紙一枚の値段
この国一番とも言われるロッソ商会の会長であるロダン・ロッソさんの屋敷の一室に俺とガンテツは座っていた。
元の世界の借りてた部屋の総面積より広そうな部屋の中を【目利き】で調べながら見回していたが調度品の1つ1つの金額の高さに目が回りそうだ。
「
「どれ程って聞かれたらもの凄い高価さで目が回りそうだ。ドワーフから見た場合ああいった調度品はどういう立ち位置なんだ?」
「そうじゃなぁ…良く出来ている。と、思いたいが正直な所ワシには良く分からん。ああいった美術品と言うような奴はワシらはあんまり興味が無いからなぁ。加工前のインゴットをくれた方が嬉しいかもしれん。こういった芸術的な感性は
「確かにダンテスの作った物は凄かったな。そして今はドワーフでいや、世界で初めてのガラス職人だ。そのダンテスが初めて作ったあのガラスのジョッキはここにあるどんな調度品よりも価値はあるな。」
「そりゃそうじゃ。ワシの弟が作ったんじゃからそんじょそこらの物には負けん。それにガラスというのは中々面白いもんじゃな。小さな物なら力の弱い女子供でも作れるし混ぜ物によって色も付けれる。それに何より食器が軽い。ガラスの皿を始めて作りだしたときは嫁が泣いて喜んだと弟が言っていたぞ。」
「そりゃぁ今までの食器に比べたら断然軽いだろうなぁ…」
俺たちが荒野地帯を出発する時にドワーフの集落ではガラスフィーバーになっていた。
特に熱中していたのがドワーフの奥様達だったのだ。
その原因の一端が今ガンテツが言った通りガラスの皿の開発だった。
一番最初に生まれたのがなにせジョッキなのだからそこから食器に派生していくのは当然と言えば当然だが奥様方を魅了したのは今までにない軽量さだった。
地域の特性上成長に時間のかかる樹木は貴重なので日用品などは鉄製や岩製が多くなるのは当然の結果である。
それは当然ながらドワーフ達の食器も例外ではなく彼らの食器は銅で出来た物や岩を削り出した物だった。
その中で生まれたガラス製の食器。
今までの素材に比べ非常に軽く手入れも楽になるのだ。
圧倒的に脆いという欠点はあるがそれは生産者である彼らにしたら何ら問題無い、割れてしまっても破片を集めてすぐさま工房に持って行き素材としてリサイクルされるからだ。
最近では奥さんは農作業、子供はガラス拾いが仕事になってるらしい。
そして俺もガラス技術の浸透と発展を願いドワーフだけでなくリザードとラミアも煽った。
ちょっとした宴会の際にガラス製の食器を提供することで皿に盛りつけをするラミアやリザードの奥様達に衝撃を与え、リザード族の食器の主流である土器の様な焼き物では不可能な鮮やかな色合いの上に盛られた料理を見せる事で男衆にも驚きを与えた。
その結果、荒地地帯の広範囲でガラス需要が爆発的に増加。
当たり前だがダンテス一人では間に合わないのでドワーフの職人総出でガラス生産を行う事になった。
ガラスを熔かした事が無い炉が無いと言った冗談が生まれる程だ。
勿論ながらこれらの行動は公国と荒地地帯の交流につなげる為だ。
ガラスは交易での重要物資になるだろうし観光業の為にも食器の増産体制はあって無駄にならないからな。
…まぁ、これだけ準備をしても公国側が交流を持つ気は無いと言ったらお終いなんだけどな。
ドアがノックされると2人の男性とメイドさんが入って来た。
一人はこの屋敷の主であるロダンさん、そしてもう一人が本日のメインの人物だ。
「久しいな商人。通行許可証の釣りを持ってきたと聞いたので楽しみにしているぞ。」
「お久しぶりです宰相閣下。まだこの学園都市におられまして安堵いたしました。」
今回のメイン人物はこの国の宰相を務める、ジェームズ・グランヒルズ公爵だ。
個人的にはあんまり高位の貴族と関わりたくは無いのだけど今回の件はカービン子爵やストンズ子爵では文字通り話にならないお二人の爵位は子爵、下から二つ目だ。
そんな二人に今回の話しをしても上に行くまでにどこまで時間がかかるが分からない、ならば最初から可能な限り上に話を通す事にしたのだ。
ロダンさんに「宰相閣下にどうしても話したいことがある」と相談したのが昨日。
もしもいなかったら王都まで行くつもりではあったけどまだ学園都市にいたようで良かった。
ただ、相談したのが昨日で面会が今日とは思っていなかったけどな。
「宰相閣下、こちらは荒地地帯のドワーフ族の首長であり今回の使節団の代表でありますガンテツ殿です。」
「お初にお目にかかる。ワシは火の山のドワーフ族の長、ガンテツ。立場などに関しては今、
「初めましてガンテツ様。私はセーレ公国で宰相を務めております。ジェームズ・グランヒルズ公爵です。それで使節団の代表とはどのような御用でこちらまで来られたのでしょうか。」
「それについては自分からお話ししましょう。通行許可証のお釣りは使節団の案内までです。これ以上は有料になります。ロダンさん、宰相閣下、商談のお時間です。」
満面の(作り)笑みを浮かべてガンテツと挨拶をする宰相に声をかける。
商談の時間と言うと傍観者に徹していたロダンさんと笑みを浮かべてる宰相からの鋭い視線を感じてゾクゾクする。
だがしかし、今回の俺にはガンテツという素晴らしい味方がいるからビビッてない、本当にビビッてないぞ!
「今回、ご案内する物はコチラ。これが使節団の答えでもあります。」
俺は懐から三種族同盟が考え出した通商条約の条文が書かれたサンドワーム紙を取り出しそれを宰相に手渡す。
宰相は怪しげな目で封を解き中を読んでいくとすぐに驚いた表情を浮かべたがすぐにポーカーフェイスに戻った。
そして読み終わった物をロダンさんに渡しロダンさんにも読ませるとロダンさんも信じられないと言った表情を浮かべた。
いやはら、この表情を見れただけでも持ってきた価値はあったな。
「ガンテツ様。こちらに書かれている事は…」
「正真正銘本物じゃ。その通商条約は三種族同盟の総意である。そちらとワシらの関係を見直し、良き隣人であるならば相応の交流をしていこうと考えておるのだ。」
「商人…お前は一体何をやって来たのだ。」
「まぁ、いろいろありましてね。それはそうと其処にも書いておりますが補足としましてその権利書をご購入いただいても通商条約の本決まりというわけではありません。その原案で通商条約までの試験運用を行いそれで問題が無ければ正式に結ぶというあくまでも通商条約への足掛かりであります。それと荒地の面々は公国側のニンゲンと交流を持つつもりではありますがその相手は国でなくともいいのです。問題無く運用できるなら巨大な商会でも構わないのでロダンさんにも声をおかけいたしました。それと値段ですがお二人の思う値段をお付けください。」
この原案の値段は俺の【目利き】を使うと【買う者が信じる未来の値段】とでた。
数字を出せ、数字を!と思うが【目利き】の言う通りなのかもしれない。
いくらで買っても安いと言われるかもしれない物だしな。
というか条約を売るっておかしいと思うがその辺り突っ込まない所を見るに買う気はあるのだろう。
「国でなくとも良いとは言いますがさすがに我が商会を以てしても問題無く運用できるかと聞かれれば不安しか無いと言うのが正直な所ですな。ここは宰相閣下に判断を委ねます。もちろん運用に手伝いがいるのでしたら商会の全力で支援いたしましょう。」
ロダンさんは手を引いたな。
勿論ロッソ商会が荒野地帯の取引を一手に引き受ければその利益は計り知れないが1商会が莫大な利益をたたき出すといろいろと面倒事が増えるだろうからリスクの兼ね合いを見て国に譲った感じか。
まぁ、荒野地帯との貿易が始まればロッソ商会の規模ならいくらでも手を出せるだろう、なんだかんだで美味しい所を持って行きそうな感じだな。
「今回は個人同士の取引の規模をはるかに超える事は目に見えているので国主導で行う事は間違いない。ただ、私の独断で決めれる規模でもないのは確かだ。王都に持って帰って審議する時間をいただけないだろうか。勿論ながら協定を結ぶ事は間違いないと思って欲しい。」
「それは構いませんよ。ただ、相応の値段をお願い致しますね。あと、石畳がつながった時に正式な条約を結ぶか判断致します。ですので可能な限り早くまとめて試験運用を行わないと条約が結べなくなる可能性が出てきますのでご注意ください。また、その際には返金も応じませんので。なにせ今回の品は通商条約を検討するチャンスを売っているだけでして確実に条約を結ぶ権利ではございませんので。」
「あぁ、それについては約束する。ところでこの話を知ってる貴族は他にいるかね。」
「ストンズ元子爵には国とこの条約を結ぶかもしれないとは話しております。あそこが公国と荒地の接点になるでしょうから今から整備していかねば対応が後手に回る可能性がありますので。」
「それはそうだ、見事な手際だ。なるべく早く決めたいが決定までにどれ程の期間がかかるか分からないからな。ではストンズ元子爵以外は知らぬという事で間違いないか?」
「いません。これの重要性は理解しておりますので運ぶ際も自分以外には触れさせませんでしたから。」
「
宰相に答えた後にガンテツが俺に向かって小声で言った。
あ~、知らないはずだけどなぁ…
学園都市に入るまではレディアにも隠すようにウチの連中には言ってあるし。
ただ、出発前にウチとは関係ない所で聞いていたらどうしようもないからなぁ。
一応、宰相には言っておくか。
「すみません、宰相。さっきの発言をひっくり返す事になるのですが1名知ってるかもしれない人物がいます。レディアと名乗る女性が荒地地帯にやってきましてね。そこからここまで共に来たのです。立ち振る舞いからちゃんとした家の者だとは思うのですが貴族の面倒事に巻き込まれたくは無いので家名も爵位も聞いておらず詳しくは分かりません。家の者にはここに付くまでは彼女にも隠すように言っておいたのですが荒野地帯で他の者から聞いていた可能性があります。」
「そうか。流石に名前だけではわからないな。その女性はどのような人物だ。」
「鮮やかな赤い長髪で、せなかに…」
俺が宰相にレディアについての説明を始めると屋敷が騒がしくなった。
何事かと4人全員でドアの方を見るとバァンと勢い良くドアが開いた。
「メイから聞いたぞイサナ!そのような案件何故余に相談しなかったのだ。」
大声をあげて入って来たのはちょうど話題に上がっていたレディアだった。
ちょ、おま、何してくれちゃってんの!
話しがまとまり掛けてたのに、あぁもう、めちゃくちゃだよ!!
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