荒地の入口・ストンズ子爵領

学園都市を出発して二十日、リザード族の住む荒地地帯も目の前に迫ってきた。

周りの風景もだいぶ変わり木はまばらに生えており草もところどころに生えている程度になっていた。

それに何よりも・・・


「暑い~」


かなり暑いのだ。

馬車の中は幌のおかげで日陰ではあるが入ってくる風は熱風といいほどだ。

この暑い中を気にせず走り続けるセキとの凄さを改めて実感する。


「だらしが無いぞ、ゴシュジン。今日はまだ涼しいほうダゾ。」


「そうですよ。それに奥地に行けばもっと暑くなりますよ。」


うぇ~、マジかよ。

今で結構辛いんだけど。


「暑い暑いとは聞いていたけどここまでとは思って無かったね。だけどそれもあと少しの辛抱だ。主、町が見えてきたよ。」


ノソノソと馬車を這い回りながら外をのぞくと確かに町影が見えてきている。

カービン子爵領とは違いしっかりと石で作られたその町は学園都市のような華やかさは無いものの見事な調和が取れており見ていてなかなか楽しい。

今度こそ、今回こそはのんびり行きたいな。


・・・

・・


活気はあるのに人が少ないそれがこの町の第一印象だった。

通りを歩く人たちは皆楽しそうなので問題は無いと思うのだが何ともアンバランスで少し不思議だった。


「メイちゃん、この町をどう思う?」


「皆様元気そうで楽しそうですが少し歩いている人が少ないように思えます。」


「やっぱりそう思うよね。悪い雰囲気ではないからいいけどなんだろうなこの違和感。」


活気が無くて人が少ないのは解る、活気があって人も多いのも解る、活気があるのに人は少なめ、なんだろうなこれは。

頭の中でいろいろ考えては見るもののこれといった答えが出てこない。

俺はもやもやした気持ちのままストンズ子爵の手紙を届けに町で一番大きな屋敷に向かったのだった。


・・

・・・


この町で一番大きな屋敷(とはいっても学園都市の貴族の屋敷より少し大きいぐらいだが)につくと初老の女性が庭で土いじりをしているのが見えた。

向こうもこちらに気づいたのか笑顔で手を振ってくれたので帽子を脱いで頭を下げると何かに気づいたような表情をし慌ててこちらにやってきた。


「もしや、あなたはオオイリ商店の店長さんかしら?」


「ええ、自分がオオイリ商店の店長のイサナと申しますが、何か御用でしょうか。」


「まぁまぁまぁ!本当に来てくれましたのね!少しここでお待ちになって。アナタ!アナタ!!店長さんが来られましたわよ、オオイリ商店の店長さんですよ。」


女性は大きな声を上げながら屋敷の中に入っていった。

しばらくするとかなりまるまるとした初老の男性がドタバタと頑張って走ってきた。


「ハァハァ……君が…オオイリ商店の店長…かね。」


「え、ええ、自分がオオイリ商店の店長をしていますイサナですが…「おお、君が我が家の守護天使か、良くぞ来てくれた!我が家の全力をもって歓迎しよう。」


男性は感極まったのか俺を行き成り抱きしめた。

前にもこんなことがあった気がするが今回はあの時よりもかなり辛い。

炎天下の上に腹周りの装甲が前よりも分厚いのだ、俺は早く離して欲しくてタップをしていたのだが何を勘違いしたのかますます抱きしめる力が強くなっていった。


「あらあら、アナタ。嬉しいのは分かりますがいつまでもお客様を外に出して置くべきでは無いですよ。」

「おお、そうだな。学園都市から来たらこの暑さはこたえるだろうからな。さぁさぁ、屋敷に入ってくれ。すぐに冷たい飲み物でも用意させよう。」


男性から解放された俺はそのまま屋敷のサロンに通された。

石造りの屋敷の中は思っていたよりも涼しくかなり過ごしやすかった。


「そういえば挨拶がまだだったな。ワシはマーク・ストンズ、こちらは嫁のマーサだ。君たちのことは息子の手紙で聞いている。よくぞ息子の嫁を救ってくれた。ワシからも感謝申し上げる。」


「こちらは商品を売っただけですのでそこまで感謝されるようなものでは…」


「そちらはそうかもしれんがこちらはそれに救われたのだ何も言わず受け取って欲しい。」


「そういうことでしたらこちらからは何も言えませんね。ところで何かお困りな事はございませんか?いろいろご用意しておりますので何かしら力になれるかと思います。」


「ハッハッハ… 若くとも間違い無く商人のようだ。ただ、今は急いで手に入れたい物はないのだよ。すまないね。」

「そうですね。息子が当主になってから私達は悠々自適な隠居生活ですからねぇ。」

「なので店主殿はこの領地を楽しんで行って欲しい。」


「そうですか。では2~3日ですがこの町に滞在させてもらいます。」


「長旅だったであろうから是非この町で休んでいって欲しい。それと、今夜は君たちの為に料理を用意しよう。学園都市のように華やかさは無いが味は負けていないのぞ。」


そんなこんなで、町の滞在の許可を貰い晩御飯を用意してくれるそうなので待つ間に俺たちの話を聞きたいということだったので学園都市のことを中心にいろいろ話すことになった。

どこの世界も孫は可愛いのかマルチナさんの話のときはかなり食いつきが良かった。

大半がそんな他愛無い話しであったが途中で面白い話も聞けた、この町の現状についてだ。


「なるほど、この町に妙に人気がないと思ったのは道作りの為だったのですか。」


「その通りだとも。領地の職人の殆どが学園都市のほうに向かっている。特に期間は決められてはいないが我がストンズ家の名にかけて最速で最高のものを作るためにね。」


なるほど、そりゃ町の人が少なくとも元気だわな、一生に一度あるかすら分からない大事業に関わってるんだから。


「そういえば道が出来たら何かしたいとかはあるのですか?」


「あるぞ、いや出来たと言った方が正しいかも知れんがワシの夢はストンズ家が作った街道をこの王国でもっとも有名にすることだ。そしてその方法も考えてはいる」


「大きな夢ですね。よければその方法も聞かせてくれませんか?」


「商人である君には是非とも聞いて欲しい。ワシの考えは。彼らの創り出すものは本当に素晴らしい物ばかりだ。人間があそこまでたどり着くにはあと100年はかかるだろうな。」


人間の職人はいろいろと作っているが他の種族、例えばドワーフとかは種族単位で金属加工専門とかだから全然質が違うんだよな。

だから、もし他種族との交易路が出来たらその効果は莫大だろうな、それこそ国の商人がこぞって集まるだろう。

そんな話をしていると扉がノックされ料理の準備が出来たことを告げてくれた。

なのでそこで話を切り上げて俺たちは晩餐を頂きに行ったのであった。






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