オオイリ商店、やらかす

ババ様の家の一室で俺、ヴィオラ、メイちゃんの3人は集まっていた。

これからのオオイリ商店の動きを決めるためだ。


「さて、塩の祠の騒動も終わって行商人らしく動こうかと考えてはいるがここで一つ問題が発生している。それも致命的な。」


「致命的な問題だって?呪い以上に致命的な事があるのかい?」


「ヴィオラの言う通りです。あれ以上の問題があるのですか?」


「問題と言ってもそっち方面じゃないんだ。どちらかというと俺達オオイリ商店としての問題でな。端的に言うと在庫が無い。」


「在庫が無い?各集落を回った時に何かしら仕入れてじゃないか。」


「そうですね。まぁ仕入れと言ってもお金が使えなかったので物々交換でしたけどね。」


「そう、それなんだ!その物々交換が思わぬ問題を引き起こしてたんだ。」


二人が良く解らないと言った表情でこちらを見てくる。

そうだと思う、俺だって何を売ろうか在庫整理をしてた時に気づいたんだからな。


「まず前提としてこの荒野地帯の種族は外の地域と交易をしてないんだよ。基本的に各種族で完結してたから交易をしようという考えが出てこなかった。あったとしてもドワーフがごく僅かな数を出してただけだ。そんな地?」


事の重大性に気づいた2人は頭を抱え始めた。

交易をしてない地域の商品を売りたいと言った場合ごく僅かであれば頑張ったんだなコイツぐらいで信じて貰えるかもしれないがそれが大量となると十中八九偽物だと思われるだろう、たとえ本物だとしても。

【鑑定】や【目利き】のスキルがあれば別かも知れないが無い場合は比較対象が無いので真贋の確認が出来ないのだ。

以下に俺が貴重な品を大量に持ってたとしても今の状況では適正価格で売れない不良在庫なのだ。


「それで主はまさかこのまま指を咥えて黙ってるわけじゃないよね?キミの事だから何かしら打開策があるのだろう?」


「…俺は時たまヴィオラのその信頼が怖い時があるが、お前の言う通り1つ考えがある。」


「流石は主様です!それでどの様な策なのですか?」


「荒野の種族は他の地域と交易してもいいよ、って約束を取り付けて何かに書いて貰えればいいんだ。」


「なるほど、では今すぐ一筆書いていただきましょう。」


「メイ、ちょっと待つんだ。主、その書いて貰う物の名前は何か聞いていいかい?」


「…こちらの世界での正式名称を俺は知らんから正しいかどうかは解らんが俺が思い描いてるのは通商条約ないしそれに準ずるものだ。」


「その名前で問題は無いが一応を聞きたいがそれはボク達の規模の商人が持っていても問題は無い物かな?」


「少なくとも俺らの規模で持ってたら信じては貰えないだろうな。民間として持つならロッソ商会規模。個人ならば土地持ちの貴族以上が持ってないとおかしい物だが、俺はコイツを国に売りつけようと思う。」


「いくらなんでも話が大きすぎないかい?とてもじゃないが行商人が持ち運ぶ品じゃないよ。」


「ヴィオラの言う事は至極当然で最もだ。だけどな荒野地帯は特殊な素材、腕のいい職人達、確かな品物と大金脈以外の何物ではない。どうせならいけるギリギリまで吹っ掛けたいと思わないか?」


「・・・ハァ、ボクもだいぶ主に毒されてきたね。ちょっとと思っちゃったよ。」


「ワッハッハ、そうだろ、そうだろ。荒野地帯の価値がどこまで跳ね上がるか気になるだろ。もちろん3種族の許しが出てからだけどな。それと並行してニンゲン向けの商品の開発をお願いする予定だ。」


「ああ、リザードの職人に頼んだような奴かい。あの黒光りする革靴はかなり良かったね。間違いなく人気になるだろうね。」


「それ以外にもいろいろ考えてるしもちろんながらリザード以外の職人にもいろいろ頼むつもりだ。まだまだやることはあるぞ。だからガッチリ俺を守ってくれよ。」


「ああ、言わずとも任せたまえ。どのような凶刃も防いで見せよう。」

「さっきの話は良く解りませんでしたが護衛ならメイも負けませんよ。」


2人の力強い返事を聞いているとドタバタとかなり急いでリーサが入って来た。


「ゴ、ゴシュジン…急いで広場に来てくれ!」


そう言うと俺の返事聞かずにリーサは俺の腕をつかむとそのまま外に飛び出していった。

連れていかれたのは石舞台のある集落の広場でそこの中央に人が一人立っておりその周りを3種族が遠巻きに囲んでいるのだが中央の人物があまりにも場違いだった。

この日差し強い荒野に白銀のプレートアーマーに同じ素材のヘルムを身に着けているのに暑そうな表情は一切見せていないどころか汗の一滴もかいてなかった。

金髪碧眼に陶磁のように白い肌に背中に生えてる真っ白の翼どこからどう見ても天からの使いだった、それも死んだ戦士の魂を導く感じの。


「アナタがオオイリ イサナですね。我が神グランフィリア様からの伝言を伝えに参りました。『歪悪イービルの痕跡が完全に消えたことを確認しました。ご苦労様でしたイサナさん。アナタの活躍に心から感謝致します。』との事です。ではワタシの任は終わりましたので失礼いたします。」


無表情のままそれだけ言うとヴァルキリー(仮)は凄まじい速度で真っすぐ天に昇って行った。

この場に混乱だけを残して行って…


帰るならこの場を収めていってくれよぉぉぉぉ


※…………………………………………※※※…………………………………………※


時は少し遡る。

オオイリ イサナ率いる一団が荒野に到達したころとある場所で騒動が起きていた。


「どうだ!いたか!?…見つからないだと?他からの連絡はどうだ?まだ無いと…」


「代行!部屋を調べさせておりました侍女がこのような物を見つけたと。」


騒がしく指揮を執っていた代行と呼ばれた男の元に兵士が布の切れ端をもってやって来た。

男は兵士からそれをひったくるとマジマジと切れ端を見た。


『ちょっと北部に行ってくる。』


男はそれを見た瞬間ショックのあまり意識を失いフラフラと倒れてしまった。


それから少し時が進みオオイリ イサナが呆然とした表情でヴァルキリーを見送った頃。

荒野地帯に最も近いストンズ子爵領の子爵邸で騒ぎが起きていた。


「だ、旦那様。一大事で御座います。すぐにお着替えを。」


「ど、どうした!執事の君が慌てるなんてよっぽどのじゃないか!」


「その通りだとは存じますが今は問答している時間すら惜しいのです。奥様と共に直ぐに身だしなみを整てくださいませ。」


「別にそのままで構わん。急に現れたのはコチラだからな。」


館の主人と執事の会話に割って入ったのは、鮮やかな猩々緋色の長い髪を持つ女性だった。

北部の強い日差しを遮るためのマントを身に纏い背中に両手剣の様な物を背負ったその姿は冒険者のようであったが前ストンズ子爵はその顔を見た瞬間、慌てて気を付けの姿勢を取った。


「そのような体勢を取る必要は無い。失礼を働いているのはこちらだからな。少し聞きたいことがあって来ただけなのだ、用事が済めばすぐ出て行く。それで質問なのだがオオイリ商店の店長はどこにいるか知っているか?」


「残念ながら今この街には居りません。少し前にリザード族の少女と共にガンドラダ要塞を越えておりまだ帰って来たとは聞いておりません。」


「そうか、さらに北に行ったか。流石に要塞を無断で超えるのは不味いな。」


「失礼ながらお聞きしたいのですが彼は何か問題を起こしたのでしょうか?私が話した限りでは大きな問題を起こすような子には見えなかったのですが。」


「ん?あぁ、別に問題を起こしているという事ではない。そもそも犯罪者であれば自ら会いに行くことは無いからな。前ストンズ子爵も知っての通り学園都市からここまでの路を作るだろう。その発案者がそのオオイリ商店の店長だと聞いてなどの様な人物か会いたかったのだ。さて、前ストンズ子爵もし彼が帰ってきたら町の宿にいるので伝えに来てほしい、是非とも会いたいのでな。では、な。」


鮮やかな猩々緋の長髪を翻し女は出て行った。

執事と館の主人はその足音が聞こえなくなるのを静かに待ち聞こえなくなると大きくため息を吐いた。


「やれやれ、あの御方は何も変わっておらんな。だからこそこの国は安泰なのかもしれないがな…しかし我が家を救ってくれた守護天使殿は凄いお方に目を付けられてしまったな。」


小さな商店の小さな店長が起こした小さな波紋は今大きく育とうとしていただった。



         ~ 第2章 荒地に住む誇り高き者たち END ~

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