千年の呪詛と戦う力

サイクロプス族が住むガンドラダ要塞に向かう馬車の中は重い空気に支配されていた。

出発して少しした後に俺が塩の祠ので見たことを説明したからだ。

最初こそリーサ、ネフェルを筆頭に喧喧囂囂けんけんごうごうの様相だったが今はなんとか落ち着きを見せている…いや、絶望に打ちひしがれているといったほうが近いかもしれない。


「主、ガンドラダ要塞が見えてきたよ。」


「あそこに行くのもとうとう3回目か。なんというかあそこに行くときは毎回面倒ごとが付きまとってる気がするね。」


「言われてみれば確かにそうかも知れないね。それとね前に合ったサイクロプスの代表には少し気を付けたほうがいいかもしれない。」


「気を付ける?気を付けるような悪い人には見えなかったけどな。」


「確かに悪い人には見えなかったけど何かしらの隠し玉を持ってるのは確かだと思うよ。」


そう言ってヴィオラは耳元の髪をかき上げた。

水色の髪からは


「ヴィオラ…お前はこっちに来てから偽装の魔法を解いたか?」


「残念ながら解いてないと。半分癖みたいになってるから無意識でかけてるんだよね。メイはその服装の為にバレるかもしれないけどボクはパッと見ただけでは分からないはずなんだけどね。」


あの時俺達に対してサイクロプスの代表はヒトとエルフとオニは珍しいと言っていた。

…何でエルフがいるって分かったんだろうな。

厄介ごとが増えた様な気がして胃が痛くなってきたぜ…


・・・

・・


ガンドラダ要塞についた俺達は直ぐに礼拝堂に案内された。

そこではサイクロプスの代表が一人で待っていた。


「商人さん待っていただぁよ。人払いはすましているからすきなだけ使うといいだぁ。」


「代表ありがとうございます。しかし、前回といい今回といいあまりにも手際が良すぎるのですがアナタは一体どこまで知っているのですか?」


「んだぁ?商人さんはガンドラダ様からサイクロプスの力については聞いてないだか?」


「サイクロプスの力…ですか?」


「あぁ~聞いてないんだなぁ。なら簡単に説明するだぁ。おで達サイクロプスは同胞が見ている景色を見ることが出来るだぁ。あまりに遠すぎたら無理だがここからリザード族の集落ぐらいなら余裕だぁよ。それにおでのように修行をつんだ神官なら相手の聞いている音も聞けえるだぁよ。だからだいたいの動きは見てたと同じだぁよ。それに商人さん達が初めて荒野に来るちょっと前にガンドラダ様からのお告げがあって商人さん達を助けるように言われただぁよ。」


サイクロプスにそんな能力があったとは全く知らなかったがそういう力があるなら俺達の動きを読んでたのも納得はできる。

とりあえず俺は皆にここに待っていてもらうように言うとガンドラダの像の前にたった。

2回深々とお辞儀を行い続いて2回パンパンと手を鳴らしガンドラダに会いたいと思いながら最後に一度礼を行うとふわりと体が浮かんだような感覚を感じ顔を上げたら目の前にはガンドラダがいた。


「待っていたぞ救世主。いろいろと話したいことはあるが長くここにいると歪悪イービルの連中に気取られる。だから詳しくは移動した先のヤツに聞いてくれ。」


「気取られるってことはまさか生きた歪悪イービルがいるのか!?」


「いや、いくら神の目が届かぬ荒野地帯でも生きた歪悪イービルはおらぬ。いるのは千年以上恨み続けている奴らの執念だけじゃ。そのあまりの執念深さはグランフィリア様の様な純然たる神々でさえ想像できんかったほどじゃから警戒するに越したことはない。さぁ、着いたぞ。ここにお主が求めている物があるしお主を求めている物がおる。神界の者さえ近寄らん最果てに位置する場所であり今最もワシらを悩ましている場所『宝物庫』じゃよ。グランフィリア様の封印によりワシは中に入ることは出来んがお主なら大丈夫じゃ。それにこの中なら奴らに気取られることは無い。この荒野にいったい何があったのか、ドラゴンやリザード族の様なウロコを持つ者たちにいったい何が起きたのかはこの中の物に聞いとくれ。ではな、救世主。この問題が終わった後にまたゆっくり会おうではないか。」


ガンドラダはそういうと静かに去っていた。

俺の目の前にあるのは高さ10m以上はある巨大な門だった。

どうやってこんな門を開けるんだと悩んでいたらゴンゴンゴンと凄まじい音を立てながら門が動き俺が入れるぐらいの隙間が出来た。

意を決して俺が入ると中は真っ暗で何も見えずどうしたものかと悩んでいたら先ほどと同じような音を立て門が閉まってしまった。

完全な暗闇であるはずなのになぜか俺の手足や身に着けている服は色まではっきりとわかるのでとりあえずゆっくりと歩き始めた。

少し経つと目の前に小さな光があるのを見つけソレに向かってどんどん歩いて行く。

近づいて行くにつれてその光が何なのか分かっていく。

それは先ほどの巨大な門とは比べ物にならないほど小さい扉で人1人分ぐらいの大きさしかない。

それが真っ暗な中にポツンと置かれていた。

他にこれといって何もないので俺はその扉を開けるとはち切れんばかりの歓声と共に迎えいれられた。


≪ようこそ、商人!!我らの下に!!!≫


一同が俺を歓迎する声を上げるがそこには人は俺以外いない。

そこにあるのは無数の剣、槍、斧、盾、弓、杖、鎧、兜、籠手、本、服、他にも木像に石像、ツボや、絵画、はては透明な容器に入れられた薬の様な物すらある。

それらが一斉に俺を出迎えてくれた。


≪久しいな商人。いや、こうして出会うのは初めてだから初めましてというべきかな。改めて名乗ろう我がここの代表、王剣である。≫


俺の目の前にフワリとやって来たのは聞き覚えある声であり、初めてみる宝物庫のまとめ役、王剣だった。

鞘に入っているから刀身こそ見れないがその鞘は漆黒の本体に煌めく装飾がされておりまるで星空を落とし込んだかのようだった。


≪ここが新しき主を待つ我らの安息地であり、商人が売るべき在庫の山というわけだ。どうだ、在庫切れの心配は必要ないぞ。≫


「そうだな…そりゃこんなにあったら対応に困るわな。」


無数の通路があるがどの先も果てが見えず霞んでいる。

魔導書が飛び交い、鎧や服は誰も着ていないのに歩き回り剣と斧が刃を合わせている、ファンタジーをここに詰めすぎじゃないですかね。


≪皆、新たな主を待ちわびておるのだ。自我あるものは新たな主の為に気を滾らせ自我無きものは主を夢見て眠っておる。では、今回新たな主を得る物達を紹介しようまずは彼女をここへ!≫


王剣がそういうと煌びやかな鎧が折り畳まれた服を持って来た。

赤いゆったりとした民族衣装だが舞などで使うような人に見せるための形ではなくどちらかという実践的なそれこそ戦闘を出来るようなデザインなのが気になった。


≪これがリザード族の巫女が炎の試練に挑むために纏う式服だがこちらで説明するよりもそのこの世に二つとない目で見たほうが詳しく分かるだろう。それともう一つリザード族の娘を主にすると言っていたのがいるのを覚えているか?それも一緒に持って行ってくれ。≫


ふわりと俺の前に現れたには恐竜の骨だった。

正しくは恐竜の様な生物の骨を素材に使ったのだろうが平たく突き出たフリルと2本の角のせいで俺にはトリケラトプスの顔の部分にしか見えなかった。

その特徴的な頭蓋骨で作られた大盾と尻尾の部分の骨で作られたとみられるメイスが俺の前に来たのだった。

盾からグルグルといった様な鳴き声が聞こえ目を失ったはずの眼窩がんかから鋭い視線を感じる。


≪そやつの生前は荒地地帯の端にある火の山に住んでいて歪悪イービル達と戦ったのだ。それ故にあの地を争うとする者への戦意はすさまじく高い。きっとこれからの力になるだろう。ではそれらを持っていきこの世界を荒らした悪しき者たちの愚かな執念を取り払うのだ。≫


王剣から必要な物を受け取ると俺の体が浮き上がったかと思うと気づけばサイクロプス族の礼拝堂に戻っていた。


「リーサこっちに来てくれ。儀式で使う礼服を渡す。」


「何を言ってイル?ゴシュジンは今ここで石像に祈っていただけだぞ。」


「そこの石像のモデルになったガンドラダ経由で受け取って来たんだよ。」


リーサとネフェルが何を言ってんだコイツ見たいな目で見てるので俺はカバンから礼服を取り出すと慌てて2人が寄って来た。


「本当に…元がヒトの霊神とは言え神々の末席に座る御方から受け取って来たのですか。」


「その気持ちは分かるがマジな話だぞ。どうだリーサ、サイズは合ってるか?」


「少し大きいがこれなら集落の職人が直ぐにでも調整できるハズダ。ところでゴシュジンはホントに何者ナンダ…」


「ただの人間の行商人だよ。ちょこっと神々の逸品を取り扱ってるだけのな。」


俺は礼服をカバンの中にしまうとサイクロプスの代表の方を向いた。


「来て早々で申し訳ないですが我々はまたリザード族の集落に戻ります。礼拝堂の素早い対応ありがとうございました。」


「気にすること無いだぁよ。むしろおで達の戦争に巻き込んでしまって謝らないといけないのはこっちのほうだぁよ。商人さんに頼むのは間違ってるとは思うけど一つお願いするだぁ。どうかこの永い戦いに決着をつけて欲しいだぁよ。」


「ここまで来たら全部終わらせますよ。そうしないと心置きなく商売できませんからね。では、我々はこれで。」


ヴィオラとメイちゃんにいろいろとリーサとネフェルが聞いている様だがなぜか顔が青い気がする。

とりあえず必要な物は手に入ったのでリザード族の集落に戻って炎の試練の為の準備をすることにしよう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る