第3章 オオイリイサナの野望

オオイリ商店再稼働!の、その前に…

仮名・ヴァルキリーやっかいな客にお言葉をいただいた俺は何かが起きる前に全力でババ様の家に戻り引きこもった。

そして、リーサ、ヴィオラ、メイちゃんに外の状況を把握してもらうために偵察に出て貰っていた。


「ゴシュジン、戻ったゾ」


「おお!リーサ帰ってきたか。で、外はどんな感じだった?」


「どんな感じと言っテモ、いつも通りダナ。」


「いつも通り?あんなイレギュラーが来たのに?」


「あれは確かに神の使いダガ、リザード族に直接かかわる神はドラゴンだかラナ。グランフィリア様の使いは確かに凄いが凄い止まりダナ。もしも、祖龍ルーツ様の使者であればリザード族は皆ゴシュジンを崇め奉ってたゾ。」


そういう感じなの?

不思議に思っているとヴィオラとメイちゃんも帰ってきてくれた。


「主様、ただいま帰りました!ドワーフの方々とお話してきましたよ。」

「ただいま、主。ボクはサイクロプス達に聞いてきたよ。」


「二人ともお帰り!で、どうだった?」


「ドワーフの方たちは言葉をもって当然だ、って感じでした。特にガンテツさんとダンテスさんが『流石は兄弟だ!!』って言いながらお酒を飲んでましたよ。」


「サイクロプス達も似たような感じだったね。それよりも神様たちがちゃんと地上を見てくれるのが嬉しいって言ってたね。大神官様も天に向かってお祈りをしてたよ。」


「あるぇ?もっと大騒動になるかと思ったけどそうでもないんだな。なんかもっと奉られてよくわからん旗印にされてなし崩し的に戦争に、まで考えていたんだけどなぁ…」


「ああ、もしこれがニンゲンの前で起きてたらそうなっていたかも知れないね。彼らは無駄に神聖さを貴ぶくせにそれを平気で自分たちに良い様に捻じ曲げるからね。まぁ、これが荒野の各々の種族の神からの言葉だったなら今頃主は皆の前に引き釣り出されていただろうね。すごいお方から声をかけて貰った程度に思っていればいいと思うよ。」


…なんだろう、すごく宗教観というか、神様観が違うというか異世界ギャップが凄まじい。

俺のいた世界と違って神様がいることが分かっているからこそなのかな。

他国のトップからお褒めの言葉をいただいた程度に持っていればいいのかな。


「まぁ、大きな騒ぎになって無いのなら気にしないことにするか。それよりも解決しないといけない問題がいっぱいあるし。」


「アァ、売れる商品が無いだったカ?あんなにいっぱい仕入れていたのに不思議な話ダナ。」


「今は、品物に出来ないだけでちゃんとした方法をとれば問題無い。だからいろいろと根回しをするのが今の段階だ。失敗したら大破産だけどな…とりあえず商品開発の状況を見に職人たちの所に行ってくるか。」


・・・

・・


引きこもるのをやめて職人たちの集まっている区画に向こう事にした。

途中でいろいろな人から「おめでとう」とか「よくやった」とか声をかけて貰った。

3人が言うようにホントに騒ぎになって無いんだな。

そんなこんなで工房に到着、リザード族の職人たちがいろんな革や骨を運んでたり、皮をなめしてたり、骨を研磨してたりと忙しく動いている中に数人のドワーフが見学をしたりリザード族に教えを乞うていたりと今日も大賑わいであった。


「やぁやぁ、よく来たね。頼まれていた革靴がとうとう出来上がったよ。それにベストの方もばっちり調整済みだ。まずは見てくれたまえ。」


そういって工房長が持ってきたのは黒光りする革靴と同じ色合いのベストだった。

この世界でも革靴もベストは存在している為に形事態はよくあるタイプだが俺が目を付けたのはこの光沢にあった。

新品のエナメルの様な独特な光沢を持つこの革はブラックワームという荒地にしかいない動物からとれるので他の地域では作れない特産品になるのは目に見えていた。

勿論、革だけでなくリザード族の戦士為に強靭な革製防具を作り続けていた熟練の腕があったからこその出来栄えになっており俺は笑いを止めることが出来なかった。


「ベストは簡単だったけど靴は光沢を残しながら加工するのがちょっと大変だったね。普段は目立たないように光沢を消すからね。それで、どうだい?その靴は店長のお眼鏡にかなうかい?」


「完璧だよこれは!間違いなく売れるよ、いや売り切る。ブームにまで発展させてみるよ!それに難しい点があるのも良い点だ。簡単に真似できないし量産出来ない言い訳にもできる。」


「そうなのかい?真似されるのは困るけど簡単に作れた方がいいと思うけど。」


「これが普段使いするようなものなら量産体制を整えるけどこの靴もベストもの品にするつもりだからな。希少性レアリティを上げることで値段の吊り上げが出来るのさ。そして、同時に廉価版として光沢の無い物や少ない物も売る。金のある人や見栄を張りたい人は金を出す、そうしたらおのずとブームが起きて廉価版も売れて行く。ククク、笑いが止まりませんな。」


「…悪い顔になってるぞ兄弟。」


ニヤニヤしてる俺に声をかけてきたのはドワーフ族の義兄弟であるダンテスだった。

同じく義兄弟のガンテツはリザード族渾身の革靴をマジマジとみていた。


「フゥム、こういった革を扱う技術はまだまだ敵わんな。この隙間の無い縫い目は見事としか言いようが無いな。」


「だよなぁ。イサナが来た後にリザード族やサイクロプス族と話して思ったけど俺たちって武器作りと酒造りに偏りすぎたよな。革もそうだし木工もそうだけど武器作りのついでに他のを作るって作業だったもんな。」


「無意識にそうなってたからのう。ワシらドワーフが頑固と言われても仕方ないなと思ってしまったわい。ところでこの靴だがワシらドワーフにも売ってくれんだろうか。」


「え!そりゃあ勿論大歓迎さ。職人の種族として名高いドワーフが使ってくれるならうちらは大喜びだ。」


「待て待て待て、ストップ、ストップだ。悪いがガンテツこの靴はダメだ。このタイプはこの辺りの気候に合ってないから使いづらいぞ。そもそも、どうして靴が欲しいんだ?俺はドワーフ達がサンダル以外の靴を履いてるところなんて見たことないぞ。」


大喜びで快諾をしようとする工房長を慌てて止める理由としては言った通りこんな猛烈に暑い地域でこんな足を覆うタイプのを履いたら水虫間違いなしだ。

前世で一人っ子だった俺はいまだに兄弟というものに慣れないが憧れはずっとあった、そしてこの世界で生まれも種族の違う俺を兄弟と言ってくれるこの2人には全力で力になろうと心に決めているのだ。


「別にリザード族から革靴を買う事自体を反対はしてない。どうせならちゃんと状況に合わせたのを作ろうじゃないか。ここには腕のいい職人が揃ってるんだからな新しい物を作るなんて造作も無いだろう?」


「たしかに兄弟の言う通りじゃな。まず使う場所なんじゃが鉱山で使いたいんじゃ。普段は靴なんて履かんが鉱山は別じゃ危ないからな。ただ、今履いとるのが板金で作った靴じゃから暑いし、重いし、歩きづらいんじゃよ。じゃから代用出来そうな物が欲しかったんじゃよ。」


板金で作ったらそりゃそうなるだろうよ。

そもそもそれは靴ではなく鎧じゃないか思いながら俺は端切れに簡単にブーツタイプ図面を描いた。


「俺が思い浮かんだのはこういったブーツと呼ばれるタイプの改良品だ。長さは膝下で履きやすい様にスリットを作って裏に布を張る。そして履いた後にスリットの隙間を閉めるためとフリーサイズに出来る様にサイズ調整できる為のベルトを太ももと足首とかのあたりにあった方がいいな。あと足の甲からつま先までの部分に薄い鉄板を入れるのが大事だな。足で怪我をするのは大体この辺りだからな。板金の靴よりは蒸れにくいだろうけど形的にどうしても蒸れる。蒸れるのが嫌なら靴下を足の指の形にした5本指の形にしたらだいぶましになると思うぞ。素材に関してはよくわからないけど靴底は滑りにくいようなのを使うとかスパイクを打つとかした方がいいかもしれないな…ってどうした、そんなにボーっと見て。もしかしてこのタイプは使い辛かったか?」


俺がそう言うと3人はハッとして身振り手振りで慌てて答えてくれた。


「いやいや、そんなことは無い。むしろ完璧な答えが出て驚いていただけだ!なぁアニキ。」


「ウム。ダンテスの言う通りここまで機能的なのが来るとは思っておらず驚いただけだ。」


「そうそう、ドワーフの2人の言う通りさ。リザード族は基本的に靴を履かないから図面を見た時は無駄にでかいと思っていたけど靴1つにここまで考えられてるのがあって驚いただけさ。」


そういうと3人は図面を指差しながら「あそこはこうして」とか「ここの素材はこれが良い」とか話し合いを始めた。

そうすると他の手が空いた職人たちが顔を突き合わせている3人が気になって近寄っていき話し合いに参加する。

するとまた、他の職人も気になって集まってきて…を繰り返しいつの間にか俺が入るスペースが無くなってリザード族とドワーフ族の職人による開発会議が始まっていた。

これ以上は俺がいても力にならないので工房を後にする事にした。


皆のもとに帰るその帰り道でサイクロプス族が岩壁に集まっていたので気になって近寄ってみると大神官の指示のもと、みんなで協力して壁を彫っていた。


「みんなで岩壁に何を彫ってるの?」


「これはこの前の戦いを彫ってるだぁよ。あの戦いは記念すべき戦いだったから後世に伝える為と目印の為に彫ってるだぁよ。」


「目印?」


「んだぁ、商人さんも知っての通りサイクロプスはこの荒野の見張り番だぁよ。その時に何かしら目印があるといろいろ指示がしやすいだぁよ。」


なるほど、元の世界だと12時の方向とか6時の方向とか時計の文字盤に例えて方向を伝える方法に近いな。


「おで達が石像彫るのも同じ理由だぁよ。この荒野はとっても広いだぁ、サイクロプスが数人かけてやっと端から端まで見渡せるだぁよ。そんな荒野を動き回るとき晴れてればいいけど暗いときや嵐の時は前が見えず遭難するだぁ。それを防ぐために荒地のいろんなところに石像を置いて行ってるだぁよ。」


「なるほど!そういう理由があったのか。その石像を置くときの工事とかもサイクロプスでやってるのか?」


「んだぁ、岩を彫るのも得意だけど土を掘るのも大得意だぁよ。石像を作って設置まで出来て一人前の職人だぁよ。」


「それはちょっと意外な特技だな。だから塩の祠の復旧も手馴れていたのか。」


「てっきり知ってて声をかけたと思ってただぁ。もし商人さんが荒地に家を建てるなら声をかけて欲しいだぁよ。すぐにおっきいの建ててやるだぁ。」


「もしそうなった時はお願いしようかな。さてと、俺はそろそろ帰るよ。」


大神官に挨拶をして俺はその場を立ち去った。


今日は中々いい1日だった。

異種族の職人たちの中は良好だし面白い情報も聞けた。

さてと、そろそろ動き出しますかね。


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