各々の動き・その2(リーサ編)
時はほんの少し遡り、本格的に工事が始まる前日、イサナが最初の買い出しに行った日の事。
リーサは1人魔法学院にいた。
これからのことを考え魔法学院に退学届けを出しに来たからだ。
そもそも彼女が魔法学院に在学していた理由は大ババ様に言われたからである。
「巫女として一族を導くには知識不足である。荒野を出て魔道具について学んで来い」と。
大ババ様がいつの間に魔法学院のことを知ったかはリーサにはあずかり知らぬことではあるがあれよあれよと言う間に先代のストンズ子爵の協力のもと彼女は魔法学院に留学生として席をおいたのである。
なぜ、大ババ様が騎士学校では無く魔法学院を進めたのかは入学当時はわからなかったが今ならばわかる。
呪われ衰退していくリザード族の生活を支えるために魔道具に希望を託そうとしたのだろう。
だがその試みは失敗、いや杞憂に終わる。
そう、オオイリ イサナの活躍だ。
今はまだ世間の表舞台に立ってこそいないがあの少年の近くで世界が動き始めていると考えている者は多い。
しばらく共にいたリーサはなおの事そう感じている。
巨人であるサイクロプスと友好関係を結びドワーフには義兄弟と呼ばれ、世界の敵である
出来るならずっと共に旅をしたいと思っているがそれは無理であることも理解している。
イサナが作ろうとしている荒野と公国の新たな関係の礎になるのがこれからの役目だからだ。
なので以前と同じように魔法学院で学べないので退学に振り切ったのである。
若干さみしくはあるが後悔はしていない。
大ババ様には相談し意外なほど簡単に了承を得た。
なのでこの退学届けを魔法学院の事務室に届ければ終わりのはずだったがリーサは何故か学院長室にいた。
「学院長先生、どうしてアタシはここにヨバレタ?」
「ハハハ、そんな緊張する必要は無いよ。すこし話を聞きたかっただけだからね。」
そういうと学院長と呼ばれた老女は指を振ると部屋の隅にあった魔道具からコポコポと温かいお茶がカップに注がれ、もう一度振るとカップがソーサーと共にフワリと宙を浮き2人の目の前に降りてきた。
「リザード族のリーサ。この学園において留学生は多くいたけどリザード族は初めてだったよ。そのリザード族が休学をして帰ってきたら学院を辞めるというじゃないか。学院のトップとして何か気に障ることをしたんじゃないかと冷や冷やしていてね今後の為にいろいろ話しをしておきたかったのさ。」
「魔法学院に思うところはナイゾ。むしろまともに術も使えないので迷惑しかかけて無いとオモウ。辞める理由は部族のタメダ。荒野はこれから公国と貿易をシテイク。だけど今すぐは準備が整っていないからデキナイ。だからリザード、ドワーフ、サイクロプスが協力してこれから準備をシテイク。」
「…それは本当かい?本当だったら上へ下への大騒ぎになるよ。」
「嘘じゃナイゾ。陛下と宰相とロッソ商会に声をかけたとイサナが言っていたカラナ。ちなみに魔導士向けの商品としてこういうのも用意してあるぞ。」
「我が国のトップスリーと言って良い所に声をかけるとはあの坊や噂以上の切れ者じゃないかい。それで魔導士向けというのがそのワンドかい。」
骨や爪で装飾され滑り止めに革を巻いているそれは魔術師というよりは呪術師が使っていそうなほど禍々しい見た目をしているが学院長はほう、ほうと嬉しそうな声をあげながら見たり振ったりしていた。
「これはいいもんだ。これほど実用的なワンドは久しぶりに見るね。貴族のおこちゃま達が持ってくるのは見た目こそいいが魔力の通りが悪かったり術者との相性が悪かったり散々なものが多いからね。これは頑丈さといい魔力の通りといいかなり実戦向きだね。ワンドに滑り止めを付けるなんて騎士団所属の連中ぐらいだよ。見た目は褒められる物じゃないが、魔術師たるもの見た目より本質を大事にしないといけないからね。」
「このワンドはラミア衆が作ったものダカラナ。荒野においてラミアに勝てる魔術師はイナイゾ。土地の関係で火属性が作りやすいらしいが水風土も揃えれるから基本四属性は問題無いと言っていたぞ。」
「ラミア、生まれながらの魔法種族の一種だね。ニンゲンみたいに魔法が苦手な種族からすれば羨ましい限りだよ。」
「リザードもラミアを怒らせるぐらいなら素直に降参スルゾ…ちなみにそのワンドは一番安いタイプだゾ。火属性の一番高いのはサイクロプスが魔力の通りを確認して材料を選んでドワーフがファイアー・ドレイクの角を芯に本体を作ってラミアが刻印とその他の装飾を付けてイクゾ。」
「そいつぁ…凄そうだね。」
「…少し魔力込めて振っただけで炎の壁が出てきて危うく家が燃えて無くなる所ダッタ。」
「無事でよかったよ…しかし、そういった理由なら退学は勿体ないねぇ。いいかい、学校てのは知識を教える場でもあるけど生徒の未来を準備する場でもあるのさ。だから、成績不振や素行不良ではなく己の道を定めて学校を去ろうとする者を退学とは言わない、卒業と言うのさ。リーサ、君は己の進む道を定めた。魔法学院はそれを認めここに卒業を認定する。」
学院長がパンと手を叩くとリーサの目の前に一枚の羊皮紙が現れた。
その一番上にはリーサの名前が書かれていてその下には卒業を認めるとしっかりと記載されている。
「さぁ、持っていきな。リザード族のリーサ。君の卒業証書だ。」
「学院長先生…!ありがとうゴザイマス!」
「卒業式はさすがに開けないけどこれで晴れて魔法学院の卒業生だ。今後、荒れ地と公国の関係性は変わるだろう。その際に困ったこともいっぱい起きるだろうからその時は遠慮なく魔法学院に相談するといいよ。なんだかんだでここは公国の貴族が集まる場でもあるからね。貴族の扱いは慣れたものさ。」
こうしてリーサは公国でそしてリザード族で初めての魔法学院卒業生となるのであった。
………
……
…
魔法学院からの帰り道、見たことある家紋の馬車が大急ぎで荷造りをしているのが見えたリーサは興味本位でその馬車に近づいた。
「慌てているようだけど何かアッタノカ?ストンズ夫人。」
馬車に描かれているのはストンズ家の家紋で荷造りの指示をしていた家宰の横にいたストンズ夫人にリーサは声をかけたのだ。
「これはこれはリーサさん、こんにちわ。実は義父からの早馬が来まして主人に急ぎ領地に戻ってくるように指示がありましたの。あまりにも急な事でしたのでこちらも急ぎ準備している所ですわ。」
「ああ、あのアレカ。大丈夫だと思うがストンズ前子爵が早く呼び戻したがっているのは事実ダゾ。」
「リーサさん、もしや何かご存じで?」
「考えている事が合ってレバナ。ただ、ここは人がいっぱい居すぎるのでここでは言えナイ。」
「なるほど…父、危篤と書かれているにも関わらず文字自体は義父の物でそれ以外は何も書かれておらず、早馬で来た義父の使者も詳しいことは言えないと言っておりましたので主人と共に首を傾げておりましたの。リーサさんから見て急いだほうがよろしい事でしたか?」
「その辺は判断できないが
「あのイサナさんが!それだけわかれば十分ですわ。屋敷の手の空いてる者全員使って準備をしなさい!明日には出れるように準備をするのです! では、リーサさん私はこれで失礼しますわ。主人に話をつけてきますので。」
「ストンズ夫人もしよければ領地まで連れて行ってくれナイカ?護衛の仕事ならできるので邪魔にはならないと思ゾ。」
「まぁ!勿論かまいませんわ。主人には私から話しをしておきますね。」
「ありがとう。では明日、門の外で待ってイル。」
そうしてストンズ子爵の護衛としてリーサは荒地までの足を確保するのであった。
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