ドワーフたちの誕生日パーティー
今日はドワーフの首領であるガンテツの誕生日。
宴会は夜という事で今日は朝から宴会の準備で集落中のドワーフが朝からあっちへ行ったりこっちへ行ったりしている。
そんな中俺はいつもの如く露店を出していた。
そもそも、何故俺がドワーフの集落で露店を出しているのかというとダンテスが工房に引きこもっているからである。
ガラスという新素材を知ってしまったダンテスは俺から加工方法を聞き試作品第一号が完成するといなや俺達を工房から放り出し完全に引きこもってしまった。
飯は奥さんが慣れた様子で持って行っているがこうなってしまっては誕生日当日まで出てこないそうなのでどうするか悩んでいたらせっかくなので露店を出してみたらという奥さんの鶴の一声で大工房の販売所の一角をお借りして露店をだしてみた。
販売するメインの商材は木工品にすることにした、というのもここの集落では木工職人は少ないうえにメインで作ってるのが武器の柄や家具類、日用品類は皿ぐらいしかなかったので許可を取ったうえで販売を開始した。
そんな中で俺は一計を案じ一つのヒット商品を作り出した。
それは何の変哲もない髪を整える様の
というのもヒゲ文化があるので男女ともに使ってそうなクシだが実はこれが無く、ドワーフたちは鉄製のブラシで今までヒゲや髪を整えているという話を聞きこれはイケると感じた俺はドワーフの散髪屋を呼んでクシとブラシの使い分けとクシとカミソリの合わせ技を教えると散髪屋は簡単かつ今までよりもキレイにヒゲや髪を整える事が出来る事が分かり大興奮で感激してくれたので俺はそのお礼として露店の前で皆のヒゲや髪を整えて欲しいと頼みプロを使った実演販売を決行。
そのおかげでクシは飛ぶように売れて行き神様工房に増産を頼み一躍時の人となったのだった。
なお、他にも売れたのが持ち運び用のバスケットや小さな小物入れで今回売れた種類の商品は集落の木工職人に伝えたのですぐにでも作られるだろう。
ちなみに話のタネにと置いておいたこの世界のヒトが作った鉄製武具は目にした瞬間鼻で笑うか爆笑するかのどっちかで全く売れませんでした。
そんなこんなで誕生日の今日も露店を開いていたのだがダンテスの娘さんが呼びに来てくれたのでとっとと店じまいを行い目の下に隈を作ったダンテスと合流し宴会会場に向かった。
そこではガンテツがいろんな人から贈り物を受け取っているようで俺達は若干出遅れた様子だった。
「もう始まっているようだけど良かったのか?」
「あぁ、構わねぇよ。これはアニキというよりは酋長の誕生日を祝うのと同時に火と鉄と山の神に一年の感謝と来年一年の安全祈願を行う祭事でもあるんだわ。だから最初はかたっ苦しいお祈りから始まるんだがそれはアニキと神官達と信心深い連中ぐらいしか出ねぇからな。その後に神々への捧げもの兼首長への祝いの贈り物だな。これは工房事に行うから規模の大きさ順になってるからそこまで急ぐ必要はねぇのさ。ちなみに親族が一番最後、要するにオレだな。」
「国王とかを神と同じ扱いすること珍しくはないけどガンテツの様子を見るとちょっと違う感じ見えるんだけどもしかして崇め奉ったほうが良かったのか?」
「ああ、そういうのとはちょっと違うんだ。オレ達ドワーフを作った神様が捧げものと酋長への贈り物の2つを用意するのは大変だろうから酋長の誕生祝いを捧げものとして扱って良いと言ったので昔っからこの形なんだよ。ありがたいけど不思議な話だよな。おっと話してたらオレ達の番になったな。先にイサナから行きな。」
ダンテスと一緒にガンテツの前に出て俺は一歩前に出て口を開いた。
「この度はガンテツ様の誕生をお祝いでき「ああ、そういった堅苦しいのは無しでいいぞ。なんたって今日はワシの誕生祝いじゃから気軽に楽しまんとな。」そう言う事なら早速プレゼントのご紹介と行きましょう。今回オオイリ商店がご用意しましたのは恐らくドワーフでは作れない酒でございます、ではメイちゃんカモーン。」
俺がそう言うとメイちゃんが馬車から一つの樽を運んできてくれた。
というか酒が詰まった樽を軽々持ってきたメイちゃんのパワーに主様ちょっと戦慄なんですけど…
「ワシらドワーフに作れん酒とは大きく出たな。ワシは手っきり最近話題のクシかと思ったぞ。」
「…え?あぁ、まぁ、それも考えもしましたがドワーフといえば酒、酒といえばドワーフなのでそのドワーフを酒で驚かすことの方がこういった席ではお似合いでしょう?」
「クク、ぬかしおるわ。流石はこの数日で集落中にその名を轟かせたことはあるな。では、早速いっぱい頂こうか。」
ガンテツが銅製のジョッキを差し出してきたのでそれを受け取り樽の栓を取り適量を入れて返す。
というかこの酒をジョッキに入れるってなかなか無いよな。
「これは…ワインか?確かにこの集落では作れんがそんなに驚く酒ではないぞ?」
「そうですね。酒の種類で言えばまごう事なき赤ワインですが流石にそんなので勝負をしませんよ。とりあえず一口どうぞ。酒は飲んでなんぼでしょ?」
「それもそうだな、ではありがたくいただくとしよう。」
ガンテツは一口飲むと目を大きく開いて驚きマジマジとジョッキの中の酒を確認し次は恐る恐る一口を口の中に貯め味わってから飲み込み残りはガブガブとおいしそうに飲み干した。
「こいつは驚いた。味は確かにワインだがワシの知ってるワインはまるで違う。なんといえばいいか普通のワインは果実の味が残る若いと言えばいいのかツッケンドッケンと言えばいいのかそう言った味なんじゃがこれはその若さが消えてまろやかになったというか落ち着きを持ったというかそういった味じゃな。普段のよりこっちの方が好みじゃな。いったい普段のとどう違うんじゃ!?」
「基本的には同じですよ。潰したブドウを樽に入れて酒になるまで寝かす。ただ違うのは酒になってもなお寝かすことです。」
「酒になってなお寝かすじゃと!確かにほかの酒でも完成するまで寝かすことはあるがまだ寝かすとは…どれぐらい寝かすんじゃ?1か月か?半年か?まさか1年も寝かさんよな!?」
「その回答を聞く限り間違いなくこのワインは作れませんね。だってこのワインは10年も寝かしていますから。」
そう、俺がプレゼントしたのは熟成ワインである。
これは学園都市の戦勝パーティーの時に仕入れたワインで酒屋から売れ残りだからという理由で格安に仕入れたワインである。
まだまだこの世界は熟成という考えが無い様でビンテージワインでありながら通常のワインよりも圧倒的に安く仕入れられたので大量に残っている。
まぁ、モンスターや賊が横行しているいつ亡くなるか分からない世界で長期熟成という考えに至るのは土台無理なのかもしれないがそれはそれとしてこちらも使えるカードは何でも使わないとこの世界を渡り歩けないのである。
なお、何故廃棄処分されなかったのかというと酒は腐らないので置いといてもヨシッといった考えと持ち運ぶには重すぎるからだそうだ。
ちなみに俺の答えを聞いたドワーフ達は「10年は無理」とか「1年も我慢できない」とかでざわついていた。
流石にのんべぇが多すぎじゃないですかね…
「10年は無理じゃな、断言してもいい。確かにドワーフには作れん酒じゃわ。それで図々しい話ではあるがもう少しこの酒はあるか?是非ともほかの連中にも飲ませてやりたいんじゃ。」
「その辺は抜かりありませんよ。まだまだ仕入れたのが残っていますからね。ただ、一つお願いしたいのは口に合わなくても文句は言わないでくださいよ。なにせこっちは子供なので味見すら出来ないんですから。」
「ククク…ワッハッハ…安心せい!ワシらドワーフは不味い酒に当たっても文句を言う奴はおらんぞ。文句を言うとすれば己の運の無さに向かってじゃ。酒をふるまってくれた奴に文句を言ったやつがいたらワシに言うんじゃぞそんな奴はこの集落からおいだしてやるからな。」
「わかりました、では自分はこれで。なにせ次が大本命ですからね。」
「ほう…世界一の目利きの目を持つお前が言うんじゃから相当なのを期待していいんじゃな?」
「もちろんです。世界で唯一といっても過言ではないかも知れません。」
そして俺は一歩さがり代わりにダンテスが一歩前に出たのであった。
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