ホテルの楽しみと言えば

ホテルでの楽しみというのはいろいろあると思うが俺個人としてはやはり食事だと思う。

なのでここホテルマキアスでは必要な素材は多少割高でも購入するようにしている。

なにせ富裕層がメインターゲットだから割高であってもちゃんと元が取れるしな。

むしろここの料理が美味しいと評判になるほうがコストパフォーマンス的に美味しいからな。

そんな思惑を含め俺は招待客ゲスト達をレストランエリアに案内した。

もちろん席はテーブル席ではなく鉄板を仕込んだ特製カウンター席だ。


「テーブル席ではなくカウンター席に案内するとは何を考えているんだ?イサナよ。」


「普段の皆さまはレストランに食べに行ってもテーブルでしょうから珍しい体験になると思いましてこちらに案内させていただきました。もちろんそれ以外にもいろいろ御座いますがまずは食事をお楽しみください。」


俺がそう言うとメイドたちが食前酒の蜂蜜酒ミードを個人の席に置いて行く。

もちろんながらお子様には蜂蜜で作ったジュースだ。


「おお、スッキリと飲みやすい酒ですな。」

「かなり上質な酒だな。かと言って葡萄酒でも無いな。」


「この酒は蜂蜜酒ミードになります。気に入られましたら案内がひと段落した後ここはバーとして準備させますのでその時にお楽しみください。もちろんこれ以外の酒もご用意しておりますので。」


「食前酒にミードとは豪勢ですな。」


ロダンさんの息子のアレクさんが驚きながらも味わって飲んでいる。

というのも蜂蜜酒ミードは結構高価な酒になる。

養蜂技術はあるにはあるが確立しているとはいいがたく安定供給出来ていない。

かと言って野生の蜂蜜をとろうにも山や森は人の領域外。

魔物や獣の危険性もあるしハチ自体が魔物だったりするから非常に危険だ。

だがうちは蜂蜜に関しては使い放題。

酒も造れるし砂糖変わりの調味料としても使えるので一味違った料理が作れるのだ。


食前酒の後は前菜、スープとパンの順に出てくる。

別段この国ではコース料理というのもないらしいのだが食べやすいかなと思うとどうしても元の世界と似たような順番になりがちだ。

そしてこの時注目を集めたのがだった。


「ここのパンは四角いですな。」

「確かに。それにふちが焼けているように見えますが表面は白い。焼いたのを切り分けたようですな。」


注目されたのは角形パン、俗に言う食パンだ。

もちろんこれにした理由もある。


「一般的なパンは丸く焼きますよね。そして大体1人分のサイズで用意しますよね。そうなるとオーブンのサイズによっては一度に数名分しか焼くことが出来ません。ただ今回のように長方形の大きなパンを焼くと切り分けることで数名分用に分けることが出来ます。ですのでホテルのように多くのお客様に提供する際には非常に楽なのです。それに切り分けることで小食の方やちょっと小腹が減った時のおやつにと調整もできます。」


「なるほど…パンの形など気にしたことも無かったな。」

「食べやすいサイズを調整できるのは良い事ですわね。私も偶にパンが大きいと思う事がありますので女性には人気が出るかも知れませんわ。」


そしてスープとパンが終わるとメインに移る。

今日はブルホーンという魔獣のステーキだ。

俺も何度か食べたことがある美味しい牛肉っぽいステーキだ。

そのステーキ用肉の塊が俺の目の前に置かれた。


「本日はブルホーンのステーキがメインになりますがここは少し趣向を凝らしまして皆様の食べたい大きさに切り分けたいと思っております。

自分がお手本になりますので真似してみてください。

肉も脂が多いのや少ないの等ご用意しておりますので気になる事がありましたら是非お声掛けください。」


俺が肉の種類や大きさを注文すると他の人たちも真似して注文してくれる。

そしてメインイベントはこれからだ。

各個人のサイズに切り分けられた肉の前にそれぞれ料理人が現れると寸分たがわず同じ動作で筋切りを行い、野菜を切る時はあえて少しずつテンポをずらしてトントントンと小気味よく切って行く。

これには目の前で料理を初めて見た宰相のお子様のファルク様とアルメア様は大興奮でほかの大人の招待客ゲスト達も喜んでくれている。

ドワーフの火酒を使ったフランベには拍手喝采だった。


そして完成したステーキを味わってる中話題はさっきのライブクッキングになる。


「いやはや先ほどの料理風景は素晴らしい物でしたな!まさか料理がショーになるとは考えたことすらなかったですね。」

「全くだ。それに自分で食べたいサイズを選べるというのが良い。自分の為の料理という特別感が出てきますな。」

「そうですね。それに息子と娘にも良い経験になったようです。料理というには目の前にあるのが当たり前、どのようにして出来るかなど考えたことも無いでしょうから。」

「おかあさま、おかあさま。わたし大きくなったら料理人になる!」

「ぼくも、ぼくも大きくなったら料理人になる!」

「これは考える以上に良きショーかも知れんな。城での宴会でも試してみるか?」


そうして盛り上がってる中料理は最後のデザートに移る。

今日のデザートはフレンチトーストだ。

これも目の前で焼いて行く事にする。

本来は別の所で焼いて出すつもりだったのだが目の前のでの料理があまりにも評判が良かったので急遽ここで作ることにした。


ボウルに牛乳と卵と蜂蜜をいれて乳液を作り食パンを好みのサイズに切り分けて浸す。


「まぁ、パンを使ったデザートなのですね。私初めてです。」

「パンを使ったデザートは余も思い浮かばんな。」


パンが乳液をしっかりと吸い込むと鉄板にバターを敷きそこにパンを置いて蓋をして蒸し焼きにする。


「ほぉ、バターを使うのですか。」

「この辺りではあまり使わんからなぁ。とはいえ熱されたバターがこれほど良き匂いを出すとは。」


蓋を開けると辺りにいい匂いがするがパンを引っ繰り返して直ぐに蓋をする。


「「いいにお~い、はやくたべたい!!」」

「料理が完成するのがこれほど待ち遠しくなるのは生まれて初めてかもしれんな。」


蓋を開けるとさっきよりも甘い匂いが辺りを満たし食欲を刺激する。

完成したフレンチトーストを皿の上にのせて各々前に出していく。

希望者には追い蜂蜜で甘みアップだ。


「どうぞ、本日のラストメニューのハニートーストです。お召し上がりください。」


「美味い、美味すぎる。まさかパンがデザートにまでなるとはな。イサナ、お前はデザート作りの天才だな。」

「女王陛下のおっしゃる通りですわ。イサナさんの登場で我が国のデザート文化は100年は進みましたわ。」

「「プリンも好きだけど、これも好き~」」


こうして食事会は大好評で幕を閉じた。

やはり美味い料理は世界が変わっても正義って事だな。

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