用いる物、用いない物
「ほう」
サイクロプス達を見て、
「ほほう!」
リザード族を見て、
「ほほう!!」
ドワーフ族を見て、
「話しには聞いていたが本当に特異な地だなここは!本当にニンゲンがおらんぞ。」
神器を持つ謎の美女、レディアは各種族を見て驚き、感動して声を上げた。
「俺も初めて来たときは何人かはニンゲンがいるとは思ったけど誰もいないのは驚いたさ。隣接してるくせに全く関りが無いとかこの国の商人は見る目が無いと思ったぞ。」
実際の所は全く関りが無いわけでは無いのだが荒地の連中も隣の人間達も日用品の買い合う程度でしかないのが不思議ではあった。
「それはこの国の出来方故に仕方ない事ではあるからな。そのような事よりも早く貴様の考えている商品を見せよ!亜人の素材と技術いかに用いたのだ!」
「分かった、分かったから詰め寄って来るな暑いんだから。後、俺の事は店長か名前で呼べ。一応は俺の部下になるんだから。」
「ふむ、それもそうだな。しかし余を部下扱いとは周りの者に見せてやりたいものだな!さぁ、店長!はやく案内せよ!!」
ホントに分かってのかなぁ…
不安になりつつも俺は工房に向かった。
・
・・
・・・
リザード族の工房であったここはドワーフ、サイクロプスが入り乱れ俺の提案した商品を作っていく共同開発工房のようになってきており今も机の上に置かれた試作品を前にああでもないこうでも無いと唸りあっていた。
そこに俺が見知らぬニンゲンを連れて来たのでちょっと驚いた様だがすぐに普段の状態に戻った。
「こんにちわ店長さん。今日のご用はなんですか?」
「あの売り物用の試作品をコイツに見せてやろうと思ってな。持ってきてもらえるかな。」
リザード族の工房長は解りましたと返事すると試作品を取りに奥に言った。
「さて、レディア。ここからがお前の初仕事だ。お前は高貴な家の出だろ。あぁ、爵位とかは言わなくていい。聞いたらさすがに対応を変える必要が出るからな。とりあえず俺が求めているのはお前の感性だ。今から見て貰うのは貴族向けに販売しようと思ってる品でなそれが良いか悪いか、改良点がいるかどうかそれを聞きたい。」
「うむ、余ほど高貴な家の出はまずおらんからな店長の考えはあっている。それに名品から珍品まで見慣れているからその役目はまさに余に相応しいな。では、持ってくるが良い。余が直々に判断をしてやろう。」
本当はストンズ前子爵に持って行って感想を聞こうと思っていたのだが折角使える駒がやって来たんだから利用しない手は無いよな。
おもちゃを待つ子供のみたいにワクワクしているレディアの前に黒いレザーベストとレザーシューズが置かれる。
先ほどまでの子供の様な雰囲気は消え去り、今は初めて会った時の様な威圧感交じりの状態になっている。
それほど真剣に見るとは思っていなかったのでかなり驚いたがそちらがマジなら俺もオオイリ商店の店主としてマジで向き合おう。
「このレザーベストは男性貴族向けの商品だ。ベストシリーズの中ではこの無地のボタン1つタイプがベースラインでそこからボタンの数や種類、カービングの有り無しカービングの量、大きさ、種類により高くなっていく。カラーバリエーションはブラックからグレーの黒系統レッドから濃い目のピンクのある赤系統、希少種のため1ランク上の青系統がある。そして、こっちの無地のレザーシューズも同じようなタイプだがこちらはボタンの代わりにワンポイントアクセサリーや小さな宝石を埋め込んだタイプがハイランク品として用意できる。」
俺は説明と同時に見本品の品々もレディアに見せていく。
金、銀、銅、そのた光沢のある金属で出来たいろいろな形のボタンに
レディアはそれをじっくり見ていき最後にふぅーとため息とともに威圧交じりの雰囲気を散らすと疲れた様子で椅子に座った。
「…店長、この品をいったいいくらで売り出すつもりだ?」
「シューズが金1、ベストが金2だな。オプションをつけていくと天井知らずになるかもしれないがベースはそこで考えている。」
「………金3だな。シューズの基本額を金3にしてくれ。ベストは金5。それで頼みたい。」
「…それはさすがに高すぎないか?」
「かなり高額ではあるがそれぐらいでないと国中の針子が路頭に迷う。」
「さっきの値段も競合を避けて強気の値段設定だったんだが…こいつ等はそんなにか?」
「そんなにだとも。余は心のどこかでお前を舐めておったかもしれん。商人主導の商品開発なんてとな。ちらりと言ったが商人は商品開発なぞ行わん。商人の仕事は物を仕入れて売るだけだ。新しい物の開発は職人の仕事であるが職人も売れるかどうかわからない物をわざわざ新しく作る事は無い。それがこの国、いやこの世界の流れだ。服もデザインが変わるから新しく作られているように見えるが基本はベースの形があってそこにあれこれ継ぎ足しているだけであり素材の良し悪しは有れど全く違うもので作るなんて話しは少なくとも余は生まれてこの方聞いたことが無かった。」
「でも、革は鎧とかなんやらで身に着けているだろう?」
「確かに身に着けてはいるがそれはあくまで防具としてだ。革は鎧として身に着けているんだから貴族用に形を変えて売り出そうという考えは鉄は鎧として身に着けているんだから貴族用に形を変えて売り出そうという考えと同じなのだ。革も鉄も防具用の素材であり社交界用の物どころか常日頃から着るものではないというのが基本的な認識だ。少なくとも余はそのように思っていた。」
「革も鉄も防具として考える事はあっても素材として別の物に活用する発想が存在しなかったという事か。」
戦うことが多い世界故の偏見だろうか、少しでも丈夫な物は防具にいうとは。
レザー製品カッコいいんだけどなぁ。
「まぁ、余が生まれる前に考えられていたのかもしれんが革はどうしても重くなるから嫌われたという可能性も無くは無いがな。」
「…あぁ、それは有るかも。なんせお貴族様だもんな。」
ペンより重い物は持ったことが無いですとかマジでいそうだもんな。
「ところで女物の服は無いのか?服をメインで売りつけるなら女物がある方が良いと思うが。」
「女物の発想が無い事は無いんだ。ただその論理観的に受け入れられるかどうかってデザインしか思いつかなくて保留中なんだ。」
「論理観?一体どういうことだ?」
「革の性質上体に沿った物は作れるがドレス特有のフワッとした感じが出せないんだ。かといってピッチリしすぎるのを作ると動きの問題もあってある程度スリットを入れないといけないだよ。すると足回りがヒラヒラするわけでそれもどうなんだろうかって話しがあがってな。ちょっと保留中なんだ。」
「話しが見えんな。デザインなどは有るなら見せて欲しいんだが?」
「ああ、それならこれだ。どうしてもこれ以上のデザインが思いつかくて保留してるんだ。どうしてもボディラインが強調されて歩きやすさの為にスリットがいるんだ。スリットの内側に布を当てれば足が見える事は無いんだがそれでも従来に無さ過ぎて俺も判別がつかなくてな。レディアから見てどう思う?」
俺にもうすこしデザインセンスがあれば解決したのかもしれないがどうしてもこのタイプしか思いつかず一度思いついたものを覆せなかった問題作だ。
一応うちの面々含めいろいろ聞いて回った結果、
「庶民はセーフでも貴族はアウトかもしれない」
となったのだ。
「確かにこれは王道とは言えんな。たしかに問題のある部分は隠せているが騒ぎ立てる奴らもいるだろうな。ただ、余としてはアリだと思う。頼めば今作って貰えるか?」
俺が工房長に聞いたところ技術的には問題ないらしく3日あれば作れるとの事だったのでとりあえず作って貰うことにした。
「余に文句を言える連中はおらんから安心すると良い。では、奥でサイズを測って来る。」
そう言うとレディアは女の職人と共に奥に消えていった。
文句を言えるのがいないってホントにどれだけ上なんだよ、あんまり問題を持ってきて欲しくは無いけど無理っぽいなぁ・・・
「店長、今暇か?前のブーツの完成品が上がったからこんか?」
「もう出来たのか!見たい、見たいすぐ行く。」
問題が起きたら起きた時だな!
そう割り切って俺は浮かれ気分で完成品のブーツを見る為にドワーフの職人についていった。
・・・
・・
・
「イサナよ。戻って来た余を出迎えず何を楽しそうにみておる。」
いつの間にか帰って来たレディアが俺を後ろから抱きしめながら言った。
「グエッ…いや、前にドワーフから採掘者用の履き物について相談されててな。それの完成品が出来たらしいから見てたんだ。」
「採掘者用ねぇ…余には一回り大きなロングブーツにしか見えんが何が違うのだ?」
「甘いな、嬢ちゃん。その店長がそんな普通の考えで終わるかよ。こいつはな足の甲から足先までを覆うように鉄板が入ってるんだよ。いやぁ、鉄板を曲げる程度は余裕だったが覆うとなるとちょいと特殊な形になるから大変だったがいい感じに仕上がったぜ。」
「こちらも鉄板を挟んで縫い合わせるのは大変でしたがドワーフの皆さんが左右同じ大きさに作ってくれたので誤差なくキレイに仕上げることが出来ました。」
リザード族の職人が言うように左右ほぼ同じ大きさで作られている。
初めて作ったのにここまで仕上げられるのは職人の腕によるものだろう。
「実際の使い心地はどうだったんだ?」
「そりゃぁもう完璧よ!掘り師の連中も試作品の時から喜んでたが完成品が出来た時は涙を流して喜んでたぜ。」
「スパイクの形や配置は大変でしたが上手く行って良かったですよ。うちの戦士たちも狩りに行く時に履いていくって言ってましたよ。」
「余には良く分からんがそれほど凄いのか。」
「掘りに狩りにと使えればこの辺りでは万能ブーツだぜ。嬢ちゃんも試しに履いてみな。」
そう言ってレディアの前にブーツが置かれたのいそいそとそれを履くと彼女は外に出て行った。
バンバンと外から何やら暴れる音がしたがそれが止むとドタバタとレディアが走って帰って来た。
「イサナ!余はこのブーツが一番欲しいぞ!!」
今日一番の笑顔でレディアが言った。
考えたものが褒められるのは嬉しいけど貴族向けの商品の時よりいい笑顔をされたのでちょっと複雑な心境であった。
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