幕間・これからの神々の動き
「これから、イサナさん会議を行います。」
グランフィリアがそう告げるとパチパチと拍手がなった。
もう何度目かすらわからないイサナ関連に伴う会議、初めの頃は大それた名前がついていたが回を追うごとに短くなっていき今はイサナ(君やさん等は司会により変動)会議となっていた。
今回の議題は今まで神々が観測できなかったために放置されていた荒地地帯の件と
「まずは観測班からですが
そう報告したのは先日の戦いで獅子奮迅の活躍を見せた観測班の霊神である。
観測班のトップは豊穣神であり彼女はその補佐でしかなく本来であればここに座るメンバーでは無いのだが先日の働きと精霊妖精の大暴走を抑える為に豊穣神が缶詰め状態である事も合わさりこの場に立つことになったのだ。
「いっその事荒地を一気に緑化してしまえばどうだ?1000年以上耐え続けておったのだからそれに報いるのも神の務めではないか?」
戦神の意見に賛同する神もちらほらとおり、特にドワーフの神ドゥワーインと巨人の神マキアは力強く頷いていた。
「戦神様のご意見はもっともではありますが何分1000年以上荒地という過酷な環境で生きてきた生命ばかりですので急に緑地になりますと対応できないものばかりです。ですので豊穣神様がちょうどいいバランスを見極めつつ数年かけて緑地していく方針です。また、しばらくの間は荒地の生物に地力をつけさせるために豊穣を約束するとの事です。」
「なるほど、豊かであれば良いという訳でもないものだな。そちらの動きに関しては了解した。想定通りに動いてくれ。あのような過酷な土地でありながら素晴らしい力を持ってる者達だ。地力をつければ敵う者はいなくなるな。」
戦神やほかの神々の納得した様子を見てホッとする観測班の担当神。
彼女に続いて報告を行ったのは今回の戦いで唯一イサナからのとばっちりを受けた神だった。
「では、冥府からドラゴン達の一斉蜂起についての報告を行う。まず大前提として前回の騒動だがあれはドラゴン達の立場からだと蜂起ではなく出迎え、だそうだ。」
「…出迎え、ですか。しかし、吼えてましたよ?」
「確かに吼えていた、吼えていたのだがアレは地上の同胞に向かって吼えていたらしい。長年に渡り土地に縛り続けられたドラゴンが迷わず来れる様にとの事だ。実際にあの時とほぼ同時に塩の祠で封印の楔になっていたドラゴン達が解放されたしな。現在は冥府にてもともといたドラゴンと穏やかに過ごしている。」
そういった報告を疲れた様子で冥王が言った。
この世界において神々を振り回せる事が出来る数少ない存在がドラゴンである。
それはこの世界の出来方に由来するものであった。
簡単に説明すると創造神が世界を作って次にドラゴンを生み出した
グランフィリアから見ると
身内ではあるもののなんとなく手が出しづらい感じであり長女がそんな感じなのでその下の弟妹達も手を出しかねている状態がこれまで続いており、対するドラゴン達はグランフィリア達神々にこれといった苦手意識も無くマイペースに動いているので振り回されるのはいつも神々といった構図が神話から続いてるのだ。
そのため今回の出来事もため息一つ吐いてドラゴンのやることだからなぁと流したのだった。
「ドラゴンの事はさておき今回の戦いでの一番の収穫は『冥界の火』が
「冥界の火で
冥王の報告に他の神々は拍手で答えた。
特定の相手に効く冥界の火の開発は至難であり神ですら長く感じる程時間がかかるのだがそれはまた別のお話。
「荒地の状況について他に報告は無いですか?…無いようですので次にイサナさんが非観測状態においての特異な動きを確認できた者は報告をお願いします。」
今この世界で良い意味でも悪い意味でも一番注目されてる人物、イサナの動きは神々ですら予想がつかず監視もとい観測出来ていない僅かな間の動向も共有しようという事になっていた。
しかし、イサナが非観測状態に入っていた期間はごくごく僅かであったため流石に無いだろうと大半の神は思っていたのだが、大きな体を出来る限り小さくしておずおずと一つだけ手が上がった。
「…ガンドラダ、それはイサナさんが先導して荒地の同盟を結んだとかそれ以上の状態ですか?」
「その通りですグランフィリア様。我らが救世主殿は大きな波紋を起こしました。先ずはこちらを見ていただきたいのです。ドワーフのとある職人が兄の誕生祝に送った物です。」
モニターに映ったのは寸胴の様な形に無骨な取っ手がついている半透明な器だった。
それを見た時の神々の反応は様々だったが特に大きな反応を見せたのはエルフの神エールダールとドワーフの神ドゥワーインだった。
「ドワーフの太い指でこれ程大きな水晶の削り出しをするとは見事ですね。修練を積めばエルフにも引けを取らない職人になるのではないですかね。」
「初めてにしちゃぁ上出来じゃねぇか。やっぱりワシらドワーフは職人になるべき種族じゃな。」
勝手な思い込みで納得している2柱に若干ゲンナリしつつガンドラダは正しい情報を伝えた。
「申し訳ないのですが、これはお二方が思ってるような水晶の削り出しでは無いのですじゃ。これが救世主殿がもたらした新たな技術、ガラスの加工品になりますじゃ。」
新技術、その言葉にざわつくがそれもすぐに落ち着く。
ガラスの加工というのは他の世界では一般的な技術であるのはここの神々は知っていたがこの世界においてガラスというのは魔力がこもり辛くこれといった使い道が思いつかないからだ。
「ガンドラダよ、神界の職人を束ねる者から見てこの技術をどう見る?」
ドワーフの神ドゥワーインが少しでも新技術であるガラスの有用性を上げようとガンドラダに訪ねるが彼は困った顔をして答えるしか出来なかった。
「実を言いますとワシもこれといった使い道が思い浮かばんのですじゃ。武器にするには脆く、魔道具にするには魔力適正が無さ過ぎる。今回のように食器などの日用品に使う程度では無いですかのう…」
残念そうに肩を落とすドワーフの神ドゥワーイン。
ただ、ここでちょっと違う視点を持って発言する神が現れた、薬学の神ピオスである。
「ガンドラダの意見はもっともな事だと思う。ただ魔力を通し辛いというのは利点にもなりえる。今思いついただけなので確証は無いが魔法薬の保管容器に最適かも知れない。魔法薬は素晴らしい効き目をもたらすが最大の弱点が保有する魔力に左右される所だ。時間経過で魔力量が減ればその分効果も減るし、外部からの刺激で魔力が変質すれば勿論ながら効能が変わる。故に魔法薬の保管は非常に難しくそれが多くの魔力が混ざり合っている地上ならなおさらだ。もし、ガラスが考えている通りの性質ならば医術革命が起きるだろう。」
おおぉ、と歓声があがる。
魔法による依存が高いこの世界において医術とは治癒魔法の腕とされる風潮がある。
確かに治癒魔法は便利ではあるが基本的に外傷しか治せないため細菌やウイルスなどによるいわゆる病気に関しては無力といっても良い状態である。
その為に古来から多くのヒト、神問わず病気を治療する為の薬を開発していったのだがなかなか定着せず歴史に埋もれていった。
そのような薬の中の1種類が魔法薬である。
特殊な素材や製法により作られた薬で絶大な効果を表すものが多いがピオスの言っていた通りの弱点もある中々扱いづらい物であった。
「それに何よりもガラスをもたらしたのはあのイサナだ。何かしら理由があるのだろう。」
その言葉にすべての神々が大きく頷いたのであった。
・・・
・・
・
「…では、報告も無いですしイサナさんへの褒美はイサナさんに決めて貰うという形で決定ですね。あと、解放してくれたお礼を伝えて貰うための伝令は飛ばしてますのでそのあたりの心配はいらないですよ。」
流石はグランフィリア様、対応早いなど和気あいあいな雰囲気になった中で恐る恐る手が上がった。
手を挙げたのはニンゲンを創った女神ノエインだった。
「あら、ノエイン何かあったの?」
「伝令というのは姉さまの部下たちの天使を使ったのですよね?」
「ええ、そうよ。彼女たちが一番早くて正確だからね。」
「その、使う事自体は問題ないと思うのですが、あの子達はその…融通が利かないと言いますか機転が無いと言うか、ようするにイサナさんに迷惑はかけて無いでしょうか?」
ノエインの疑問に多くの神々がグランフィリアの直属の天使、イサナが言うヴァルキリーについて思い出す。
グランフィリア至上主義であり凄まじい武力持つ彼女たちはグランフィリアが言ったどのような命令もこなす。
逆に言えばどのような命令をこなす為以外にはかなり無頓着でありそれにより何度か問題も起こしてきた。
グランフィリア本人も何となく気になり観測班に言ってイサナの様子をモニタリングすることにした。
モニターに映ったのは伝言を伝え終わり神界に帰ってくる状態だった。
大勢の前に地上では伝説として語られる天使が現れただけで場は騒然としているのに直に言葉を貰ったとしてイサナに注目が集まりイサナ本人はその状況を理解し頭を抱えてしまっていた。
「え~と、そのぉ~、解散!解散です!今日の会議は終わりです。皆さん決められた通りに動きましょう!!」
グランフィリアを筆頭に神々は目の前の大問題を見なかった事にしてそれぞれが自らの持ち場に帰っていった。
どうやら今日も世界は平和なようです。
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