天使なんかじゃないです

「これはどうじゃ、『ミスリル銀製の鏡』そうそう傷も付かんし曇ることもない。ばっちりじゃろ。」

「それで値段は?」

「あ~120銀って所かの~」

「高い却下だ。次だ次。」

「それなら次はこっちじゃな・・・」


その日の晩、俺はジャックさんが欲しがってる『鏡』を求めて工房に来ていた。

多くの職人が集うここではごくごく普通の鏡もかなりの量と種類がある。

なのでガンドラダに案内してもらって良さげな物を探しているのだがなかなかこれと言ったものが見つからない。


「救世主よ、ここにある物は好きに持って行っていいんじゃから値段にこだわる必要はないんじゃないかのう?」


「それはその通りなんだがあまりにも値段が違いすぎるものを持っていくとこっちの信用問題に関わる。120銀の物を50銀で売ってあげますって言われたら怪しいだろ?」


「まぁ、確かに・・・しかし、そうなると小振りな物になってしまうぞ。」


「そうなんだよな・・・」


この世界において金属から作る鏡は俺が思っていたよりも高かった。

綺麗に磨き上げる技術に、さび止めの塗料等、いろんな職人が1枚の鏡を作るためにその腕を振るうのだから当然である。

だがそうなると困るのはこちらなわけで、俺が思いつくような品はジャックさんの予算ではかなり厳しかった。

さて、どうしたものかと考えながら鏡が置かれているエリアを歩いていると白い塊が端のほうに山積みにされていた。


「ガンドラダ、アレは?」


「ああ、アレか。アレは程よい堅さと磨けば鏡のように反射する性質を持ってる岩でなな職人は皆あれで練習するんじゃ。もしや、アレを持っていくつもりか!?アレは練習用じゃからダメじゃぞ!鏡とは認めるわけにはいかぬ。」


俺は1つ手にとって確かめてみる。

素材が白いので映るとき若干白くはなるが特に歪みも無く周囲を照らし出している。

正直な話、どこにもダメなところが無いんだが・・・


「なぁ、ガンドラダ。これダメなの?正直ダメそうな所が無いんだけど。」


「何を言うとる!鏡じゃぞ、鏡!鏡とは神々を照らし出す道具じゃぞ。そんな中途半端なものを鏡と認めるわけにはいかんのじゃ!」


珍しくガンドラダが声を張り上げて言う。

だが、まって欲しい…

確かに鏡というのはに使われることが多いが、もしかして…もしかするのか?


「なぁ、ガンドラダ。ちょっと聞きたいんだが鏡ってどういう立ち位置なんだ?」


「立ち位置も何も鏡は昔から精霊や神々など不可視の存在を映し出すものじゃろう。じゃから生半可な物を渡すわけにはいかんのじゃ。」


「あ~なるほど、なるほど。やっぱりそういうことね。そりゃ凄いのばっかり出てくるわけだ…そのぉ、アレだ、俺たちの間に大きな価値観のがあったわけだ。」


「何をいっとるんじゃ?鏡は鏡じゃろ?」


「いや、うん、その通りなんだが。今回は祭具、でも神具でもなくてとある男が婚約者のために鏡台をプレゼントしたいって話なんだ。だから、映すのは人。だからそんなにこだわることは無いんだ。」


「なんじゃ、そういう話じゃったのか。救世主が鏡が欲しいといったから何か儀式でもするのかと思ったわい。なら、その磨いた石を持っていくといい。この辺りじゃ別段珍しくもないしどれでも15銀ってとこじゃな。」


「そうか、なら手ごろな大きさのを3つほど貰うよ。それで予算内だ。」


「わかった。それで選んだ奴はすぐに鏡台に仕立てるかの?」


「いや、それはいい。現地が木材の特産地だから鏡以外は作ってもらおうと思う。そのほうが贈り手も本気になるだろう?」


「そうかも知れんな。では向こうに戻ったらいつもどおりカバンから取り出すといい。それと1つ頼みがあるんじゃが…」


俺は目的の物を手に入れガンドラダのお願いを聞くと元の場所に戻った。

しかし、なんでガンドラダはあんなお願いをしたんだろうか…


・・・

・・


次の日の朝、応接間に商品を運び込むとジャックさんが部屋に飛び込んできた。


「おはよう、イサナ君。メイド長から君が来たと聞いて飛び込んできたよ。それで鏡台はあったかい?」


「お、おはようございます、ジャック様。馬車内を探しましたが残念ながら鏡はありませんでした。」


俺の言葉にがっくりと肩を落とすジャック様。

だが、俺のターンはまだ終わっていないぜ。


「ですが、それに負けない物が御座いましたのでご用意致しました。どうぞご覧ください。」


そう言うと俺は商品に乗せていた布をめくった。

朝日を反射するその白い石は待ったく鏡にも劣っていなかった。


「うお、まぶしい。ほんとにこれは鏡ではないのかい?」


「職人いわく石を磨いただけなので鏡とは認めないとのことです。」


「なるほど、鏡は鉄製だからね。しかし、石を磨いただけでここまで輝くのか。なんていう石なんだい?」


そういえば、これの名前は知らないな。

とりあえず【目利き】で調べてみるか。


【磨かれた白聖石ハクセイセキ

・魔を払い邪を遠ざける力を持った石 その石に反射する光を受けたものは悪心すら消え失せる程の力を持つ

・磨くと鏡のようになる為、通称・ミラーストーンと呼ばれている

・神界には多く存在するがこちらの世界には聖域と呼ばれる様な一部の地域に現存する物のみである

・ガンドラダは15銀としたがそれはあくまでも神界基準でありこちらの世界では――


俺は最後の一言が知りたくなくて強制的に終了した。

…どうしようこれ、ばれたらマジでヤバイ、ホントにもうヤヴァイ。

どどど、どうしよう!


「イサナ君、どうかしたかい?」


「あ、いえ、何でもありませんよ、ホントに。え~と名前ですね、これは、そう!です鏡石。それ以外の呼び名は無いです。」


「鏡石かぁ~そのままだね。それでどうして三つもあるんだい?この中から選べばいいのかな?」


「それについてはですねこちらに考えがあってのことでして…」


俺は考えていることをジャックさんに伝えるとこれ以上無いんじゃないかって笑顔になった。


「素晴らしい、素晴らしいよイサナ君。まさかそこまで考えていただなんて。君こそ僕と彼女をつなげる天使だよ!!」


「え!あ、ありがとうございます。」


「ああ、こうしちゃいられない。悪いが僕は直ぐに工房に向かう。代金はメイド長から貰ってくれ。では、失礼。」


ジャックさんは風のように部屋から飛び出していき俺は1人この部屋に取り残された。

すいません、ジャックさん、カービン家の皆さん。

俺はとんでもない爆弾をこの家においていく羽目になってしまいました・・・


何ともいえない気持ちのままメイド長を訪ねるべく部屋を後にするのであった。

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