職人の一族、ドワーフ・前

「用件はわかったが素直にハイとは言えねぇな。サイクロプスの友人を無下には扱いたくは無いがよく知らねぇ連中に簡単に手を貸すほどお人よしではないんでな。」


まぁ、そうなるわな、とリーサの説得を見ながら俺はそう思っていた。


・・・

・・


今から1時間前ぐらいにドワーフ族の集落に入った俺達は案内されるがまま集落を進んでいた。

地底世界に迷い込んだかのような大空洞を進むと兵士が守っている大きな扉がありその前で待つように言われたので俺達は馬車を降りて待つことにした。

それから少し待っていると兵士が入るように言ったので同行しているサイクロプスが扉を開けて入っていったので俺達もそれに続いて入っていった。

中は広々とした飾りのないシンプルな部屋でその奥の1段高くなっているイスに1人のドワーフが座っていた。


「ワシがここの代表のガンテツだ。しかしサイクロプスが誰かを連れ来るとは初めてだな。とりあえず用件は聞いてやろう。」


そしてリーサが状況を説明したのだが返ってきたのは先ほどの答えだった。

リーサが頑張って説得しているがガンテツはのらりくらりとかわしている。

見た目はゴリゴリマッチョのバリバリの武闘派だが絶対拒否ではなく拒否するかもよって感じの受け答えをするあたりかなりの切れ者のようだ。


「主様、なんとかリーサ様をお助けできないですか?」

「俺も助けてやりたいがあのドワーフが何を求めてるかが分からんからなぁ。」

「ドワーフ達は認めて相手にはとっても優しいだぁ。だから認めてもらえるようなことをすればいいだぁ。」

「ドワーフと言えば鍛冶の技術と酒と戦いかな。この辺りをつつけば良いかもしれないね。」


リーサが説得している間に俺達は後ろでコソコソと相談していた。

つつくべきポイントは三つ、問題はどれを押すかだがその結論は出そうにも無かった。

…仕方ない、ここはちょっと覚悟を決めてみるか。


「お話中失礼します、ドワーフの首長ガンテツ様。自分は彼女達と共にしている行商人のイサナと申します。良ければ自分の提案を聞いて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」


「ほぅ、やっぱりお前がそうだったか。兵士が面白いニンゲンの坊主がいるって言ってたから気にはなってたんだ。いいぜ、言ってみな。」


「ありがとうございます。では早速ですが先ほどガンテツ様はと言われておりましたがこちらとしてもその通りだと思います。」


俺の言葉にリーサが戸惑いの表情を見せて俺を見たが手で静止するようにサインを出し言葉を続けた。


「こちらもドワーフの方々は酒と戦う事に目が無く鍛冶の技術においては並ぶものが無い程の腕を持っていることしか知りません。そこでまずは我々を知ってから判断していただけないでしょうか。」


俺の意見を聞いたガンテツは目を瞑り立派なヒゲをさすりながら暫らく考えていたがパチリと目を開き答えを出してくれた。


「まぁ、ここら辺が折衷案だわな。いいぜ坊主、その案を飲んでやろう。おい、おめぇらいつもの持ってきな!」


ガンテツが近くの兵士に命令すると兵士は引っ込み、また直ぐに帰ってきた。

その手に4本の剣を持ってきて。


「お前らも知ってのとおりワシらは鍛冶の技術とくに鉄の扱いについてはどの種族よりも優れてると自負してる。だからいろんな連中がワシらの作った武器を求めてやってくる。だけどな、目が節穴の奴にワシらの武器を使わせる気はさらさらねぇ。これから坊主にやってもらうのはそんな連中をふるいにかけるときの試練みたいなものだ。試練といっても危ないことはひとつも無い。ここにある4つの剣の中で判断してもらうだけだ。お前も商人の端くれならこれぐらいの目利きは出来るだろう?」


「ええ、勿論です。自分はまだまだ若輩者ですがに関しては誰にも負けないと自負しておりますので。」


「ヘッヘッへ、ガキのくせによくほえるじゃねぇか。そういうのは嫌いじゃないぜ。じゃ、どれが一番優れてるか選んでみな。」


勝ったな。

ヘッヘッへ、【目利き】の力を持ってる俺からすればそんなものを判断するなんて朝飯前に赤子の手をひねってる時にカモがネギと一緒に鍋に入ってるようなものだ。

さて、選んでみようかね。


・・・

・・


「おいおい、坊主ほえるだけほえてさっきから動いてないけどどうした?」


選び始めて10分ぐらい経ったと思うがガンテツの煽るようなセリフを聞いてなお俺は返事を出せなかった。

というのも1という判定が出せない状況だからだ。

現状4本の内2本は除外できたが残り2本が曲者だった。

一本目の剣の【目利き】の結果は、


【鉄の剣】

・ドワーフが作成した鉄の剣

・名品判定

・ヒトの骨ぐらいなら簡単に斬れる

・販売価格は300銀が妥当


問答無用で間違いなく名品である。

因みに【目利き】の判定段階は下から大まかに、上質、良品、優品、名品、逸品の順で何も無ければ基本的に一般品でそれよりも下に粗悪などもある。更に金銭的な価値を決めれないと判別不能とか出ることもあるし俺がもっと見たい思えば同じ品質でも上、中、下など細かく調べられる。

なお、神様工房の品は低くて上名品で逸品がごろごろしてるし意思持ちは基本的に判別不能だ。

学園都市の剣の品質は基本的に一般品で上質がたまに混じってて一部の貴族が極稀に良品を持ってた程度だ。

そう考えるとドワーフの職人の腕がいかに凄いか良く解るかな。

しかし、今の問題はもう一本の剣にある。


【鉄の剣(エンチャント有り)】

・ドワーフが作成した鉄の剣

・優品判定

・使い手の腕次第ではヒトの骨ぐらいなら斬れるが魔力をこめることで切れ味が増すエンチャントが刻まれている。

・販売価格は300銀が妥当


品質は下がるが特殊効果有りと来た、流石は異世界だ。

でもなぁ、俺はまだ魔法そういう系の知識に疎いからこれがどれだけ凄いか解らないんだよぉぉぉ!!!

前にもエンチャント付きの商品で【賢者の眼鏡】ってのを【目利きみた】けどアレはもっといっぱい付いてたからあんまり参考になりそうにないしな。

皆も不安そうな目で見ているので早く答えを出したいんだが全く解らん、どっちが優れてるんだ?


「ずいぶんと悩んでるみたいだな。何を悩んでるか一度言ってみな。ヒントぐらい出してやっても良いぜ。」


悩んでる俺を見てガンテツはそう言ってくれた。

おそらく一生答えは出ないだろうし言ってみるか。


「では、何を悩んでいるか言わせていただきますね。悩みの種はこの2つの鉄の剣です。こちらの剣は紛れも無く名品です、ヒトの骨すら簡単に斬れるでしょう。対してこちらですが、こちらも素晴らしい品で使い手によっては骨も切れるでしょうが残念ながら名品とは言いがたいですね。ただし、こちらにはエンチャントが刻まれております。魔力をこめれば先程の剣と同等ぐらいにはなると思われます。といった事で未だにどれが一番優れているか決めかねている状態です。」


俺の言葉で室内が静まり返っていた。

ただ、呆れかえっているというよりも驚きのあまり声が出ないといった感じだ。

なにせガンテツも、そばに控えているドワーフの兵士も目と口をこれでもかと開いて固まっているからな。


「………坊主、お前の名前は確かイサナだったな?」


「ええ、そうですが…」


ガンテツは下を向き改めて俺の名前を確認した。

先程よりもトーンダウンした声と表情が読み取れないこの状況はちょっと怖いんですけど…


「完敗…ワシの、いやワシ等の負けだ。何も反論が出来ないぐらいの完敗だ!坊主、じゃないなイサナ。お前の言ったとおり、全部言ったとおりだ。その剣の素材も切れ味も品質も隠しだまのエンチャントも何もかもお前の言ったとおりだ!それをお前は見ただけで動きもせず持ちもせず全て言い当てた!衛兵達でそんなことを出来る奴はいるか!?」

「ムリです。」

「持って素材、斬ってやっと品質が解るぐらいかと。」

「実は夢を見てるのかと思ってるぐらいです。」

「ウヮッハッハ、そうだよな、そうだろな。見ただけとかワシだってムリだ!たとえ【鑑定】のスキルを持ってたとしても見るだけだとここまでは分からんぞ。いやはや、これはたまげた。この試練をここまで完璧にこなすのは後にも先にもイサナ、お前だけだろうな。目利きには自信があるって言うのは嘘じゃなかったな。」


俺が言うのもなんだがガンテツは子供のように楽しそうにかつ嬉しそうにまくし立てた。

周りの兵士たちも尊敬するような目で俺を見るしあまりの変わりようにオオイリ商店一同が面食らってる状態だ。


「先祖代々続けてきたこの試練だが今まで突破した者がいないんでワシの代で終わらせようとおもっとったがこれからも続けて行く事にしよう。試練を突破されたのにココで愉快な気持ちになるとは思わんかったわ。」


「その…試練を突破されたのにですか?」


「ウヮッハッハ、それはそうじゃろワシの作った剣をここまで見事に理解してくれるなんて職人冥利につきるわ。それでリザード族が穴を掘ったら落盤するから助けて欲しいって話じゃったな!若い衆を見繕ってやるから好きなだけつれてけワシとお前はもう無二の親友じゃからな。」


あまりのテンションの高さに俺が付いていけなくなっていると後ろから一緒に来たサイクロプスがやってきて俺に教えてくれた。


「店長さん、職人にとっての一番の喜びは自分の作ったことを理解されることだぁ。だけど、1から10まで他人に理解されることなんて有り得ないだ。でも、店長さんはその有り得ないことを成し遂げただからガンテツ殿は喜んでるし他の職人ドワーフたちも尊敬してるだぁよ。」


俺は職人として生きたことは無いのでなんとなく出しかないがサイクロプスの言ってることは理解できた。

今まで【目利き】については便利な技術的な気持ちでしかなかったが今の出来事で大分考えが変わった。

思い返せばカービン子爵での村でも神様工房の皆も【目利き】で鑑定してから買い取ったら皆喜んでいたな。

俺はてっきり高く買い取ってたから喜んでるのかと思っていたが本当はこういう事だったんだろうな。


「これで決まりだな。若い衆を出すのも早くて明日の朝になるから今日はここで泊まっていけ。すまんが、アイツを呼んできてくれるか。」


ガンテツが横の兵士に声をかけると兵士は一礼して部屋を出て行き直ぐに男を一人連れてやってきた。

やってきた男は周りのドワーフよりも一回り細身に見える、とはいってもそれは周りのドワーフを基準にした場合なだけで俺から見れば十分マッチョな分類ではある。


「こいつはワシの弟でな。ダンテスと言ってドワーフの中でも特に器用な奴で皆がコイツに装飾を頼む程の腕をもっとる。世話係として付けるから使ってやってくれ。」


「オレはダンテス、言われた通りガンテツの弟だ。休憩できるところまで案内するからついてきな。夜には大騒ぎになるから少しでも休んでおきな。」


そうして俺たちはダンテスに休憩できるところまでついて行くのであった。

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