オオイリ商店、更に北へ

だだっ広い荒野が広がるリザード族周辺を更に北に行くと段々と広い荒野は無くなり代わりにごつごつとした岩山がメインになってくる。

俺達はサイクロプスの案内人と共にドワーフ族のすむ岩山に向かっていたのだが…


「あ~づ~い~、なんだか暑いというよりも熱いんだが。」


「そうだね…流石のボクもこの暑さはにわまいるよ。」


「主様にヴィオラ様大丈夫ですか?お水飲まれます?」


異様な暑さにぐったりしている俺とつかれた顔をしているヴィオラを尻目にメイちゃんとリーサはこれぐらいの暑さはなんとも無いようにケロッとしていた。

荒野地帯にもともと住んでるリーサはともかくメイちゃんが大丈夫なのはちょっと意外だった、やっぱりオニ族ってのは身体的に強いのかねぇ。


「この辺りは火の山の影響で一段と暑いからしかたねぇど。」


そういったサイクロプスが指差した方向を見ると黒い山が見えた。

昼間だから分かりづらかったがよく見ると黒い山の山頂がうっすらと光っていた。


「ゴシュジン、あの山は火山ダゾ。そして荒地に住む者たちの聖地ダゾ。」


ヴィオラの代わりに御者をしているリーサが教えてくれた。

ということはうっすら光ってるところは火口なんだろうな。

だからといってここまで暑くなる原因を許す気は無いがな!

と、意気込むものの暑いものは暑いので寝そべった状態で馬車に揺られるのだった。


・・・

・・


もうすぐでドワーフの住んでるところにつくと案内人が言った後ヴィオラが声をかけてきた。


「主、ドワーフ族に会う間はボクはヒトに見えるように魔術を使っているからそのつもりで頼むよ。」


「あ~、やっぱりエルフとドワーフって仲が悪いのか?」


「それはなんとも言えないね。ボク自身は気にしてないし今の時代でドワーフを毛嫌いしてるエルフは聞いたこと無いよ。好きとか嫌いとか以前に交流が薄れたのさ。ただ、伝わっている昔話ではエルフとドワーフはいろいろと絡んでるからね、もちろんいい意味では無いのも含めてね。ボクは問題なくても向こうがどう思うか分からない以上、下手に刺激するつもりは無いさ。」


「まぁ、そうだな。お願いに行く立場としては少しでも面倒ごとは避けたいしな。」


「そういうことさ。まぁ、ボクの魔法がそう簡単に見破られることは無いから安心してくれていいよ。」


そういうとヴィオラは何かを口ずさむ。

すると先ほどまで長かったはずの耳は俺と同じような丸い耳に変わった。

何度で見ても不思議な光景だ、いいなぁ俺も魔法使いたいなぁ…


「停まれ!サイクロプスの坊主、馬車なんて引き連れていったい何のつもりだ!?」


俺がぼんやりと魔法への想いを考えていたら馬車を止めようとする野太い声が聞こえた。

そっと馬車の外を覗くとサイクロプスに話しかける者と馬車を取り囲もうとしている3人の兵士が見えた。

彼等は俺よりも少し大きいぐらいの背丈だが一様に鉄の兜に鎖帷子を着こみ丸太のように太い腕には己の身長の倍はあるような柄まで鉄でできたハルバードを持っていた。

しかし、それよりも目が行くのは彼らのヒゲだった、きれいにストレートにしているものや編み込みしているものなど皆かなり手を入れているのが良く解る。

彼等こそ間違いなくドワーフ族だろう、むしろこれほど立派なヒゲを付けてドワーフでなければこの世界でやっていく自信を無くしそうだ。


『なかなか立派なヒゲですが美髯公ビゼンコウには敵いませんな。』


そりゃ、後世に伝えられるようなヒゲと比べるのは酷なもんでしょうよ…


「ゴシュジン、少し出て来てクレ。」


リーサに呼ばれたので馬車の外に出ると先ほどまでサイクロプスと話してたドワーフ兵が胡乱な目つきで俺を睨んでいた。


「ワシらはこの馬車の持ち主を呼ぶように言ったはずじゃが?」


「兵士さん、間違いなくこのヒトがこの馬車の持ち主で店主さんだぁよ。」


サイクロプスの言葉にリーサも静かに頷くとドワーフ兵は手で目を覆い天を仰ぎながら言った。


「ヒトはこんな子供ですら働かなならん程落ちぶれていたというのか…」


「お言葉ですがドワーフ殿。自分は確かに若輩者ではありますがこの道は間違いなく自らの意思で選んだものです。驚かれるのは無理もないですが同情される謂れはありませんよ。」


売り言葉に買い言葉とはよく言ったものでドワーフ兵の発言に反射的にそう答えてしまった。

後悔先に立たず、後の祭り等といった言葉が頭をよぎるが精一杯の虚勢を張ってじっとドワーフ兵の目を見ていた。

正直めっちゃ怖い、ロダンさんも鋭かったがこの兵士の目は完全に人殺しの目だよ。

いつも間にかヴィオラが俺の横に立っていた、背中にあの神界工房で貰った短剣を隠し持ちながら…

この異常事態にほかのドワーフ兵も集まってきたしヤベェぞ、今回はマジでやっちまったか…


「フハッハッハ…その貧弱な体でよく言った!本来はヒトを通すなど以ての外だがサイクロプスの友人であることと、坊主の精一杯の虚勢に敬意を払って通してやろう。」


助かった、のか?助かったってことでいいよね!?


「あと、スマンかったな坊主。ワシらドワーフはヒトにあまり良い印象を持ってなくてついあのように言ってしまった。許してくれるか?」


「こちらも言い過ぎましたので互いに水に流すという事でどうでしょうか。」


「では、そうしよう。じゃがな坊主、ワシらドワーフと付き合っていくのならあれぐらい肝っ玉があるほうがいいぞ。ドワーフ族は荒っぽい連中が多いからな。ではワシについてこい。」


ひと悶着あったものの、ドワーフ兵に案内されて俺達は無事にドワーフの集落に着いた。

外から見れば黒煙、白煙が立ち上る岩山でしかないがその中は想像を超える大空洞が広がっていた。

天井や壁のいたるところにボンヤリと光る結晶体が埋め込まれており地底世界に迷い込んだかのような気持ちになる。

この場にカメラが無いのが本当に悔やまれる程不思議で楽しい景色を見ながら兵士に案内されるがままドワーフの首長に会いに行くのであった。

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