オオイリ商店珍道中・国の歴史と尊き者の義務

精霊アールヴの宿のおかげで快適になった俺たちの旅は全体の半分を超えたところだった。

精霊アールヴの宿を使う時に声に出すのもはばかられる視線で俺を凝視するヴィオラの視線以外は問題の無い順調な旅だった。

周りの風景も岩場だらけの北部とは違い小高い丘やちょっとした雑木林が所々に見える自然豊かな景色となっていた。


「この辺りは我が国の中央部に位置する地域だな。これよりも東に行けば山と森が多くなる東部で南に行けば丘と草原が広がる南部だ。西部は我が国で唯一海に面した場所であり他国との海運貿易拠点だな。まぁ、この石畳予定路は南部の学園都市から東部周りで北部にかけての道だから西部は関係無いがな。」


「なるほど。というか他国と貿易してるならなんで荒野の連中とは消極的な付き合いだったんだ?貿易って考えはあったんだろ。」


「それは我が国の成り立ち故だな。イサナはこの国の正式な名前は知っておるか?」


「それは…ってあれ?よく考えたら聞いたことが無いな。」


「ならば余が直々に教えてやろう。栄えある我が国の名はセーレ公国である!ちなみに今はセレンディア・セーレ14世の治世だぞ。」


「そんな名前だったのか。王様の名前は聞いたことがあったけど国名は初めて聞いたな。でもなんでなんだ?王国じゃないのか?」


「その違いがこの国の成り立ちに大きく関わるのだ。今から約300年前程前にニンゲンは愚かな戦争に踏み切った。ノエライト教のバカ愚かな神官どもがあろうことかニンゲン以外の他のヒト種は劣等種でありニンゲンが管理せねばならないという名分で周辺の異種族に戦争を仕掛けたのだ。」


「…ヴィオラ、ノエライト教って何?」


「ニンゲン至上主義を掲げた宗教だよ。この国より西に二つ先あるノエライト聖国が総本山でボク達が初めにもめた原因だね。ニンゲンが教会に行くという時はノエライトの教会だから。」


「そういえばそんなことがあったな。そりゃ確かにもめるわな。」


あの時は出会って直ぐで互いの事をよく知らなかったからなぁ、グランフィリア様が出てきてくれなかったらどうなっていたことやら。


「そのバカげた戦争に賛同したのが聖国から見て東、我が国から見て西にある聖国と公国の間にあるの王国だ。今も当時もこの辺りでは随一の国土を持つ国であったがその戦争を利用して更に国土を広げようとしたのだ。だがそれに反対するものも多くいたそれがノエライト教の古典派と当時北東の辺境を統治していたセーレ大公領を治めていたセレンディア5世だ。」


「セーレ大公というのは想像がつくけどノエライト教の古典派っていうのは?」


「300年前から今の聖国で蔓延っているのはノエライトの新興派でな。簡単に言うとさっき言った考えが主流の連中でニンゲンを創ったノエイン様中心に考える連中だ。対する古典派は神話を読み解きノエイン様はグランフィリア様の妹神の一人でしかないと割り切ってる連中だ。ちなみに我が国はノエライトの古典派しか認めておらんぞ。」


「なるほど。でも至上主義思想がないのになんで異種族と関わってこなかったんだ?」


「うむ、それは独立戦争の時が原因なのだ。戦争時の反対勢力は続々とセーレ領に集まってきたがそれでも国王が戦争派なので戦力は国王派が依然多く、中立派どっちつかずの連中は勝ち馬に乗ろうと動く事もしなかった。その戦力差をひっくり返す為に当時のセレンディア5世はエルフの助力を願い、力を借りる事に見事に成功した。エルフの戦士の力はすさまじく数倍はいた国王派の軍勢を見事に防ぎきりセーレ大公領は隣国と袂を分かちセーレ公国として独立したのだ。ちなみに公国と称しているが君主は大公では無く公王が正式になる。公王を名乗っているのは大公という特殊な爵位の為だ。大公は王族であるが王位継承権を捨てた、もしくは何かしらの影響で緊急的に王になる様な爵位になる。要するに大公を名乗っていると敵国であった王国と縁続きになってしまうのだ。なので縁切りの為に新たに王を名乗る必要があったがただの王だと隣国と同じだったので公王を名乗り始めたというわけだ。まぁ、文書でサインをするとき以外は公王を使う事は無いがな。」


「君主の呼び方なんて極論どうでもいいというわけか。しかし、一緒に戦ったのに関わらないというのはますます分からんな。」


「そのセレンディア5世がエルフの力を借りる時の条件が戦後にエルフと関わらない事だったのだ。エルフとしては防がないと攻められる可能性があった上に内輪揉めに巻き込まれた形であるし公国側も巻き込んでしまった罪悪感というか後ろめたさがエルフだけで無く異種族という存在に全てにあったのだ。そういった過去の事柄があって学園都市への留学生や異種族の冒険者などは喜んで迎え入れるがこちらから動く事は余り無かったのだ。」


「気を遣いすぎた結果が今の形って事か。」


「端的に言うとそういう事だな。公国の法では異種族と交易は禁止してはいなかったから個人的に買いに行く者はいたと思うがイサナの様に商会として買いに行く物は皆無だな。」


「そこが分からないなぁ。ドワーフなんて職人種族として有名じゃないかどうして仕入れなかったかなぁ…」


「余からしてみればイサナの方が異端ではあるがな。そもそもドワーフの武器を仕入れるだけで幾らかかると思っておる。ひたすらの悪路に身が焼かれるような暑さ、たとえ運よくドワーフの元についても剣1本すら売ってくれるか怪しいの上にたとえドワーフから買えたとしてもそれを売値に換算すると幾らになる?それを売りさばくツテとコネはどこにある?一人前のドワーフ職人の剣を適正価格で売れば王都に屋敷を建てれると言われる程の品だぞ。それを貴様はどうだ、1本で屋敷一個分の剣は当たり前、本来なら恥ずかしくて世に出回らない半人前の剣も仕入れた上に宝物庫に眠っていそうなドワーフの名工の品まであるではないか。貴様は王都中の屋敷を買い占めるつもりなのか?」


「そういうつもりじゃないけど、まぁ俺の方が異端というのは渋々ながら納得しよう。でも、ほら、仕入れれたのは俺が頑張ったって事で許して欲しい。」


「それについては余も認めているぞ。そもそも頑張ったの一言では言えない事をしてきたのであろう?そうでなければ異種族をまとめ上げて新商品の開発なんて絵空事だからな。」


お、おう、こいつは何というかこういうちょっとした勘の良さが凄いんだよなぁ。

あれかな、高位の貴族ともなれば相手を見抜くような勉強でもするのかな。


「そ、こ、で、だ。余もいろいろ頑張ってきたであろう?だからそれに見合う報酬を求めてもいいと思うのだ。例えばそこのハルバードとかどうだ?」


ハルバードってどれだったかなと商品置場に目をやると暗い馬車の中でキラリと光る刃が目に写ったが、


「ダメだ、ダメだ!よりにもよってガンテツの作じゃねぇか。今回持ってきた奴の一番の目玉を貰おうとするとかビックリしたわ。」


「貰うのなら一番良いのが欲しいであろう?ガンテツだって余に使って欲しいと思っておるぞ。」


「お前が良い腕を持ってそうなのは解るがそれとこれとはまた別だ。欲しいにしてももっと頑張ってイサナポイントを貯めないとダメだな。」


「ポイント不足ならならば仕方ないな、少し稼いでくるとしよう。というわけでヴィオラ。手を出すなよ。」


「ご褒美が貰えるならボクもイサナポイントが欲しいのだけどなぁ。そもそも護衛が本来の仕事だし。」


ヴィオラのセリフを聞いてハッハッハと笑いながら自分の大剣を持ってレディアは馬車から出て行った。

…なんでアイツは大剣を持って出て行ったの?


「おや、主?気づいて無かったのかい?今、ボクたちは賊に襲われ中だよ。」


…ハッ?

ヴィオラに言われて慌てながらもソッと馬車の外を覗くと馬車の前方を半包囲するような形でボロボロの防具をまとって錆ついた武器を持った集団がいた。

よく見ればヴィオラも弓持ってるしガンテツも自分の獲物である大斧に手をかけていたし、御者のリーサも武器を構えているしメイちゃんは傀儡をサイクロプス達の近くに配置してサイクロプス達もファイティングポーズを取っていた。

そして、レディアは相棒の大剣を肩から担いで馬車の前に立ち、賊たちと対峙していた。


「テメーらだろ、異種族の宝を護送してる連中ってのは。馬車を置いてどっかに入ったら命だけは助けてやるぜ。」


「何を世迷言を抜かすか愚か者共。無辜の民に仇名す存在である以上余は貴様等を討つぞ。それが尊き者の義務であるからな。まぁ、簡単に言うとだな。死にたい者から掛かってこい!!」


「なめやがってテメーから殺してやらぁ。いくぞヤロー共!!」


テンプレ山賊を挑発したレディアに5人程一斉に襲い掛かったが彼女は顔色も変えず大剣を軽々と横に振ると武器も防具も関係なく一閃で真っ二つになっていった。


「「ハッ…?」」

「おおっ!」

「やるねぇ。」


それに驚いたのは俺と相手の賊、褒め称えたのはヴィオラとガンテツだった。

え?人間ってそんな簡単に上半身と下半身が分離パージする生き物じゃないよね?

そもそも武器と防具まとめて真っ二つってどういう事なの…

そんな驚いている俺を放置してレディア無双は続いた。

彼女が片手で大剣をブンブンするたびに人だったものや武器だった物が舞い散り彼女の長い猩々緋しょうじょうひの髪が暴風の様に舞い踊る。

余りにも早い惨劇に理解が及ばず、棒立ちのまま猩々緋しょうじょうひの暴風に賊が呑まれていき唯一理解し逃げ出そうとした駆け出した賊は彼女が投げた賊の仲間が使っていた槍に貫かれ動かなくなった。


「うむ。最近は馬車の中にずっといたからちょっと発散できたな。どうだイサナ、余に惚れたか?」


満面の笑みを俺に向けるレディア。

いい笑顔だけどそんな惨劇のど真ん中でする笑顔じゃないよね…


元の世界の神様、ファンタジー世界の住人は俺の想像を超えるチートキャラでした…

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