とろけるお土産

工事が始まり早2カ月。

順調どころか凄まじい速さで進んでいきスチュワート邸の修繕及び改築は終了し次はメインとなる新館の工事に取り掛かっている。

商人ギルドが卸業者として動き始めたおかげで俺の食糧を仕入れる時間が短縮されたのでホテルの目玉となる商品の開発に取り掛かっていた。


「ホテルと言うのはハイグレードな食事と住み心地が必須だと考えてる。住に関しては職人たちが作ってる最中なので俺たちは食事を考えたいんだがこれが良いっていうのはあるか。」


「はい!メイは甘いお菓子がいいと思います。」


「お菓子か。それは良いね。ボクも美味しい甘味が味わえるなら文句は無いよ。」


お菓子かぁ…


この国では砂糖は高価な品だ、なにせこの国では北部の暑い地域で僅かに育てている程度でほとんどが輸入に頼っている。

また精練の技術もまだまだで白くなれば成る程高くなっていくのが現状だ。

このホテルは荒野の連中以外には貴族などの富裕層向けになる予定なので少々高くとも問題ないが安定供給出来るかが問題である。


「なら、目玉となるお菓子、甘味の開発をしようか。問題は砂糖の安定供給だがどうしたもんかな…」


3人で相談しあっているとドアをノックする音とメイドさんが俺に対して客が来たことを知らせてくれたので部屋に招き入れる。

メイドさんと一緒に入ってきたのは俺と同じ背ぐらいの女性だった。

後から聞いた話だがホビットと呼ばれる種族で大人でもニンゲンの子供ぐらいの大きさらしい。

そんな彼女は自分の顔より大きい縞模様の木製っぽいボールと共に入ってきた。


「お目にかかれて光栄です!私は豊穣神様に使える霊神のホーヨーです。本日は日々忙しい皆さんに差し入れをお持ちしました。」


「光栄なのはむしろコチラのほうです。わざわざ神様が差し入れをお持ちに成らなくとも言っていただければ取りに伺いましたのに。」


「お気になさらないでください!私がイサナさんにお会いしたかっただけのですので。あの、よろしければ握手とサインをいただけないでしょうか?」


「え!?あぁ、まぁそれぐらいでしたら構いませんが。」


俺はよく分からないまま言われるままに握手をして差し出された色紙にサインをした。

なんか有名人になった気がして気恥ずかしいな!


「あぁ、話がそれてしまいまして申し訳ございません。差し入れですがメイドさんに話して準備をしていただいておりますので是非お召し上がりください。」


いつの間にかメイドさんが準備をしてくれていたゴブレットの中には甘い香りのする赤みがかった金色の液体が入っていた。

一口飲んでみると花のような香りと久々に味わった強い甘味を感じた。


「これってもしかしてハチミツ?」


「はい!ルージュ・ビーと呼ばれるハチのハチミツです。私はハチを育てる技術を認められて霊神に昇格したのです。ですので差し入れにハチミツといつでも味わえるように蜂の巣を持ってきました!」


そう言って持っていた木製のボールを高々と掲げるホーヨー様。


「もしかしてそのボール、ボールじゃなくて蜂の巣なの?」


「はい!今は特別な花の蜜を与えて眠ってますがすぐに起こせますよ。起こしますか?」


「いやいや、起こさなくて大丈夫です。」


お土産の蜂の巣(中身入り)ってやべーな、異世界怖い、いや神様怖いというべきなのか?


「主様、ハチミツがあれば美味しいお菓子を作れるのではありませんか!?」


俺がお土産にいろんな意味でショックを受けているとメイちゃんが素晴らしい発想をしてくれた。

確かにハチミツなら砂糖の代役は出来るな。

砂糖が無ければハチミツを食べればいいのよってな。


「それならここより西にいい感じの平原がありましたよ。そこにハチの家を用意すれば育てれると思います!」


ハチ育てのプロというか神のお墨付きの土地があるみたいなので向かってみるかうまくいけば儲け物だな。


・・・

・・


そうして馬車で移動すること数分。

スチュワート邸のすぐそばのちょっとした丘の上に俺たちは来ていた。

ここにハチの家を並べたら豊穣神のパワーで周辺を花畑にするらしい。

そんなことに豊穣神の力を使っていいのか聞いたら問題無い、むしろもっと頼ってくれって言われてしまった。

異世界の神様はやっぱりやべーな。


「ハチの家ですがどのようなタイプが良いでしょうかね。ここは無難に箱型ですかね。」


「ホーヨー様。ハチの家は俺に任せてくれませんか。いいのがありますので。」


俺は精霊アールヴの宿を発動させる杖を見せた。

ホーヨー様も杖を見ると異論はなかったようで親指を上げてオーケーサインをくれた。

ハチの家を作るのは問題無いけどこれからかなりお世話になるだろうしいい感じの住処のほうがいいよな。

杖を地面に充ててぐるっと大きな円を描いた。

直径だと俺が俺を両手を真横に上げて5人分ぐらいはあるだろうか、そしてその中央にでかでかと『ルージュ・ビーの聖域』と書いた。

最後の字を書き終えると体から一気に力を抜かれた感覚が来て膝をつくとそこには小さな芽が出ていた。

駆け寄ってきたヴィオラが俺を脇に挟むように抱きかかえて回収すると先ほどまで小さな芽だったものが大地を揺らしながらみるみるうちに大木に代わっていく。

何もなかったはずの丘にもともとあったかのような見事が巨木が現れ、モミジのような色合いの葉が風を受けて揺れていた。


「あの、イサナさん?あなたは一体何を作り上げたのですか?」


「ええっと…少しでもルージュ・ビーがハチミツをいっぱい作ってもらえるようにルージュ・ビーの聖域って書いたらこんな事になりました。ところでヴィオラは俺が倒れそうになったのが分かったのか?」


わきに抱えられているままそう答えるとヴィオラがため息混じりに教えてくれた。


「主が精霊アールヴの宿を発動させた瞬間すごい量の妖精が主に群がったんだよ。魔術の為に妖精がちょっとずつ主の魔力をとっていったのだけどもの凄い量だったからその分消費した魔力ももの凄い事になって膝をつく羽目になったんだよ。」


「そうだったのか。ありがとうなヴィオラ。もう動けるから降ろしてくれ。」


「これ以上主が勝手な事をしないようにここにいる間はこのままだよ。それにしても主の魔力量って凄かったんだね。あの量の魔力を妖精に分け与えたら普通は気絶するよ。」


お、おう…流石にこのままは恥ずかしいんだけど…

助けを求めてメイちゃんに視線を向けるがメイちゃんはサッと視線を外してしまった。

セキトのほうを見ると我関せずって感じに木のほうを見ていた、馬の視界だと絶対俺の事見えてるだろうに。

ホーヨー様は俺の事は気にせず木を上から下まで見たり周りを回ったりと調査していたのだがちょうど蜂の巣が入りそうなうろを見つけそこに蜂の巣を突っ込んむと蜂の巣を受け入れた木は一度輝くと鮮やかな赤い花をこれでもかと咲き誇らせた。

そりゃ、一瞬で巨木になれば一瞬で花も咲くわな…

唖然としているとホーヨー様がこっちに戻ってきた、隣に子供の頭ぐらいはあるハチを連れて。


「イサナさん、イサナさん!この子が蜂の巣にいた女王蜂です。賢い子なので名前を付けてあげてください。」


「じゃぁ、この子はアピスで。今度からハチミツを貰いに来るけど大丈夫かな?」


アピスと名付けた女王蜂は犬や猫がやるように顔を足に擦り付けると木に帰っていった。

そして木の洞にはいると小さな働きバチが一斉に飛び立ち赤く咲き誇っている花の中に入っていく。

どれだけ時間がかかるかわからないがこれから沢山のハチミツを作っていってくれるだろう。


「いやぁ~これでイサナさんも立派なテイマーですね。ホテルが出来上がるまでに名付けが終わるか心配でしたが杞憂でしたね。」


「ハチに名前を付けただけでテイマーになるんですか?」


「普通のハチならテイマーにはなりませんがルージュ・ビーはれっきとした魔虫ですからね。それにあの聖域に入った為か女王蜂は突然変異してましたよ。そんなルージュ・ビーが目を合わせただけで主人と認めるなんて流石はイサナさんですね。」


「え?あのハチって普通のハチじゃないんです?」


「ルージュ・ビーは結構高位の魔虫だよ。ボクも冒険者時代に森で見たことがあるけどその時はキラーグリズリー焼き殺していたよ。こちらが何もしなければ襲ってこないし一匹だけならなんともないけど危険を感じれば群れになって襲ってきて針で刺す代わりに火の魔法を放つしこちらが反撃しようとしても小さいから当たりにくい上に範囲魔法を使っても防御魔法で防ぐかなりの難敵だよ。紅い災厄って通称が付くぐらい強力な相手だね。そのルージュ・ビーのハチミツを取り放題になるなんて流石は主だね。」


ホーヨー様はキラキラした目で見てくるしヴィオラはニヤニヤしながら見てくるしこの差は一体なんなのか…

何はともあれ甘味の定期的な取得先になったからヨシとしよう!

ヨシとして…いいよね…

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