巨人の力は伊達じゃない
「リザード族の集落なんてはじめて行くだぁ。」
「だぁなぁ、早く見てみてぇな。」
「いっぺんリザード族の戦士と一緒に狩りをしたことがあったが走るトカゲみたいなのに乗ってすっごく早かっただぁよ。」
「ほぇ、流石は荒地の守護者達だなぁ。」
サイクロプス族の成人の儀を終えた次の日、俺たちは10人のサイクロプス達(割合は戦士と石工職人が5人ずつだ)とリザード族の集落に向けて移動していた。
ドスンドスンと大地を揺らしながら進む姿は壮大ではあるが近くを走ってる俺は内心ビビッてた。
踏まれないとは分かっていても巨大な影が近づいてきたり近くを歩かれると馬車が跳ねたりするから普通はビビる…はず。
ただ、ビビッてるのは俺だけでヴィオラはいつも通り御者に徹してとセキトは変わらずに堂々と進みメイちゃんにいたっては凄い凄いとはしゃいでいた。
…なんだろうこの疎外感は、俺がおかしいのか?いやいや、そんなことは無いはず。
けど異世界だしなぁ、これぐらいは日常茶飯事なのかもしれないな。
こういうときは何か楽しかったことを思い出して気にしないようにしよう。
最近だとやっぱり昨日の成人の祭りかな、アレは凄かったな。
戦士職と生産職に分かれてのお披露目会のような感じであったが身体のサイズの違いであそこまでスケールが変わるとは思っても無かった。
まず戦士達だが武器無しで行う模擬戦、簡単に言うとボクシングだった。
何かの革で作られたグローブを付けて殴りあうんだがその迫力が半端なかった。
5m級の殴り合いになるのだから殴り殴られの時の音と振動で体が震えるし飛び散る汗とかも雨と勘違いするような量だった。
怪獣映画とかをリアルにしたらあんな感じなんだろうなとかヒトの町で興行したら間違いなく売れるなとか思いながら見ていた。
そして生産側だがこちらも静かながらも見ごたえはあった。
たとえば農業を営んでる人たちは自信作を持ってきて重さや大きさを競ってたのだがそのサイズが凄かった。
物は元の世界のスイカによく似たのだったのだが小さい奴で俺、というよりもヴィオラが丸々入れそうなサイズで一番大きかったのは俺達3人がすっぽり入れるぐらいだった。
過酷な大地で育つ植物の為か少ない栄養でもグングン育つ品種だそうで世話をすればドンドン大きくなるらしい上に今年は特に豊作だったので近年稀に見る大きさだったという話を聞いた。
こうしてどこぞの不思議の国に迷い込んだ少女の気持ちになりながら並んでいた植物を見て行ったのだった。
ちなみに味はスイカを更に濃く甘くしてような感じで大変美味しかったです。
そして最後に待っていたのは石工職人達であった。
この荒地に住む種族にとって石という材料は建材になり家具になり日用品になる万能素材である。
とはいっても石というのは非常にめんどくさい素材でもあるのだ、何せ硬くて重い癖に直ぐに割れる。
そんな素材を思うように加工するのが石工たちであり特にサイクロプスの職人達は大きな物はもちろんその巨体に似合わず繊細な作業も難なくこなす凄腕の職人達であった。(ちなみにリザード族にも石工はいるが彼らはもっぱら家を建てるのがメインの仕事で皮や骨等魔獣素材を加工する職人が一番多い、そして荒地地帯の奥地にはドワーフ族もいるらしく彼らはやはり金属加工がメインらしい。)
たとえばドラゴンのモチーフにしたと思われる石像があったのだがウロコの一枚一枚まで彫られておりほんとにあの巨体で彫ったのかと疑うほど繊細な仕事を行う。
彼らは若手という話であったが作品の中には【目利き】が良品、名品判定を出してくれる物もありそういうのは迷わず買い取った。
正直、こっちに来てから金が出て行くばかりでかなりヤバイのだがこちらの職人の腕が良すぎて商人としては買わざるを得ないのだ、早く店を開きたいな。
ちなみにガンドラダから道具を貰ったサイクロプスだが未完ながらも作品を並ばせて他のサイクロプスから背中をバシバシ叩かれながらも嬉しそうにしていた。
ああいったものを見るとこちらとしても嬉しくなるな。
「おぉ、見えてきただぁよ。」
サイクロプスの1人がそういったので外をのぞいてみると岩山が見えるだけで俺の目にはまだ集落は見えてなかった。
ただ、他のサイクロプスからも楽しそうな声が聞こえてきているので確実に見えているのだろう。
「メイちゃん、ヴィオラ見える?」
「メイの目には何も見えてないです…」
「ボクも魔力で強化しても見えてないね。恐るべしサイクロプスだね。」
そして暫らく進んでヴィオラの目でも集落が見え始めた頃になると向こうから何かが走ってくるのが見えた。
地平線のかなたから巨人が向かってきたら理由はどうあれ出向くわな。
俺は誤解を起こさせない様にヴィオラに前に出るように伝えた。
何はともあれ俺は宣言通りサイクロプスをリザード族の集落に送り届けることが出来たのだった。
・・・
・・
・
サイクロプスたちが集落に来て10日、彼らに掘削作業を手伝ってもらうという目論見は半分成功半分失敗って所だった。
失敗の部分というのは彼らが大きかったことに理由がある。
要するに『塩の祠』に途中までしか入れなかったわけだ。
リザード族の話によると奥の方は大きな空洞になっているらしいがそこまでの道がそこまで広くなかったのだ。
もともとリザード族だけが使用していたので天井までの高さは3mも無かった。
最初はサイクロプスが作業しやすいように道を広くしてみたのだが崩落のせいで脆くなっていたのか無理に広げると落盤の可能性が出て来てしまったためサイクロプスたちが中で作業を行うことは中止になった。
だからと言って彼らの仕事がなくなった訳ではない、というのが半分成功のほうだ。
たとえば職人のサイクロプスの場合、祠から彫り出された岩を捨てに行く作業があったのだがそれを彼らが引き受けてくれた。
その天性の怪力は凄まじくリザード族が数人がかりでやっと運べる岩を彼らは片手でヒョイヒョイもって行く。
それどころか使い道の無かった岩で石像を彫ったりちょっとした家具なんかもパパッと作ってしまうのでリザード族の面々は大喜び。
中にはリザード族の大工と一緒に家を建ててるサイクロプスまでいた。
もちろん戦士のサイクロプスも大活躍した。
彼らはリザード族の戦士達と荒野の魔獣たちを狩りに行くことになりそこで大活躍したそうだ。
この荒野には大小様々な魔獣がいるため狩れる魔獣、狩れない魔獣がいたわけだが2種族が協力することで狩れる魔獣の範囲がグッと広まったとのことだ。
たとえばリザードの場合だがラザードのおかげで機動力があり中型の魔獣までなら難なく狩れるそうなのだが大型は無理とのことで逆にサイクロプスの場合はその逆で機動力が無い代わりにパワーがあるので大型の魔獣をよく狩っていたそうだ。
その互いの欠点を補うように動くことでいつも以上の大猟になったという話を連日連夜リーサや戦士長から散々聞かされている…耳にたこが出来そうとはまさにこの事である。
勿論リザード族もサイクロプスの恩恵を受けるだけではない。
恩義を忘れない彼らは少しでもサイクロプスが喜ぶためにあれやこれやと手を尽くした結果。
サイクロプスは魔獣素材の製品にドハマリした。
実はサイクロプスの職人達に魔獣素材を扱う職人がいないことが判明したのだ。
というのも彼らからすれば魔獣は小さすぎる。
石像に緻密な細工を施せる彼らであるが魔獣の皮を加工しようとなると種類によっては自分の指よりも小さい素材を加工せねばならず更に言うならその小さい素材を加工するための道具は更に小さくなる。
そりゃ加工は出来ないわな、ということになるわけだ。
では、狩った魔獣とかはどうしてるんだという話にもなったのだが、基本的に全部食べるとの答えだった。
サイクロプス達がよく狩る魔獣は『サンドワーム』と呼ばれるものらしくサイクロプス数名で狩ることもあるぐらい大きくなる魔獣なのだそうだが。
歯や骨、荒地の固い土壌を掘り進めるための一部の硬い皮があるだけでそれ以外はやわらかいので美味しく頂くらしい。
では、硬い部分はどうしているのかというと歯や骨は石材の研磨道具として使われ硬い皮は彼らが身につけている腰巻やサンダルに使われるそうだ。
そのサンドワーム以外まともに加工できる魔獣がいなかったため彼らサイクロプスという種族は石材を中心とした生活をしてきたというわけだ。
それを見たリザード族の職人が石に直接座ったり寝転がったりした痛いだろうと革を椅子の上に敷いてあげたのが事の始まりで。
硬いレザー製品とはいえ石よりも圧倒的にやわらかいレザーの感触に一発で虜になった。
そうしてレザー製石椅子カバーから始まり石枕カバーや石ベッド用敷布団などなどサイクロプスの作った石家具用カバーが次々と作られていき日用品の次はサイクロプス族用の服を作り出そうという話になった。
そうして様々な案が浮かんでは来て浮かんでは来てという紆余曲折の結果生み出されたのがまさかの
「『蓑』ですね、主様…」
「蓑だね、メイちゃん…」
「ミノ?」
そう、まさかまさかの『
とわいえここは異世界、カヤやスゲで作った昔ながらの素材で作ったものではなく『メイルシープ』と呼ばれるこの辺り特有の魔獣の毛皮で作られている。
この毛がかなり変わった材質で日の光にあたって熱を持つと硬くまっすぐに伸びることで日の光を跳ね返し中を涼しくし日が落ち寒くなってくると柔らかい曲毛になり断熱効果を得るというこの土地に適合した素晴らしい特性を持っていた。
ただ、まっすぐなったときの見た目が完全に蓑なのが欠点というか個性的というか。
まぁ、貰ったサイクロプスたちの喜びようは凄まじく。
「服、これがオイラ達の服!」
「凄いだぁ…外に出ても暑くないだぁ!!」
「嬉しいのに涙がとまらないだぁ」
狂喜乱舞とはこのことか実感するほど喜んでいた。
…次は陣笠でも提案するかな。
だが、禍福はあざなえる繩の如くとはよく言ったもので幸運な日々も長くは続かなかった。
「掘削作業が出来ないダト!?」
うららかな昼下がりにリーサの叫び声が響く俺を含め多くの人が何事かとリーサ、ネフェル、ババ様のほうに振り向いた。
「ええ、どうやら奥に行くほど崩落が厳しく下手に掘り出そうとすると落盤の危険性が出てきております。」
「落盤か…むしろ今まで起きてなかったのが幸運だったんだろうねぇ。ワシも長く生きてはいるが穴掘りのことなんてとんとわからないからねぇ。」
ババ様の言うとおり俺達はこういった作業は完全に素人なのでこれまで事故が起きなかったのが最大の幸運だろう。
だが、それゆえにあらゆる危険性を無視してきたためそのツケがここで出てきてしまったのだ。
「ゴシュジン、何かいい考えはナイカ!?」
「…残念ながらそんな簡単には出てこないな。俺もこういった作業の方法を知ってるわけではないからな。」
俺の答えにリーサは勿論他のリザード族の顔が曇る。
彼らにとって塩の祠は聖地であり誇りである。
それが目の前にありながら触れられないのは俺には想像がつかない苦しみだろう。
リザード族も集まってきて様々な意見を出していくがどれも決定的なものは出ず危険を覚悟で作業をしようかと皆が思い始めたとき俺達を巨大な影が覆った。
「オイラ達に考えがあるだぁ。」
「本来オイラ達は穴を掘るために来たのに役に立たなかっただぁ…」
「でも、リザード族はオイラ達を見捨てなかったどころかよくして貰っただぁ。」
「リザード族はオイラ達の友だぁ、友を守るのはオイラ達サイクロプスの役目で誇りだぁ!」
「でも、オイラ達は役にたたね、だからもう1つの友を紹介するだぁ!」
「リザード族よりちっちぇが肝っ玉はおいら達よりおっきい!」
「口は悪いが根は優しい!」
「酒と鉄をひたすら愛する!」
「洞窟の主!」
「そいつ等の名は」
『『『ドワーフ族!!!』』』
・・・どうやら、まだ福が糸1本分ぐらいは残っていたみたいだ。
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