火の山の不死鳥
ゴトンと重々しい音を立てリーサの炎の誓いが地に着いた。
あまりに一瞬の出来事で頭がついて来なかった。
しかし、理解が出来なくとも現実に起こったことは変わらない。
業火と呼べそうな炎の渦に飲まれたリーサはその身を真っ白な灰に変えたのだった。
「フェニックス!!キサマ、どういうつもりだ!!!」
俺はこの世界に来て初めて怒声を上げた。
気づけば打ち出の小槌を握っており、セキトも唸る様な嘶きを上げて何度も地面を蹴りつけて臨戦態勢をとっていた。
『何をそれほど怒っている?ただ、我が炎に抱かれただけだろうに。』
「炎に抱かれただけ、だと!? ふざけてるのか!リーサは集落の皆を助ける為に覚悟を決めて炎の試練を受けに来たんだぞ!そんな彼女を不意打ちで殺すとはどういうつもりだ!!」
俺の答えにキョトンとしていたが何を思ったのがその大きなクチバシを開けて笑い声のような鳴き声を上げた。
『なるほど、なるほど。そういう事であったか。どうやら炎の試練について詳しくは伝わっていなかったのだな。良いかニンゲンモドキ。リザード族の巫女は我の炎に抱かれたのだぞ。この世に二つとない
あまりの内容に詳しく聞きたかったがとてもじゃないが聞ける状態では無くなった。
何故ならリーサが燃えて残した灰に再び火が付いたのだ。
あまりの出来事に俺もセキトも驚き右往左往している間に灰に灯った火は先ほどの逆再生のように炎の渦を起こしそれが落ち着いてくるとだんだんと楕円形の炎の塊のようになっていった。
炎の塊は赤や黄色を通り越し真っ白に輝き、その熱の余波だけで目が乾くので目を開けることすら困難になった。
何度も瞬きして何とか炎の塊を観察しているとだんだんとその熱も輝きも落ち着き始め楕円形から形が変わり最終的に人型となり光も熱も消えてなくなるとそこにいたのは先ほど燃え尽きたと思った彼女だった。
「リーサ!!」
俺は急いで地に伏せる彼女を抱きしめたがリーサの目は何処を見ているか分からない程虚ろだった。
何度も彼女に呼びかけるが全く反応を見せずずっと何かブツブツと言っている。
『ヒト、と言うより
うっそだろ、お前…そんな大事な事はもっと早く言ってくれよ。
俺はさっきよりも力を込めてリーサに呼びかけるが先ほどと変わらず彼女は反応を見せない。
段々と力が抜けていき、ますます虚ろになっていくリーサの瞳を見て俺は覚悟を決めた。
前の世界でもこの決断を取ったことは無いこれからもしないであろうと思っていたがこのファンタジーな世界ではそんな考えは通用しないようだ。
俺は、手を高々と掲げ、精一杯の力を込めて、彼女の頬を叩いた。
独特の甲高い音を上げた後ゆっくりとリーサがこっちを向いた。
俺はそれで落ち着いたと思ったのだがそういうわけではなかった。
<熱い、アツい、アツイ!アアアアアアア!!!!!!>
リーサはリザード族の言葉を発しながら狂ったように叫びながらのたうち回り始めた。
俺は振り払われないように精一杯しがみつきながら彼女の名前を呼び続けたが全く耳に入っていない様だった。
必死にしがみつきながら他に何か手はないか考える。
『グググオオオォォォ!!!!!!!』
大地や震わすような咆哮が響いたのはそんな時だった。
何処から現れたのか分からない10mは在りそうなほどの燃え盛る炎の巨躯を持つ恐竜の様なのがいた。
<炎の…誓い…>
リーサの呟きに俺はハッとした。
その巨体に面食らって冷静に見れていなかったが言われれば顔の部分は炎の誓いの大盾となってる骨だった。
炎の躰を持った炎の誓いはグルグルと唸りながらリーサの眼前に来ていた。
<不甲斐ない所を見せてしまったな。もう大丈夫だ。ああ、もう大丈夫。リザード族の巫女リーサはちゃんと戻ってきたよ。不甲斐ない持ち主だけどまた力を貸してくれるか?>
リーサが炎の誓いを優しく撫でると炎の巨躯は火の粉になって風とともに散っていきそこには大盾とメイスだけが残っていた。
「ゴシュジン迷惑をかけてしまって申し訳ない。アタシはもう大丈夫だ…ってボロボロじゃナイカ!大丈夫か!?」
「あとでカバンから薬を取り出して塗っておくから大丈夫だよ。とりあえずおかえり、リーサ。それと早く服を着てくれ、目のやり場に困る。」
一度灰になるまで燃えて復活したのだから当然今は何も着ていないわけで、リーサはいそいそと服を着始めた。
全く、大騒ぎした後のオチがこれとは何とも閉まらない騒動だったな。
・・・
・・
・
あの後、すぐに山を降りるかどうかリーサと相談したがもう日が沈みかけていたので明日の日の出ともに降りることにした。
カバンから適当に食べ物を出して食べてひと段落するとリーサはすぐに眠り始めた。
今日は一日いろいろあったから仕方ない、セキトと適当に話していると俺の近くにフェニックスが降りてきた。
「今更だけど炎の試練は何とか突破したという事でいいんだよな?」
『うむ。我が炎に焼かれる事こそ炎の試練である。しばらくは我が炎の浄化の力であらゆる呪いを振り払えるだろう。』
「しかし、あんな事になるなら事前に一言欲しかったんだけどな。」
『ほう、ならば貴様は今から焼き殺すから耐えよ、と言われて無抵抗に受け入れると?』
「あぁ…無理だな。そんなこと言われたら全力で逃げるわ。」
『そうであろう。それに昔はこれほど激しく焼く必要はなかったのだ。しばし我慢すればよいだけであった。しかし、代を重ねる事に呪いはリザード族を蝕み何時の間にかその身を焼き尽くし魂まで浄化せねばならなくなっていった。それぐらいから炎の試練を受けに来るリザード族も減っていき正直もうリザード族は絶えたと思っておった。』
「そうか、そんなにリザード族はヤバい状態だったのか…そういえばフェニックスは炎の誓いを知ってるみたいだったが生前にあったことがあったんだよな。」
『
そう話したフェニックスは何とも言えない表情を浮かべていた。
楽しかった過去と後悔した過去、永遠を生きる喜びと苦しさを浮かべる表情を俺はどういう言葉で言えばいいのか思いつかなかった。
『さて、我は話したから次はキサマの番だぞ。全て話せ、キサマが何者で何故その様な力を持っているかを。』
俺はフェニックスにこの世界に来た理由や荒野地帯での事を話した。
時々驚いた様であったが静かに聞いてくれた。
『この世界の神々も万能ではないのは知っていたがその様なことになっていたとは…管理不足と言えばそれまでだが…なんだかなぁ…』
まぁ、物作りし過ぎて生活スペースがなくなったから助けて!って言われたらなんだかなぁって言いたくなる気持ちはわかるよ。
それにしてもこの
『キサマ、不敬なことを考えておらぬか…まぁ、よい。
「…フェニックス?」
『気にするな。とりあえずキサマももう休むがよい。この山でキサマらを襲う連中はおらぬから安心するとよい。』
フェニックスはそういうと暗い夜空に飛んで行った。
今日はいろいろあったというかありすぎた。
俺はフェニックスの言葉を信じて横になったのだった。
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