これから毎日…

売り上げを確認するのも恐ろしい翌日の午後。

俺は商人ギルドを訪れていた、もちろん屋敷を買うためだ。

しかし、昨日の夜は凄かった。

ガラスの美しさに惚れた3人が早速使いたいとワインを開け始めたからガンテツもリーサも便乗して飲み始めるとレディアが肴を要求し始めたから荒地の売り込みの為に向こうで作って来た干し肉とかを振舞うとそれが宰相とロダンさんに大好評。

なんせ向こうは腐り止めの為に荒地特有の香辛料を大量に刷り込むから公国だと高級品になるしなぁ。

荒地にある香辛料は唐辛子っぽい辛さを持つタイプだったからコショウとは一味違う辛さが受けたらしい。

そして酒が進めば勿論ながら無くなるわけで、夜中にワインをタルで買いに行かされる羽目になるとは思っても無かった。

ただ、サイクロプスの宴会芸は凄かったなあの巨体でブレイクダンスみたいに踊るとは考えもつかなかった、角を軸にコマみたいに回るとか異世界って凄いなぁ。


そんな異種族交流も終わって二日酔いで苦しむ面々に薬神ピオス謹製の酔い覚ましを飲ませてロッソさんの屋敷と宰相の屋敷に購入済みの商品をお届けしたりするとすっかり昼を跨いでしまった。


「イサナ様。お待たせ致しました。一番大きなお屋敷をという事でしたらこちらの物件になります。」


若い職員が持ってきた資料によると学園都市から北東に位置しており言ってた通りサイズは最大で屋敷の骨組みも石製でしっかりしているらしい。

ただ、懸念事項としては学園都市からは最も離れた屋敷であり最も古い屋敷でもあり床板とかは貼り直さないと使えないだろうとの事だ。

そして、お値段は驚きの小金貨1枚!

…安すぎじゃない?


「大きさは問題無いのですがいくら何でも安すぎじゃないですか?」


「そう思いますよね…その、安い原因と致しましては古すぎると言うのが最大の要因なのです。おそらく最初の頃は相応のお値段だったと思いますが売れ残り過ぎてギルドの価格規定の計算で底値についてしまったからのようです。」


ようするに減価償却の限界まで達しているから建物の資産的な価値はほぼ無くて土地代だけと見た方がいいな。

これは考えている以上にボロ屋敷かもしれないな…

まぁ、もともと手を加えるつもりだったからその辺は問題無いのだがここまで売れ残り過ぎた原因が気になるな。


「どうしてここまで売れ残ったんです?見た限りは立派なお屋敷だったと思いますが。」


「そうですねぇ…詳しい理由は書かれておりませんが遠すぎるのと大きすぎるというのが考えられますね。この屋敷までの距離ですと馬車で1時間程かかりますし大きすぎて管理も大変ですからね。当時は学園外に屋敷を建てるのが主流でしたが今は学園内の屋敷に住むのが主流になっておりますのでそれも原因かもしれませんね。」


時代のニーズに合わないのなら売れ残るのも仕方ないないな。

ただ、俺からすれば遠すぎるのも広すぎるのもメリットだ。

周りを気にせず工事できるし拡張性が高いのも素晴らしい。


「いろいろ納得出来ました。見学に行きたいのですが可能ですか?」


「大丈夫ですよ。こちらが屋敷のカギになっております。場所がわからないのでしたら案内を付けますがいかが致しますか?」


「場所はわかりますので大丈夫です。今日中に一度見に行ってきます。」


こうして屋敷のカギを受け取った俺はギルドを後にした。

この後にあんな恐ろしい事になるとはこの時は誰も知らなかったのだった。


・・・

・・


レディアの案内で屋敷につくと夕日が赤く屋敷を染め上げていた。

石の塀に囲まれた屋敷の敷地はかなり広く大きさも今まで見た中では一番大きかった。

しかし、放置されていた時間が長かったので敷地内の庭だったと思われるところは草が生い茂り所々にはそこそこ大きな木が育っており屋敷にはよくわからない植物のツルが絡んでいた。

ところどころ木製の窓が壊れていたり外壁が崩れていたりするが思っていたよりはボロボロじゃなかった。


「夕方だけどとりあえず屋敷の中を見て回るぞ。ざっくりとでも中の状況を見ておきたい。サイクロプスの二人は申し訳ないけど庭を探検して精霊アールブの宿を展開できそうな場所を探していてくれ。」


俺が指示を出していると「ヒゥ!」とメイちゃんが変な声を上げた。


「メイちゃんどうした?」


「主様…あそこの窓に人影が…」


メイちゃんが指さした方を見るがぼろぼろになった窓しかなかった。


「俺は見えなかったが他に怪しい人影をみた?」


「ボクも見えなかったけどこれだけの広さの屋敷だ。もしかしたら賊が根城にしてるかもしれないよ。」


「可能性はアルナ。万が一のために武器を持って行った方がイイナ。」


ヴィオラとリーサの言葉に成程と思い室内戦を想定して武装をして入っていく。

つっても俺の武装特にないからいつも通りカバンを背負っていくぐらいだけどな!


ギシギシなる扉を開けると広がっていたのは大きなホールだった。

当時は立派であったであろうホールも今は埃が舞う色あせた空間だった。


「すごい埃だな…一階だけでも広いのにこの屋敷は3階建てだ。とりあえず周囲の部屋を確認した後はメイちゃんが人影を見たところを見て帰ろうか。どうせ工事するからそこまで詳しく見る必要はないからな。」


「埃に新しい足跡は見当たらぬな。賊がいたとしても人ではない可能性があるな。」


マジかぁ…

家の下見に見に来ただけなのになんでトラブルが舞い込んでくるかなぁ。

というか賊が居てない可能性じゃなくて人で無い可能性に移るのがファンタジー世界だよなぁ。

若干憂鬱になりながらも家探しを始めると、


「なんだか寒くなってきていませんか…」

「ン?今足跡が多く聞こえなかったカ?」

「血の跡の様なものがついとるのぅ…」

「誰か今何か言ったかい?」

「あ、何か飛んできたがつい弾いてしまったな…」


なんというか俺以外明らかに何かの干渉を受けてるんだけど…


「絶対何かいるよな、これ…」


「いるね。だけど干渉が弱すぎてよくわからないね。」


「ここは昔から幽霊屋敷と言われていたからなぁ。本当にいるのやもしれんな。」


「幽霊屋敷ってマジかよ…でも、なんで俺には何もしてこないんだ?間違いなく一番弱いのは俺だぞ?しかも嫌がらせ程度のショボいのだし。」


「ゴースト程度の自我の薄いアンデッドがいる程度なのかもね。主が何もされていないのはどうしてだろうね。ちっちゃいから見えてないのかもね。」


「俺は今が成長期だから!これから伸びるから!」


気が抜けた会話をしながらたどり着いたのはメイちゃんが人影を見たという部屋の前だった。

たぶん、いるんだろうなぁ…と思いながら部屋を開けると案の定うっすらと透けた人が立っていた。


「あの~どちら様?」


「ココハワシノダ カネモトチモヤシキモダレニモワタサヌ デテイケ デテイケ デテイケェェェ!!!」


「て、撤退ぃ!!」


明らかに話が出来ない怨霊だったので俺たちは一目散に玄関ホールに向かって走った。

幸いにもここは玄関ホールの真上に位置する部屋だったので急いで通路を走って階段を駆け下りればいいだけだが普通に辛い!


「ワ、ワシ走るの!苦手なんじゃが!足短いから!!」

「気合をイレロ、ガンテツ!小さいメイも走ってイルゾ!!」

「オ、オバケ、オバケ、オバケ!」


「ヴィオラ!アレが弱いゴーストなのか!?明らかにヤバいタイプだぞ!!」

「流石のボクもあれは想定外だ!明らかにレイス級だよ!よく今まであんな嫌がらせ程度で済んだものだ!!」

「アレは多分ここで殺された侯爵だな!継承問題のごたごたで殺されたと聞いたことがあるぞ。まぁよくある話だ!」

「だから、そう言うのは先に言えぇぇ!!!」


後ろからは通路いっぱいに広がった赤紫色の顔が「シネシネ」言いながら追ってきて

いたが俺たちは何とか全員玄関ホールにたどり着いていた。


だけど、あともう少しってところで何かに足を掴まれてこけてしまった。

急いで立ち上がったのだがこけた拍子に俺のカバンから青白い炎を宿す松明たいまつが飛び出していった。

慌てて拾おうとしたが俺よりも早く俺の影から黒いメイドが出てきて松明を手に取ると後ろから迫ってきている怨霊レイスに投げた。

怨霊レイスはあっという間に青白い炎に包まれると怨霊レイスは炎を消そうと断末魔を上げながら転がりまわる。

怨霊レイスが転がりまわるので炎はあっという間に屋敷に燃え広がっていき手が付けられない状態まで拡がってしまっていた。


ヴィオラに担がれ屋敷の外に連れ出された俺は火の手が広がっていく屋敷をただ茫然と見ていたのだった…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る