イサナ殿、重要な事は言うべきですぞ

三角座りで巨大なキャンプファイアーを見つめる俺。

ハハッ、アオジロイホノオハキレイダナ青白い炎は綺麗だな


「主様、お気を確かに。あの炎は幻術ですよ。」


「メイちゃん、アレは幻術じゃなくて現実だよ。問答無用で燃えているんだよ。」


「でも、主様。アレだけ激しく燃えておりますのに全く熱くありませんよ。」


いやいや、アレだけ派手に燃えているのにそんな訳がと思ったがメイちゃんが言っているように全然熱さを感じない。

熱による風も無く、焦げ臭さも感じず目の前の惨事以外はまるで何も起きていないように感じる。


『イサナ殿。あの炎は塩の祠のと同じでは?』


いつの間にかそばに寄っていたセキトが俺に問いかけてくる。

そういえば転げ落ちた松明たいまつは怨念を焼き払った物と同じだ。

ハッとしてどう対応していいか分からずオロオロしているメイド3人衆に声をかける。


「これはもしかして浄化をしているのか?」


俺の問いかけにメイド3人衆はその通りだと言わんばかりにアピールしてくる。

そうか、そういう事か火事じゃないと分かればもう何も怖くない!

あとは浄化が終わるのを待つだけだな!!


・・・

・・


夜も更け月が一番高い所に登ったころにやっと浄化の炎は消えた。

えらい時間がかかったな、塩の祠の浄化の方が短かったんじゃないか…いや、あの時はドラゴンの幽霊が出てきて怨念を焼いたんだった。

ちなみに俺が急に元気になった時にとうとう壊れたかと心配されたので説明はしておいた。

てか、壊れたってひどくない?


浄化が終わった屋敷は絡んでいた蔦は消え去り、剥がれた外装も無くとても立派な屋敷が立っていた。


「いやいや、おかしいだろ。浄化が起きたとはいえボロボロだった屋敷がキレイになっているのは。」


「ボクもアンデッドを倒した事はあるけどボロボロの物はボロボロのままだったよ。」


それが普通だよなぁ。

何か知ってそうな影のメイド達もいつの間にか消えているし。

これはこれで怖い物があるんだけど…


「どうする?はいる?」


「入るとも!これ程不思議な事が起きたのだ。入らないわけが無かろう。」


レディアの言葉に他の皆がうんうんと首を縦に振る。

いや、ほんと、この世界の人たちの精神ってどうなってるんだ、心臓毛むくじゃらなの?


意を決して扉を押すと思っていたよりもずっと軽くスッと開いたせいで中からの溢れてくる光に目が眩んだ。


「「「ようこそおいで下さいました、御客様。」」」


細い目でホールを見ると男女で左右に分かれた何十人にも使用人も揃って頭を下げており真ん中には家令と思われる初老の男性が立っていた。


「この度はスチュワート邸を開放していただきまして誠にありがとうございます。」


「まって、まって、情報量が多すぎて処理が出来ん。悪いけど1から説明してくれないか?」


「分かりました。我々はこの屋敷、スチュワート邸そのものでございます。怨霊レイスになっておりました当時の当主の力の余波で我々は屋敷に残った記憶が集まり自我を得ておりました。しかし怨霊レイスの力に抑えつけられておりましたので表に出る事はありませんでした。ですが、先ほどの浄化の炎により怨霊レイスや他の屋敷に残った負の力が焼き尽くされ何にも染まっていなかった強い力だけが残り我々はそれを取り込んだ事で妖精や精霊に近い物として昇華致しました。そして、その力を使いまして皆様をお出迎え出来ますようにこの屋敷が最も輝いていた時の姿を再現いたしました。」


ざっくり言うと付喪神つくもがみとか、迷い家マヨヒガみたいな物か。

なんとも言えない物になってるな、付喪神にしても迷い家にしても100%善性の物じゃないからな。


「経緯は分かったけどそれでそっちは俺たちをどうしたいんだ?そして俺達がいなくなった後どうしたいとかあるのか?」


「我々の願いは皆様を御持て成しすることでございます。本来はお食事もご用意したいのですが今は皆様が食せる物がございませんのでお風呂と寝所のご案内しか出来ませんが精一杯ご奉仕させていただきます。その後に付きましては今はまだ何も分かりません。自我を得た後に自由になれたのは今宵が初めて御座いますので。ですが、屋敷としてどなたかをお招き出来ればと考えております。」


「とりあえずそっちの話しは分かった。ただ、泊まるにしても外の仲間には声をかけておきたいから一度外に出ていいか?」


「巨人のお二人の事ですね、勿論でございます。皆様の準備が出来次第お戻りくださいませ。」


スチュワート邸にそう言うと俺たちは一度外に出てサイクロプスの2人を含め皆で集まった。


「とりあえずこの屋敷の状態は分かったけど主は実際に泊まるつもりなの?妖精や精霊に近いと自らで言っていたけれどボクからしたら魔物と大差ないよ。」

「うむ、ヴィオラの言う通りだ。泊まることは余り賛成出来ぬな。怨霊レイスの浄化された力を取り込んだと言っておるのだぞ。浄化されたとはいえ怨霊レイス怨霊レイスだ。あのような巨大な力を取り入れた物をおいそれと信じられぬな。」


「2人の言葉は良く分かるがそれほど邪悪な存在には見えナカッタゾ。一晩ぐらいなら大丈夫じゃナイカ。」

「ワシも泊まるぐらいなら問題無いと思うぞ。折角の好意じゃから受け入れた方が良かろう。それにワシらを害した所で奴らのに利点はあるまい。」


「メイには難しい問題でございます。主様はどうお考えですか?」


「俺は泊っても良いとは思う。俺の国に付喪神や迷い家と呼ばれる存在がいるんだが100%安全とは言えないがそいつらは恨みある相手にしか害を与えない。初めて会った俺たちを行き成りどうこうする事は無いと思う。それに何より俺の影が反応してないからな。あのメイド達が出てこないって事は安全なんだろうよ。」


「…そういえば主、聞くタイミングを逃してたけどあの黒いメイド達は一体何者なのかな?正直に言うとあの屋敷にいた怨霊レイスなんて目じゃない程の力を感じたよ。」


「ああ、アレか。言ってなかったっけ?俺の加護の1つの【冥王の加護】って奴でアンデッドに対するカウンターみたいなものだ。歪悪イービルの怨念もねじ伏せてたぜ。」


俺の答えに皆は唖然というか茫然というかそんな感じで俺を見ていた。


「全くボクらの悩みは一体何だったのか…よし、皆準備をしたら屋敷に戻ろうか。」


ヴィオラの言葉で解散となり必要な物を持って皆屋敷に戻って行った。

え?あれ?変な事言った?

と、とりあえず俺を置いていかないでくれよぉぉ!!


・・・

・・


屋敷に泊まった翌朝。

俺たちは食堂で朝飯を食べていた。

食材は俺が提供した物だ。

上級貴族だった家だけあり料理人の腕は本物だった。

そんなに高級品を出したわけでは無いが美味い物になっていた。

いや~昨晩の風呂も良かったなぁ。

やっぱり風呂だよ、風呂。

こちらの世界は水の入れたり多くの薪を燃やしたりと湯の準備が大変だから金持ちの家にしか無いから入れるタイミングはホントに少ない。

だけど、金持ちの証の1つでもあるので銭湯並みに大きい。

ちなみに俺はガンテツと二人で入った。

なんせ元の世界だと余裕で成人してる年だ、流石にこの年で混浴するのもどうかと思うしなぁ…

外を見るとメイドさん達がサイクロプスの2人の為に朝飯を届けてくれている。

サイクロプスサイズの皿が無いので大鍋ごと持って行っているんだが、浮いてるメイドさん達を見ると普通じゃないんだなって改めて実感する。

そんな至れり尽くせりの屋敷に告げないと思うと罪悪感が半端ないが言わない訳には行けないので気合を入れて代表っぽい家令に声をかけて。


「あ~スチュワート邸さん。昨晩はお世話になりました。朝食まで作って頂き満足です。」


「ご満足いただけまして光栄で御座います。それにそれほど畏まらずに御声がけ下さい。この様な姿をしておりますが我々はただの屋敷で御座います。気軽にお話下さいませ。」


「そうですか、ただ、その、非常に言い辛い事がありましてね。実はこちらに来た理由がですね、この屋敷を改築したいなぁと思っておりまして。その為の下見に来たんですよ。」


「そうでございました。ですが当然のことで御座いますね。我々は主を失い朽ち果てた屋敷で御座います。昨晩の出来事は奇跡と呼ぶしかない事なのでしょうね。お気になさらず我々の事をお使いくださいませ。新たな姿となり人々を迎え入れる事が出来る様になればそれは屋敷として幸運で御座います。」


「えぇと、その、ですね…断言は出来ませんが皆さんを保てるように相談してみます!ですからその時は自分の計画に協力をお願いします。」


「勿論で御座います。人々を向かい入れるのが屋敷の本懐で御座います。もしも我々が残りましたら喜んで協力致します。」


…全然気合を入れて言えなかったぜ、チクショー!!

断言はしてないとは言え自我を残して工事できるよネ、出来ると言ってよ、ガンドラダ!!

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