新・スチュワート邸 前編

スチュワート邸の修理が終わり新館の工事を始めて約3カ月。

合わせて5カ月の期間で家具や調度品の運び込みは残っているもの建物としての工事が完成した。

元の世界と比べても負けてない程の速さで建ちあがったなと思う。

それも職人たちが独自にシフトを決めて朝も昼も関係なく建築工事を行ったのが理由だ。

俺が寝て起きたら壁が立ってるを初めて見たときは一夜城かと思ったほどだ。

それにこれが出来たのもスチュワート邸本人(本邸?)の協力がかなり大きい。

付喪神もしくは精霊化したスチュワート邸は修理工事の時から職人たちの炊事、洗濯、お風呂の準備まであらゆる事で支えてきた。

交代で多くの職人の世話をしながら俺とホテル化に向けていろいろと試していたのにそれを難なくこなせたスチュワート邸の底力には頭が上がらない。

そんなこんなで建ちあがった新・スチュワート邸に今日はヴィオラとメイちゃんに案内する名目でやってきたのだ。

俺はパパスやほかの職人たちとの打ち合わせや現地のすり合わせのために何度も工事中に中に入っていたのだが彼女たちは完成を楽しみにしていると言って中には入らなかったのだ。


「新スチュワート邸案内ツアー出発しますよぉ。」


「「「はーい」」」


帰ってくるのは3つ分の返事。

ヴィオラとメイちゃんとグランフィリア様の分だ。

2人を案内するために入る事を伝えたらそれが巡り巡ってグランフィリア様まで伝わり急遽特別ゲストとして参加することになったのだ。

2人には何とかして慣れてもらいたいものだ。


スチュワート邸の本館は3階、新館は5階建てとなっていて本館はレストランエリアや大浴場、洗濯場などの施設系を詰め込んでいて新館の方は客室になっている。

それに3階や5階と言うものの巨人向けに1階と2階は要所要所で吹き抜けになっていたりぶち抜いているのが特徴だ。


「ここが本館入り口エントランスホールでございます。ホテルにお泊りのお客様は2階の受付にどうぞ。」


お手製の小さな旗を振りながら3人(2人と1柱)に対して案内をする。

中央はサイクロプスが通りやすいように広く作られており正面からみて左に階段があってそちらが一般的な人サイズ用の受付かカウンター、右側には一階からの階段が無い巨人サイズ向けの受付となっている。


「主様、片方の受付には階段がありますが片方はありませんよ?」


「ああ、もちろん考えての事だよ。右側は巨人種向けカウンターだから上階に上がる必要がない用に彼らの高さに合わせているんだ。それに受付が複数あっても片方にしか階段がないから巨人種以外は迷うことなく受付に行けるんだよ。」


「確かに受付が2つあってもそこまでの道が無ければ普通は向かわないからね。階段1つつけるにしてもそこまで考える必要があるんだね。」


知らない人から見たら歪な形に見えるかもしれないがガンドラダをはじめとした巨人種の職人にいろいろと聞きながらあれやこれやと改良を加えていったおかげでかなり使いやすくホテルになったのではないかと自画自賛ながら思っている。


「これが巨人たちの目線の高さですね。ここから見ても天井まで余裕があるので気にすることなく過ごせそうですね。」


いつの間にかグランフィリア様は巨人用受付カウンターに立って周りを見渡していた。

いつの間にあんなところに⁉というかどうやってあそこまで上がったんだ⁉


「フィリア様カウンターの上は危ないですよ。案内を受けますので待っててください。」


「ふふ、大丈夫ですよイサナさん。私にとって物理的な法則はあってないようなものですから。」


そう言うとフィリア様はカウンターの外に向けて進むと一段一段しっかりと歩いて降りてきた。


「…魔法ってすげぇな。」

「主、あれは魔法が凄いのじゃなくてグランフィリア様が凄いのだよ…」


呆気にとられる俺たちの前に降りてきたフィリア様は少し恥ずかし気に、


「イサナさん達にご心配をかけてしまったようですね。なかなかこちらの世界に降りてこれなくてつい浮かれてしまいました。」


と、少し顔を赤くして言った。


クッソカワイイな、この主神女神!!


「ゴホン。フィリア様が大丈夫なら問題無いです。次は入って右手のレストランエリアに行きますよ。」


一階からレストランエリアに行くとそこは不思議の国の様相を呈している。

自分たちより大きなサイズの机や椅子がたくさん置いてあるのだから自分が小人になったのではと錯覚してしまうのは無理はないだろう。


「俺たちサイズは2階の受付から3階上がってレストランエリアに向かうんだけど今日はお披露目なので巨人サイズレストランエリアをご案内。」


「まるで机や椅子の森だ。幼い子供の時でもここまでの差は感じなかっただろうね。」


「本当に大きな机ですね。ダンスも踊れるのではないですか。」


机は大体サイクロプスが4人掛けで使えるように作った丸テーブルだ。

フィリア様の言った通り1人なら踊れるぐらいのサイズはあるだろう。


「踊れるぐらいのサイズはあるでしょうか踊りたいなら正面をご注目ください。なんとこのレストランエリア、ステージを付けております。」


レストランエリア正面の2階部分にステージを作っている。

巨人から見た場合は正面からで3階から見たら見下ろし席のような造りになるように設計しているのだ。

この造りにするためにパパスが音の響きや照明の角度、巨人が使っても問題ない様に荷重確認などありとあらゆる計算を組み込んで設計してくれたのだ。

彼がこのステージの設計図を持って来た時の焦燥しきった顔は今でも度々職人たちの話のタネになっている。


「なんと立派な舞台なのでしょうか!メイはこのような舞台初めて見ます!」


「確かにボクもこんな立派なステージは初めて見るね。貴族達なら見たことあるかも知れないけど一般人はお目にかかれない代物だね。」


「なるほど…せっかくだから舞台に上がってみるか。」


メイちゃんやヴィオラが見たことすらないレベルらしいのでせっかくなのでみんなでステージに上がってみることにした。

ステージに上って緞帳を上げてもらい照明をつけてもらうと眩い照明のおかげでレストランエリア側は独特な暗闇を帯びる。

これからこのステージでどのような劇や歌が披露されるか分からないが多くの種族を楽しませていってくれるだろう。


俺たちは次に一般サイズの人向けの3階のレストランエリアにやってきた。

ここでは見慣れたサイズの机や椅子なのでちょっとほっとする。


「あら、ここのレストランエリアにはカウンターがあるのですね。」


「ええ、フィリア様の言う通りここにはカウンターが用意してます。それにただのカウンターではないんですよ。」


皆をカウンターに案内して席についてもらうとカウンターの中にいるシェフがカウンターについている蓋を外しとそこには鉄板が仕込まれているのである。


「なぜカウンターに鉄板がついているのかな?」


「宿泊するのって基本的に富裕層だろ?そういった子供達って料理を作っている所を見たこと無いんじゃないかって思ってさ。だったらショーのように目の前で作ってあげたら喜ぶんじゃないかなって。」


元の世界で言うライブクッキングだ。

料理なんて見慣れているものだけどプロが目の前で作ってくれるとかなり楽しいし美味しいからいい事づくめだ。

という事でここで休憩を兼ねてお食事タイム。

今日は目の前の鉄板でサイコロステーキ(荒野の巨大トカゲ肉)になります。

シェフ数名がカッカッカと小気味よく包丁で素材を切っていき塩コショウで下味をつけて鉄板に投入。

ジューといい音と匂いが広がる中金属ヘラで焦げすぎないように肉を動かしていく。

もうすぐできるってとこで取り出したのはドワーフの火酒。

それを絶妙な位置から振りかけると揮発したアルコールが派手な炎を上げる。

これにはフィリア様も驚いたようで可愛い悲鳴を上げてくれた。

そして最後に俺たちの前にステーキが並べられて完成だ。


「イサナさん、イサナさん最後の炎は何ですか⁉油でもかけたのですか⁉」


興奮冷めやらぬフィリア様が俺に聞いてきたが他の2人も正体を知りたそうに俺を見つめている。


「最後の炎はフランベでと呼ばれる技法でして酒精アルコールが高い酒を適量火に入れるとあの様に一瞬だけ燃えるのです。ああやって燃やすことで酒精アルコールは消えますけど酒の香りなどが料理につくので風味豊かになるのです。」


「なるほど…あれがフランベですか。知識としては知っていましたが実際に目の前で見ると驚きますね。」


フィリア様は知っていたようだが流石にほかの2人は知らなかったようだ。

スチュワート邸のシェフ達も知らなかったようだし知らなくても当然だけどな。

そもそもフランベ出来そうなほど酒精アルコールが高い酒が少ないから生まれるはずも無い技術だったかもしれない。


この後俺たちはサイコロステーキとふかふかのパンにデザートのプリンを美味しくいただいた。

ここで一休みしたら次の場所に向かうとしようかな。

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