集う種族

「暑い…」


昨日はいろいろありすぎたから熟睡できるかと思ったが火を噴く山は当然暑いし煩いし硬いし蒸し暑くて全然寝た気がしない。


「起きたかゴシュジン」


「あまりいい目覚めではないけどな…」


リーサに返事をすると彼女はバツが悪そうな顔をしていた。


「俺は昨日の事については特別触れる気はないからな。今日はこの山を降りるので大変なんだからさっさと行くぞ。」


小さな声でアリガトウと聞こえたがあえて聞こえなかった気がして俺はセキトに乗るとゆっくりと進み始めた。


順調に進んでいたのだが中腹に来るとフェニックスがさも当然のようにそこに立っていた。


「まさかお前からのお見送りがあるとは思わなかったよ。」


『フン、我は巫女を見に来たのだ。せっかく我が炎で汚れを祓ってやったのに弱り切っていたら困るからな。』


「リーサは元気だよ。むしろ前より調子がいいらしいぞ。」


『フフン、我が炎で浄化したから当然だな。ニンゲンモドキももっと我を崇めるがよいぞ。』


なんでこのフェニックスはさっきからツンデレ風味なんだ?

この世界にはもうツンデレの概念でもあるのだろうか。


『それからニンゲンモドキ。千年の執念を消し去ることが出来るのはリザード族の巫女でもドワーフ族の戦士長でもサイクロプス族の大神官でもない。ましてや我でもなければそこにいる我が友炎の誓いですらない。この世界に縛られていない貴様だけだ。貴様だけがこの暑き大地に真の安寧を運んでくるのだ。だから頼むぞニンゲンモドキ異世界の御使いよ。』


フェニックスはそれだけ言うと天高く飛んで行った。

そんな意味深なことを言うならもっと詳しく言えよ、という俺のツッコミは火の山の煙と共に天高く消えていったのだった。


・・

・・・


途中ちょっともやもやした気持ちになったこともあったが俺たちは昼過ぎには火の山を降りドワーフ族の集落に到着した。


「おお、兄弟にリザード族の嬢ちゃんじゃねぇか。2人で帰ってきたってことは無事に炎の試練を突破したんだな。ワシらの動きも無駄でなかったな。」


俺たちを出迎えてくれたのはガンテツただ一人だった。

そうたった一人だけ、より正しく言うならば集落から一切音が無くだれも住んでいないようにすら感じる。


「ガンテツ一人だけなのか?というよりも集落から全く人の気配がしないのはどういうことだ?」


「ああ、そんなことか。他の奴らはリザード族の所に行ったぞ。ワシら全員も浄化の儀式に参加するからな。」


「全員?老人も子供も関係なく全員向かったのか?」


「おうよ!今までみたいな略式じゃなくて炎の試練を受けた後の本式だからなワシらも気合を入れて全員参加だぞ。」


「なぁリーサ、浄化の儀式って他の種族も参加するのか?」


「そんなことは初めて聞いたゾ。そもそも浄化の儀式すら初めてダカラナ。」


「ワシらの中で浄化の儀式を体験した者がおらんから伝承でしかないのだがな。とりあえず儀式中はリザード族を守るように言われとるぞ。」


「リザード族をマモル?赤の部族はリザード族の戦士だから守られる事は無いとオモウゾ。」


「リーサの言う事はその通りだと思うがドワーフ達はもう向かってるんだからとりあえず準備だけでもしてもらっていればどうだ。ドワーフ族の戦士がいれば何かあっても大丈夫だろうしな。」


リーサの言う通り儀式を行う赤の部族はリザード族の戦士集団だ。

暑さ厳しい荒野地帯をラザードに乗って日々巡回している彼らの強さは相当なものである。

そんな彼らを守る必要があるとは浄化の儀式の最中に何かあるとしか思えない。

とはいえそのを知っている人物が誰もいない程これまで正しい手順の浄化の儀式は行われていなかった。

ならばそれに対する準備は万全にしておくべきだろう。


「まぁ、ワシらの出番があれば出るし出なければ出ないで良しじゃしな。それに集落を離れる良い機会でもあったからな。実は兄弟のおかげで集落の外で作られた物に興味を持った者が多くなってな今回の事にかこつけてリザード族の革製品を見に行く連中もおるんじゃよ。」


ガッハッハと笑いながら話すガンテツの言葉に俺は驚いた。

俺の行動が2種族間の交易の切っ掛けになり始めてるからだ。

リザード族の多くの職人は革や骨を扱って戦士たちのサポートをしているが中には日用品を作る陶工もいた。革や骨で出来た品物はとても独特で癖はあるが見た目以上に軽く丈夫で使い易いが鉄製道具がほぼ無いのは確かで俺が持ち込んだ鉄製の鍋なんかは高評価だった。

なにせ土鍋で炊き出しを行っていたからな、リザード族の陶工の腕が良くとも巨大な土鍋は非常に作りづらいし出来たとしてもそれを炊き出しで使おうとすると勝手が悪いのは確かだ。


対してドワーフ族の製品は鉄製品であふれている。

彼らの腕ならどんな形でも大きさでも作ってしまうが鉄製品はどれだけ小さくともやはり重い。

服は綿の様なもので作られているがちょっと丈夫なものを作ろうとすると基本鉄製になっているのが現状だ。

食卓に並んだ皿が全部鉄で出来たのを見たときは衝撃を受けたし、職人が使っている厚手の手袋は鉄を糸状の加工して編み上げたものだった。

丈夫なのは間違いないがいくら何でも重すぎる、何せガントレット一歩手前ぐらいな物なのだから。


そういう意味では彼ら2種族は互いの弱点を補える要素は沢山ある。

それにリザード族はサイクロプス族と交流を始めたしドワーフ族はそれ以前からサイクロプス族と関わってきたのだからサイクロプス族を巻き込むことは非常に容易いだろう。

3種族による交易同盟、何だったら荒野経済圏と言ってもいいかも知れない。

これは間違いなく

俺の一番の目的は神界の在庫処分なのは確かだがこの世界に来て商人として動いているうちに稼ぐ喜びを覚えてしまったのも確かだ。

今はリザード族の職人に貴族を中心として人向けの商品開発を進めているがもし荒野経済圏が出来て3種族で貿易用の商品を作り上げることが出来るなら…

想像するだけで笑いが止まらくなりそうだ。


「ゴシュジン…その気色悪い笑い方は止めたほうがイイゾ…」

「いくら兄弟でもそれは擁護出来んぞ…」


オゥ、顔に出てたか…

とりあえず儀式が終わって落ち着くまでは胸の内に秘めておこう。

もし上手くいかなかったらショックがデカすぎるからな。

とりあえず今日は此処でゆっくり休憩して明日にリザード族の集落に戻ることにしよう。


・・・

・・


そして翌日、俺たち3人は何事もなくリザード族の集落に帰ってこれた。

流石にセキトに3人乗りは出来なかったのでガンテツは鉱石を運び込む用のソリの様なものを改造しそれに乗りそれをセキトに引っ張ってもらいながら帰ってきたのだが乗り心地が悪かったようで到着した時には若干やつれていた。

集落には至る所にテントが張っておりずんぐりむっくりな人影がちらほら見えておりいつもよりも賑やかに感じる。


「巫女様おかえりなさいませ。イサナ殿もご無事で何よりです。そちらの方がドワーフ族の長のガンテツ様ですね、お待ちしておりました。」


ネフェルが出迎えに来てくれたのでリーサとガンテツと別れ俺はセキトと馬車のある方に向かっていたのだがドスン、ドスンと響く音が聞こえたのでそちらを見た。

土煙を上げながら一歩ずつ集落に向けて巨人サイクロプス達がやってきた。

手にはセスタスの様な物やナックルダスターの様な物を付けており中には兜や岩で出来た防具を着込んでいるのもおり明らかに戦う状態であった。

そして、白く輝くガントレットを付けたサイクロプスの代表である神官長がリザード族の集落中に響き渡る様な声で言った。


「古からの盟約により浄化の儀式を行うリザード族の守護に来ただぁよ!!!」


浄化の儀式…マジで何が起こるんだよ…

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