寝る時など生活の基本が陸上である為だ。

この世界には他にも天竜族と海龍族がいるが彼らのはその名の通り各々の生活圏が天と海である。


話しはそれてしまったが大ジジ様は荒地を東方向からぐるりと一回りするとそのまま公国の東部方面から回るように南西方面に向かって飛行をする。

そして、公国の南に位置する王国に入るとあっちへフラフラ、こっちへフラフラ。

さらに、王国から西の聖国に入るとそこでもフラフラと各地を飛びながら南の大山脈に向かう。

ちなみにあっちこっちにフラフラしながら飛んだのは長い年月が経った各地をただ見たかったからだけだ。

大ジジ様からすれば物見遊山気分であるがそれを見た他の者たちはそれどころでは無い。

ドラゴンと言うのはこの世界で最強の名を欲しいままにしている種族である。

神話の時代から神々を困らせる存在と言えばドラゴンか精霊だ。

そんなドラゴンが突然現れたらたとえ何もしなくとも戦々恐々となるのは仕方ない事である。

そうして各地に衝撃を与えた大ジジ様の里帰りは間もなく終わりを迎えようとしていた。


「同胞よ、そこで待たれよ。」


聖国の南に位置する大山脈を飛行していると突如として声がかかり大ジジ様は言われたとおりに止まる。

前に若いドラゴンが表れると見定める様に大ジジ様を見た。


「かなり老齢な御仁の様だがどこの郷の者だ。この先は地龍王様の峰。郷に用があるのなら案内をするぞ。」


「出迎え感謝する。1000年ぶりの帰郷故に地龍王様に挨拶しに参ったのだ。」


「なんと、よくぞ帰ってこられた。では、地龍王様の御前に案内しましょう。」


若いドラゴンに案内された先は切り立った崖の上であった。

周囲を山岳に囲われた不思議な崖の先に大ジジ様は降り立つと恭しく頭を下げる。


「地龍王様。砂流紋、ただいま帰参いたしました。」


砂流紋大ジジ様が挨拶をすると大地の中から響く声が聞こえる。


「砂流紋…楔の監視を行っていた砂流紋か!長きにわたり連絡が途絶えていたので死んだとばかり…おお、よくぞ帰った来た。」


辺りに歓喜の声が響き渡ると同時に目の前の山岳に切れ目がはいると大きく見開いた。

巨大な地龍王は砂流紋の体が全て写ってしまいそうなほど大きな瞳で彼を見つめた。


「間違いなく砂流紋であるな。帰ってきたという事は楔となった者たちは開放されたのだな。喜びで涙を流すのはいつぶりであろうか。ああ、そうだ。まだ家族の元へは行っておらぬのであろう。先に合ってくるがよい。詳しい話しはまた後日で構わん。1000年まったのだ数日待つ事なぞ苦にもならぬ。」


「ありがとうございます。では、家族に会った後にまた参ります。」


砂流紋は滝の様な喜びの涙を流している地龍王の前から去り若いドラゴンの案内の元自分の住んでいた郷に向かっていた。

1000年ぶりの郷は見知らぬ若いドラゴンが多くいたが大きく様変わりしている様子は無かった。

種族として強靭な肉体と豊富な魔力を持つドラゴン達は気に入った場所に降り立つと魔法で好みの住処を作るとそこに住み狩猟生活でのんびりと生きていくのだ。

そして気に入った場所に住んでいると思いと悠久の時を生きる故か発展させるという考えが薄いために1000年という膨大な年月が過ぎてなおこの郷はほとんど様変わりしていなかった。

だから、変わらずにあった自分の住処を見つけると嬉しさがこみあげてくると同時に長年待たせた相手にどんな顔して声をかければ良いのかと緊張もしてきた。

そうして踏ん切りがつかないまま立ち尽くしていると奥からドラゴンが幼いドラゴンを連れ立ってやって来た。


「や、やぁ雲母。久しぶりだね…その、帰って来たよ。」


しどろもどろで話す砂流紋に対してあまりに突然な事に反応できなかった雲母と呼ばれたドラゴンだったが事の次第を理解するとその目に涙を浮かべると自らの首と砂流紋の首を絡め合った。


「砂流紋、貴方なのね。よく帰ってきてくれたわ。私はてっきり…」


「ああ、地龍王様にも言われたよ。でも、いろいろあって無事に帰ってこれたよ。詳しい話しは中でしようじゃないか。それにそこの小さい子が見ている。」


恥ずかし気な表情を浮かべながら砂流紋は幼いドラゴンを見た。

目が合った幼いドラゴンはさっと雲母の後ろに隠れてしまったがおずおずと顔だけを出して砂流紋を見つめた。


「ああ、貴方は初めて会うのよね。茶色の鱗の中にいろいろな色があるでしょだからアンダリュサイトと呼ぶの。そして、私と貴方の孫よ。」


「孫だって!?あの倅が所帯を持ったのか!いや、1000年もたてば子も親になるか…」


「ええ、貴方のお話も聞きたいし私も話したいことがいっぱいあるわ。これからアンダリュサイトと散歩に行くところだから一緒に行きましょう。」


「そうだな。まだ地龍王様の所にしか挨拶に行っていないし挨拶回りにもちょうどいいな。アンダリュサイト、さぁお爺ちゃんとも散歩に行こうな。」


3頭のドラゴンが郷を歩いていくと次々に砂流紋に気づいたドラゴンが声をかけていく。

1000年ぶりに帰ってきたドラゴンを労おうと大勢のドラゴンがやってきて郷はちょっとしたお祭り騒ぎになったのであった。


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