各々の動き・その4(サイクロプス編)

スチュワート邸の工事が進んでいく中、サイクロプスの2人はストンズ子爵が率いる石畳の敷設工事を手伝っていた。

もともとサイクロプスの一族は荒野の管理を行っている種族である。

荒野の入り口であるガンドラダ要塞で荒野に歪悪イービルが入ってこないように、または出ていかないように監視をしたりひたすら広い荒野で迷わないように彼らが建てた彫像を建てたりみんなが大好き『カクタ酒』をつくるサボテンに似たカックタスという植物を植えたりと縁の下の力持ちとして荒野を支えてきた。

性格は血の気の多い種族が多い荒野に住む中では珍しく温厚で自分たちが非常に巨体だということを自覚しているということもあり積極的に他種族と関わってこなかった。

そういった種族である為に彼らを知る者は極々一部だけであった。

なので、単眼の巨人と言う見た目はよく知らない人達から見れば恐怖の対象である。

そしてそれと同時に未知の大きくて強いモノは崇拝の対象ともなりえるのが人の性でもある。

ようするに今の彼らは賊や工事にイチャモンをつけたがる者を遠ざける近寄りがたい恐怖の化身であり工事の主力であり作業員たちを守る守護者として一躍人気者となっていた。


「お二人さん、ご飯だぞぉ~」


「は~い」

「今いくだぁ~」


工事を手伝いだして数日で作業員は彼らのパワーに惚れ込み、監視役のストンズ家の家臣は遅れていた工期が縮まりつつある事で彼らをすぐに受け入れた。

もちろんその陰にはイサナも関わっている。

サイクロプスの2人が手伝いたいと言ったので彼らが逆に疎まれる存在になれば荒野との関係が悪化する可能性もある。

なので神界工房の職人に頼み込んで彼ら用の作業道具に彼らの食事ように大鍋や調理器具に食器、そして食材などをストンズ家に話を通して渡している。

ストンズ家としてはイサナが自前で用意してくれるので文句は無い。

それどころかイサナが持つ反則的な人脈が荒野の面々が工事を協力する用になった。どこからか聞きつけた公国一の商会の実質的なトップや国の政務を行っているトップの1番と2番が支援を行うという噂が立ち、当主代行を務めるストンズ夫人に追い風となった。

まぁ、そんな政治的な話はサイクロプスの2人に関係なく彼らは今日もひたすら道を掘り続ける。


サイクロプスがクワを振り下ろし街道を掘りニンゲンの作業員がそこに石を隙間がないように敷き詰めていき最後にもう一人のサイクロプスが巨大な木づちで押し固めていく。

そうしたサイクルで今日も順調に石畳が延ばされていく。


「いやはや、ほんとに二人が来てくれて助かってるよ。俺たちは領地で石工として働いていたから穴掘りは専門外でなっかなか進まなくて困ってたんだよ。」


「そうだったかぁ。おで達は荒野に彫像を設置したりすることもあるから結構なれてるだぁよ。荒野に比べてこの辺りの土は柔らかいだぁよ。」

「んだんだぁ。荒野の土は場所によっては岩みたいに硬くて全然掘れないだぁよ。ここはすんなり惚れて気持ちいいだぁ。」


「そういや、あんたらは男女で来とるが夫婦なのかい?」


「違うだぁよ。おで達は兄妹だぁ。」


「そうだったか。そういえばサイクロプスには個人の名前が無いって聞いたけどほんとかい?」


「大人になったら名前が貰えるだぁよ。だから今は名前はないだぁ。周りからは大神官の孫や孫娘って呼ばれてただぁよ。」

「サイクロプスは子供が少ないからどこそこの子っていえば皆に通じるだぁ。むしろこっちに来て皆に名前があるって聞いて驚いたぐらいだぁよ。」


「なるほどなぁ。でも不思議な話しだよなぁ。不便じゃないのか。」

「いやいや、俺たちだって似たような事してるだろうよ。お前だってよく料理屋の倅って呼ばれてただろう、それと一緒だ。」

「ああ、確かに!なんだ、あんまり俺らと変わんねぇな。」


「んだんだぁ。イサナ店長も『見た目は変わってもヒトだからなんだかんだで考えてる根っこは同じだ』って言ってただぁよ。」


「イサナ店長って言ったらたまに迎えに来るあの子供店長か。この工事もあの店長が領主様に話したのが切っ掛けだって家来の方が言ってたぞ。」

「それは俺も聞いたぞ。俺なんてあれぐらいの年の頃って言ったらつまみ食いとかしてかあちゃんに怒られてばっかりだったぞ。」

「俺もそんなもんだ。うちの坊主もあれぐらい賢かったら俺は楽できるのになぁ…」

「いやいや、お前の坊主が賢かったら絶対お前の子じゃないって。」

「「「「ワッハッハッハ…」」」」


「お~い、休憩は終わりだぁ!作業に戻れ~~」


監視役の言葉にサイクロプス含めみんなが作業に戻っていく。

そして日が傾くまで作業が続けられた。


・・・

・・


「今日の作業は終わりだ。また明日も同じ時間に集まって今日の続きからやるぞ。では、解散」


ニンゲンの作業員が離れていく中、サイクロプスの2人は別方向に歩いて行った。

そこには以前までイサナが使っていた馬車があり今は改造されてサイクロプス用の荷車に改造されていた。

そこに荷物を積み込んでいるとセキトに乗ったイサナが迎えにやってきた。


「お疲れ様。今日も大変だったろ。」


「そんなこと無いだぁよ。荒地に比べたら天国だぁよ。」

「んだんだぁ。こんなに柔らかったら一日中働けるだぁよ。」


「そいつは頼もしいな。明日も手伝ってやってくれ。」


「イサナ店長。サイクロプスもニンゲンもあんまり変わらないもんだなぁ。

おで達はいつもほかの種族は小さいから近寄らなかっただぁよ。でも、イサナ店長が来てからリザードやラミアと関わって旅をしてニンゲンと工事してみんなそんなに変らないなって思っただぁよ。」


「そうだな。ヒトなんてそんなモノなんだよ。もちろん国や環境で大きく考えが違う連中もいるしどうしても理解できないのも出てくると思う。でも、荒野と公国に住む人たちは理解しあえない程遠い存在じゃなかった。それはかなり幸運な事だと思うぞ。」


「んだ。イサナ店長、おで達明日も頑張るだ。明日だけじゃない明後日も頑張るだぁ。頑張って頑張って荒野まで道を伸ばすだぁよ。それでサイクロプスの皆にニンゲンの友人が出来たって自慢するだぁ。」


「そうか。それは良いことだな。でもあんまり頑張りすぎるなよ。頑張りすぎて倒れたら大変だからな。疲れた時は疲れたって言って良いからな。そしたら周りの友達も助けてくれるさ。とりあえず明日頑張るために早く帰って飯にしよう。今日もいっぱい作ってくれてたぞ。」


「んだぁ。おにいも今日はつまみ食いして叱られなくて済むだなぁ。」


「あれは仕方ないだぁよ。目の前に美味しそうなものがおいてあったらみんな食べるだぁ。おでが悪いわけじゃないだぁよ。」


「うんうん、解る解る。つまみ食いさせる所に置いてるほうが悪い。」


こうしてイサナとサイクロプスの達は他愛無い事を喋りながら笑いあって帰っていったのだった。

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