オオイリ商店珍道中・久しぶりの学園都市

「あと丘を3つ越えたら学園都市までもう直ぐだ。今日中には着くと思うよ。」


朝に御者をしているヴィオラの言葉通りだいぶ学園都市のすぐそこまでようやくやって来た。

この辺りは山とは言うには低い、緩やかな丘が多くありその一帯を越えた平野部に学園都市はある。

俺たちに同行してきたキャラバンのメンバーは少しの間とはいえ寝食を共にした為か種族の違い関係なく仲良くなっていてこのまえも商人の子供とサイクロプス達が遊んでいる所を見かけた。

子供の無邪気さは世界が変わっても敵無しの様で他種族と交流していく時のキーマンは大きくなった彼らなのかもしれない。


「イサナよ、あっちの方を見てみよ。面白い物が見えるぞ。」


丘を1つ越えた時にレディアに声をかけられたので彼女が指さす方を見るとポツンと元は立派な屋敷であったであろう廃屋が見えた。


「なんでこんな所にあんな元屋敷があるんだ?」


「学園都市は元々は独立戦争時の南部を守る城塞都市だったのだが現在の国境はもっと南になり国境防衛には少し使いづらい物となったのだ。そこで我が祖父の時代に国境防衛を担う都市から魔術研究の礎になる魔術を育成する都市へ改造し、後に士官候補になる騎士の育成も担う事になり学園都市としての方向転換を行ったのだ。」


「それが今の学園都市に繋がるのか。それがあの屋敷とどうかかわるんだ?」


「イサナも知っておると思うが学園都市は貴族の子息子女が集まるという性質上彼らを守るために四方を壁に囲われた街だ。それ故に土地の余裕は無く、貴族の爵位に関わらず都市内の学生の家族用の貸し出しの屋敷の大きさは固定になっているだろ。だが小さな屋敷で住むのを嫌う高位の貴族や商人もいるわけだ。そういった連中が学園外に屋敷を建てて住む事が流行った時期があったらしいのだ。その名残の1つがあの屋敷だな。撤去するにもかなり頑丈に造られている屋敷らしくてかなり手間がかかる上に街道からは少し離れているからそのまま放置されているというわけだ。まぁ、それ以外にも解体されない理由はあるがな。」


「なるほどなぁ…でもロッソ男爵の屋敷はデカかったぞ。」


「あぁ、ロッソ商会の会長の屋敷か。あれは正直グレーゾーンだな。もともとロッソ男爵屋敷の有った辺りに住んでいた地元民だ。学園都市は王家直轄領であるため住むには地料がかかる。その賃料を払っている住人同士の住居権の売買は王家が許可を出せば可能となっている。ロッソ男爵が住居権を手に入れた時は身内に在学生もおらずちゃんと地料も払っていた。なので例外的にあの屋敷を持てるという事だな。もしイサナが学園都市に屋敷が欲しいというなら王家に媚を売る必要があるというわけだ。」


「屋敷は持つ予定は無いし王家に関わる気はそれ以上に無い。貴族のゴタゴタに巻き込まれるような生き方はしたく無いんだよ。」


「ふむ、まぁ気持ちは分からんでもないが無理だな。余と出会ったしまった以上はもう引き返せんぞ。それに今回運んでいる荷物だけでどれだけ国が揺れるか…ゴタゴタに巻き込まれたくないと言いながら貴様の動きは派手すぎるぞ。」


「出会ってしまったも何も押しかけて来たのレディアじゃねぇか…それに俺の動きってそんなに派手かな?」


「余がちゃんと名乗っておらんのは余の思いやりだぞ。ある程度察してはいるだろうが知っているのと知らんとは後々大きく影響するからな。ちなみに貴様の動きが派手では無ければ世の大半は地味の一言で済むな。ゴーレム騒動の時の宰相とのやり取りから公国を縦断する街道の敷設の提案。これが老齢の賢者の発想であれば皆も納得していただろうが年端も行かない子供が駆けずり回っての行動だとすれば誰でも目をつけるだろうしその目を付けた存在が国でも指折りの難所に向かうというなら会いに行かねばなるまいと思い動いたわけだ。」


「ガッハッハ…レディアの言う通り義兄弟の行動が派手か地味かで言えば間違いなく派手だな。荒野の連中を巻き込んで大騒動だったからなぁ。ありゃ楽しかった、今まで生きてきた中で一番大変で恐ろしい事態であったが思い返せばそりゃもう一等楽しかったなぁ。だからこそワシはここにおる。楽しませてもらった分には届かんが少しでも返さんと借りばかり作ってしまっては胸を張って義兄弟を名乗れんからなぁ。」


「そうダナ。ゴシュジンがいなければどうなっていたか解らナイ。リザード族ラミア族はドラゴンの眷属としての誇りを手に入れる事が出来た。もしゴシュジンが困ることがあれば我々は地の果てでも向かうぞ。」


「なんだイサナ。余が知らぬ面白そうな事を向こうでもしていたのか。という事は貴様、もっと余が知らぬような派手なことをしておるな。」


「いやいや、そんな派手な事なんて…」


派手な事なんてしていないと言いかけたがふと思い出したのは学園都市で売った高級品の事だ。

コショウに始まりなんか凄い魔本に数十年治らなかった喉を治した魔法薬にエンチャントが盛り盛りついたメガネ、果てはかなりヤバい魔力を持っていた魔剣2振り。

当時はこっちの世界に来たばかりだから品の良さとか把握出来ていなかったが多少勉強した今ならアレらは凄すぎたってのは分かる。

少なくとも派手じゃないって言いきれないぐらいには。


「主達、とうとう学園都市が見える所まで来たよ。それに石畳も大分伸びてるみたいだよ。」


二つ目の丘の頂上辺りでヴィオラが声をかけて来た。

馬車から前を覗くと鍵穴の様な特徴的な形の街とそこから一目で土とは違うのが分かる灰色の道が一つ先の丘の辺りに向かって伸びていた。

街から一つ目の丘まで結構距離があるのだがこの僅かな期間でしかも人力だけで伸ばすとは凄い物だ。


「イサナ君?イサナ君じゃないか!少し見ない間馬車も立派になってに商団を率いる様になったのかい?」


工事現場の近くによると作業員の人たちを護衛していたであろう兵士たちが俺たちを警戒していた。

そんな衛兵の中から小太りな男性がこちらに声をかけながら馬に乗ってにやって来た。

荒野地帯のすぐそこにあるストンズ領を治めるストンズ家の現当主であり今回の工事の陣頭指揮を執っているレムズ・ストンズ子爵である


「お久しぶりですストンズ子爵。この馬車は自前ですが他の馬車はただの同行者であって自分が率いてる訳ではないですよ。」


「そうなのかい…しかし、後ろのサイクロプス達は君が連れて来たのかい?君の事だから問題ないとは思うけどまさか奴隷じゃないだろうね。」


下馬してわざわざ俺の耳元で囁いてくれたストンズ子爵に俺はあえて周りにも聞こえる様に返した。


「ストンズ子爵、彼らは荒地地帯で仲良くなった友人達ですよ。彼らは荒地地帯の整備を行う事もあり。石畳の道が気になると言うので新しく作られる道をここまで案内したのですよ。」


「なるほど!そういう事ならば好きなだけ見て行って欲しい。わざわざ遠くの荒地地帯から見に来てくれたのだ。説明の案内をつけよう。」


俺の言葉に驚いている様子の作業員と満面の笑みで答えるストンズ子爵。

作業員の大半は荒地地帯の直ぐそこの公国北部にあるストンズ子爵の自領から呼び寄せた職人達だ。

だから、荒地地帯から学園都市までがどれほど遠いかよく知っている。

わざわざ見に来る物を作っているという自覚と誇りが生まれれば作業員のやる気も大分上がるだろう。


その後ストンズ家の家臣の方に説明を受けながら学園都市に進んでいった。

工事の最初期は本当に大変だったらしくゴーレムの体になっていた石材は魔力のせいで普通より硬くなってたとか別個体だったゴーレム同士を近づけると魔力が混ざって大変だったとかであまりにも魔力が原因の問題が多かったらしく魔法学院の学生達の研究を名目にいろいろ手伝ってもらったおかげでゴーレム石材と普通の石材を一定の配分で配置していくという工法が確立したとの事でこうするとゴーレム石材に残ってた魔力が分散して過剰な残留魔力が抜けるし周りの普通の石材も魔力のおかげで上部になるそうだ。

そんな案内を受けながら進んでいたのでとうとう学園都市の南門に到達した。

其処ではまたストンズ子爵と子爵夫人がわざわざ待ってくれていた。


「ストンズ子爵案内をつけてくれた上にわざわざ出迎えていただきありがとうございます。子爵夫人もお元気そうで何よりです。」


「私がイサナさんにお会いしたかったのだけですので気になさらないでください。イサナさんのおかげで救われたばかりか声を失う以前よりも調子が良い気がする程ですのよ。」


「世の流れというのは不思議なものだと最近常々思うのだよ。長きにわたって悩み続けていたのにイサナ君に出会ってから妻の喉は快癒し娘は武功を上げてわたしは王命に近しい一代事業を頼まれた。君は我が家にとって幸運の象徴だよ。」


「そこまで言われますと流石に恥ずかしいですね。ただ、恐らくこれから凄まじく忙しくなると思います。こちらとしては一族揃って頑張ってくださいとしか言えませんが…」


こんなに笑顔で送り出してくれる2人にこれから仕事地獄が待ってるのかと思うと非常に心苦しいが頑張って乗り越えて貰うしかない。

こうして俺たちはストンズ夫妻に見送られながら学園都市の門をくぐったのだった。

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