不思議な屋敷のホテル
招待客が皆ホテルに入ったのでまずは受付だ。
普通サイズの受付は左手の階段を上った上にあるので皆で向かう。
「商人、右側の階段の無いカウンターは一体なんだ?」
「あれは巨人種サイズ用の受付になります。どのようになるかお見せしますね。」
俺が合図をすると入り口から俺について来てくれたサイクロプスの2人が入ってきた。
普段はこのホテルで寝泊まりして朝になったら道路の敷設工事の手伝いに行くのだが招待客がいる間は彼らにはデモンストレーション役として働いてもらっている。
彼らそのまま右側のカウンターの受付を済ますと正面の扉を通って新館に入っていた。
これが巨人種の動線の基本になる。
「今の様に巨人種向けの平均サイズを考えるとあの様にカウンターだけをせり出しておいた方がいいのです。それにこのように階段で巨人達と分けた方がぶつかったりする事故も起きづらいのでカウンターを2か所に分けています。」
俺の言葉に大人たちは「なるほど」や「勉強になる」と言った感想を言うがお子様2人は初めて見るサイクロプスに興奮気味だった。
あのサイクロプス2人も実はそんなに歳が変わらないと言ったらもっと驚くんだろうな。
受付を終えると次はモデルルームに案内する。
ここで部屋の説明をするためだ。
「ここが一般サイズ向けの部屋になります。リビングにベッドルームが2つトイレとバスルームを設置しております。」
「なんと!イサナこの部屋は高層階にも関わらずトイレとバスルームまで用意しておるのか。」
「わざわざ下の階に降りてトイレに行ってまた戻ってくるなんて面倒な事をお客様にさせるわけにいかないからな。ちなみにおっきなお風呂のほうが良いなら1階に大浴場があるのでそちらを使ってほしい。ただ、そっちは他のお客も入ってくるから個人でゆっくりというときは部屋のお風呂がいいな。」
「イサナさん、お風呂の事も気になるが先ずはトイレの説明をしてくれないか。どのようにすれば高層階にトレイをつけれるのか知りたいんだ。」
「分かりました。では実物を見て回答しますね。」
ロダンさんの息子のアレクさんを筆頭にぐいぐい来るので前に説明した通りにトイレの説明を始める。
「貯水タンクか…その発想は無かったな。」
「トイレは高層階に作れないという固定概念がありましたものね。」
「水を作る魔道具は存在しているのだから応用すれば作れそうではあるな。学院に試作を頼んでみるか?」
「イサナくん、トイレの数は減らさず魔道具の数を減らすという方法はあるかな?」
「勿論ありますよ。屋根や屋上に大きな貯水槽を作るんです。そこから水が必要なところに配管を通していけばいいだけです。また、この方法はトイレだけではなくお風呂や台所などにも応用できます。ただ、デメリットも勿論あります。一つ目は建物中に配管を通すのでそれを考えた設計を最初にしないといけないこと。2つ目は配管が壊れた時に水漏れが起こる事、また配管を直す事を考えておかないといけないこと。3つ目は巨大な貯水槽を作るので景観が乱れる可能性がある事。4つ目はその貯水槽に見合った魔道具を用意しないといけないこと。トイレの数によっては魔道具の数は減らないどころか増える可能性があったり数は減っても魔道具を大型化する必要がありますね。当ホテルはそういったデメリットを鑑みて貯水槽式は採用してないです。」
「そこまで想定していたのは驚きを通り越してなんといえばいいか分からんな。とわいえ貴重な情報をありがとう。何かの参考にさせていただく。」
「宰相閣下気になさらないでください。答えられる事でしたらいくらでもお答えしますので。ただですね、当ホテル最大の売りはトイレやお風呂では無いのです。ご案内しますのでついて来てください。」
衛生問題は大事なことだけど俺が本気で力を入れたのはここじゃないから説明を切り上げてベッドルームに向かう。
そう、案内するのは主神すら飲み込んだ超最高級ベッドだ。
抗えるならば抗うがいい。
「当ホテル最大の売りはこちらのベッドでございます。どうぞ陛下、お疲れでしょうから一度横になってみてください。」
「貴様に陛下と呼ばれるとなんだか背筋がゾクゾクするな。だが、たかがベッドであろう何がどう違うのだ?」
疑問を口にしながらベッドに横になるレディア。
そして俺はその上にそっと掛け布団をかけて上げた。
ククク…罠にかかったな。
一度入れば最後次に目覚めるときは翌朝よ!
「…陛下?」
「無駄ですよギルドマスター。このベッドは我がオオイリ商店のお抱え職人たち技術と知識、そして集めれる最高の素材を使って作り上げた最高傑作。たたき起こさない限り次の陛下が目を覚ますのは翌朝でしょう。」
「ブラックカード保持者の最高傑作ですと!このベッドに一体幾らほどの価値が…」
「それはもう凄いですよ。正直に言いますとさっきのトイレやお風呂なんて目じゃないです。このベッドがあれば世界を征する自信がありますよ。」
「商人、貴様ベッド一台作り上げるのにいくらかけたのだ…」
「それについては自分の口からは言えません。このベッドにつきましては製法はもちろん材料も機能もありとあらゆる事が秘匿です。1つ言えることはサイズの違いはあれど当ホテルでは全てのベッドがこのベッドです。…流石に陛下をこのままにして置いたら内覧会が終わらないので起こしますね。」
何とかしてレディアを起こすがまだ目はトロンとしていた。
レディアがこんな眠たそうな眼をしてるのは初めて見るな。
荒地から学園都市に来るまで一切の隙を見せなかったのに。
「イサナよ、余は寝ていたのか?」
「それはもうぐっすりと。」
「そうか…認めようイサナよ。お前は余を討ち取ったのだ。」
「何を訳の分からん事を言ってるんだ。次の説明があるからほら立った立った。」
「眠って隙のを見せたという事は殺されていたと同義だ。だから、余はこのベッドから動かん。」
「子供かお前は!また夜に寝ればいいだろ。次の大型種向けの部屋に行くぞ。」
「このベッドを売ってくれるまでここから離れんぞ。」
「えぇ…このベッド売る気は無いんだけど…」
「貴様…なんたることを…余を弄んでおいて飽きたら捨てるのか!!」
「そんな人聞きの悪いことを言うな!今日泊まりに来てくれた人はどうせこのベッドにハマるのは想定内だから希望者分はプレゼントする予定だ。」
「おおぉ~ 流石イサナだ。余は信じておったぞ!礼に何が欲しい?何でも用意してやるぞ。貴様を崇める神殿でも作らせようか?」
「神殿なんかいるか!そんなもん貰ってどうするんだ!」
「ならば今晩一緒に寝るか?どうだ?」
「どうだじゃねぇ!とりあえず離れろ!今俺が求めてるのは順調に案内が進むことだよ!」
なんとかレディアを引きはがし距離をとる。
レディアはデカいし、パワーがあるから一苦労だぞ。
「ゼェゼェ…とりあえず以上が皆様の客室の案内になります。分からないことや人手が欲しい時はお部屋に用意しておりますベルをお使いください。こちらを鳴らされますと迅速に使用人がやってきますので。」
そういって試しに鳴らしてみるとすぐさまドアをノックする音が聞こえたのでドアを開けるとメイドが恭しく頭を下げていた。
ベルを鳴らすとすぐさまメイドがドアの前に現れるのだ。
これはもう屋敷そのものであるマキアスならではのスキルである。
ルームサービスもばっちり対応するのがホテルマキアスの売りなのだ。
次に来たのは大型種向けの部屋。
ラミアなどが来るようになってからあれこれと考え始めるのでは遅いので一つの指標として見せておくのだ。
「全体的に幅広ですね。」
「ヒト以上巨人以下のサイズ感となるとこのようになるのですね。」
「荒地でイスとかテーブル使わずに床の上に皿を置いていたのはラミアの事を考えると理にかなっていたのだな。」
「イスやテーブルを使わないのが野蛮ではなくその土地に住む種族的な観点から見た合理性という事でしょうな。」
「荒野の種族が来ると分かっていても事前の準備には我々が思いもつかない事を用意せねばならないのですな。」
家具や部屋の造りを見ただけですぐに理解できるのは流石としか言いようがない。
これが国のトップの為政者と商売を司ってる人たちなんだなと改めて認識させられる。
「自分もこの状態だけで全部が賄えるのかはわかりませんがとりあえず実際に聞きながら使っても苦にならないように気を付けてデザインしてます。かなり簡単に言いますが一番気を付けるべきはイスですね。テーブルはほとんど手を付けてませんがイスの場合は背もたれの無いタイプやあっても尻尾が通せるように背もたれの下部は開けておくを用意してます。またお気づきの様に座れるところは一般的なサイズよりも幅広にしております。」
「いやはやイサナくんの考えは勉強になる。この年でまだまだ多くの事を学べるのはありがたいことだ。」
「そう言っていただけると幸いです。こちらも学ぶべきことが多い若輩でありますので皆様には迷惑ばかりかけておりますので。」
そんなことを言っているとキュ~とかわいらしくおなかが鳴る音が聞こえた。
音の方見るとファルク君がお母さんのカタリーナさんの後ろに隠れていた。
「さて、良い時間ですし難しい話ばかりでお疲れでしょうから皆様を食堂にご案内致します。贅を凝らした料理とは参りませんが皆様には少しでも楽しめるように趣向を凝らしたお食事を提供いたしますよ。」
ここでの説明を終えて皆を食堂の方に案内する。
ホテルマキアスの料理がプリンだけで無いのを見せてやろう。
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