旗印を決めて…

貿易に関する草案を種族代表の3人が話しているうちに俺はリザード族の工房長を呼んで来て貰った。

次の話しは職人達にも大きく関係があるからだ。

親方も来てまったり休憩していると3人が戻って来た、どうやら草案についてはある程度まとまったようだ。


「こっちはある程度形になったぞ。それで兄弟、ブランドって何じゃ?」


まぁ、その質問は出るだろうとは思ってた。

思ってたのでちゃんと考えがある。

というわけで俺はカバンから二振りの鉄の剣を取り出した。

両方とも作り手は一緒でほぼ同じ品質の剣である。


「ブランドってのはの事だと思ってくれたらいい。例えばここに二振りの鉄の剣があるだろ。例えば片方がドワーフ製で片方がニンゲン製ならドワーフ製の方が良さそうに感じるだろ?」


うんうん、とババ様と大神官が首を振るがガンテツだけは不思議そうに二振りの剣を見ていた。


「…兄弟、こいつは二つともワシらドワーフが作ったもんじゃねぇか?」


「その通り、この二つはドワーフ製で同じような出来でさらに言うなら作った職人も同じだ。『商品に与えるイメージ』というのはいい点も悪い点もあるという事をまず知って欲しい。」


種族代表だけでなくいつの間にかオオイリ商店の4人も近くに寄ってきてなるほどと頷いていた。


「正直なトコロ、見ただけでこの二つの違いなんて分からないから片方がドワーフ製って言われた時そっちの方が名品だと思っタナ。」

「巫女様の言う通りですね。パッと見ただけでわかるのはそこの店長ぐらいですからドワーフ製は名品という先入観が勝ちましたね。」

「んだなぁ。名工が作った物って聞いただけで凄そうに思うものだぁよ。たとえそれが失敗作だったとしても。」

「イメージによる見方の違いと言うのは良く分かったけど主はそれをどう利用する気なんだい?」


「いい質問だヴィオラ。俺は荒地で生まれた品を各種族ごとでじゃなくて一つのまとまりとして売り出そうと思ってるんだ。ドワーフ産やリザード産で無く荒地産としてな。この過酷な土地が名工を生み出す土地だというイメージを植え付けたいのさ。」


「ゴシュジン、言ってる言葉としては分るけどそうすると結局どうなるノダ?」


「じゃ、俺の考えをこれからの流れに沿って話していくな。まず、初めに貿易が始まるとまず初めに金持ち連中がを買いに来る。」


って何をだい?」


「おそらく何でもいい。そういう真っ先に買いに来るような連中は実用性よりも物珍しさを求めて買いに来ると思うんだ。まぁ、職人の一族と有名でありながらあまり出回っていないドワーフ製のを目的に来ると見てる。しかし、幸いな事にドワーフ族の集落はこの荒地地帯の最奥だ。物珍しさを求めて買いに来た連中の前に立ち塞がるのはサイクロプスとリザードの職人達だ。大きく迫力のある彫像にここらでしか取れない素材で作られた衣服。きっと彼らは迷うだろうな思ってもいなかった良品伏兵の存在に。一部はそこで買って帰るだろうが売り手である俺たちから見れば何の問題も無い。むしろお客様として丁重に扱うだけだからな。そして、買わずにドワーフの集落に辿り着いた者を待ち受けるのが、この世で唯一の品、だ。長年の経験と受け継がれてきた技術で作られる金属製品はそれは見事な物だが生まれたばかりで発展途上のガラスに宿る未熟でありながらも形を成さそうとする職人の苦悩が見えてしまうような品もまた別種の魅力がある。そうした荒地の名品を手に入れた連中はそれを手に多くの知人や友人に声をかけ、呼び寄せ自慢するのさ。『あの土地は驚くほど険しい土地だが職人の腕は本物である』と。そういった話が各所で一斉に上がるとすぐに広まるんだよ。『荒地は名工が育つ土地だと』ね。」


俺がそういい終わるとそこにいた皆が一斉に拍手をした。

リザードの工房長にいたっては号泣していた。


「主様がそこまで見通していたとは思ってもおりませんでした。メイは感服いたしました!」

「サイクロプスが作った石像がそこまで評価されたら嬉しいだぁ。」

「工房長はこれからの事を想像して感動して涙が止まらないそうですよ。」

「ガラスは今まで扱ってきた中では異質じゃからそれに惚れ込んだドワーフも多いが、未熟な品が売るというはワシらの矜持に反するがそれを求められると嬉しくて売ってまいそうじゃのう。」


「感動してくれるのはいいけどまだ俺の話しは終わってないぜ。今言ったのはあくまでのだ。ブランドって位置づけにするにはまだ大事なものがあるぜ。」


ほうほう、とみんな今か今かと前のめりので聞いてくれる。

リザード族の工房長にいたっては号泣しているので前が見えないと思うんだけど大丈夫か?


「それはなロゴだ。花押かおう、マーク、シンボル、地域によって言い方は変わるかもしれないけど簡単に言うとだ。世界中の皆が俺のように目利き出来ればいいがそういう訳にはいかないからな。」


「主様、どうしてその模様が必要なんですか?主様がいつも売る時のように説明してあげればいいのではないですか?」


「メイちゃんの言う通り売る時に説明をするのは当然だけど忙しいときとか常に説明できる状態じゃない場合もあるよね。そんな時にロゴがあれば買う側が商品を選ぶ基準になるし、親から子にに受け継がれた時にロゴがあればその品の由来や価値が分かりやすくなるんだよ。実際にカービン子爵領で伝来が分からないから調べてくれって言われたこともあったしね。そういう事でロゴを用意したほうがいいって理由ともう一つは作り手側が一定の品質を保証するっていう職人達の旗印でもあるんだよ。」


「職人達の旗印になるってどういうことだぁよ?」


「ロゴを刻むという事はそのブランドを背負う事、今回で言うと荒地の職人達の腕を保証するという事になるんだよ。だから生半可な物を作って売ったらその作り手だけがとぼされるという事でなく荒地全体がとぼされる事になりかねないのさ。だからこそ職人たちの旗印というわけさ。ただし、現実問題として一定の品質を保証するのは結構難しかったりする。なにせ全部手作りなんだから、親方の腕と見習いの腕は全然違うでしょ。そう言った事を含め今回は3段階的なロゴが良いんじゃないかなって思ってる。基準となる中堅ぐらいの品質に一段上でトップの親方、そして一段下の見習い。そういう風に用意すれば大概は売りに出せると思うんだ。」


「確かに兄弟の言う通り職人たちの旗印だな。今までは各工房だけ背負ってたのが荒地全体となるとやる気が上がってくるってもんじゃ。」

「いい考えだぁよ。それに段階ごとのロゴがあれば職人も上を目指す指標になるだぁよ。」

「なにより見習いも売れるように出来るのが大きいねぇ。見習いでも稼げると分かれば職人を目指すのも多くなるよ。」


「補足だけどロゴは各品で一個である必要は無いと思うよ。いっぱいあり過ぎてゴチャゴチャしすぎたら本末転倒だけど2,3個つけるのはありだと思う。例えば荒地ブランドのロゴを入れて自分の所属してる工房のロゴや個人のロゴを入れることで荒地のどこそこ工房の誰それが作りましたってわかるようになるからね。あとは日用品とか消耗品とかでそんなに品質を問わない物はロゴ無しでもいいかもね。そのあたりのロゴの運用とロゴのサインは皆に任せるよ。なにせ皆の旗印になるんだからみんなで決めないとね。」


長くなったが説明終了!

実務的なのは全部丸投げして後は品が出来るのを待つだけと思ってたのだがガンテツに肩を掴まれた。


「兄弟、今回の話しは実に為になった。これからどうするべきなのも良く分かった。と言う訳で今の話しをもう一度職人たちの前でしてくれ。ワシらが言うより確実に伝わると思うからな。というわけで連れていけ。」


え?と思う間もなくサイクロプスの大神官に丁重につかまれてリザード族の工房に拉致もとい運ばれていった。

戦いの後に3種族の技術交流的なのが続いていたと言うかと言うか未だに3種族の大多数の職人が残っていたので彼らの前でさっきの話を行ったのだが話が進むにつれてどんどん熱気を帯びていくのが分かった。

正体の不明の汗をかきながら説明を終えると歓声とともにダッシュで迫って来た職人たちに捕まってもみくちゃにされた挙句何故か胴上げされるという珍事に発展。

その後誰かが「ロゴを決めるぞ」という言葉が出るまで続き出た後は俺一人残してみんな離れていったのだった。


後日出来上がったロゴは丸の中に背中合わせで横向きのドラゴンとサイクロプス、そして中央にクロス状のハンマーと斧が描かれた物になっており荒地の住人らしい荒々しさを感じる物となった。

このロゴが最上位の状態で一番下は各種族のマークだけで真ん中は種族のマークと丸が入るとの事だった。

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