後方支援も疎かにせず…

「ここに来るのも久しぶりだな…」


何もない白い空間。

寝た記憶はあっても死んだ記憶は無いからいつもの所なんだろう。


「お久しぶりですイサナさん。こうして顔を合わせるのはいつ以来でしょうか。」

「こちらこそお久しぶりです。ホントにいつ以来ですかね最近ドタバタ続きだったものでわからないですね。」


俺の後ろから優しく声をかけてくれたのはこの世界の主神グランフィリア様だ。

本当に久しぶりだ、最後にあったのは荒地に向かう前だったかな。

あの時はヴィオラとメイちゃんもこっちに来てて大変だった時のはずだ。


「この度は荒地の怨念を浄化していただき誠に感謝していると同時に危険な目に合わせてしまい申し訳ございませんでした。」


「そんなフィリア様が謝ることじゃないですよ!俺の意思で荒地に向かって俺の考えで手を出しただけなので。フィリア様に責任は無いですよ。」


実際にグランフィリア様に命令されて向かったわけで無いので謝られてもこっちが困る。

というか美人さんに辛そうな顔させるのがかなり罪悪感なのですぐやめて欲しい。


「気になさらないでください、我々神々の我がままでこちらに来てくれたイサナさんにどうしても一言謝りたかったのです。」


「分かりました!受け入れますから次の話題に行きましょう!何かわけがあって俺を呼んだんですよね!?」


「そうですね、この話はここで終わりにして本題に移りましょう。実はですね此度のイサナさんの活躍に報いるために報奨を用意したのでぜひ受け取って欲しいのとどうしても直接会いたいという者が多くいまして…いきなり見せると驚くと思いましたのワンクッションを置くためにここにお連れしたのです。」


「なるほど…でもさっきも言った通り浄化は俺の勝手にしたことなので報奨を用意してもらうようなことでは「ダメです」」

「ダメですよ、イサナさん。活躍には報奨を与えるの当たり前のことです。謙虚は美徳ではありますが行き過ぎる謙虚は自身にも付いてきてくれてる者にも冒涜となります。正当な働きによる正当な報酬を受け取るのは自身とその周りの者たちへの肯定にもなります。ですので、ぜひ受け取って下さい。」


「…分かりました。そこまで言われて受け取らない訳にはいきませんのでありがたく頂戴します。」


圧に押されてしまったというのもあるが言われた事は至極最もだと思うので遠慮頂くと返事をするとグランフィリア様が嬉しそうに微笑みながらパンっと手を叩く。

今まで白一色だった部屋に一気に色が流れ込んで来て、いつか見た神界の工房に移っていた。

目の前には緞帳どんちょうがありそれを引く為の紐の近くにはガンドラダが立っていてそれ以外の3方を多くの種族の職人たちが取り囲んでいた。


「よく来てくれた我らが救世主よ。今回は本当に感謝している。本当の意味であの戦いイービル大戦が終わったと思うと万の言葉を持っても感謝を表すことが出来ん。じゃから感謝の気持ちを物に変えたんじゃ。ぜひ受けってくれ!」


緞帳が上がって出て来たのは今よりも一回りは大きい立派な幌馬車だった。(なにげにセキトに装着済み)

新品の車体は木目美しくニスかなにかの独特なテリがあり御者台と内部の横向きの座席は革張りのように見えるがクッション性もある上に座らないときは座席を上げれる作りになっているので荷物もかなり積載できるようになっている。

そしては幌は赤字に白抜きで『大入』と懐かしき元の世界の字が入っていた。


「いやはや久しぶりに大仕事じゃったわ。すごいじゃろこの車体、板張りじゃなくてワシらサイクロプスが彫って作ったんじゃよ。」


「彫った!?こいつ全長だけで6m近くあるぞ!」


「6m程度じゃぞ。ワシらからすれば言う程大きくは無いぞ。」


そういえばサイクロプスキミら平均4~5mだったね、ガンドラダは一回り小さくて3mぐらいだけど。

自分の身長よりちょっとでかいって考えたらそうそう大きくは無いのか?


「でも、よく彫って作ろうなんて思ったな。木材なんて専門外なんじゃないか?」


「その通りなんじゃが救世主がワシらの里で木材を売っとったじゃろ?あれを見てワシらも出来るんじゃないかと思ってな。総出で作ったんじゃよ。幌の部分はリザード族が担当して車輪やらなんやらの金属製部品はドワーフ達が担当したんじゃぞ。素材にもこだわって車体には世界樹の「あ~いや、素材の説明は大丈夫だ。」ん、そうかの。」


正直もう神界工房の素材はお腹いっぱいです、だって全部神話級ヤバいのばっかりなんだもん。

ガンドラダの説明が終わったので俺はセキトに近寄った。

なにせこの大きな馬車を牽くのは現状セキトだけなのだ、彼が使えないと判断したらどうしよもうない。


「セキト、前よりだいぶ大型になったが問題なく牽けそうか?」


『問題ありませんぞ。大きさの割に揺れ少なくも牽きやすい程です。』


こんなに大きいのに揺れが少ない?

車輪も大きくなったからそれで揺れを抑えてるのかな。

しかし、でかい車輪だな金属製のようだけど詳しくは分らないな、【目利き】すればわかるだろうけど分かったら分かったで頭抱える事になりそうだから詳しくは調べない。

まじまじと車輪を調べていると車体の底が見えたのだが…


「…は?なんだこれ。」


底の部分は金属製の部品がゴチャゴチャとつけられており部品の各名称として俺が分かるのはスプリングぐらいだが全部ひっくるめてだと1つだけ思い浮かんだ…


「なんでサスペンションがついてるんだ…」


「その通り!さすがは技術世界からの来訪者一目見てそれが分かるとは素晴らしい!!」


横から声をかけられてとっさに飛びのいてしまった。

其処にいたのはピオスとは違うヨレヨレの白衣に白髪交じりのボッサボサの髪とヒゲの瓶底の様な分厚いレンズのついたメガネをかけた老人だった。


「初めまして来訪者殿、某はこの世界で唯一の科学者プロフェッサーパパス!この馬車の設計を携わった者です。来訪者殿が快適に旅を出来る物を作るようにグランフィリア様に命じられ時に遠慮は要らないと言われましたのでその言葉通りこの世で一番快適な馬車づくりを開発させていただきました。走破性と快適さの両立、そう!サスペンション搭載4WD仕様の予算ノーリミットなゴッドワゴンを!!車体や幌各素材はここで揃えられる最高級の物を用意させましたが一番の売りは来訪者殿が覗き込んだそのシステム類!リジットアクスル式サスペンションを搭載することでどのような悪路もなんのその…」


また、濃い奴が来たなぁ…

まだ説明が続いているがとりあえず無視してガンドラダとグランフィリア様の方を見ると二人ともわかりやすいぐらい困った顔をしていた。


「悪い子ではないのですよ。生前にいろいろ我慢していたものがここにきて爆発しているのですよ。」

「実際にかなり有能なんじゃ。なにせ生前に独自の理論で神界にコンタクトできた唯一の者じゃからな。」


それは素直に凄いな…

というかこんなオーパーツまがいの馬車ホントに貰っていいの?


「パパスも言ってましたが遠慮なく貰ってくださいね。オーバーテクノロジーなのはわかってますがそれを理解できる者は純神以外は皆無ですので見られたとしてもどうにもなりませんよ。」

「そういうことじゃ。その部品作りに携わったドワーフすら良く分からず言われた通りに作った程度じゃからな。遠慮なく使ってくれ。」


「…と言う訳でして自分たちが世界の管理者だと勘違いしている連中が台頭しているせいで科学技術はなかなか発展できないのが現状なのです。某もそんな現状を変えようとトップに成った事はありましたが頭でっかちのせいで上手く行かずそのまま病でポックリといった具合でした。っとちょっと話しがずれてしまいましたが以上がこの馬車の説明ですぞ。」


「え、ああ、ありがとう。おかげで良い物を手に入れられたよ。科学者って事は何か発明品でもあるの?」


「それはもちろん!自分でも最高傑作と呼べるものがありまして。その名もずばり『無農薬式植物急成長水発生雨雲生成器』!高濃度の水と土のマナを含有する水を降らすことが出来る雨雲を作り出すことが出来る画期的な魔道具なのです。水と土の力を強めることが出来るので植物がグングン育つのです。しかもマナを直接吸うので植物自体強く大きくそして美味しくなるのです。」


「それは凄いな!状況によっては飲用水確保も出来るんじゃないか!?」


「それがですな…水や土のマナに相性が良いモノ以外が飲むと高濃度過ぎるマナに対応できず大体が腹を下します。ああ、この水で育った植物を食うのは問題ありませんぞ、成長の途中で不要なマナは空気中に放出されますので。ただ、水を直接飲むのはオススメできませんな…」


「なんというか…いい話ってのはそうそうないもんだなぁ…」


「ま、まぁいつの日か機会があればぜひ某のラボまでお越し下され。歓迎いたしますぞ。」


そういってプロフェッサーパパスは出て行った。

若干そそくさと逃げていったようにも感じたが俺の気のせいだと思いたい。


「イサナさん、面会する前に少し休憩を致しましょうか。」


「分かりました。では、ありがたく休憩させて貰います。」


グランフィリア様がパンと手を叩くと周りが花の咲き誇る庭園に代わっていた。

庭園には休憩用と思われる机にティーセットが用意されていた。

この後は誰と会うんだろうかと興味半分怖さ半分でドキドキしながら天上の味を楽しんだのだった。

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