いざ、火の山へ

「待たせてスマナイ。少しサイズ直し時間がかかってしまっテナ。ところでヴィオラとメイはどうしてそんなに疲れてルンダ?」


淡い色合いを持つ赤い服を纏ったリーサがネフェルと共にやってきた。

ゆったりとした服ではあるが動きを阻害しないように下はズボンのようになっていて袖は振袖までとは言わないがそこそこ長く舞えばヒラヒラとして目を引くだろう。

戦う事と舞う事の両方を考えて作られたデザインになっており何となくだが元の世界のアラビアンな雰囲気をかもしていた。

普段のリザード族の服装は男女問わず半袖半ズボンぐらいの丈からノースリーブやホットパンツぐらい短いのまで平気で着る。

俺がそんな恰好をすれば日焼けどころか全身焼けどになるのはほぼ確実と言えるほどの日の中にあって褐色に焼ける程度に済んでいるのでいかに彼らの肌が強靭なのかがすぐにわかる。

そんな一族が長袖長ズボンのデザインで作ったということはこれから受けに行く炎の試練がいかに過酷なのかを物語っているのかもしれない。


ちなみに戦闘時の彼らの服装はいつもの服の上に革や骨でできた脚甲レガースや胴当て、篭手ガントレットヘルムなどを付けるがどれらも最低限だけ守っている様な軽装でラザードに乗って戦う。

一日中騎乗してることもよくあるとのことで重く長時間装備してると熱くなる金属製防具は使わないそうだ。


「待ってたよリーサ、お前に渡す物があってな。しかし、あれだな、その服装をしてるとすごくな。」


「やはりゴシュジンもそう思うか。水に写る姿を見たとき自分自身そう思っタゾ。それで次は何をくれルンダ?」


「俺と初めて会ったときにって言っただろう。その約束を果たすときが来たんだよ。」


そういって俺はリーサに【霊具・炎の誓い】を見せた。

その瞬間リーサは戦士の目になりマジマジと見つめた後、恐る恐る触れた。

俺たちはその光景に一言も喋ることもなくリーサの気が済むまで待った。

棍棒メイスと大楯にゆっくり1度ずつなぞった後にリーサはやっと口を開いた。


「ゴシュジン、本当にこれを貰っていいのダナ!と言うヨリモもう返さないカラナ!持たなくてもワカル。これより優れた武具はこの世にナイ!!」


リーサは地面に置いてた巨大なメイスと大楯を軽々と片手で持ち上げるとブンブン振り回し笑いながら「アタシはムテキだぁ!!」なんて言っている。

正直渡すのが速かったかなと思いつつはしゃぐリーサを見ているとネフェルが声をかけてきた。


「イサナさん、炎の試練についてお話があります。本来は巫女様からしてもらうつもりだったのですがちょっとですので代わりにお話しさせていただきます。」


ネフェルが指さす今のリーサは確かにちょっとと言いたくなるような状態だなと思いネフェルの話に耳を傾ける。


「炎の試練を受けるには荒野の果てにある火の山の頂上に行かねばなりません。そして、火の山に登るにはドワーフに力を借りるのが古来からの取り決めとのことです。」


「ドワーフにか。まさかここで関わってくるとは思ってなかったけど別に問題はないだろう?」


「その通りです。イサナさんのおかげでドワーフの助力を得るのは容易い事だと思います。ただ、一つ問題があるのです。」


「問題?もしかしてまだ何か足らないのか!?」


「いえ、物の準備はもう大丈夫です。あとは浄化の儀式を行うための舞台の設営だけですので。問題というのは巫女と共に火の山に向かう供は1人だけという事です。そういうわけですので不本意ですがイサナさんにその役を引き受けていただきたいのです。」


「ドワーフの件もあるし俺が最適か…ヴィオラとメイちゃんも舞台の準備を頼むな。じゃ、早速行くとするかな俺とリーサだけなら余裕でセキトに乗れるし馬車が引っ付いてなかったらドワーフの集落まではすぐ着くだろ。」


「リーサとセキトがいるから大丈夫だとは思うが気を付けていくんだよ。」

「皆様の無事な帰還をメイは祈っております。」

「イサナさん…巫女様を、リーサ様をお願い致します。」


「気を付けて行ってくるよ。リーサ、ドワーフの集落に向けて出発するぞぉ!!」


まだはしゃいでるリーサに声をかけてセキトを馬車から外しリーサと二人乗りしてドワーフの集落に出発した。


・・・

・・


「まさか炎の試練をするために戻ってくるとはのう。なに、義兄弟の頼みだ喜んで協力してやるわい。とは言ってもワシらのすることは火の山までの道をおしえるぐらいだがな。」


昼過ぎにリザード族の集落を出た俺たちは夕方頃にドワーフの集落に着いた。

そこでガンテツに事情を話すと快く協力してくれることになった。


「やっぱりここにも炎の試練と浄化の儀式の事は伝わっているんですね。」


「まぁのう。ワシらがここに住んでる理由の一つが火の山を守ることにあるからのう。あと、イサナよ。ワシらは義兄弟なんじゃからもっと気軽に話さんかい。」


「え、まぁ、そういう事ならそうだな。遠慮せずに行こうかな。」


「うんうん。それでええんじゃ。じゃがさすがにこれから火の山に登るはやめといた方がいいな。明日の朝一で登るとええじゃろ。今日はワシの家に泊まっとけ。ダンテスは今それどころじゃないしな。」


「ダンテスに何かあったのか?」


「奴は元気じゃぞ。ただガラスの事で毎日大勢の職人が詰めかけてな。ワシらの間でガラスが流行まくって大変なんじゃよ。今度時間があるときでいいからどんな物を作るべきかワシらに教えてくれ。ワシらは技術の研鑽は得意でも新しいのを作るのはチョイと苦手じゃからな。」


「そうだな。それなら作ってほしいのがいっぱいあるぞ。それに俺も折角出来た義兄弟に伝えたいことがあるからな。」


「そうかそうか。なら浄化の儀式が終わったらワシら義兄弟で呑もうではないか。また一つ楽しみが出来たわい。さて嫁に言って部屋の準備をさせよう。そして待ってる間でいいから一つワシの頼みを聞いてくれんかのう?」


「俺ができる事なら喜んでするぞ。」


「なに、そんな難しい事ではないぞ。そのリザード族の嬢ちゃんが持ってる棍棒メイスと大楯をじっくり見せてくれ。そいつは間違いなく逸品じゃ。」


ガンテツがそういうとリーサは満面の笑みを浮かべ嬉しそうに盾を掲げた。

武具を作らせたら天下一品であるドワーフに褒められたことが相当嬉しいのだろう。

部屋を準備するまでと言っていたがその出来の良さにガンテツが是非他の職人にもと言いリーサもますます調子に乗って全員連れてこいと言ったので集落中の職人ドワーフがやって来てちょっとお祭り騒ぎになったのだが、各家の嫁さん連中が早く帰って来いとやって来たので蜘蛛の子を散らすように解散となったのだった。

時代も世界も違ったがどこの世も嫁は強いらしい。









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