各々の動き・その3(ガンテツ編)
イサナとリーサが学園都市に向かった日、ガンテツは屋敷に残っていた。
多種多様な種族の匠達が工事を始めるために屋敷を調査しているのを見学するためだ。
ガンテツは決してヒヨッコの半人前ではない。
荒地地帯の最北端に位置する火の山に住むドワーフ達の酋長である。
鍛冶の腕は素晴らしく魔法技術が苦手なドワーフの中では珍しく単独で
そのガンテツでさえこの匠達のからすれば半人前扱いなのだ。
それはガンテツすら承知の事、神々の世界の製造を一手に担う工房の匠達に叶うとは露程も思っていない。
なので見ること聞くことに徹している。
昔、自らの祖父に鍛冶の技術を教えて貰う為に弟子入りを志願したなと少し懐かしい気持ちになりつつもあらゆる技術を逃さまいと普段以上に眼を鋭く耳を尖らせて周囲の匠達を観察していた。
こうして一人前になった後にヒヨッコと同じ事をしていると入ってくる情報量の差が全く違う。
そうして話の端々に出てくる匠同士の会話だけでも今まで気が付かなかったり思いもつかなかった技術が大量に出てくる。
次に何か作るときはこの技法を使ってみるかと考えていると正面から自らに近寄ってくる者に気づいた。
まだ形しか解らないがどうやらドワーフのようだ。
近づいてくるにつれて段々はっきり見えてくる。
そして、その正体に気づいた時には懐かしいような逃がしたいようないろいろな気持ちがごちゃ混ぜになって泣きたくなるのを我慢してじっとその者を待った。
「爺様…」
「久しいなガンテツ。最期に会ったのはもう何十年前じゃ?大きくなっていっちょ前にヒゲも編めるようになったか。」
ガンテツの前に現れたの彼の祖父だった。
くすんだ灰色の髪と同じ色のヒゲが特徴の老ドワーフ、それが死に際の弱った姿ではなくガンテツが一番憧れていた最も技術を上手く扱えていた姿で現れたのだ。
目に涙が浮かび口が震え最初の一言以外出てこないガンテツを見て彼の祖父はガンテツの肩に手を置き優しく。
「本当に大きくなったな。イサナ殿を通じてお前の剣を見せてもらったわい。いい腕になったしエンチャントなんて使えるようになりおって驚いたわ。しかも、酋長に選ばれたのじゃろ。ダンテスもガラスっちゅう新技術の職人になったしワシの自慢の孫じゃよ。」
憧れ惚れ込んだ祖父の技術を追い求め数十年間ひたすら今は亡きその背を追いかけてきた。
いつか自らが亡くなった時に祖父を超えたと言えるようになろうと。
その祖父から認められ自慢と言えると聞いた時1人の一人前のドワーフの男として泣くまいと我慢していた涙が溢れそうになった。
そして、もはや我慢の限界というときに…
「じゃからワシの使える技術を今からお前に叩き込む。」
そう聞いた瞬間、涙が引っ込んだ。
………
……
…
スチュワート邸のすぐ横にいつの間にか工房ができていた。
今回の工事の素材の加工や完成した後に修理資材の加工や宿泊客の荷物の修理などに使われる予定で建てれらたという。
神界の工房長であるガンドラダはもちろん今回の工事の施主にあたるイサナも了承済みであるとの説明をしながらガンテツの祖父は炉の火力の調整をしていた。
神界工房で職人として働いている祖父直々に技術を教えて貰えるのは非常に名誉な事ではあるが在りし日の
ドワーフの鍛冶技術の教え方は単純明快、完成するまでひたすら槌を振らせる、それだけだ。
混ぜ合わせる金属の種類や焼き入れの時の温度など科学的な数値化出来そうなものですら具体的に教えずにただただその身に教え込ませるだけのもの。
そんな過酷な教え方のせいと言うべきかお陰というべきか強く衝撃的な
過去のことを思い出しながら僅かに震えていたガンテツに炉の調整が終わった祖父が振り向きこれから教える技術を口にした。
「ワシが今からお前に叩き込むのはただ一つ。ミスリルの加工技術じゃ。」
ミスリル、希少な魔法金属の1種。
銀と似たような性質を思っていると言われながらも錆びにくく青みが入った光沢をもつ金属。
鉄に比べ軽く強度に優れ魔力の伝導率が非常に高く魔法金属の中では加工がしやすいと言う最高峰の金属とすら言われる物である。
そんな金属でありながらそれほど流通はしていない。
その理由はそもそも希少性が高いというのと魔法金属の中では加工しやすいとはいうものの鉄などの一般金属と比べてしまうと加工に相当な技量が必要であるという解りやすい理由と加工してしまうと何故か魔力の伝導率が試算を大きく下回ってしまうという問題点があるからだ。
これまで多くの魔術師がミスリルを利用しようと試してみたが思う結果を得られずに今は貴族などの一部の富裕層が自らの力のこじつけの為にミスリルの装飾品や短剣などのちょっとした武具に扱う程度である。
そんな中ガンテツの祖父はミスリルの本来の性能を引き出した両手剣を作り上げるという偉業を成し遂げたのだ。
だからこそ神界の工房に招かれ、そしてドワーフ達の追い求めるべき目標となった。
ちなみに両手剣は今でも集落にあり目立つところに飾られている。
その祖父がミスリルの加工を教えてくれるというのだガンテツとしては断る理由も無くすぐに了承した。
…それがこれからの苦難の始まりとは知らずに。
「ミスリルを加工するにあたって大事なのはただ一つ鉱石を金属を取り出す製錬の段階から大量にミスリルを扱うことじゃ。」
「…それだけなのか?」
「それだけじゃ!だがそのそれだけを成すのにどれだけ難しいかはこれから嫌と言うほどわかるぞ。」
そういった通り炉の中には大量のミスリルを含む原石が入っていた。
炉が稼働していくにつれ工房内の温度がぐんぐん上がっていく。
鉄が溶けるには至らない温度だが炉の中には溶けた金属が溜まって来ていた。
そして金属が流れる部分を開放すると若干青みがかった銀色の液体が流れでた。
「爺様、ミスリルが出てきたぞ。これをどう加工するんだ?」
「バッカモンがぁ!これがミスリルじゃと?これはただの青っぽい銀じゃ。ミスリルは鉄なんかとは比べ物にならん温度で溶けるんじゃ。」
「なんだって!?それじゃぁ、今までワシがミスリルと思って加工してきたのは何なんだ?」
「大方このミスリルモドキじゃな。そう思っておるのはお前だけじゃなくワシ以外の皆コレがミスリルと思いこんどるじゃろうがな。」
祖父の言葉にショックを受けたガンテツ。
だがそんなガンテツを知らぬとばかりに祖父は炉の中にさらにミスリル原石を投入していった。
「爺様、どれだけミスリルをいれんだ!?」
「この炉がパンパンになるまで入れるんじゃ。さすがに全部は扱いきれんかもしれんが可能な限り大量のミスリルを使ったほうがいいんじゃ。」
そうしてミスリルモドキと称するものが出るたびに原石を放り込んでいく祖父。
最初に入っていた原石は中に含んでいたいろいろな不純物が無くなりスカスカになったので追加物で押しつぶされている程だ。
そうして炉の中にはスカスカの原石しかない状態なっているがそれでもなお炉の火力を上げ続ける。
さすがにここまでこればガンテツもどれがミスリルになるかが察しが付く。
「まさか、あの岩の部分と思っていたところが本当のミスリルだったなんて爺様はよく気付いたな。」
「…ワシもこれを発見できたのはたまたまじゃよ。お前のばあさんが死んですぐのワシは生きる気力を無くしとった。自ら命を絶とうと思ったときに炉を遺していくのが嫌になってのう。いつかミスリルで大作を作ろうと思って若い時からコツコツ貯めとったミスリルがあったからそれを全部放り込んで炉を爆発させて逝こうと思ったんじゃ。そこでミスリルを炉に詰めたが入りきらんかった。じゃから今回と同じ方法でひたすらミスリルを炉にくべ続けたんじゃ。」
「…なんてはた迷惑なことをしようとしとったんじゃ爺様は。」
「今ならそう思えるがその当時は本気じゃったんじゃぞ。そうしているうちに不思議なことが起きたんじゃ。」
「不思議なこと?いったいなんじゃいな?」
「なに、もうすぐわかるわい。」
そういうことならと待つかと思い静かに炉を見つめるガンテツ。
それからすぐの事、炉の中からキィィン、キィィンと金属同士を叩き合わせるような小さな音が聞こえてくる。
さらに赤々と燃えているはずの炉の中から薄っすらと青い光が漏れているのが見える。
「これがミスリルが溶け始める合図じゃ!これからどんどん音と光が大きくなっていくぞ。」
その言葉通りどんどん音と光が大きくなっていく。
そして音が鳴りやむと祖父は金属の排出口を開けた。
所々に青白い炎が立ち上りながら同じ色の溶けた金属が流れ出ていく。
「これこそが正真正銘本物のミスリルじゃ。あとはこれを叩いて叩いて形にするまで!」
「ようし、やるか!」
ガンテツがまだ熱を持ち青白く輝いてるミスリルを鉄床に移しハンマーを打ち下ろす。
「ぬわぁぁ、なんじゃこれは熱して柔らかくなっとるはずなのになんちゅう硬さじゃ!」
「それが本物のミスリルの恐ろしいところよ。柔らかくなったこの状態ですら鉄とは比べ物にならん硬さを保っとるくせに冷えてくれば元の硬さに戻っていきおる。ワシも初めて打った時は腕がいかれるかと思ったからな。これから何度も何度も叩いて叩いて硬くなってきたら火を入れて柔くしてまた叩くの繰り返しじゃ。」
「なるほど。それで何を作るんじゃ?」
「刃はもちろん柄も石突も全部ミスリルで作る。
「なん…じゃと…」
「この工房が使えるのはここのホテルが出来上がるまで。そして施工は神界工房の連中じゃ。信じられん速度で建ちあがるぞ。じゃからワシらもそれに負けぬ速度でこいつを作らんといかん。時間との勝負じゃ。」
こうしてガンテツの過酷なフルミスリル
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