世界最高峰の本気
スチュワート邸で一泊した翌朝、俺はセキトに乗って学園都市に戻った。
商人ギルドで購入手続きをするためだ。
ギルドでは担当者だった若者とその上司っぽい人が来て恐る恐ると言った感じで問題が無かったかどうか訊ねられたが問題は無かったと押し切ってとっとと購入手続きを終わらせるとそのままスチュワート邸に停めてある馬車まで帰った。
そして馬車まで帰るとそのまま馬車の荷台に転がって目を閉じた、目指すは神界工房だ。
「助けて、ガンドラえも~~ん!」
「?なんじゃその不可思議な呼び方は…」
神界工房に辿り着くやいなや俺はガンドラダに泣きついた。
スチュワート邸の事をガンドラダに相談したが流石に分からないと言うのでガンドラダ以外にもいろんな職人が集まってあれやこれやと専門用語が飛び交う話し合いが行われた。
鬼族や全身モフモフな狐の獣人は付喪神について知っていたが流石に付喪神を改造するなんて話しは聞いたことが無いとの事で話し合いは難航した。
そんな中、知恵袋として呼ばれていたプロフェッサーパパスが皆の意見をまとめ上げた結果、こうすれば自我を保ったまま改造出来るのでは無いかとの結論が出た。
・高濃度の魔力を持った資材でボロボロになっているスチュワート邸の本体の修理。
・魔力が行き渡りスチュワート邸が強化されたのを確認し同じく高濃度の魔力を持った資材で増改築を行う。
・増改築を行う際には高濃度の魔力を持った資材の魔力経路を妨げないように工事を行う。
・上記の現象を守るためには高度な技術を持った職人が作業を行う必要がある。
・可能であれば作業エリアを特殊な術で覆い高濃度の魔力で満たせればなお良い。
「…この条件ってさ」
「来訪者殿もお気づきの通り残念ながら下界では無理ですな。たとえここから材料だけ持ち出したとしても恐らくまともに使えますまい…」
「…そんなに難しい素材なのか?」
「そうじゃな、ここではありふれた素材であっても下界では国宝級、伝説級。未熟な者が手を出して加工出来ないなら良い方で下手したら素材の持つ魔力に負けて最悪は命を落とすぞ。」
マジで…?
今まで失敗作とか今一つ気に入らないとかであっさり渡されて来た物だけどそんなにヤバい奴だったのか…
売るには高価すぎるから偶に贈り物として渡したりしてたんだけど大丈夫だよな。
とはいえ神界工房でもダメとなるとどうするかなぁ。
一か八か現地の素材と職人でやってみるしかないか…
「お困りのようでしたらガンドラダ達を連れて行けばいいのですよ、イサナさん。」
俺の目前にいつの間にかグランフィリア様が現れていてさも当然の様に言った。
「フィ、フィリア様!いつの間に居られたのですか!」
急に目の前に現れないで欲しい本気でビビるから、それに周りの様子を見るに誰一人として気付いていなかったみたいで皆俺みたいに驚いていた。
「皆さんが難しい話をしていたので気付かなかっただけ私は初めからいましたよ。それでガンドラダ達を連れて行きます?」
「グランフィリア様、簡単におっしゃりますがワシらが降臨しても本当によろしいので?あまり下界に物理的に干渉しないようにしているのはワシらよりも純神であるグランフィリア様達ですが。」
若干目を泳がせているグランフィリア様に対してガンドラダが確認を取る。
ガンドラダが言う様に大丈夫なのかとは俺も思う。
「普段なら私もこのような事は言いませんよ。ですが今回は屋敷に魔力が溜まり自我が目覚めさらには実体化までしています。それはつまり妖精や精霊の類と言っても構いません。そして、妖精や精霊の保護や育成、管理は神々の仕事です。だからかの物を保護するためにガンドラダ達が動いても何も支障はありませんよ。」
おお、なるほど。
俺はスチュワート邸が妖怪としか考えていなかったけどグランフィリア様から見ると妖精や精霊に近いのか。
あと、妖怪よりも妖精とか精霊って聞くとお上品なイメージになるのは俺だけかな。
「あくまでも弱っているスチュワート邸の復活を前提にした作業です。スチュワート邸は客を招きたいと思っているようですので必要とあらば増改築も行うでしょう。ですので素材の選定は気を付けてくださいね。スチュワート邸が受け入れられないような魔力を持っている素材を使うのは本末転倒ですので。そして、スチュワート邸の現在の持ち主はイサナさんです。イサナさんの意向もしっかりと取り入れて動いてくださいね。」
グランフィリア様の言葉の後に神界工房の職人達が一斉に俺を見る。
俺はゴホンと一つ咳をしてから彼らに答えた。
「俺がスチュワート邸を手に入れたのはあそこをホテルに改造するためだ。それもただのホテルじゃないラミアやサイクロプスだって悠々と泊まれるホテルだ。これから公国と荒地の住民達は数百年ぶりに本格的にかかわる様になって行く。俺は公国の住民に荒地に向かうメリットを用意した。だから次は荒地の住民が公国に向かうメリットを用意する番だ。だけど公国にはメリットを用意できる知識も技術も無い。だから知識は俺が補うから技術はここにいる皆から借りたい。正真正銘世界最高の職人である皆の技術を!」
少しの沈黙の後、一斉に歓声が上がった。
ガンドラダに至っては天を見上げ男泣き状態だ。
「死んでからも腕を磨いて来たんだ、今使わずにどうする!」
「まだまだ現世のアマちゃんには負けらんねぇぞ!」
「どうする?何を作る?ホテルだから家具がいっぱいいるよな。テーブルか、ドレッサーか、チェストもいいなぁ!」
あっちこっちでやる気満々の声が上がる。
…焚きつけ過ぎたかかな。
「やる気があるのは分かったから皆落ち着かんか。これから編成を決めたりと色々することがあるからな。とりあえずパパスは魔法に詳しいのを連れて素材の選定に行ってくれ。まずはスチュワート邸の強化からじゃからな。スチュワート邸が問題無く受け入れられる素材を見繕ってきてくれ。それ以外は一度解散じゃ。また改めて打ち合わせするからな。」
男泣きから復活したガンドラダが職人達に指示をしていくところを見ていると後ろから肩を叩かれた。
振り返るとグランフィリア様が立っていた。
「イサナさんのおかげでここの職人たちが見た事も無い位やる気に満ちています。これから大変だと思いますがよろしくお願いしますね。」
「お礼を言うのはこっちの方です。まさか神界工房の職人を使っていいとは思ってもいませんでしたので。可能な限り彼らの要望は聞くつもりでいますので安心して下さい。」
「イサナさんなら安心して任せられると思いますが本当に気を付けてくださいね。なにせここにいる子達は基本的に降臨することなどありませんからどこまではしゃぐか分からないですので。では、私は他の所に向かいますので後はよろしくお願いしますね。」
そう言うとグランフィリア様が目の前から消えていた。
…なんだかすっごい不安な事言ってたけど大丈夫?
「来訪者殿、来訪者殿!もし下界に戻るならばこれを持って行ってくだされ。」
グランフィリア様が消えた後やって来たのはプロフェッサーパパスだった。
ハンカチの様なサイズの布に複雑な形の魔法陣がこれでもかと描かれている。
「それは召喚陣が描かれておりまして下界で使っていだければこの、プロフェッサーパパスを呼び出すことが出来るのです!まぁ、素材の選定を行うにも現物を見ないといけませんので。では小生は準備をしてまいりますので下界でお会いしましょう。」
それだけ告げるとパパスは鼻歌を歌いながらスキップして帰って行った。
……ホントに大丈夫か今になって不安になって来たのだった。
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