浄化の儀式 塩の祠の戦い

見降ろす形で石舞台を見ているとキラキラと火の粉の様な光を振りまきながらリーサが舞台に上がったのが見えた。

それから少ししてポンポン、カンカンとリザード族の楽器が鳴り始めるとリーサがゆっくりと舞い始めた。


『始まりましたな。』

「そうだな、頼むぞセキト。今はお前だけが俺の命綱だからな!」

『ハハハ、イサナ殿は今まで某に乗って来た歴代の中で最も弱くありますが勇猛度合は変わりませんな。』

「…それ褒めているんだよな?」


最近、セキト含めたうちの面々からのアタリが強くなった様な気がするがこれは打ち解けてきた証拠だよなと思いつつ塩の祠から少し離れた場所で機会を待っていた。

浄化の儀式で塩の祠から怨念を釣りだしその隙に塩の祠を浄化するという作戦と言っていいかすら怪しいガバガバの作戦の為である。


浄化の儀式が始まってしばらくすると雨が降る前の様なジメッっとした空気になって来た。


「そろそろかな?」

『でしょうな、より一層の警戒を』


その直後、ドロドロした黒い物体が勢いよく飛び出しと半ドーム状になり石舞台の辺りに覆いかぶさった。

石舞台向こうの事も気になるが俺は振り返ることをせず勢いよく走り出し塩の祠の前に着くと打ち出の小槌を手に持って大きく振り上げた。


「打ち出の小槌よ!塩の祠を浄化してくれぇぇ!!」


願いを口にして高々と上げた腕を振り下ろそうとしたが俺の腕は一寸たりとも動かず、逆に勢いを抑えきれずに転んでしまった。


(おいおいおいおい、嘘だろ!この土壇場で使えなくなるのは無いだろ!!!)


『イサナ殿、一度退却を!』


余りの事に呆然となる俺にセキトが退く様に言ってくれたのをそのまま受け入れセキトに飛び乗り慌てて距離を取った。


『イサナ殿お怪我は?』

「それは特に無いから大丈夫だが、打ち出の小槌が使えなかった…」

『それは………その打ち出の小槌の伝説はどの様な時に使われたのでしょうか?』

「昔話だと人の背を高くしたり宝物や食べ物を出したりだったはずだ。一応願いが叶うという触れ込みではあるけど浄化は使い道が違うんだろうか。」

『もしかしたら何かしら条件があるのかもしれませんな。例えば相手が抵抗しないとかある程度対象の数に限りがあるとか。』

「制限か、それはありそうだな。という事は浄化する方法を変えないと行けないな。」

『そうですな。何か考えはおありですか?』

「一応な。原始的かつ歴史ある方法でな。ある意味俺の十八番だな、お前の前の主人には頭が上がらないよ。」

『…あぁ、アレですか。では、再び参りましょうか。』

「ラウンド2と行こうか!」


セキトと作戦会議を行った後、再度塩の祠の前にやって来た。

塩の祠の前は辺り一面ドロドロしており特に入口なんてドロドロに完全に埋まっていた。

入口の浄化はちょっと骨が折れそうなのでまずは周りの地面に落ちてる分からやって行く事にする。

ぐっと右手に力を籠める、この時に浄化の力を持つようにも考えると右手いっぱいにサラサラのが湧いて出た。

そして、これを、腕を振り上げて力強く撒いた。

気持ちだけは関取にも負けない俺の塩撒きは黒いドロドロに触れるとジューと白煙と怨念の呪詛が籠った断末魔を上げて浄化していった。


「浄化されて綺麗に消えていくのは良いけどあんまりいい気持ちでは無いな。」

『怨念の断末魔ですからな。本来ならば聞くだけで呪われるものでしょうからな。とはいえ効果は抜群なのでどんどん参りましょう!』


セキトが鼻息を荒く嘶くしその言葉に俺も反対は無いのでどんどん振り撒いて行く。

やがて地面に落ちてるドロドロが無くなり祠の入り口を浄化しようとすると


「コロス コロス コロス ジャマスルヤツラ コロス」


今までされるがままでだった怨念が殺意に満ちた声を上げ俺に掛って飛びかかって来た。

咄嗟の事に対処出来ずにと思い目を閉じてしまう。

…だけど、何も衝撃が来ないのでうっすらと目を開けると二又の槍を持った真っ黒なメイドさんが飛びかかって来た怨念を貫いていた。

事態を飲み込めない俺に再び怨念が襲い掛かって来るとからナイフを持った小さなメイドさんが全て切り払ってくれた。

最後に青白い炎の宿った松明たいまつを持ち杖を突いたメイドさんが俺の影から生まれると3人並んでくれた。

3人とも俺の影から出てきた為か全身真っ黒でのように顔がないのでちゃんとした判断はつかないが背の小さなナイフを持った少女のメイド、髪が長く女性らしいスタイルをしている二又の槍を持った大人のメイド、二人よりも落ち着いた雰囲気を持つ杖を突いた松明を持った老人のメイドさん達が綺麗にお辞儀をしてくれた。

未だに混乱している俺に対して少女のメイドが何かを広げるような動きをしたあと手をクルクルした。


「もしかしてジェスチャーか?」


そう言うと少女は首をブンブンと縦に振り残りの二人は拍手してくれたのであってるのだろう。

少女の動きを見ながら何かそれらしいのがあったかなと思いながらカバンを開けるとすぐに見つかった、そう目録と書かれた俺のギフト一覧が書かれただ。

それを広げると大人のメイドさんがその1つに指を差してくれた。


「君たちもしかしてこのギフトなの?」


そういうと3人とも嬉しそうに頷いてくれた。

大人のメイドさんが指を差したギフトは俺の貰った中でも一番理解できなかった【冥王の加護】だった。

そう言えば神様がとか言ってたけどちょっかいかけてくる相手を無理やり黙らせるギフトだったのか…

正体も分かったので助けて貰ったお礼を言うと向こうもまたお辞儀をして俺とセキトを守るように立ってくれた。

松明を持ったメイドさんが祠のドロドロを松明の火で焼き尽くすと先頭を松明のメイドさん、次に槍のメイドさんに俺、セキト、最後にナイフのメイドさんの順で祠の奥に進んでいくことになった。

祠の中は前に来た時以上に先が暗く何も見えないがメイドさんが持ってる松明は特別性なのか火の大きさ以上に俺達を明るく照らしてくれていた。

祠の中でいきなり襲われることは無かったが目につくドロドロは全て貫かれるか斬られるか焼かれるかして全て処理されていった。


順調とは言えないが無事に祠の最深部に到達した俺達を待ち受けていたのはおぞましい光景だった。

ドロドロに溶けた人型の様な物があらゆる呪詛を吐きながらドラゴンの骨に纏わりつきそれを壊そうとしているのか殴ったり引っ掻いたり噛み付いたりしていた。

見てるだけで発狂しそうな光景の中で老人のメイドが俺に自ら持っていた松明を差し出してきた。

理解できないままそれを付けとると今度は手をブンブン振るように促されたので大人しく指示に従う。

俺が手にした瞬間メイドさんが持っていた時よりも輝きの増した松明を振っていると地の底から何かが這い上がってくるような音がしたので慌てて振るのを止めたがメイドさんが降り続けるように促すので俺は自棄になって振り続けた。

音が大きくなるにつれ少しずつ真っ白だったドラゴンの骨が青白く光って行くのに気づく。

そして這い上がって来る音がすぐ目の前で聞こえた時青白く光り輝くドラゴンがその首を上げてドロドロの怨念を見降ろした。


「コロスコロスコロス ドラゴンコロォォォォォス!!!!」


怨念が青白いドラゴンを見ると絶叫を上げ祠の最深部響き渡るがドラゴンは意に介さず憤怒の表情を隠しもせずに大きな口を開けるとその身と同じ色の炎を噴いた。

ドラゴンの怒りの炎は怨念が断末魔を上げる暇さえ与えず一瞬で灰燼に帰すとドラゴンは穏やかな表情を浮かべ俺の目の前に首を降ろし目を閉じた。

どう対処していいか分からない俺に槍を持ってたメイドさんが俺の腰のあたりを指さした。


『イサナ殿、今なら打ち出の小槌で浄化できるのでは?』


セキトに言われ腰に付けた打ち出の小槌を手に持つと俺は腕を高々と上げて今一度願いを込めた。


「打ち出の小槌よ!1000年続く呪い浄化しドラゴン達を開放してくれ!!」


高く上がった腕を振り下ろすと肩の高さ辺りで何かに防がれるような感じがあったが俺は気合を入れて無理やり振り切った。

パリンと何かが割れたような音がすると積みあがったドラゴンの骨たちから天に伸びるように光が現れると瞬く間に塩の祠中に満ちて行った。

真っ白な光に包まれていくなか俺が最後に見たのは空に向かって満足げな表情を浮かべ真っすぐに飛んでいくドラゴン達であった。


・・

・・・


俺が目を覚ますとそこにあったのはだった。

今までの事は夢だったのかと思うと俺の手は子供らしい小さな手だった。

とりあえずベッドから降りてリビングに向かうと懐かしい顔のがいた。


「おはよう、兄ちゃん!おっと今は坊ちゃんかな何はともあれ元気そうで良かったわ。」

「ほらほら、遠慮せず入ってき。今回のお土産はみたらし団子やで好きやったやろ?」


相変わらずこの2柱は元気いっぱいだ。

俺は懐かしい気持ちになりながら席に着いた。


「今回は大金星やったな。向こうの世界に進めたワイとしても鼻が高いわ。」

「せやで、せやで。あんな浄化は中々できることやあらへん。ワテ感動して泣いてもうたからな。」


「まさか、あの状況を見てたとは思いませんでした。もっとカッコ良く動けばよかったです。」


「いやいや、ワイらとしては自然な兄ちゃんを見たいからずっとこのままで行ってほしいんやで。」

「そうそう、ワテらに気をつかったらアカン。所詮ワテらは外様や。これから先兄ちゃんの心に何か変化があってあっちの世界を滅ぼしたりしたとしても責めはせん。向こうで心の思うままに生きてええんや。」


この2柱は前と同じように優しい、その優しさに涙が出そうになる。


「それにワイもちょっと兄ちゃんに謝らあかんことがあるんや。」

「あの一回目の打ち出の小槌の件や。アレは焦ったやろ?なんせワテらも焦ったからな。」


「アレは何が起こったか理解できませんでした。もしや理由を知ってるんですか?」


「あれはな打ち出の小槌に付けたやったんや。それがあの土壇場で動いてもうたんやな。もちろん、兄ちゃんに意地悪するために付けたんやないで!」

「魔力が急激になくなると死んでまう事があるからそれを防ぐ為に付けてたもんや。滅多に動くことはないんやけどその滅多があの時におきてもうたんやな。それだけあそこに根付く呪いが強力やったって事や。」


「そういうのがついてたんですね。もしかして2回目の無理やり振り抜いたのはヤバかったですか?」


「2回目のは大丈夫やで。アレは怨念の最後の抵抗やな。もし兄ちゃんが無理やり振り抜かんかったらまだ呪いは根付いてたやろうな。」

「せやで、そもそも安全装置やから気合で振り抜けるような物は付けてないからな。最後の一振りは兄ちゃんの気合の一撃や。今思い出しても感動で涙がでそうや。」


「それは良かったです。せっかく呪いを祓ったのに死んでたら元も子もないので。」


「せやな、死んだらそれでお終い。ジエンドや。」

「せっかくワテらの都合でセカンドライフをおくれてるんやから精一杯使うんやで。」


神様たちがそう言うとグラグラと家が揺れ始めた。


「おっと、そろそろ時間やな。現実の兄ちゃんが起きようとしてる。」

「そやな、兄ちゃんが最後にワテらに言いたいことあったら言ってええで。文句でもなんでも聞くで向こうに送り出したのはワテらの都合やからな。」


「そうですか。特に文句は無いですが冥王様にお礼を言っておいていただけますか。あの人の加護が無ければどうなってたか分からなかったので。」


「ほうほう、そういう事らしいで冥王はん。」

「ふむふむ、恥ずかしがっとらんと嫁さんとっ捕まえた時みたいに男らしい所みせぇや。」


2柱は何を言ってるんだと思うと急に頭をわしゃわしゃされた。

でも、上を向いても誰もいなかった。


「冥王はんな、実は最初からおったんやで。お得意のアイオスキューネステルス兜使ってな。」

「冥府を代表するものとして一度死んだ相手の前に易々とでるのはどうかと思うとか言って隠れとったんや。ホンマご兄弟と違って真面目な御方や。」


「そうでしたか。では、改めて冥王様ありがとうございました。アナタの加護のおかげで今回の難局を乗り切れることが出来ました。またお力をお借りすかもしれませんがよろしくお願いいたします。」


そういうとまたどこからともなく頭をわしゃわしゃされ、


「黄泉還った命だ。天命尽きるまで精一杯使うが良い。」


低い声でそう激励された。


「ホンマに見た目とは裏腹に優しい方やで。もっとそれを前に出せたら人気でたんとちゃいます?」

「ホンマにな、冥府の方々は優しさが分かりづらいんや。おっと、いうてるまに時間やな。これからも兄ちゃんにはいろんな試練があると思うけど頑張って乗り越えて行くんやで。こっちの世界の神さん達もあっちの世界の神さん達も可能な限り協力したるからな。」


その言葉を受けて体が浮かぶ感覚と共に意識を失ったのだった。


・・・

・・


現実世界に意識を戻すとそこは先ほどと変わらず塩の祠の最深部だった。


「悪いセキト、少し気を失っていたみたいだ。」

『ほんの僅かですので気にする事はありませんよ。それよりも早くここを皆に伝えましょう。』


セキトがドラゴン達の骨が合った方向を向いていたので俺もそっちを見ると信じられない光景が広がっていた。


「これは…すげえな。早く出るとしよう。皆が喜ぶ。」


そうして俺は清浄な気に満ちた塩の祠を離れ皆のいるところに向かったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る