この場でする様な話じゃない

とりあえず怪しげなブラックカードを手に入れた俺はちょうどいい機会だとここにいる皆に相談をすることにした。


「ちょうどいい機会なので相談に乗って欲しいのですが。不動産ってどこで扱ってますか?」


「不動産でしたら商人ギルドの管轄でございます。どのようなお屋敷をお探しですか?」


「もしや、とうとう店舗を構える気になったのですかな?もしそうならばロッソ商会の全力を挙げて協力致しますぞ。」


「いえ、店舗をというわけではないんですよ。これから荒野の面々がこちらにやって来る可能性が出てくるでしょう?なので彼らが泊まれる宿を用意しておきたいんですよ。ドワーフやリザード達ならば普通の宿でも行けそうですがサイクロプスは文字通りの巨人サイズなので彼らの為の部屋も用意したいんです。」


「なるほどな…余も彼らとここまでやって来たがイサナの術が無ければ彼は野宿をせざるを得ない状況だったな。しかし、学園都市にサイクロプスが数組入れそうなな館は余り無いぞ。」


「別に学園都市内部である必要は無いな。都市外にポツポツと館があっただろ?あの中から良さげな物があれば良いなって思ってる。どのみち滅茶苦茶手を入れる必要があるだろうから工事なんかも考えると都市外の方が気が楽だ。」


「都市外の館に関しても商人ギルドでの管轄でありますので大丈夫でございます。

今すぐに確認に行かれますか?」


「いえ、確認は明日でお願いします。そして、家の事でちょっとロダンさんにお話があるのですが…」


・・・

・・


「最年少でブラックカードを手にした商人の相談がとはなかなか洒落が聞いているな。」


「宰相閣下、そのように外聞の悪い事は言わないでください。有るには有りますよ。ただちょっと、お屋敷を買うには不安だなぁってだけです。」


「ハッハッハ、グランヒルズ公爵も宜しいではありませんか。後先考えないのは若者の特権。若者を助けるのも年長者の役目ですよ。それに屋敷の代金の為にとっておきの品を買ってくれとかのイサナ店長が言うのです。あと少し経てば彼の品物は国中の貴族が血眼になって探し求める物になるのですよ。」


「流石は我が国一の商会まで成長させた男よ。良く分かっているな。今、イサナの持ってる品が世に出回れば我が王都の金は全て奴に持っていかれる程だぞ。今日という幸運を喜ぶが良い。」


なんか滅茶苦茶言われているが俺はこの国の富裕層の中でも上から数えた方が早い人たちを連れて馬車に帰って来た。

これからこの馬車の前で凄まじい金額の商談を始める事を考えたらちょっと胃が痛い。

ちなみに馬車はストンズ子爵の庭先を借りている。

ここならばサイクロプスの2人が野宿できるからだ。


「主、準備が出来たよ。」


ヴィオラの言葉の通り馬車の前に魔法の光を放つ照明が置かれるとロダンさんや宰相閣下、ついでにレディアがいまか、いまかと待ち構えていた。

そんな中、俺はメイちゃんやリーサにも手伝ってもらってサイクロプスの作った彫像やリザード族たちの革のベストや靴、ドワーフの武具などを運んで行って貰った。

今回並べるのは荒野の職人の中でも最上位のブランドマークである背中合わせで横向きのドラゴンとサイクロプス、そして中央にクロス状のハンマーと斧が刻まれた物だけだ。

ロダンさんと宰相閣下はサイクロプスの2人やガンテツに品物の説明を受けながらしげしげと見て行きレディアはそんな二人を面白そうにニヤニヤと見てた。


「今まで多くの華美な美術品や名品を見て来たが今ここにあるのはそれと対極と言って良い荒々しさを感じる逸品ばかりだ。しかもただの荒々しさではない荒々しさの中に神々しさや神秘的な物を感じる。本来交じり合わない様なものが見事な調和を奏でている。この年まで生きていて新たな美を感じることが出来るとは思ってもいなかったよ。」


「交わらないはずの美しさか…言い得て妙だな。私は男爵ほど美術的な物に関心は無い。どちらかというと槍や剣の様な実用的な物の方が好みなのだ。だからこそここに並べられ研ぎ澄まされた刃の猛々しさと美しさに目を奪われてならない。何点かドワーフが作り上げた武具を持っていたがここにある物ほど魅了された物は無かったぞ。」


「お二人ともに喜んでいただけて幸いです。荒地地帯の皆が公国の皆様と取り引きするにあたりまして大きく三段階に分ける事に致しましてここにありますのはその中でも最上位の物。ドワーフ、サイクロプス、リザードの名工が作り上げた逸品ばかりでございます。取り引きが始まりましたら一応売り出す予定ですがここまでの品は荒地の種族にとってもまごう事なき宝物であるので彼らが気に入った者にしか売るつもりは無い品々になりますので下手したら世に出回らない可能性もあります。ただ、今回に限りましては荒地の皆が本当に公国と取り引きを考えている言う証拠の為に持ち出しを許可していただいたもので信用にたる相手ならば売っても良いと話はついております。ガンテツによりますと過去にドワーフの名工の品がこれまでに荒地の外に流れた事はほぼ無く一人前の腕の持ち主が作った物ならばそこそこ世に流した事があるとの事なのでその中の1つなのかもしれません。」


俺の説明にフムフムと頷く2人。

見本として真ん中のランクを見せると、「見た事ある」や「何点か同程度の物がを持ってる」といった反応が返ってきて一番下の物を見せると「ドワーフ産の物ではよく見る」や「下賜したことがある」といった感じだった。

下賜するって何だよ、いや、言葉の意味は分かるよ。

ただ、普通に生きて行く上に使う言葉じゃないよね…

そして、今回を見逃したら買えないかもしれないという言葉が効いたのか2人はどんどんと買おうとしていく。

いやいや、どんだけ金持ってんだよ!

小金貨レベルの物ばっかりだぞ!元の世界だと多分100万換算の物ばっかりだぞ。

うわ、アレ、小金貨3枚(300万)の品だぞ…

売ってるこっちが引くほどの大金が動いてるんだけどこんな馬車を停めて置くような場所で動いてはいけないような金額が動いてるんだけど…

俺、大丈夫かな、笑顔崩れてないかな…


「…義兄弟イサナ義兄弟イサナ。お主から見てあの2人は信用できるのじゃろ。じゃったら、ダンテス出して良いぞ。」

「…そうだな。なんだか今ある物で十分インパクトを与えてる様子だけど。もう一発派手なの行こうか。」


動いている金額に引いていた俺にガンテツが横にやって来て小声で告げた。

俺はヴィオラを呼んで取って置きのアレが入っている木箱を持ってくるように指示をした。

そして、真っ白な手袋を着けて買い物に夢中になっている2人を呼び止めた。


「宰相閣下、ロッソさん。実は見ていただきたいものがあるのです。」


俺に声をかけられた2人は買い物を止めて俺の前にやって来た。

そしてちょうどいいタイミングで豪華な飾り箱を持ったヴィオラが俺の横に立った。


「お二人の目の良さとこれまでの対応を見ましてガンテツからぜひ見て貰いたいとの事でして。実はごくごく最近になってドワーフの中で生まれた新技術で作られた逸品でして世界広しと言いましても荒地の外で持っているのはまだ誰もいない品なのです。」


「まさか、陛下も持っていないと?」


「その通りです。陛下は当初、身分を隠したレディアと名乗っておりましたので見た事や荒地で使った物はあっても個人所有はしておりません。」


「はて?余が知っていて使ったことがあるにも関わらず持っていないとな。そんなものあったか…?あぁ!!まて、イサナ!アレの商談をするのなら余も混ぜよ!ここでアレを見せるなど正気か!?こんな吹きっさらしでアレを見せるのは反則じゃろ!」


今まで購入する2人を見てニヤニヤとしていたレディアが慌てて2人の横に立った。

その様子に驚いた二人は固唾を呑んでヴィオラが持っている箱を見つめた。

いいね、いいね、素晴らしい流れだ、気を抜いたら俺がニヤニヤしそうになる。

顔が崩れないように気を引き締めながら神界工房で作られた豪華な箱の蓋を開けると紺色のフェルトに包まれるようにガラスで出来たチューリップ型のワイングラスが収まっていた。

透明度は最初の物に比べてたら天と地ほどの差がありここにあるのは薄っすらと曇っている程度の物だった。

それが逆に何とも言えない味わいを醸し出しているように感じる。


「これは一体…」


「ロッソさん、これはガラスで作られたワイングラスです。従来の金属製の入れ物に比べ非常に脆いですが圧倒的に軽く何よりも中に入れている物が透き通って見えます。」


「これがガラスとは信じられん。たまに好事家が趣味として集めていたりするがアレはどちらかと言うと岩の様な物だぞ?それをこの様な形に変えてしまうとは…しかもどうやって作っているかがまるで分らん。エルフ達が水晶を削る技術を持っていると聞いたことはあるが削ってこの様に薄くは出来ないだろう…」


「当然の反応だな。余も初めて見た時は驚いたものだ。しかも、本当に最近生まれた様でな、最近はドワーフ達が鉄を打たずにガラスを作っているのだ。ちなみに作り方は余も知らん。イサナが絶対教えてくれなかったからのう。」


「そりゃ、ドワーフの新技術を一回の商人が教える訳には行かないからな。とりあえずまずは手に取って見てください。安物ではありますがワインも用意しておりますのでぜひ入れて飲んでみてください。」


俺がグラスを手に取って渡すと男2人は恐る恐る受け取りレディアは慣れた手つきで受け取ってメイちゃんからワインを入れて貰っていた。


「やはり、美しいな。金や銀でで作られたゴブレットも悪くは無いがこのように向こうまで透けて見えるのはこのガラスだけだ。この様な宝物で飲むと安物のワインも一段美味く感じる物だな。」


元の世界の価値観で言うと金や銀で出来た物のほうが宝物なのだがこの世界だと今は逆転している。

何れはガラスの方が安くなるかもしれないが今は間違いなく世界で数点物のプレミア品だ。

味に関しては気のせいだと思うが金属特有の匂いが今まで邪魔をしていたがそれが無くなったから美味く感じてるのかな。


「イサナ、これは1本、小金貨5枚だったな?今日はどれだけ持ち込んでいるのだ?」


「全部で30本だがそれがどうした?」


「30本か。全部欲しいがそうしたら戦争になるのだろうな。2人とも10本ずつで良いな?」


「「問題ありません。」」


「そういうことでイサナ、良かったな完売だぞ。さてと、余はこの宝物をもう少し味わっておこう。メイ、注いでくれ。それと肴にサンドワームの干し肉があったであろう。それを持ってきてくれ。」


え?え?あの一瞬で売れたの?一人当たり小金貨50枚、金貨換算で5枚(5000万)だよ…

おおう、動く桁がおかしすぎてこっちの頭がおかしくなりそうだ。


「主、お金って有る所にはある物だね…」

「そうだな…ほんとに、そうだな…」


とりあえず、屋敷は問題無く買えそうだしこれで大丈夫だな(現実逃避)



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