招待状とドワーフの逸品
フィリア様への案内から2週間。
家具作成から内装工事、食材の搬入まで終わりプレオープンの段取りが終わった。
名前もスチュワート邸から巨人の神マキア様にちなんで『ホテル・マキアス』に変りドワーフの神ドゥワーイン様からオープン祝いとして看板付きの白地に文字部分は青色の巨大な鉄扉をいただいた。
巨人サイズの鉄扉だからそのサイズは某恐竜パークの入り口並みだから初めて見た時は驚いたものだ。
設置にはわざわざマキア様とドゥワーイン様が来てくれて取り付けが終わるとガンドラダをはじめとする巨人種の職人たちは感涙にむせび泣いていた。
巨人種が堂々と他種族の地域で泊まれる場所を用意できたのが嬉しかったそうだ。
巨人種ということで生前にいろいろとあったらしい。
そんなこんなでこちらはいろいろと準備が済んだので俺は宰相の屋敷にやってきた。
毎日プリンを届ける度にまだか、まだかと急かす厄介なのがいるからだ。
…この世界に来た時に権力者に関わるのは避けようと思っていたのにどうしてこうなったのやら。
「どうしたイサナ。いつもはプリンを届けたらそそくさと帰るのに今日は部屋に入ってきて。」
「あ、そんなこと言っちゃうんだ。良い物持って来たのになぁ~」
俺はポケットから封筒を取り出すとレディアの見えるようにひらひらと振る。
和紙のような紙で出来た手紙はこの国では高級品の証だ。
この国でも紙は作られているがまだまだ質は悪く良質な紙は輸入製品らしくその紙がこの和紙っぽい紙だ。
と言うかまんま和紙なんだけどこれ、和紙といい着物といい輸入先の国がすごく気になります。
「イサナ、ホテルが完成したのか!」
「そういう事、はい招待状。連れてくる家族とかいれば事前に教えておいて欲しい。部屋数あんまりないんだわ。宰相閣下もよろしければご家族で参られてください。」
レディアと宰相に招待状を渡す。
レディアは満面の笑みで受け取って宰相は若干驚いた顔で受け取っていた。
用意してないと思ってたのかな、ちゃんとありますよ。
「部屋数は少ないと言うがどれほど用意しているのだ?」
「ヒトサイズだと家族向けに6部屋用意しております。あとはラミアなどの大型の部屋が8部屋、巨人サイズが4部屋ですね。あとはロダンさんを招待するつもりです。宰相閣下が連れていきたい方がおられましたら御用意致しますよ。」
「フム、ならば商人ギルドのギルドマスターに声をかけておこう。今後苦労するだろうから労いをかけて抱き込んでおく方がよい。」
「なるほど、その考えはありませんでした。では予備の招待状をお渡しします。」
「任されよう。陛下はどうなさいますか?」
「弟を呼ぼうかと思ったが流石に城を空にするわけにはいかぬから今回は無しだな。余が満足いく出来なら後日弟の世話を頼むぞ。」
「それに関してはタイミングがあえばと言う事で。じゃ、俺はロダンさんのとこに届けてくるのでそれでは。」
・・・
・・
・
「わざわざ招待状を持ってきてくれて感謝するよ。」
「いえいえ、ロダンさんにはお世話になってますので。」
「むしろ世話になってるのはこちらの方だよ。孫のダニエルも退学せずに済んだし君がギルドに提案した卸という仕入れ方法は画期的だった。商人が商人に売るというのは我が商会にも無い発想であった。あの動きで行商人達が活気づいて来ているのを知っていたかね?」
「商人ギルドが最近にぎやかだったのは知ってましたがそこまで知らなかったですね。」
「ホテルの工事で忙しかっただろうから仕方ないか。君は君のやりたいことをすればいい。これからの大きなうねりを君は作り上げたそれに対応するのが大人の仕事だ。」
「いつもありがとうございます。」
「ハッハッハ、気にすることじゃない。それと参加者だが息子夫婦と行かせて貰うよ。」
「分かりました。ではお待ちしております。」
俺は見た目こそ子供だけど元の世界では成人してたから子ども扱いされるのはちょっとこそばゆい感じではある。
でも、周りにちゃんと支えてくれる先人がいるのは非常に頼もしい事だ。
・
・・
・・・
マキアスに帰ってくるとなんだか騒がしい、何かあったのか。
「主様、お帰りなさいませ。皆様どうでしたか?」
「ただいまメイちゃん。やっと来たかって感じでみんな招待状を受け取ってくれたよ。なんだか騒がしいけど何かあったの?」
「ガンテツ様がやっと工房から出てきまして食堂でお酒を召し上がってます。それと作り上げたものがそれはもう立派な物で多くの方が見物に参られてます。」
おお、やっと出来たのか。
ガンテツは工事が始まった時ぐらいに身内から秘伝の技術を叩き込んでやるって言われて連れて行かれたんだったな。
工事間全然見なかったけどもしかして今までずっと工房にいたのか?
食堂に入ると不思議な光景が広がっていた。
酒と飯をガツガツ食ってるドワーフ2人と舞台の上に人だかりができていたからだ。
「
「ワシの秘伝を教えてやったのになんちゅう事を言う孫じゃ。そんな事を言う孫にはこうじゃ。」
言うやいなや老ドワーフはガンテツが飲んでた酒のジョッキを引っ手繰るとそのまま豪快に飲んでいった。
「あぁ!ワシの酒が!!爺さまといえど酒に手を出すとは許さんぞ!」
「のんびり飲んどる方が悪いんじゃ。イサナもそう思うじゃろ?」
「まぁまぁ、酒はいくらでもあるから。誰か新しい酒を持って来てくれ。」
子供のようなケンカする二人に俺は新しい酒を用意するように言うと。
メイドが酒の入った小樽を持ってふわふわとやってきた。
「長い間工房に籠ってたけどどんなものを作ってきたんだ?」
「総ミスリルのバトルアックスじゃ。そうじゃ、
「俺が名付けちゃっていいのか?」
「構わん、構わん。パッと見て思ったことを付けてくれ。」
「そうそう、孫がつけるよりも良いじゃろう。」
何も思い浮かばなかったらその時はその時という事でまずはガンテツの作り上げたバトルアックスを見に行くことにした。
いろいろな種族の職人たちが群がって見ていたのだが俺が近づいたら皆道を開けてくれた。
飾り台に立て掛けられてるバトルアックスは飾り気の無い柄の左右に丸みを帯びた刃が付いており、柄から刃の先まで全てミスリルで作られているので一切の陰り無く舞台の照明を浴びて僅かに青みを帯びながら白く輝いていた。
【目利き】を使わなくてもすぐに解った。
これはまごう事無き逸品でドワーフの至宝になるだろう。
「どうだ、義兄弟。良い名前は思いついたかの?」
「…こいつの銘は【蒼天の月】だ。」
「蒼天の月、か…詩的で良い名前じゃな。」
「うむ、ワシらドワーフでは思い浮かばぬ名前じゃな。」
このバトルアックスを見て青空の中に浮かぶ白い月が勝手に思い浮かんだ。
そしたら勝手に名付けていた。
俺自体驚いたことだけど結局こういう直感的な物が大事なのかもしれない。
何はともあれ今日の仕事はお終いだ、もうしばらくこのドワーフの至宝を眺めさせてもらおう。
◆◆◆
【蒼天の月】
・製造は約500年ほど前、当時のドワーフの酋長であるガンテツが作成したバトルアックス。
・見た目はドワーフらしい飾り気の無いシンプルな造りではあるが総ミスリルで作られたそれはドワーフの最高傑作とも呼ばれる事さえある逸品。
・見た目の美しさとは裏腹に実用的な面も兼ねそろえており戦の折にはガンテツ自ら蒼天の月を振るい敵の魔術障壁を断ち切った逸話はあまりにも有名。
・銘はガンテツが義兄弟と呼び合うほど仲が良かったオオイリ イサナが名付けた。
『世界宝物名鑑』より抜粋
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