ふるえるお土産

ルージュ・ビーの聖域を作った翌朝。

目の前には俺の顔と同じぐらいの大きさのツボいっぱいに入ったハチミツが届けられた。

まだ巣の中が整ってないので量も少なく質も今一ですが初の収穫分なので献上致します、とルージュ・ビーの女王が語っていたとはホーヨー様の談。

一口味見させてもらうが少なくとも前の世界で味わったハチミツとそん色ないぐらい美味しい。

巣が整えば一日に水がめ1つぐらいの量と花の香りがする様なハチミツが取れるともホーヨー様が言っていた。

ちなみにそのホーヨー様はルージュ・ビーの手伝いをしてくると言ってハチミツを持ってきてくれた後すぐにルージュ・ビーの所に戻っていった。

これがもっと美味しくなっていくとはルージュ・ビー恐るべしとしか言いようがない。


「このハチミツが毎日のように届くのか…主といると価値観が壊れていくね。」


「甘いハチミツがいっぱいです。これでお菓子を作れますね。」


呆れている様なヴィオラと嬉しそうにしているメイちゃん。

今回に関しては俺関係ないよね?

ただお土産貰っただけだから無罪だよね⁉


「ハチミツの歴史は人類の歴史って言われるぐらいだからお菓子どころかそれ以上に美味しい物を作れるぞ。」


「そんな格言は聞いたこと無いけど元の世界の言葉かい?」


「こっちには無いのか。とはいえハチミツを押さえるというのは世界を抑えることに近いと俺は思ってるぞ。」


この世界において養蜂に限らず養殖技術はまだまだ発展途上、もしくは養殖という概念すらないかもしれないと言ったところだ。

そもそも養殖を行う以前にヒトが食べる食料が少ないのだ、余剰食糧が無ければほかの生き物を育てるという余裕が無いのは当たり前だ。

とは言え畜産物を全く飼っていないのかと言えばそういう事でもないらしい。

公国においてはニワトリ、ウシ、ウマあたりは飼われている。

ウシやウマは農耕の助けや軍事利用として育てられておりニワトリはすこし豊かな農家が少しでも食糧や収入を増やすために家の軒先で育てている程度で余った卵を近くの町に持っていく程しか市場には出てこない。

それにこの世界には大量かつ魔獣が多くいるのも原因のようだ。

元の世界のような放牧なんてしたらそういった魔獣達を呼びかねない。

ただ、ヒトもやられっ放しではないので定期的に魔獣の討伐がありその度に多くの肉が手に入るのだ。

なので意外と市場には肉が出回っているので肉を得るために養殖を行うという考えはなかなか生まれないのかもしれない。

ちなみに一般的な獣と魔獣の違いは魔力を帯びてるかどうからしいが見ただけではわからずに飼ってたニワトリを捌いてみたらちっちゃな魔石が出てきたなんてこともあるらしくかなりあいまいな違いらしい。

なので一般的には野生の獣=魔獣なんだとか。


「それで主様はハチミツを使ってどのようなお菓子を作られるのですか!?」


「俺は料理人じゃないので手の込んだお菓子は作れない。なので卵とハチミツを使った簡単なお菓子をスチュワート邸に作ってもらっている。」


「卵とハチミツとはなかなか豪華じゃないか。でもその二つで簡単に作れるお菓子なんてあるのかい?」


「あるある、プリンと言って卵と水とハチミツを混ぜて蒸すと出来るお菓子なんだ。ほんとは水の代わりに牛乳を使いたかったんだけどこの辺りでは売ってないらしいから水で妥協した。あとは砂糖を煮詰めて作ったソースをかけて食べるのさ。俺の大好物だぞ。」


甘味の少ないこの世界においてプリンを作るのがどれだけ大変だったか…

卵はそこそこ高いし砂糖はべらぼうに高いし、蒸すにしても水を確保するのも一苦労だし火をつける薪の準備もいるし…

その点今回は最高の状態だった。

なにせ一番高いハチミツは自前で用意できるようになったし、卵も高いとはいえ金持ち相手に売るのが前提なので材料費は気にする必要無し、カラメルソースに使う砂糖の代金はオプション料金として取る予定だ。

水に関してはこのスチュワート邸の地下に水脈があるので豊富だし火もスチュワート邸の魔法でちょちょいのちょいだ。

しかもスチュワート邸は過去に働いていたヒトの技術なんかを再現できるので料理人は貴族あいてに料理を作っていたプロ中のプロだ。

いやはや、最高だな異世界!!


「また、主がいやらしい笑いをしているよ…」


ハッハッハッハッハ…気分が良いから多少の暴言も許してやろう。


………

……


プリンを試作した翌日。

俺はお土産を持って宰相の屋敷に向かっていた。

とりあえずレディアと宰相に認められたら問題無く売り出せるだろうから。

ちなみに昨日は凄かった。

初めてプリンを食べた2人だったが特にメイちゃんがハマった。

俺が1個食べ終わる前に5~6個は食べてそのまま厨房に余ってるプリンを求めて突撃。

残ってなかったのでその時はしょぼくれながら去っていったが時間を見ては厨房を覗いていた。

今日の朝もお土産用にプリンを作ってもらっていた所をずっとを覗いていてヴィオラに回収されていった。

いままでずっと良い子だったメイちゃんの初めて子供らしいところを見たかもしれないな。


そして宰相の館に到着。

執事の人にお土産を渡すと書斎のほうに案内された。


「久しいなイサナ。今日はどのような土産で余を楽しませてくれるのだ?」


部屋の中央にはまるで自分が屋敷の主人であるかのように振る舞うレディアが出迎えてくれた。

本来の主人である宰相は横の机に座っていた。


「今日はホテルで売り出す予定のお菓子の試供品を持ってきたんだ。貴族の好みが分からないから感想を聞きたくてな。」


「ほう…菓子か。こう見えても余は菓子には煩いぞ。余が満足する菓子ならば王室御用達を許可してやろう。」


「いや、王室御用達はどっちでもいいんだけど…とりあえずお菓子はこのプリンな。好みでこのカラメルソースをかけてくれ少しほろ苦くて甘いソースだ。」


プリンの説明をしてレディアと宰相にプリンとカラメルソースが入った容器を渡す。

レディアはそのまま一口味わうと次にカラメルソースをかけて一口。

そして残った分をそのままかきこんだ!!

いやいやいや、それプリンの食い方じゃないでしょ!

それにこのプリン小さい器が無かったから500グラムぐらいはあるビッグサイズだぞ。


「ジェームズ、「お断りします。」…」


レディアが宰相の名前を呼ぶが宰相は間髪入れずに拒否したので部屋に沈黙が走る。

名前を呼ばれた宰相は我関せずとカラメルソースをたっぷりかけてプリンを味わっていた。


「…イサナ」


レディアに呼ばれてハッとすると目の前に革袋が飛んできたの慌ててキャッチする。

うお、重た!!

何が入ってるんだこれ。


「それが余が今出せる全財産だ。それで今持ってるプリンを全部寄越せ!!」


革袋を開けると中には金貨がぎっしり入っていた、そりゃ重いわけだ。

って、そうじゃなくて…


「今日はもう残ってないよ。あとは宰相家の皆さんにって執事さんに渡しちゃったし。」


俺の言葉に固まるレディア。

正直そこまでハマるとは思ってなかったんだよ。


「む、それは感謝するぞ商人。これほどの美味だ皆喜ぶ。」


「宰相閣下にはお世話になってますのでこれぐらいしますよ。あと、器も何種類かあるのでどのデザインがいいか選んでいただければありがたいです。」


「相変わらず抜け目の無い奴だ。まぁ、それぐらいはしておこう。」


俺と宰相が談笑をしていると固まっていたレディアがやっと動き出した。

その顔は俺が見たこともないような絶望の表情を浮かべているが…


「イサナ、貴様は酷い奴だ…これほど余の気持ちを弄ぶとは…」


「え、え~俺が悪いのか、それ?」


「ジェームズ!今日の仕事は終わりだ。このままイサナの所に行くぞ!!」


「まてまて!まだ工事中だからダメだって!」


この後宰相と一緒に全力でなだめた結果、毎日プリンを届ける事で決着がついたのだった。







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