戦いの後におきるもの

俺はヴィオラ達に合流すると怪我人こそいるものの死者は無く大勝利だというのを聞いてひとまず安心した。

それに何よりも俺はサイクロプス対巨大化怨念のリアル大怪獣決戦を見たかったぞ…

状況確認をしていると俺は横からタックルを食らった、いやタックルの勢いで抱きしめられていた。


「ゴシュジン、終わったゾ。全部、全部終わったゾ。これでミンナ、ミンナ、大丈夫だ!!」


凄まじい勢いで俺を抱きしめたのはリーサだった。

その勢いと同じぐらいの喜びようで全身でそれを表現するのは良い事だと思うがリーサの怪力ぐわいは両手剣を片手もちで二刀流出来るぐらいだそんなのに力いっぱい抱きしめられるとどうなるか何て言葉にしなくとも伝わるだろう、そうかなりヤバいのだ。

女の子特有の柔らかさとか匂いとか味わう暇なんてなく普通にサバ折りで締め落とされる直前である、何でもいいから俺のタップに気が付いてくれ!


「リーサ、その辺にしときな。アンタの力で店長さんを抱きしめたら真っ二つに折れちまうだろ。」


ババ様のセリフにリーサが慌てて俺を離してくれたので何とか圧死せずには済んだ。

若干咽たあと身だしなみを整えたあと俺は満面の笑みでリーサとババ様に言った。


「塩の祠も無事に浄化が終わってます。ですので早速塩を掘る人手を手配してくれますか?」


そういうと俺はカバンからをだした。


「ゴシュジン!まさか塩の祠から金が出たノカ!?」


「まさか、塩の祠で採れるのは間違いなく塩さ。だからコイツもまごう事なく塩だぞ。」


「「「「・・・え?」」」」


見事に一同の声がハモった瞬間だった。


・・・

・・


「…信じられん」


そう言ったのはいったい誰なのかは分からない。

俺達は今動ける赤の部族総出で塩の祠の最深部に来ていた。

そこにあるのは黄金に光り輝く塩と化したドラゴン達の遺骨だった。


「これは…ホントに塩なのか?」

「食っていいのかな?」

「削ったらバチが当たりそう…」


その感想は当然だと思う。

金の塊と言われたほうがまだ納得できる塩だからな。

俺も最初は【目利き】を使って調べたからな。


【清浄なる龍輝塩】

・龍屍塩と同じくドラゴンが死ぬ際にその身を塩に変えて生まれた塩であるがありとあらゆる穢れを取り除かれた逸品

・本来の龍屍塩も非常に美味であり高濃度の魔力を秘めているがこれはそれを簡単に上回る

・鱗持つ龍の眷族が口にすればその身は次第に浄化されていきいずれは失われし力も取り戻す


『永き年月に渡りその身で呪いを削り続けた我らが眷族に感謝と繁栄があらんことを』


1000年前にドラゴン達とリザードとラミア達がどのように暮らしてたかは知らないがきっと互いに助け合っていたのだろう、そう思わせる思いが龍輝塩には込められていた。


ちなみに龍輝塩の味は【目利き】の評価通り非常に美味かった。

欠片を舐めて見れた塩なので塩味なのは当たり前だが塩のトゲトゲしさが一切ないので非常に食べやすくここにご飯が無いことを非常に悔やんだ。

これでおにぎりを作れたらおかずも何もいらずに食べれそうなのに…


俺がおにぎりへと思いを馳せてる間に龍輝塩の収穫は終わったようだ。

入れ物に入れても未だに淡く光り続けるそれを男衆が外に運んでいき残った女と子供が片付けと塩の祠の点検を行って外に出た。

運ばれた塩は広場に運ばれて各々の家に分配されるのだが今回はドワーフとサイクロプス達がいるわけで…

ドワーフとサイクロプスから再び塩問答が起きたのだった。


・・

・・・


日もどっぷり暮れて月と星が照らす荒野の夜はかなり寒い。

寒暖の差が激しいのとまともな照明が無いこの世界では夜は直ぐに寝るのが基本だが何らかの理由で夜通し起きる事もある。

何らかの理由…そう、宴会だ!


石舞台のある広場の中央に大きなかがり火が置かれその周りに沢山の料理と酒が置かれていた。

ちなみに食材の提供はオオイリ商店でございます…もうこれで食料系の在庫0だからまたどっかで仕入れないとな………

そして、ドワーフ達が今にも酒に飛びつきそうな中ババ様が石舞台に上がった。


「宴を始める前に部族を代表してドワーフとサイクロプス達に感謝を言わせて欲しい。塩の祠の復旧から今日の戦いまで両種族がいなければどちらも解決しなかった事だ。今の我々には血よりも濃い絆があると信じてる。我々の新たな絆と1000年続いた荒野の戦いの終わりを祝って宴を始める!!」


ババ様の挨拶が終わると種族関係なく歓声が上がり皆が思い思いの物に口を付けて行く。

というわけで俺も遠慮せず何かの肉を焼いた物をいただくとするか…この謎肉ステーキ美味いな味付けは多分塩だけだと思うんだけどその塩が半端なく旨いし肉も適度に油が入ってくどくなく食べやすい、ちなみに龍輝塩は料理に溶け込むと光らなくなった。

此方の世界に来て食事というのは結構怖かったが現地には現地の味があるというか調味料や香辛料が無いのなら無いでいろいろ手を尽くしてるってのもあって結構イケるのも多いんだよなぁ、ダメな奴はマジでダメだが…


「このワームの丸焼きものすごく美味しいだぁ!」

「んだぁなぁ!あの光る塩分けて貰えるか聞いてみるだかぁ?」

「ここの酒も悪くはないがドワーフにはちと弱いな。」

「じゃな。分けて貰って酒屋の秘伝にいれてもらうのどうじゃ?」


ほほう、サイクロプスもドワーフも何やらリザード族の商品を欲しがってるみたいだな。

これは、いい流れだ俺の思うような動きになりつつあるな。


「主、また変な笑いをしてるよ。」

「変な笑いとは失礼な。俺は俺なりにこの荒野の行く末に何が役立つか精一杯考えているんだぞ。」


俺に辛辣なツッコミを入れたヴィオラはババ様とネフェルと一緒にやって来た。

ネフェルは飲み込みやすそうな煮込み料理と龍輝塩の欠片を持っているが何に使うんだ?


「店長さんにはホントにお世話になりっぱなしになったね。お礼としてお金を払うのがヒトの伝統だと思うけど見ての通りウチはそういうのと無縁で渡せるものがないんだよ。だから精一杯この宴を楽しんでおくれ。もちろん終わった後にいつまでいてもいいからね。」


「いやいや、気にしないでください。こっちはこっちで色々楽しめましたので。ところで料理を持って何所に行くんです?」


「これは大ジジ様の分ですよ。呪いの解けた龍輝塩なら食べるだろうという事で持っていくわけです。それに少しでも宴の気持ちを味わってほしいですしね。」


「なるほど、なら俺もついて行こうかな。どんな反応するか気になるし。」


そういうわけで俺達4人は大ジジ様の元に向かった。

ネフェルがクッションに埋もれて寝ている大ジジ様に龍輝塩を近づけると無言で口を開いた。

前では嫌がっていたのに凄い違いだ、やはり呪いについて何か知っていたのか。

ネフェルがその龍輝塩の欠片を口に入れるとモゴモゴと動かしゴクンと飲み込んだ。


その時大ジジ様の目がカッと見開くと文字通り跳ね起きそのまま家の外に飛び出して行ってしまった。


呆気に取られる俺達だったが外から悲鳴のような声が聞こえたので急いで外に飛び出すと龍輝塩を積んで置いていた所の前で大ジジ様が泣きながら立っていた。


<そうか…全て終わったのだな…眷族達が見事に歪悪イービル達の怨念を討ち祓ったのだな。>


皆が固唾を飲んで大ジジ様を見ている中、大ジジ様は聞いたことない言葉で独白していた。

そして、後ろに振り返り真っすぐ俺を見据えて言った。


<御使い殿よ。申し訳ないが汝の力でこの身を浄化してはくれないだろうか。自分でするとすこし時間が掛かってしまうのでな。>


大ジジ様は聞いたことも無い言葉で俺を指名しているという事は間違いなく俺の力を知っている。

俺は腰から打ち出の小槌を取ると腕を振り上げ、


「打ち出の小槌よ。大ジジ様の呪いを浄化してくれ。」


願いを込めて腕を振り下ろした。

あっさりと振り下ろしたもののこれといって大きな変化が起きないなと思っていると大ジジ様が光り始めた。

あまりの眩しさに目を開けれなくなった時大ジジ様が人とは思えない咆哮を上げた。

光が収まって何とか目を開けれるようになったのでゆっくりと目を開けるとそこには大ジジ様はいなかった。


代わりにいたのは月とかがり火にその巨体を照らされたドラゴンだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る