戦う前の不要な情報はもみ消して…

窓から差し込む日差しを受けてもぞもぞと体を動かす。

神界から帰って来る度に感じる妙な疲労感と寝起き特有の倦怠感を感じながら枕元に置いてあったカバンを引き寄せる。

カバンに手を突っ込んでドゥワーイン様から貰った物を確認すると確かに入っていたのでその二つを適当な布に包んで義兄弟ガンテツ、ダンテスの元に向かった。

前回の戦いからリザード族の一部の区画をドワーフ族が借りておりそこの一軒に兄弟揃ってが家族ともども住んでいた。


「おう、兄弟じゃねぇか。いつも寝坊助のくせに今日は早いじゃねぇか。」

「どうしたイサナ。こんなに早くから来て朝飯でもたかりに来たか?」

「ちっちっち甘いな、すっごい話しを持ってきてやったんだぜ。でも、朝飯はちょっと欲しい。」


という訳で本題に入る前に朝飯をご馳走してもらうことになった。

元の世界の見たいな平たいパンに茹でたトウモロコシとイモがどっさりと皿に置かれ塩味のスープが出てくる。

肉体労働が多いドワーフの朝飯は結構ボリュームがあり味も全体的に塩味が強い。

まぁリザード族の料理も塩が多めであるから慣れたものである。

朝飯を食べてちょっと休憩を含め男3人集まっていた。


「それですっごい話しって何だ?朝から来るって事は相当な事なんだろ?」


ガンテツがドワーフのトップとしての顔で訊ねてくる。

こういう切り替えの早さは流石としか言えない。


「とりあえず危険な話ではないから安心してほしい。一応の確認だがお前らは神の世界にある工房については知ってるんだよな?」


「当たり前だ。死後腕の良い職人は神の工房に招かれて更に腕を磨くって話は子供の時に嫌って程聞かされるおとぎ話だからなぁ。」

「うむ。ご先祖様や生まれてくる子孫に恥じないように研鑽しろって話じゃよ。有るかどうか別の話しじゃ。」


よくある教訓系の話しとして伝わってる感じか。

まぁ本当ならば関りになることなんてあり得ないからな…

と、いう訳でせいぜい驚いて貰う事にしよう。


「まずはこの剣を見てくれ。話しはそれからだ。」


俺はドゥワーイン様から貰った鉄の剣を渡すと2人は持ったり振ったり嗅いだりしつついろんな角度から見ていく。

そして見れば見る程、「ありえない」や「おかしい」、果てには「バカな」と言いながら確認していた。


「兄弟…こいつぁ、どこで手に入れたんだ。」


「それの答えを言う前に聞きたいんだがその剣を誰が作ったのかはわかるのか?」


「ああ、こいつは、この剣はワシらの爺さんが作った剣だ。爺さんの剣はガキの頃からさんざん見て来たからクセとかですぐにわかる。だけど爺さんはずっと前に死んじまってる。なのにこいつは最近出来た感じだ。しかも爺さんがさんざん最高傑作だって自慢してたやつより出来が良い。こいつは本当になんなんだ、兄弟。」


「おとぎ話ってのは大体が過去の教えや戒めなんかを分かりやすく伝わるように作られたものだ。でも、その話が本当にあることを言ってたらどうする?おとぎ話の全部が全部作られたものだって言い切れる証拠ってあるか?」


俺の言葉を聞いてガンテツとダンテスの2人は限界まで目を見開いて体中汗だらけでこっちを見ていた。

もう結論は分っているのだろうが俺の言葉を息を呑んで待っている。


「俺は商人だ。いろんな所からいろんな物を仕入れて売りさばく。その仕入れる先は辺境の開拓村であったり交通の要所の街であったり過酷な環境の集落であったりと本当にいろいろあるが一番の仕入れ先は霊神ガンドラダが率いる名工の集う工房だ。俺はとある理由で神界の工房で作られた物を売り歩く使命をおってる。」


わなわなと震えながら再度剣を見る2人。

どのような事を思っているかわからないがここで追撃をドーン。


「ここまで言って察しの良い2人なら解ってると思うけどせっかくだから絶対的な証拠を見せよう。火のない所に煙は立たぬ、伝説はただの伝説じゃないんだぜ。」


2人の目の前に包みを置き布をほどく。

特殊な金色の煌めきを放つインゴット目にした瞬間2人は静かに泣き出した。

2人揃っていきなり男泣きをするもんだからかなり驚いたが当の2人はひたすら無言でインゴットを見つめていた。

5分か10分かそれ以上かそれとも実はそんなに経ってないのか解らない程沈黙が辺りを支配していたがガンテツがゆっくりと口を開けた。


「兄弟…一応聞きたいがこれはオリハルコンじゃな?」


「そうだ。神々の工房について話して言いと許可を取った時に証拠として持って行くと良いって言われて持って来たんだ。しかし、オリハルコンの事は知ってたんだな。」


「集落の祠にこぶし大ぐらいの大きさだけどなオリハルコンの原石があるんだよ。過去のドワーフがどれだけ頑張っても溶かせなかった話しだ。」


「そうじゃ、原石から僅かに見えるオリハルコンを見て皆夢を見るんじゃ。いつかオリハルコンで剣でも斧でもナイフでもいいから何か作り出すと。溶ける筈の無い原石を見て叶わぬ夢を見てたんじゃ…」


「そうだ、叶わぬ夢じゃ無くなったんだよ。兄弟が持ってきたインゴット。これは夢の始まりだ!ドワーフの未来がコイツだ!!」


「そうじゃ、その通りじゃダンテス!これはワシらの未来じゃ!少なくともオリハルコンが溶ける事は解った!!インゴットにしてあるって事はこれから加工するって事じゃ!!つまりオリハルコンを加工できる何かしら方法が神々の工房にはあるって事じゃ!!!」


さっき男泣きしてた時とは裏腹にテンションMaxになる2人。

しかし、そうか俺はオリハルコンっていうとんでも素材に恐れおののいていたが職人視点になるとインゴットを見ただけでそこまで解るのか。


「ところでさっきから全く触れてないけど触らないのか?」


俺の一言にピタッと動きを止める2人。

そして、モジモジと恥ずかしそうに体を揺らして言った。


「オ、オリハルコンじゃぞ。ワシの手で触れたら汚してしまいそうじゃし。」

「そ、そうだぞ。触れる前にちゃんとキレイにしないと嫌われるだろ。」


気持ち悪いわ!!

なんでゴリゴリヒゲ面マッチョがモジモジした所を見せられてるんだよ!

精神的ダメージがキツ過ぎる…


「でも、いつかオリハルコンを加工するって時どうするんだよ。触れないと加工どころの話しじゃないぞ。」

「それはそうなんじゃがぁ…」


いつまでもモジモジしてんじゃねぇよ。

女子高生ムーブしてるガンテツを何とか説得しとく触れるように準備を整えた。


「手も洗ったしヒゲも整えた。よ、よし行くぞ。お前らに兄の生き様を見せてやる!」


一歩一歩オリハルコンに近寄っていくガンテツに固唾を呑んで見守るダンテス。

一歩近づくたびにハァハァと呼吸が荒くなり目も血走っていくガンテツ。

手を伸ばせばオリハルコンに届く位置にまで来た時には既に限界まで見開いた眼は真っ赤に血走り大きく口をあけないと呼吸もままならない状態になっていた。

そして全身震えながら手を伸ばしていく様子をダンテスが祈るように手を合わせて見ていた。

後、数センチ震える手を伸ばせば届く距離に行った瞬間!

ガンテツは膝から崩れ落ちた。

慌てて近寄る俺とダンテス、そしてガンテツは精魂尽きた様子だったがその顔は穏やかだった。


「アニキ!しっかりしてくれアニキ!」

「ああ、ダンテスか。すまんな、ワシには無理じゃった。不甲斐ない兄でスマン…」

「そんなことはねぇよ!アニキは立派だった、精一杯戦ったじゃねぇか!」

「そうか、最後に立派な姿を見せれてよかったわい…」

「何を言ってるんだアニキはずっと立派な俺の自慢のアニキだよ。…アニキ?おい!返事をしてくれよアニキ!アニキィィィィィ!!!」



………なんだこの茶番は


・・・

・・


とりあえずガンテツが復活したが疲労困憊だったので少し休憩する事になった。

現況のオリハルコンは2人の安全のために布に包まれている。


「とりあえずオリハルコンのインゴットは兄弟が持っててくれ。今それを公表したらドワーフ達が動かんようになるわい。」

「そうだな、これから忙しくなっていくのにコイツは刺激が強すぎる。それこそ年寄り連中はマジでポックリ逝きそうだぞ。」

「分かった。こいつは俺が責任をもって預かっておくよ。」


さっきの状態を見てたらダンテスの言葉が冗談に聞こえないからな。

戻ったらカバンの中に入れて厳重に封印しておこう。


「しかし兄弟、ワシらにこんな凄い事を話して良かったのか?」


「ちゃんと許可は取ってあるから大丈夫だ。それに、あれだよ…2人は年も種族も全く違う俺を兄弟って言ってくれただろ。だからそれに答えたかったんだよ。」


「お前は俺たちの自慢の弟だよ、死ぬまで、いや死んでも俺たちは兄弟だぞ。」


言うが早いかダンテスが抱き着いてきた。

ちょ、苦しい、全力で抱きしめるな!

お前自身は細身とか思ってるかもしれないが俺からすれば十分マッチョだからな!

ギブアップのタップをしてるのに全然緩まることが無いどころかガンテツが俺とダンテスまとめて抱きしめた。


「そうじゃ、そうじゃ、生まれも育ちも種族も違っても兄弟じゃ!魂の兄弟じゃ!!さぁ、呑むぞぉ!今から呑むぞぉ!!」


こうしてムキムキマッチョの挟まれながら俺の午前は潰れたのだった。

…まぁ、偶にはいいかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る