職人の一族、ドワーフ・後

ドワーフの集落に着いたその日の夜。

俺達の歓迎会をしてくれるというので迎えにきてくれたダンテスについて行く事になった。

長い洞窟の如き通路を抜けるとそこは外に繋がっていた。


「へへ、驚いたって顔だな。ドワーフは万年穴倉暮らしだと思ってただろ?間違っちゃっいねぇが正しくもねぇわな。確かに家は岩山をくりぬいて作ったりするが外が嫌いってわけじゃねぇんだぜ。てかずっと穴倉で暮らしてたら火事場の熱で干からびちまうしな。お前たちと初めに会った所は関所とか砦みてぇなもんであそこで住んでるのは当番の兵士だけだぜ。」


ダンテスはケラケラと笑いながら俺達に教えてくれた。

周りの岩山を見ると簡素であるが扉や松明がついていてそこが間違いなく人の住む場所というのが分かった。

そんな集落を抜けて中心につくと多くのテーブルと椅子が並んでおりガンテツを中心に老若男女多くのドワーフが集まっていた。


「おお、来たか。さぁさぁ、リーサとイサナこっちに来い。」


俺とリーサは言われるがままにガンテツの近寄るとガンテツは周りのドワーフ全員に聞こえるように声を張り上げて言った。


「さぁ、鉄と酒を愛する我が同胞たちよ、主役が到着したから改めて説明しよう。まずこちらのリザード族のリーサだが同族を助けるためワシらの技術を求めてやって来たお嬢さんだ。ワシはその心意気に感動し、しかもワシらの友であるサイクロプスとの親しいというという事で彼女の同族を助けるために手を貸すことに決めた。一族のためとはいえこの過酷な土地にやってきた彼女の為に我が同胞達も是非力を貸してほしい。」


ガンテツがそう紹介すると周りのドワーフたちは、

「良くぞ来た!」「若いのに立派だぞ」「ワシらに任せな」

とかなり快く歓迎してくれた。


「さて、もう一人の紹介をしよう。こやつはヒトの行商人のイサナ。こやつもリザード族の為にと種族の垣根を越えて協力しておる義理堅い男だ。それだけでも賞賛されるべきじゃが皆こやつの見た目に騙されてはいかん!なんとこやつはあのを突破したのだ!!」


ガンテツがそう紹介すると静かにガンテツの言葉を聞いていたドワーフ達が一斉に沸き立った。

それはそれは凄まじく周りが何を言ってるか分からないぐらいだ。

ただ幸いなことにそれらに悪意は混じってなさそうって所か。

ガンテツが手を上げると騒がしかったドワーフたちが静かになっていく。


「みんなの気持ちは良く解る、ワシも出来るならその時のことを詳しく話したいがそうするとせっかくの料理が冷めてしまうからまずは乾杯といこう。では、素晴らしき若者たちに乾杯!」


乾杯の一言と共に金属で出来たジョッキをガチャンと鳴らすと大人のドワーフは男女問わずおいしそうに飲み干し歓迎会という名の宴会が始まったのであった。


・・・

・・


「どうだ、イサナどんどん飲んでるかぁ?」


俺は絶賛、現在進行中で髭モジャゴリマッチョの酒臭いドワーフ代表に絡まれていた。


「いやぁ、まだ子供なので酒はちょっと…」


先ほどまではリーサとともに沢山のドワーフに囲まれここより外の話や俺が持ってきている品物の話をしていたんだが気づけば俺の周りからオオイリ商店の面々は姿を消していた。


「アニキ、言われた通りとっておきを持ってきたがこれをどうするんだ?」


「おぉ、ダンテス持ってきたか。いやなに折角だからこのイサナに宴会を盛り上げて貰おうと思ってな。ほらイサナ、お前の目でダンテスの目利きしてみてくれよ。」


俺の目の前に置かれたのは黒地に金の羽ばたく鳥が刻まれていた見事なダガーの鞘だった。

その羽ばたいている鳥は鞘に刻まれているはずなのに今にも飛び立ちそうな程見事な躍動感を感じるほど見事な出来だった。

ダンテスに許可を貰い【目利き】を発動してみてみた。


【装飾入り鉄製ダガーの鞘】

・ドワーフ製の装飾入り鉄製ダガー用の鞘

・名品判定

・金で火の神獣の装飾が刻まれている一品

・金に様々な金属を混ぜることで些細な色の違いを出しており光の当たり方によってはそれが立体的に見える躍動感を生み出している

・装飾を重視する相手ならば3金でも売れるだろう


「どうだ、イサナ。ダンテスの装飾は見事だろう?」


「ええ、見事な出来です。貴族相手ならば3金はいけますね。」


「おお、そうかそうか。それでお前から見てこの凄い装飾の秘密は分かったか?」


「そうですね。だいたい分かりましたがそれをこの場で話すにはまずはダンテスさんの許可を取らないといけないですね。間違いなく秘伝の一つだと思いますので。」


「へぇ~ 今までどのドワーフにも教えていない俺の秘伝が見ただけで分かったってなら言ってみな。もし合ってたらこの場でバラしていいぜ。」


ダンテスがそう言ったので俺は目利きで知った情報を耳打ちした。


「ハァァァ!?な、おまえ、今まで誰にも言ったことない俺の技が何で解ったんだよ!」


ダンテスの驚いた声に周りのドワーフの目線が一斉にこっちを向きガンテツは楽しそうに爆笑していた。


「だから言っただろダンテス。コイツは目利きの試験を突破したってこいつの目利きの力は間違いなくワシ以上いや、ここにいるドワーフの誰よりも上だって言い切ってやるぜ。それで、お前の秘伝を教えてもらおうか。」


「ああ、チクショー。絶対分からないと思ったのに。いいぜ、ドーンとバラしてくれ。」


ダンテスの何処か清々しい言葉を聞いたので俺は早速さっきの結果を話し始めた。


「その装飾は羽根の一枚一枚までこだわった見事な物でその中で一番見事な所はその今にも飛び立とうとしているその躍動感です。では、その躍動感の秘密は何かというと僅かな色合いの違いです。一見全ておなじ金色に見えますが所々に金と何かを混ぜ合わしているものを使い色合いの違いを生み出すことで陰影が生まれそれが光の当たり方によって見事な立体感を生み出しているのです。流石に金に何を混ぜているかまでは分からないですけどね。」


俺の言葉を聞いてガンテツは鞘を手に取りいろいろと角度を変えながらじっくりと確かめるように見ておりその様子を周りのドワーフが固唾を飲んで見ていた。


「ホントだ…ホントだ!おお、言われるまで全く気付かなかったが確かにこいつは金に何か混ぜてやがるな。こいつは見事な技術だなワシの弟ながら驚かされる。ほら、お前らもじっくり見てみろ。この色合いの違いは中々だせんぞ。」


そう言ってガンテツが周りのドワーフに鞘を渡すと受け取ったドワーフが先ほどのガンテツのようにじっくりと確認していきその度に「凄い」やら「見事だ」とダンテスの技術を褒めたたえていた。


「アニキは大げさに言う所があるから今回もそれと思っていたがこれには驚かされたぜ。ここまで見事にいい当てられると悔しいを通り越してなんだか妙に嬉しいな。なんだかオレの努力をちゃんと見てくれてるって感じで。」


「そうだろう、そうだろう。ワシも長い事試練で多くのヤツに剣を見せてきたが誰も正解した奴がおらんかったから他の連中は全く見る目が無いと思ってたんじゃがな。イサナに全部言われた通りは年甲斐もなく嬉しくなってついはしゃいだわ。」


「こんな目利きできるヤツと会えるのも明日の朝までとはホントに残念だな。せめて後10日こっちにいれたらよかったのにな。」


「10日?何かあるんですか?」


「ああ、10日後はアニキの誕生日なんだ。一応アニキはここの酋長だから多くの職人連中が贈り物を持ってきてくれるんだよ。その中には見事な物も多くてな是非お前の目にどんなふうに映るか聞きたかっただけだ。」


…10日かぁ。

正直に言うと見たい、ドワーフの職人達がトップの為に腕を振るった物を見てみたいが俺達はリザード族の為に来てるからわがままは言えないしな。


「ゴシュジン。もし、ゴシュジンが興味を持ってるならアタシだけ先に戻っても構わナイゾ。」


「リーサ?」


「本来ならばこれはリザード族だけの問題だったノダ。今回も本当はアタシだけで解決しないといけないはずだったのにゴシュジンの力に頼り過ぎてシマッタ。せっかくドワーフ族と関係を持てたノダ。精一杯祝って来てからリザード族に戻って来てクレ。」


「そうか…ありがとうリーサ。ならドワーフ族の集落をじっくり見てガンテツ殿に最高のプレゼントを贈ってから戻ることにするよ。」


「おお、なんだなんだ。今年の誕生日は豪華になりそうじゃないかぁ、ダンテス!」


「そうだな、オレもどこまで出来るか分からないが最高のプレゼントを用意するよ。」


「…そうか、では楽しみにしているぞ。ああ、それとイサナは悪いが他の連中の相手もしてやってくれもうそろそろ我慢の限界の様だ。」


ホレっとガンテツが指をさすほうを見ると多くのドワーフが剣や斧、槍、槌などの武器に始まり兜、盾、はては鍋やツルハシまで持って集まっていた。


「皆、お前の評価を受けてみたいようだぞ。まぁ頑張ってくれ!」


こうして俺のドワーフの集落の滞在が決定したと同時に宴会どころでなく【目利き】祭りも決定し夜が更けていったのだった。

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