オオイリ商店の塩不思議

「主、そろそろ見えてくるよ。」


学園都市を出て十日目、俺たちはとある場所に立ち寄ることにした。

この国の北部と東部の境目ぐらいにあり建材などで使われる材木が特産品の長閑な田舎町。

そう、カービン子爵領に俺たちは立ち寄っていた。

遠めに見える町は学院都市のように華やかさは無くこれと言って目立つ建物も無いが町の人たちは元気で楽しそうにしており今しがたすれ違った材木を多く載せた荷馬車の御者ものんびり鼻歌をしながら通っていった。


「随分とのんびりしてる町だな。」

「メインとなる街道から離れている土地は大体こんなものだよ。」

「メイはこれぐらい穏やかなほうがいいです。」

「なんというか部族の皆を思い出スナ。」

「そうですね、戦士の方々以外はノンビリ過ごしていましたからね。」


町に関する思いを口にしてから町の門を通る。

木製の立派な門の前には2人の兵士が立っていたが特に何かを言われることも無く町に入ることが出来た。

とりあえずカービン子爵から貰った手紙を届けるとともに露店の許可を貰いに領主の館に向かってセキトを進ませる。

ゆっくりと町の中を進むと子供が珍しそうにこっちを見ていたので笑顔で手を振っておいた、今まで通ってきた町は街道に近いせいか人の出入りが多く忙しなかったのでこんなにのんびりなのは割と珍しい気がする。

急ぐ旅じゃなかったらこういった脇道をメインに通るのも有りだったなと思っていると目的の領主の館に付いたので門の兵士に手紙を渡した。

最初は不思議そうにこちらを見ていたが差出人が領主と分かり慌てて屋敷の中に戻っていった、少し待つと使用人の服を着た妙齢の女性が出てきて主人が今不在なので屋敷で待つか聞かれたので露天をしたいので許可が欲しいと言うとすぐに許可が出た上に場所まで案内してくれるということなのでありがたく付いて行ったのだった。


・・・

・・


「まさかこんなにいい場所を案内してくれるとは思っても無かったな。」


俺はヴィオラとメイちゃんに露天の準備してもらっている間に周りの確認を行っていたのだが、まさか町のメインストリートに面した所だとは思っていなかった。


「主、とりあえず品物以外準備は出来たけど何をメインにするのかな?」


「とりあえず何時ものとおり塩をメインにするけど今回はいつものに追加し岩塩も出そうか。それと途中の村で仕入れたもの適当に並べるか。」


「分かった、メイを馬車に向かわせてるから並べるものを彼女に運ばせて。」


ヴィオラもすっかり慣れたもので簡単な指示だしたら後は品物に応じた配置をしてくれる。

ある程度パターンがあるとはいえ品物の並べ方はセンスが問われるのでかなりありがたい。

とりあえず俺は馬車に入りカバンから品物を出してメイちゃんやリーサに運んでもらった、そしていざ開店となると多くの人が一気に詰め寄ってきた。

いろいろと飛ぶように売れていくなか1番の売り上げはやっぱり塩だった。

後々知ったのだがこの町で売ってる塩は魔物がでる森の奥から取ってくるものだそうで頑張って採ってきてはいるのだがどうしても量が少なく常に困っているとのことを歴戦の雰囲気漂う塩商人に教えてもらった、ちなみに俺の持ってた塩を仕入れたいのとのことだったので大樽4つ分ほど売ると嬉しそうに担いで帰っていった。

しかし、まさかこんなのんびりしている町でこんなに疲れるとは思っていなかった正直早く寝たいと思いながら店の片づけをしているとリーサに声をかけられた。


「ゴシュジン、その、少しイイカ?」


「どうしたリーサ、何かあったか?」


「その、確認したいのだが塩はまだ残っているノカ?」


「ああ、そう言えば教えてなかったな。ちょうどいいからネフェルと一緒に馬車の中に来てくれ。」


俺はそういうと先に馬車の中に入っていった、塩が欲しいから俺に声をかけたのにあんなにバンバン売ってたら心配になるわなと思っているとリーサとネフェルが入ってきた。


「2人とも来たな。いい機会だからお前たちに塩の仕入れを見せようと思ってな。」


俺の言葉に何言ってんだコイツみたいな目で見てくる2人、特にネフェルの視線がヤバイ、視線だけで殺されそう。


「気持ちは分かるがそんな目で見るな。とりあえず見ててくれ。」


俺は両手を水を掬うような形にして2人の前に出し、塩よ出ろ~、と念じると手が輝きだしてサラサラと塩が出てきて両手に山を作った。

なんかあれだな、昔見た映画で顔の無い黒い人が手から砂金を作ったシーンを思い出すな・・・


「な、ななな、何ですかコレは!?」


「いや、何って言われても塩なんだけど・・・舐めてみるか?」


俺がそう言ったのでリーサとネフェルは恐る恐る塩の山に指をいれ少し掬って舐めた。


「・・・塩ダナ。」

「・・・塩ですね。」


「そりゃ塩を出したんだからな。どうだ、俺の塩魔法。凄いだろう!驚いただろう!!凄いと思ったのならご主人様ってよんでもいいんだぞ。ハッハッハ・・・」


「ゴシュジンはまさかドラゴンの使いナノカ!?」


「ハッハ・・・ハァ? なにそれ、どういうこと?」


「ム、違ったノカ。我々リザード族の伝承にになるというのがあるからてっきり関係しているのかと思っただけだ。」


「いや、全く関係ないと思うが、ドラゴンと言うかどちらかと言えば髭だし・・・・・・まぁ、それはさておき見てもらったとおり俺はこうして塩を作れるから気にしなくていいぞ。勿論ながら岩塩も作れる。」


ポンとコブシ大のピンク色の岩塩を出すとリーサはおお、と反応しネフェルは疲れきった反応をした。


「・・・幾らなんでもありえませんわ。魔力だけで物質を作り出すなんて…物質を操る土魔法ですら対応する大地が無いと使えませんのに。それを何ともなしに行うなんて、先の魔道具の件もありますしあまりにも規格外過ぎます・・・」


ネフェルがブツブツと何かを考え始めたみたいなのでそっとして置こう、こういう時に口を挟むと碌な事にならないからな。


「主、お客さんだよ。」


ヴィオラに言われて馬車の外に出ると領主の館で会った女性が立っていた。


「主人が帰宅されましたのでご案内に参りました。」


そういわれたので俺たちはパパッと片付けて改めて領主の館に向かったのだった。

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