激動への道
意気揚々とリザード族の集落を出て元気よくガンドラダ大要塞を抜け、途中何度もこの新型馬車を売れと言ってきたレディアをあしらいつつストンズ子爵領の町が見える所で一度馬車を停めて少し早めの昼飯の準備を始めた。
「まさか町を目の前にして野営をする事になるとはな。」
「まぁ、仕方ないだろう。向こうがあんな感じになってんだから。」
「迷惑かけて申し訳ないだぁ。原因は間違いなくおで達のせいだぁよ。」
「いやいや、気にしなくていい。正直想定内だしな。ただ、隣接してる子爵領の兵士がここまで抗体を持ってなかったのはちょっと驚いたがな。」
「…その通りだな。もっと内地の兵士ならともかく隣接地の兵がこうとは国を代表して余が謝ろう。」
「いやいや、レディアが謝る事は無いだろう。そのうち脂汗をかきまくったストンズ家の人たちが来るだろうよ。それまでに飯を食おうぜ。」
町を目前にして俺たちが野営をし始めた理由はとても簡単でかなり難しい問題であった。
その理由とは町の防壁にいた兵士達が戦闘準備に移行しようとした事だった。
「…その日 僕らは思い出した。ヤツらにしは「主は急に何を言ってるんだい?」 お帰りヴィオラ。俺の世界の巨人に出会った時のお約束みたいなもんだよ。それでと防壁はどんな感じだ?」
「はぁ、そうかい。防壁に関しては混乱の真っただ中って所だろうね。いまだにどう対応していいか決まってない感じだね。ちなみにボクはメイがお昼の準備が出来たと言ってたから主達を呼びに来たところだよ。」
「そうか、なら飯を食おうぜ。飯食ったら事態が動くまで昼寝だな。果報は寝て待てって言うしな。」
そう言って俺は周りにいた連中と飯を食うためにメイちゃんの所に向かった。
ちなみに、この後俺はお昼寝をすることは出来なかった。
飯を食ってる途中で大汗をかきながらストンズ家の執事がやって来たからだ。
必死の弁明を聞いた後、屋敷の方に案内されたがサイクロプスの男女は屋敷に入れないので屋敷には俺とメイちゃんとガンテツの3人で向かった。
後の連中には適当に観光でもしておいて貰おう。
「イサナ君。今日は本当に失礼な事をしてしまった。君たちと敵対する気は全く無い。これは当主を息子に譲ったがストンズ家の言葉だと思ってもらいたい。」
屋敷の応接間につくなり身なりを整えたストンズ家前子爵であるマーク・ストンズ様と奥方のマーサ・ストンズ様が深々と頭を下げた。
「マーク様、頭を上げてください。こちらとしましてはある程度仕方ない事だと承知しております。それに戦闘準備を行っただけで矢の一本飛んできませんでしたから不審者に対する準備を行った模範的な兵士の行動だとこちらは認識しております。」
「…イサナ君がそういうのであればこちらはこれ以上何も言うつもりも無い。言うつもりは無いが何か困っている事は無いかね?うちで出来る事なら喜んで協力させて貰おう。」
頭を上げてくれたがまだ困り顔であったので俺はあえて能天気な感じでお願いをすることにした。
「それでしたら是非お力をお借りしたいです。実は荒野の3部族は今回出来るこの国を縦断するような道に興味を持たれまして一度下見をしたいとの事で石畳の予定地を通って学園都市に向かう予定なのです。ですのでその道々の領主様達に我々が通ることを早馬でお伝えいただけないでしょうか。恐らくここよりさらに内地に進みますと問答無用で矢を射られかねませんので。」
「なんと!まさか荒地の方々がそこまで興味を持っていただけるとは思ってもいなかった。そしてイサナ君の懸念を最もだ。すぐに早馬の準備をしよう。それと他にはあるかね?なんだったら隣のドワーフ殿の願いでも構わないよ。」
「そうですか。では、本題に入りましょう。至急、ストンズ現当主を領地にお戻しください。これよりこの地は激動に巻き込まれる可能性が非常に高いです。」
「詳しく聞かせて貰えるかね?そして、それはここに荒野の3種族が揃っている事と関係していると見ていいのかね?」
そこにいたのはさっきまで楽しそうに話を聞いてくれていたおっちゃんではなく長年ストンズ家の当主の座についていた貴族、マーク・ストンズだった。
「マーク様のおっしゃる通り全て関係している事であります。自分はこの件に関しての提案者であり案内人ではありますが当事者は荒野の3種族同盟とこの国になります。詳しくはこちらのガンテツ殿からお聞きください。」
俺の紹介を受けたガンテツはフンッと荒い鼻息を一つついて気持ちを入れ替えたようだ。
傍観者から俺が初めて会った時の様なドワーフ族の首長ガンテツとしてこの場に存在感を表した。
「初めましてストンズ子爵。ワシは火の山のドワーフの首長ガンテツじゃ。そして荒地の3種族同盟の使節団の長としてここにおる。」
「お会いでき光栄ですドワーフの首長ガンテツ様。それで使節団とはどのような事をしにこの国来られたのでしょうか。」
「ワシらドワーフ、リザード、サイクロプスは荒地に来たイサナの誠意に感動し大きな恩を感じたのでそれに報いる為にこの国にやって来た。それがこれじゃ、読めば解る。」
ガンテツは通商条約の条文が書かれた荒地の生き物の革で出来た巻物を渡した。
ストンズ子爵は其れを受け取り読み始めるとすぐに驚いた表情で俺たちを見たが直ぐに巻物に目を落としじっくりと読み始めた。
マーサ様も夫の尋常ではない様子に気づいたようだがそれで態度を変えずに貴族の奥方として静かに見守っていた。
そしてしばらくして巻物を読み終えたマーク様は丁寧に巻物をガンテツに返し声を震わせながらガンテツに尋ねた。
「ガンテツ殿…この条文は全て荒地の総意と見てよろしいのでしょうか。」
「構わぬ。まぁ、すぐには信じられる物では無いという事はワシも理解しておる。なにせワシらは300年以上隣人でありながら全く関わってこなかったからな。正直
「この国はいや、世界が揺れるぞ…ガンテツ殿このマーク・ストンズ。必ず全力で協力致します。イサナ君、君の言う通り至急息子を呼び戻そう。『父、危篤』とでも伝えればすぐに戻ってくるだろう。マーサよ、悠々自適な隠居生活はどうやら終わりのようだ。また忙しくなるが頼むぞ。」
「私も貴族の妻です。最期まで共にありますよ。ですが一つよろしいでしょうか?」
「ん?何か気になる事でもあったか?」
「ええ、結局何は始まるのでしょうか。皆様肝心な事を口にしないので私だけわかっていないのですが。」
少しひり付いた空気の中でのマーサ奥様の言葉に俺たち男3人は噴き出して大笑いした。
そういえば言ってなかったね。
・・・
・・
・
「それでは、マーク様早馬は表向きの理由でお願いします。なにせ
「うむ、分かった。早馬と息子の事に関してはこちらで手を打つので任せたまえ。それでイサナ君良ければディナーを食べて行ってくれないかね。ぜひ荒地での事を聞きたいのだ。」
「それはありがたいのですが申し訳ないですが会場は屋外にして頂けますでしょうか?お屋敷ですとサイクロプスが入れないので。」
「なるほど。イサナ君の言う通りだ。ついつい何時もの感覚で誘ってしまったがこれからはこういった問題とも直面する事が起きるわけだな。勉強になる。他にイサナ君から見て気になる点はあるだろうか?」
「そうですね。ストンズ子爵領が悪いという事では無くこの国全体に共通している事ですがニンゲンから見て規格外であるサイクロプスやラミアなどの種族は非常に暮らしにくいと思います。今回の旅もサイクロプスの方々は常に野宿になる覚悟で付いてきてくれています。我々もそれに付き合って学園都市を目指すつもりです。そうして旅の中の問題点をまとめ上げて行けば今後につながるでしょうしね。」
「ニンゲンから見た規格外の種族か…今までさほど気にしていなかったが確かに不便だろうな。素晴らしい意見だ。ますます荒地での話を聞きたくなった。是非荒地に住む彼らの暮らしぶりを教えてくれたまえ。」
こうしてマーク前子爵に荒地での暮らしぶりなどを話しながらディナーをいただいた後は庭の一角を借りて野宿をさせて貰い今日という一日は終わったのだった。
明日から本格的に学園都市に向かっての旅路が始まる。
はてさて、どうなるのやら。
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