オオイリ商店珍道中・精霊の宿
ストンズ領を越え、石畳の建設予定の町を4,5個通り過ぎた街道沿いで俺たちは野営の準備をしていた。
ストンズ家の早馬の効果もあってか驚かれることはあっても町に入る時は問題なく入れた。
時には町の代表がわざわざ挨拶に来てくれる程でありちょっとしたお祭り状態であった。
ただ、長く旅を進めているといろいろと問題点も見えてくる。
例えば今の準備中である野営も問題点の一つだ。
今回の旅程は全て街道を通る形になる。
という事はある程度整備されていて見通しが良かったり平地の通りやすい所を進む事が多くなる。
これが一般的なサイズなら問題無いのだが今回の同行者にサイクロプスがいる。
そんな規格外の彼らが雨風を防げて休めるような洞窟や大木でもあればいいが整備された街道沿いにはそんなものは無い。
何とかしないとな、と思いつつ現状解決方法は無かったのである。
「店長さん、いつも料理の準備を手伝ってもらって申し訳ないだぁ。」
「気にしないでくれ。むしろいつも屋根も壁も無い所で寝かせて悪いな。」
「それこそ気にしなくていいだぁよ。草や土の上で寝るのは石の上で寝るよりずっと楽だぁよ。」
『どうやら御使い殿はお困りのようですね。』
そりゃ、石のベッドよりは柔らかいだろうと思っていたところに聞いたことが無い声が聞こえて来たのでそちらに振り返る。
そこにいたのは顔の無い上半身だけの泥の人形がバスタブにもたれかかるようなポーズでいた。
ナニコレ…異世界にも泥田坊はいるのか?
『初めまして御使い殿。こちらは地の精霊ノーム、の分身体です。実はお願いがありまして本当なら本体で会いたかったのですが神々の監視の目が強いためこうして分身体を派遣したのです。』
「こちらこそ初めましてご存じの通りオオイリ イサナです。それで願いとは何ですか?」
『簡単な事です。力の弱い妖精や弱った精霊などを貴方の近くにいさせて欲しいのです。貴方から何かする必要はありませんし代価として貴方の悩んでる問題の解決するうってつけの方法を差し出します。』
「こっちから何もしないでいいなら特に構いませんよ。それよりも問題の解決する方法の方が気になります。」
『では、こちらをお受け取り下さい。
泥田坊、あらためノームの分身体が腕をこちらに向けるとズモモモモって感じで腕から一本の古木の杖が出て来た。
石突が金属で作られている古めかしさ以外の何の特徴もない杖を受け取ると言われた通りに地面に大きな四角を書いてその中央に台所と書くと地鳴りと共に地面がせり上がりかまどや流し場が備え付けられた石の床の台所が出来上がった。
『今回は特に指定が無かったので妖精や精霊たちの思う姿で作られたみたいですが御使い殿が指示を出していただけたら形の変更も出来ますよ。また、使い終わった後は消すことも可能ですので気にせずお使いください。そろそろ神々の目を誤魔化すのも限界の様なのでこれにて失礼します。本体でお会いできるのを楽しみにしております。』
そうしてノームの分身体は土に還っていった。
それにしても凄いマジックアイテムを手に入れてしまった。
これは大魔法使いオオイリ イサナの誕生かな。
「よし、せっかく台所を作った事だし昼飯作りの続きをするか。これだけちゃんとしてたらいつもよりマシな物が作れるな。」
「んだ。店長さんが泥人形とよくわからない言葉で話し始めた時はどうなるかと思ったけどこの台所があれば料理もずいぶん楽になるだぁよ。」
この後サイクロプスサイズの台所を作り俺たちは調理にかかった。
完成後、本当に台所が消えるかどうか試してみたらちゃんと消えたので大満足のまま見張りやなんやで近くにいない他の連中に声をかけて昼飯を食べるのだった。
そう、ここで終わっていれば良い話しだなぁと言えるのだがこの後に俺が考えもしなかったひと悶着が起きたのだ。
それは食後に今日の飯は野営にしては手が込んでると言った事から始まった。
俺は午前中にノームの分身体が来て
何事かと混乱してる俺の目の前には顔を真っ赤にして興奮して目をギラギラさせたヴィオラの顔があった。
何故か興奮しているヴィオラを見てるとどうせ上に乗られるならもう少し色っぽい状態なら良かったのにとよく分からない事が思い浮かびながら冷静になっていく俺に興奮のあまりうまく口が回らないヴィオラが言った。
「あ、主!ホントにア、ア、ア、
「本当だって。見せて欲しかったらどいてくれ。」
ヴィオラはサッと俺から離れると寝ている俺を引き起こしサァ、サァ、と無言の圧力を向けてくる。
俺はカバンからノームに貰った杖を取り出すと先ほどと同じように地面に四角い線を引いた後に真ん中に台所と書いた。
するとさっきと同じように地面から台所が生えてきてヴィオラ以外からはおお~!と歓声が上がる。
「主、次は井戸を作って欲しい。」
「次!?そろそろ出発…ア、ハイ イド ツクリマス。」
ヴィオラの圧に負けた俺はおとなしく井戸を作った。
形は普通の丸井戸で井戸枠は俺の胸元ぐらいの高さだが釣べは無く水面は井戸枠ギリギリぐらいに来ていた。
その後もヴィオラに命じられるままに氷室や風呂、寝室まで作った。
途中に何度も助けてと念を込めた視線を向けたが誰一人として目線を合わせてくれたのはいなかった…
「もうムリ…何も作れんぞ…」
精霊や妖精たちが作ってくれるとはいえ地面に線を描くのは俺の仕事だ。
腕がパンパンになるまで描かされ作った宿をヴィオラは
「なぁ、ヴィオラよ…いったい何がお前をそこまで駆り立てるんだ?」
「いいかい、主。主が貰ったその
こうして、今日は出発することも出来ず延々とヴィオラに付き合う事になったのだった。
ちなみに、腕も足もパンパンになりながら作ったこの宿は皆に好評でサイクロプス達も久々に屋根の下で寝れたと喜んでいたので頑張ったかいはあったと思いたい…
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