CM・修行僧展≪ある修行尼僧の手記より≫

『この町に住むことになったので日記を書くことにした。

初めの今回は振り返りと初心を忘れぬようにこの町に住む経緯を書こうと思う。


神が我々ニンゲンを見放して幾星霜。

多くの神職者が神の痕跡と赦しを求めて世界中を放浪している。

修行僧モンクの旅の目的はただ一つ、が宿る物や場所を探すものだ。

ある者は巨大な岩といったり、ある者は霊峰から見える朝日といったり、またある者は精巧に作られた武具に宿っていると言う者もいる。

1人1人答えが変わる物をこの世界で探し出すのというのは困難という言葉では表現できない程だ。

数十年放浪してもまだ見つけることが出来ない者も多く、過酷な旅でその命を失った者も星の数ほどいる。

また、神職者でない者がモンクを見てその過酷さ故に敬ってくれる者もいれば過去の神職者の横暴故に当たり前だと言う者もいる。


そのような現実の厳しさを知っていてなお私がモンクになったのは己の神を探したかったからだ。

家族も友人、知人皆が反対をしたが私はその反対を押し切ってモンクとなった。

モンクとして旅立つ認可を得た後は各地を巡り先日も私は公国北部にある荒地を放浪していた。

過酷な土地ほど己の神を見出すものが多いからだ。

だが、過酷な荒地に私は神を感じなかった。

ならばと極寒の帝国かと考え私はひたすら南下していた。

そんな折、街道を進んでいくと天候が怪しくなってきた。

野宿には慣れているものは雨天時は可能な限り避けたいと思っていると町に繋がる街道の分岐点に差し掛かった。

私はこれ幸いとその分岐点を曲がり町の方に向かっていった。


日も暮れ雨も降り始めたころちょうど町についたのだが運悪く宿は材木を仕入れに来たキャラバンでいっぱいになっており途方に暮れていた。

だが、捨てる神あれば拾う神ありというべきか領主の使いが領主の館に一泊させる代わりに旅の話をしてくれないかと持ち掛けてきた。

どうやらこの辺りにモンクが来るのは珍しく門兵の雑談が領主まで広がったらしくこのような事になったようだ。

この奇跡的なめぐり合わせを神に感謝して、私は領主一家にこれまでの旅の話をした。

聖国の栄光ある歴史的建造物や王国の地の果てまで続いていそうな大穀倉地帯、そして公国の過酷な荒野地帯。

領主一家は私の話しにたいそう喜ばれてわざわざ風呂まで用意して頂いた。

そして翌朝、奥方様が昨夜の話しの礼に家宝を見せてあげると私の前に現れた。

私としては十分持て成されたのだがそれでは気が済まないという事で家宝のある部屋に案内してくださった。

部屋の中にあったのは化粧台付きの三面鏡だった。

そして、その鏡を見た瞬間私は反射的に祈っていた。

差し込む朝日を跳ね返す見事な三面鏡に私はを見たからだ。


奥方様によると何代も前の領主が嫁いでくる当時の奥方の為に準備した三面鏡との事で私が鏡と思っている物は実際の所は鏡では無く磨き上げれた特殊な岩らしい。

当時は鏡というのは非常に高価で小領の一領主では立派な物な鏡を用意するのは難しかったらしくそれを懇意の商人に相談したらこの鏡の様に反射する岩を用意してくれたらしい。

そして重要なのは来歴よりもこの三面鏡の逸話だった。

日の光を反射しているとたまに美しい女性が映るそうだ。

更に言うと奥方様も何度か見かけたどころか相談に乗ってもらったことがあるらしい。

間違いなくこの鏡こそ私の神だ。

私はたまらず奥方様にこの町に住む許可を求めた。



追記、奥方様付きの護衛となり日課の三面鏡への祈りに向かうとそれぞれの鏡に美しい女神が映っていた。

女神が恐れ多くも私に声をかけていただいたのに喜びと感動と緊張でまともに声を出すことすらできなかった。

また、声を掛けられるかもしれないので今からどんな時でも声を出せるように修行しておこう。



・・・

・・


熱風街道開通500周年記念展示会。

修行尼僧の手記にも登場した三面鏡をはじめとした熱風街道と関わりあるモンクが見出した神宿る品々を学園都市国立展示会場で大公開。

カービン子爵領の三面鏡は初公開。』


「みんな~ご飯出来たわよ。」

「おかあさん。あのカガミみてみたい。」

「鏡ってあのCMの?なら次の休み皆で行ってみましょうか。」

「メガミさまにあえるかな?」

「いい子にしてたら会えるかもね。」


後日、この親子が鏡を覗いた時3面のうち1枚に見知らぬ美しい女性が映りこみ会場が騒然となるのだった。



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