幕間・これまでの神々の動き(後編)
その報告は神界に風雲急を告げるには充分でありグランフィリアを中心に緊急の会議が開かれた。
内容は非観測地域に向かうイサナの支援である。
「では、ガンドラダ。イサナさんの共の2人に最高の装備をお願いします。」
「かしこまりました。工房の総力を持って作り上げて見せます。」
「頼もしいですね。もし、イサナさんからの支援の要請があればそちらを最優先にして構いません。我々の目が届かぬあそこにおいて観照できるのは縁の深いアナタが頼りになりますので。」
「お任せください。荒地生まれの他の職人達にも声をかけておきます。必ずや救世主の力となることを我が要塞にかけて誓いましょう。」
「ドゥワーインも難しいかも知れませんがお願いします。」
「可能限り力を貸すつもりですが力を貸す前に我が子らが解決するでしょうな。なにせワシに似て強く、勇敢で何よりも職人ですからな。」
そう言って火の神でありドワーフを創った神ドゥワーインは力強く胸を叩いた。
こうして緊急の会議は一度終わったのだった。
この世界において転換点というは何個かあるが一番大きな転換点は1000年前の
獣や人間、神、ドラゴン、果ては植物すらあらゆる種族を超えて異世界からの侵略者と戦ったものであり神話時代の終わりでもある。
あらゆる種族が協力して倒した
奴ら
そんな連中と激戦の末勝利した神々は肉体を捨てて精神と霊体をメインとする神界に移り自然の管理を行ったり
だが、世界には神の目が届かぬ土地もまだ残っている。
それが神界で非観測地域と呼ばれる場所であり1000年前の
勿論ながら神々ただ黙って見続けていた訳でなく何らかの方法で浄化しようとしていたのだがそういった
人間から神々の末席に座った霊神達ならば汚染の激しい地域のまだ汚染が少ない外円部ならば多少は干渉できるのだがそれも微々たるものであった。
そういった地域にイサナが向かうというのだから過保護と言って良いほどに支援しようと神々は動いていたのだった。
工房の職人総出でヴィオラとメイの為の装備作りが始まった。
神界で用意できる最高の素材で最高の装備を作るというのはその難易度も最高という事であった。
死んですら修行を続ける職人達ですら気の抜けない素材達を使っての装備作りは至難を極め鬼気迫る表情であったが職人達は嬉々として励みイサナ達が学園都市を出発するまでに作り終えた。
そして引き渡しの時グランフィリアのちょっとしたお茶目はあった物のヴィオラとメイは喜びの涙を流しながら装備を受け取りその姿を見た職人達は自分達がやり切った
事を喜び満足を得た一部の職人はそのまま輪廻の渦に向かったのだった。
そのイサナ達は荒地に向かって進んでいった。
途中に賊で襲われたりカービン子爵領に寄って鏡の代用品として工房から持って帰ってきたものがかなりヤバかったり工房の職人達の為に木材を仕入れたりしながらだが概ね順調に進んでいた。
それに対し神界は荒地に近づくにつれピリピリしたり落ち込んだりするものが増えていった。
なにせ娯楽の薄い神界で生まれたイサナウォッチングという旅番組を見るような新たな楽しみはこれまでのわずかな時間でかなり深くまで神界の住人たちに欠かせない物となっていたのだ。
イサナが見れないのならイサナ以外を見ればいいのではないかと言う話しなのだが残念ながらそれは不可能に近いのだ。
基本的に神界から地上を見る時は人間ではなく自然の調整用に作られていて広範囲を監視できるように
人間の営みに極力介入しないように神界の住人はしているので今まで特に問題にならなかったシステムだったのだがイサナの場合は異世界から来てくれたので責任を持って守る名目で観察していたのだがそれが神界で大ブレイクしグランフィリアも節度を持って見てるだけならいいかと放置した結果が今の状態である。
ちなみに何故イサナ周辺をピンポイントで見れるのかと言うと彼の持つ加護の多さにあった。
異界の神々が詰められるだけ詰め込んだ加護は神界から見たときにビーコンや誘導灯のようになっており光り輝く彼にピントを合わせるだけでちょうど人間が暮らしている辺りを見れる様にたまたまなっていたのだ。
なお、過去には元々この世界にいた人間でも厳しい修行の末に【天啓】などの神々と交信出来る様になるスキルを取得した者を介して地上を見ていたのだが今は激減しており持っていても非常に弱くピントを合わせることが出来ない状態だった。
ちなみにグランフィリアだけは地上に介入する為に部隊を持っているのだが言った事以外はしないほど融通が利かないので使いあぐねている。
そして日は進みとうとうイサナ達がガンドラダ大要塞に差し掛かろうとしていた。
神界のシステムではもはや捉える事が出来ずこの要塞と縁の深いガンドラダだけが何とか要塞周辺だけ介入出来ている。
神界ではちょっと前に精霊と妖精達がなんとかイサナの非観測地域に入るのを止めてほしいと豊穣神に直談判に来たのだがイサナの行動に口を出す権利が無いとして却下をしたのだが、その判断を下したはずの豊穣神の耐え難い表情を察して精霊と妖精達素直に引き下がった。
その後、豊穣神はイサナが観測されるまで天の岩戸の如く引きこもり精霊や妖精たちは非観測地域のギリギリでイサナを待っていたので荒地地帯のこの年は史上類を見ない大豊作になっただけでなく数年にわたり豊作が続き荒地とは言い辛くなる程には緑化が進んだのだがそれはもう少し後の話しである。
イサナが観測できなくなり数日、ガンドラダは普段はしない宣託に四苦八苦しながらイサナの様子をサイクロプスの大神官に逐一確認していると信じられない情報を聞き慌ててグランフィリアの元に向かった。
「グランフィリア様!!救世主が!救世主が!とんでも無いことをしようとしておりますじゃ。」
「まずは落ち着きなさいガンドラダ。それでイサナさんは何をなそうとしているのですか?」
「それが、荒地に浸み込んでいる
「なんですってぇ!!」
ガンドラダからもたらされたのは余りにも衝撃的だった為に恥も外聞も気にせず大声を上げたがすぐに主要な神々を招集し何度目かわからないイサナを起点にした緊急会議が始まった。
神員が揃いガンドラダが手に入れたイサナが荒地に入ってからの情報を皆に開示した。
リザード族の聖地とも言える塩の祠が崩落したこと、イサナが当世の巫女に頼られて支援を行った事までは皆が知っていたがその後に崩落した塩の祠を復旧するためにサイクロプス族とドワーフ族に出会い、リザード族への助力に一役かった事、復旧したした塩の祠の最奥で
「我々が見る事が出来ない霧の先では思っていた以上に深刻な状況になっていたようです。本来は今すぐにでもあの忌々しい汚染の中に飛び込みたいですがそういう訳にも行きません。我々の1000年以上続くツケをイサナさんに払わせるワケには行きませんので皆の意見を聞きたいのです。」
それから多くの意見が出たが中々実現できそうな意見は無く重々しい空気が広がる中今まで沈黙を保っていたガンドラダが口を開いた。
「ワシは救世主に、イサナ殿に任せよう思います。彼が欲するものを全て用意するなど後方支援に徹し事の成り行きを静かに見届けるべきかと。」
「しかし、それは…」
「分かっておりますグランフィリア様。これはただの怠慢だと、ただの押し付けであるという事も。それでもワシは、イサナ殿ならやり遂げてくれると確証は無いのに何故かそう思えるのですじゃ。」
下を向き静かにそう言ったガンドラダの肩と手に力強い手を置かれた。
肩には彼よりも二回りも大きい山と巨人の神マキアが、手には彼よりも二回り以上小さい火とドワーフの神ドゥワーインのだった。
「ワシはガンドラダの意見に賛成するぞ。あのヒトの子なら必ずやり遂げる!なにせ知らずに古の三種族同盟を復活させちまったようですしな。あの同盟が復活すれば敵はおらん!マキアもそう思っとるようじゃしな!」
マキアは静かに頷き賛成の意向を見せた。
彼らの意見に賛同を見せた神も多くグランフィリアも苦悶の表情を浮かべたが賛成した。
「非常に心苦しい事ですが実際に我ら神々が汚染地域に手を出すのは不可能ですので今回はイサナさんのバックアップに努めるとします。ただし、イサナさん達にもしものことがあれば彼だけでも助け出さねばなりませんので事が済むまで第一級戦闘配置を発令します。」
こうしてイサナの浄化作戦に対する神々の動きは決まった。
霊神はもしもの際に備え装備を整え純神達は指揮所を設立、グランフィリアは眷属達を密かに荒野地帯に集めていった。
そんな神々の動きを知る由もないイサナは宝物庫からリザード族の式服と【霊具・炎の誓い】を受け取る等ちゃくちゃくと準備を整えていた。
そして、浄化の儀式当日。
神界は殺気立った空気が充満していた。
ガンドラダを筆頭に工房の戦える職人達も装備を着込みもしもの時に一丸となって備えていた。
いつもは賑やかな神界だが今だけは観測所からの定期報告だけが響いていた。
「こちら観測班、荒野汚染地域にて異常値を確認!魔力の上昇を捉えました!」
とうとう始まったと皆が気づき武器を握る手に力がこもる。
「
観測所の報告と観測システムの映像を皆が食い入るように見ていた。
神界から見るとよく解ったのだが荒野に広がっていた
今日ほど時間が進むのが遅く感じた日は無いと感じながらグランフィリアは律動するドームを見つめ続けていた。
「戦闘は続行中のようですが魔力値、減少に転換しました!!これはいったい…」
観測班も予期してない状況に聞いている側も理解できずにいた。
その中で観測班とは別の声が響く。
「観測班、こちら戦闘指揮司令部。今も魔力値は減少中か?」
「戦闘指揮司令部、こちら観測班。魔力値僅かずつですが減少を続けております。」
「こちら戦闘指揮司令部、現状を目視出来ない以上断定は出来ないが
戦闘指揮司令部の判断に強張っていた神界の皆の表情が少し安らぐ。
そんな中に観測班、戦闘指揮司令部ではない第三者の声が響いた。
「観測班、こちら冥府。塩の祠にて『冥界の火』の反応を感知したがそちらはどうか?」
「え!?失礼いたしました…冥府、こちら観測班。こちらでは確認できず。良ければ詳細をいただきたい。」
「観測班、こちら冥府。
「冥府、こちら観測班。了解しました、非常時につき観測班判断で特殊フィルターにて観測を行います。………………出ました!確かに冥界の火の様な物を感知しましたが何でしょうかこれは!凄まじい魔力量と質に死の気配が濃すぎますよ。これの近くにいたらそれだけで死んでしまうのでは無いでしょうか…」
「観測班、こちら冥府。冥界の火は生者、死者問わずその魂そのものに作用する危険な物だ。故に厳重な管理を行っている物だが…その火は一体どこから来たのだ?」
「冥府、こちら観測班。鑑定結果が出ました。この冥界の火は異世界から来たもので間違いない模様。恐らくですがイサナ君の世界の物なのでしょう、イサナ君の魔力と一致している部分が確認されました。さらに言うとこの火は触れれば危険ではありますが近寄る程度ならば我々の世界の生者には無害の模様です。アンデッドには絶大に作用するのは我々の世界の冥界の火と変わらないようです。」
「観測班、こちら冥府。鑑定感謝する。しかし、申し訳ないが引き続き冥界の火の監視を頼む。こちらも感知を続けてはいるが君たちの様な素晴らしい目は持っていないのでな。それにこのようなタイミングで出した理由も必ず有るはずなので可能ならそれも探って欲しい。」
冥府からの連絡に混迷極まる神界であるが地上の方は荒地の三種族とオオイリ商店の連携もあり
各々の戦いの結果もあり薄っすらとだが観測班が地上の様子を目視できる状態に到達していた。
「こちら観測班。
神界各所に設置されたモニターに表示されたのは紫色の薄っすらとしたもやの中で戦う地上の様子だった。
塩の祠は依然として
やっと見えた地上の様子と奮戦を続けるその姿に神界の各所から声が上がる。
とくに三種族と同じ種族の面々は今すぐにでも戦場に飛び出しかねない様子で普段はブレーキ役であるガンドラダすら周りの職人がしがみ付いていなければ戦場に飛んで行っていただろう。
「観測班、こちらグランフィリアです。イサナさんは見つかりましたか?」
「グランフィリア様、こちら観測班です。現在の主戦場である石舞台周辺にはイサナ君はいない模様。それどころか大規模探知に引っかかりません。」
グランフィリアと観測班の連絡にハッし目を皿のようにしモニターを見る神界の面々であったが観測班の連絡の通り誰一人としてイサナを見つけることが出来なかった。
そのことでガッカリする者もおれば最悪の考えを浮かべる者など反応は様々であったが先ほどの興奮を冷やすには十分であった。
しかし、そのような状況でもおのれの職務を果たした者もいた。
「観測班、こちら戦闘指揮司令部。イサナ殿の居場所は恐らく塩の祠内部だ。あそこは
「戦闘指揮司令!それを行えばもしもの時の出陣時に大規模な遅延が発生しますよ!」
「構わん。本来、この戦いは地上の面々に託していたのだ。たとえこの後どのような事が起ったとしても見守り続けるとこちらは判断した。それに元々、神の仕事は見守ることであろう。それがいかに辛く耐え難いものだったとしてもな。」
「戦神様…こちら観測班!すべて了解致しました!!全神員を持ってこの戦いの詳細全てを観測してみせます。」
「うむ、では魔力リソース再配分開始!!」
一瞬、神界全てが真っ暗になったがすぐに光が灯る。
だが、等間隔に最低限の光しかなく主な光源は地上を確認する用に付けられたモニターとなっていた。
しかし、魔力リソースを最大限受けた観測班の力は伊達ではなく先ほどまでもやのかかった戦場の様子ではなくクリアな状態で一人一人の顔や鎧の模様まで分かるほど鮮明に映し出されていた。
さらにその力は今まで漆黒に閉ざされていた塩の祠の内部すら見透し今まで神界の皆にその姿を見せなかったイサナの姿を見事に映し出したのだ。
影から生まれたの如く真っ黒な3名のメイドの様な物に護られながらセキトと塩の祠の最奥部に進むイサナの無傷な姿を見た途端、グランフィリアを始め神界の面々はため息を一つこぼした。
そして、メイド三姉妹に護衛されながら進むイサナの姿は皆に衝撃を与えた。
なぜならばこの世界の誰も手が出なかった
即座に怨念を手にかけているメイド3姉妹の解析が進められたがその姿では考えられないほどの魔力量と魔術式が複雑に絡み合って象られているいることが解りこの場では答えが出ないと観測班が判断し解析は戦闘後に回された。
ゆっくりとだが
モニターに映し出されたのは地獄のほうがまだ優しいと言えるような状態だった。
あまりの様子に力の弱い多くの霊神が体調不良を訴えを起こし純神達はそれを忌々しく睨みつけていた。
そんな中、イサナの方はメイドから青白い炎が灯っている松明を渡され一心不乱に振っていた。
「観測班、こちら冥府!イサナの周りの観測データを今すぐにリアルタイムで送ってくれ!至急だ!!」
「え!あ、はい!観測班了解しました。今すぐに冥府にデータリンクを行います!」
普段は落ち着いて慌てた姿など見せたことない冥王の焦りの混じった連絡が神界に響き渡った。
本当に焦っていたのだろう未だに通信が入ったままであり切羽詰まった阿鼻叫喚の様が未だに響いていた。
「冥府、こちらグランフィリアです。いったい何が起こったのです?詳細を連絡しなさい。」
「………グランフィリア様、申し訳ございません。冥王様に代わりお答えします。先ほどイサナさんが冥界の火が灯った松明を振り始めてすぐにこちらに所属しているドラゴン達が一斉に地上の門目掛けて飛んできたのです。今、冥王様とドラゴン達が門の前で睨みあっている状態です。」
「一体何が…起こって……いる………の」
グランフィリアがあまりにも急なドラゴン達の蜂起から逃避しようとちらりと見たモニターには
戦闘指揮司令が戦闘配置を告げるとガシャガシャドタバタと様々な音が神界から聞こえ始め怒号が響き渡り急いで地上への降臨魔法陣の再起動が進められていた。
そして、いざ出陣と行ったところに神界を揺るがす咆哮が飛んできた。
冥府にいたドラゴン達が地上の門に向かって一斉に吼えたのだ。
その凄まじい魔力の籠った雄たけびは冥府だけでなく神界まで届き多くの面々が呆気にとられた。
今から戦いに出るといった考えも吹き飛び呆然としたまま徐にモニターを見ると地上での戦いはまさにクライマックスを迎えようとしていた。
石舞台の近くではサイクロプスの大神官がその巨躯を最大限に屈めその丸太よりも太い剛腕が地上ギリギリを舐めながらすさまじい勢いで振り上げられようとしており、塩の祠では青白いドラゴンが憤怒の表情を隠さず鎌首をもたげて居た。
そして、とどめの一撃は同時に放たれた。
サイクロプスの剛腕による鉄拳は敵を打ち上げ、ドラゴンの憤怒の炎は目の前の敵だけでなく辺り一面を焼き尽くす浄化の炎となって塩の祠を貫く巨大な火柱となった。
その様子を神界の全てのが見ていた。
「…っは!こちら観測班、
プツンと神界に響いた観測班からの最後の報告が終わった。
そして、数拍おいてから
「オオオォォォ~~~」
「勝った!勝ったぞぉ!!」
「よくやったぞぉ!!!」
ありとあらゆる称賛の声が神界中であがる。
グランフィリアはため息を一つだけつくとイスの背もたれに全体重を預けたのだった。
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