いざ、荒野へ

ストンズ家の絶品料理を味わうこと3日。

名残惜しくはあるが俺たちはリーサの部族に向けて出発した。

グッバイ、チキンステーキっぽいもの。


「ゴシュジンはあのステーキがそうとう気に入ったヨウダナ。」


「アレは美味かったなぁ~ 結構脂が乗っていたのにあっさりしてて食いやすかったしな。」


「そこまで気に行ったのなら集落に着いたら用意サセヨウ。戦士達なら直ぐに狩ってくるダロウ。」


「へぇー その辺にいる動物なのか?」


「アア、大物で無ければその辺にイルゾ。ホラ、アソコダ?」


リーサの指さした方向を見ると1mぐらいの大きさのトカゲっぽいのがゆうゆうと歩いていた。

あれ、どこからどう見てもっスけど…

俺はアレを食ったんっすか…


「リーサ、そろそろ御者を代わってくれ。流石のボクもこれより先の土地勘はないからね。」


「ム、それなら仕方ナイナ。直ぐに行くから待っていてクレ。」


リーサはヴィオラと御者を交代するために離れていった。

俺は本当にトカゲを食ったの!?どうなの!?

真実を知りたいようなそうでも無いようなモヤモヤした気持ちを抱えたままリーサを見送ったのだった。


・・・

・・


街道とは比べ物にならないぐらい道が荒くなってきて立つのも座るのもつらくなって来たころに御者台からリーサが声を掛けてきた。


「ゴシュジン。目の前に見える岩壁がガンドラダ要塞ダゾ。」


ヨロヨロと歩いて何とかリーサの隣に立ち前を向くと地平線いっぱいに赤い岩が伸びていた。

ただ、見ただけではとてもじゃないが要塞に見えない、とても長い岩壁そのものだった。


「なんと言うか、思ってたのと違うな…」


「そうだね…ボクも神々に奉納された要塞だった聞いていたからどれだけの物かと思っていたがちょっと、ねぇ…」


俺とヴィオラは揃って首を傾げていた。

神話に出てくる程のものだからどれだけ壮大なのかと思っていたのだからこうなるのも仕方ないと思って欲しい。

ただ、そんな俺たちを見てネフェルはクスクスと笑っていた。


「二人ともそんなにがっかりしなくてもいいですよ。今見えているのはあくまでも裏側。味方に向ける側ですからほとんど手が入ってないのです。要塞の本当の姿を見たいのならあそこを抜けてから振り返ればいいですよ。」


ネフェルの説明を受けてなるほどなと思っているころ、馬車は岩壁の間を通り始めた。


「わ~!!主様、凄いですよ!大きな神様がたくさん並んでいます!」


興奮しているメイちゃんの言葉に釣られて馬車から顔を出すと大きな神像が両面の岩壁に彫られていた。


「こいつはすげぇ…」


自分の語彙力の無さに呆れるしかないがそれしか出ないほど圧倒されていた。

普段は飄々ひょうひょうとしているヴィオラもこの見事な彫刻を前にしては静かに見つめているだけだった。


「あ!主様あちらを見てください。人がいますよ。」


そびえ立つ岩壁の上のほうをメイちゃんが指差していたので見てみると確かに腰巻とサンダルのようなものを履いている人影が見える、見えるのだが・・・


「あの人、やたらとでかくないか?」


30mはありそうな壁の上をノシノシ歩く人影はここから見ても2mは超えてそうに見えるのだ。


「あれはサイクロプス族ですよ。この岩壁周辺はサイクロプス族の土地ですので。いわば荒地地帯の門番ですね。」


「なるほどなぁ~ ところで俺たち勝手に入ってきてるけど大丈夫なのか?いきなり襲われたりしない?」


「彼らは巨体ですが性格はかなり穏やかなので大丈夫ですよ。」


気は優しくて力持ちって奴かな、俺は歩いていたサイクロプスに手を振ってみると向こうも気づいたのか手を振り替えしてくれた。

見えてると思っていなかったのでちょっと驚いた、ほんとにチョットだけだぞ!


「ゴシュジン。そろそろ要塞を抜けるからよく見ておくとイイゾ。神話から伝わるこの地の守護者の姿ヲ。」


リーサに言われて馬車の後方に陣取る。

ワクワクしながら要塞を抜けるとそこに合ったのは想像以上のものだった。

30m近い巨大な岩壁に彫られていたのは武器を持った女性と巨大なドラゴンの姿だった。

女性は女神様なのだろうか、勇ましいその姿は万人を鼓舞するに相応しくドラゴンのその鋭い眼光は動かない彫像のはずなのに今にも眼前の敵に飛びかかろうとする気迫を感じる。

そして両者ともに言葉に出来ないような神々しさがあり素人目からしてもこれまで見てきたものとは別格の代物というのが分かった。


これを始めた見た俺とヴィオラとメイちゃんはリーサから声がかかるまでただひたすら見つめているのだった。


・・・

・・


セキトはどんな荒れた土地でも気にせず走ることが出来る。

だからと言って全力で走ることはしない、なぜなら曳いてる馬車のほうが持たないからだ。

それでも並外れた速度によって岩壁地帯を通り過ぎ何も無い荒野も突き進むとところどころに岩山が見えはじめ、御者をしていたにリーサが声をかけてきた。


「ゴシュジン!見てクレ、目の前の岩山ヲ。アレのふもとに部族の村がアル。もう直グダ。もうすぐでツクゾ!!」


興奮気味なリーサの声に俺以外も馬車から前をのぞく。

目の前には平たい岩山が並んでおりその近くから食事の支度をしているのか煙が立っているのが見えた。

俺はセキトとリーサに更に速度を上げるように指示しカバンから少しずつ荷物を出し始めた。

さぁて、ご対面と行きますか。

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